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92●赤い天使

赤い天使志が高い日本映画だ。
昔の人は、こういう映画ばかり見ていたんだなあ・・・。そう思うと、今の映画のヌルさには、さぞかし辟易するだろうな、と想像する。


ストーリー・・・
支那事変さなかの昭和十四年、西さくら(若尾文子)は従軍看護婦として天津の陸軍病院に配属された。内科病棟の担当となったさくらであったが、ある夜、巡回の途中で坂本一等兵(千波丈太郎)たち数人の傷病兵に犯されてしまう。さくらからの訴えを聞いた婦長(赤城蘭子)は、首謀者・坂本の退院を決め、原隊へ復帰させた。 二ヶ月後、さくらは最前線の深県分院へ派遣される。・・・


’66年、増村保造監督、原作:有馬頼義。


“名作”という雰囲気の作品だった。きっと、これは絶賛されたんじゃないかな?と思ったら、日本よりフランスにおいての方が、評価されたらしい。


激戦の戦時下。最悪の状況の野戦病院で、献身的に働く一人の看護婦、西さくら(若尾文子)と、岡部軍医(芦田伸介)。
とは言え内容は、ただ単に反戦のメッセージばかりが前面に出ている作品では全くなかったのだった。

まず物語冒頭でいきなり、そこで看病を受けていたはずの兵士達数名に、夜、集団レイプされてしまう西。
そして、左遷された病院では、砲弾を受け手術によって、手も足も切断され、全身を動かすことが出来なくなった折原一等兵(川津祐介)に、「男としての自信をつけさせるために」、尽力してしまう。
ここまで来ると、何か極限状況におかれた人間の心理というものが、個人サイズのプライドや誇りなどから、かけ離れたところに存在しているのだ。


岡部軍医にしろ、西にしろ、三日三晩、寝ることも出来ず睡眠も取らずに、ひたすら働きづめに働き続ける。
しかし薬品も包帯も、人手も足らない。助かる人も助けることが出来ない岡部軍医は、腐って全身化膿させる前に、とにかく切断手術を次つぎと決行するのだった。至るところに放り投げられた、何本もの手足が、無残にも積み重ねられている。


三日三晩という長い間の戦いを終えた軍医が、西に晩酌をさせるシーンは秀逸だ。
もともと、西の頼みで、助かるかどうかも分からない兵士に、無理に献血を頼む彼女に、
「今夜、自分の部屋に来るなら・・・」と言って、西の言う通りにした岡部軍医。
「下着になれ」と言って、ベッドに呼び、覚悟をした西に、晩酌をさせ、酒を酌み交わす。
恥じらいとためらい、居心地の悪さを感じるそのシーンが、いつの間にか別の空間に変わってしまうのは見事だった。

添い寝だけを頼んで、そこで話を始める軍医の姿は、人を助ける立派な行為をしている医師の姿でも、一人の(スケベ)男に戻った、人間らしい姿でもなかった。
手も足も切られて、命だけは助けるが、本当に自分が正しいことをしているのか、いつの間にかそれすら分からない岡部軍医。彼は、モルヒネの常用者となってしまっていた。
そのために「男ですらなくなっている」のだった。


二人はそこでもはや、単なる男と女ですらなかった。
共に戦う戦士同士であり、三日三晩という長い間の辛すぎる戦闘を、ようやくの思いで乗り越えた仲間。人間同士として、単なる男女の関係でないところで繋がってしまった二人だった。
その姿が、清々しく映る。


このシークエンスが後になって、ラスト前の二人へと繋がってくるのが見事だ。
最後、砲撃を受けるその最中に、男として、女として、人らしさを取り戻す二人。
外は銃撃の音がし、爆撃が激しく落とされるその最中にあって、
あまりに人間らしく愛し合う二人に、涙が溢れて来た。

赤い天使@映画生活

 

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コメント(12件)

  1. この映画は衝撃的でした。
    まさに志の高い作品。
    スケベオヤジとしては若尾さんのナースプレイ、コスプレにどうしても目を奪われちゃいますが。そういう要素を含みながら反戦や人間らしい愛を見事に描いているところが値打ちと思います。

  2. 大映映画の鬼才増村保造 「赤い天使」

    「赤い天使」1966年 大映
    名コンビだけあって、今回の特集選りすぐって観た作品は若尾文子特集といった感じ。
    若尾文子のナース・プレイの評判で期待して観たのだが、
    これは実に秀逸な戦争映画でした。
    あらすじはgoo映画などで確認してくださいね。
    岡部軍医(芦田伸…

  3. 「赤い天使」を見なさいとゆー

    今日はツタヤレンタルが半額だったので物色しておりましたら
    あった!「赤い天使」!!
    ずっと前に藤木TDC君から「若尾ズキなら『赤い天使』を見なさい、一番エロいから」と言われてたことを思いだしました
    あ〜、これって増村保造監督作品・・・・
    増村作品のドロ…

  4. 志が低い(ってゆーか無い)自分には、単に増村さんが美し過ぎる若尾様をエログロまみれの坩堝で汚しまくりたいだけで、「反戦」や「極限状態の人間の愛欲」とゆーお題目を言い訳にしたんや〜とそー思いたい名作です。若尾様も「この映画だけは観たくない」とおっしゃっていたのがますます痺れちゃいます。

  5. こんばんは〜。
    不能モノ(?)にはたまらないわたしですが、この映画もすごく衝撃を受けました。
    (あ、コレはちょろっとですが書いてあるのでURLに記事のアドレスを入れておきました)
    で、川津祐介や芦田伸介への文子はんの功績。これが“女”ですよ!!
    好きな作品なのでちっとばかし興奮気味ですが、男性には優しくしないとな、と思いましたw

  6. まったく、ねえ。こういう映画をこそ、リメイクすべきですよ、日本映画界は。『椿三十郎』なんかやってないで。監督はロバート・ロドリゲスあたりで。。。
    いい映画なんですけどね、ラストシーンが物足りない。アクションシーンがもうちょっと欲しかった。最後に戦場に出て行った若尾文子が、ゾンビと銃撃戦を繰り広げたら、、、きっと、これは絶賛されたんじゃないかな?
    志が低いコメントでした。。。

  7. imaponさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    もう、いろんなことがギュギュっと詰め込んだ作品なんでしょうね。すごく味が濃くて、さすがだなあと。
    ナースプレイ(!)はともかく(笑)、コスプレ・・・あの辺りは、本当に狙ってるとしか思えなかったんですけど、どうなんでしょうか^^;
    そのくせ、広く人間を描いた、という目線を感じるんですよね。

  8. gsさんへ
    おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
    アハ、なるほど。そーゆー見方するのも楽しいですね!
    でも、エロありき、グロありきで描かれた他の作品を比べれば、その違いは明白だなあって私は思っちゃったんですよ。
    エロを描いて、それがめっちゃエロいのに、直截的な表現はないんですよね。同じく、グロを描いても、結局は「そうするところの人間」を描いているなあと。
    今だといくらでもエログロありきな作品を目にすることが出来ますので、映像的にそれほどショッキングではないのですが、
    というかむしろ、グロをすごくちゃんと描いている辺り、嬉しくなって半身乗り出してみてしまったわけですが、
    当時はこのエログロさにそれこそ衝撃だったんでしょうね!
    『盲獣』でもそうですが、エログロを描いていながら、結局は人間を描いているなあと思う次第です。そこが懐が大きいなあと思います。
    何よりまず、エログロに対する果敢な姿勢が素敵ですし★

  9. アンバーさんへ
    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
    >不能モノ(?)にはたまらないわたしですが
    フフフ、岡部軍医のような性的不能だけじゃなくて、身体的不具もモロに出てきてましたね。
    でも、折原一等兵のように、手も足も自分の力で動かせない人が居たら、やはり同じことをしてしまうのかもしれない・・・と思ったりしちゃいました。
    SとかMとかではなくて、もう一つ別に「介護精神」が、エロにつながるところが素敵ですよね。
    そしてまたその介護精神がもう一つ、「グロ」にまで繋がる岡部軍医を描いたその対照性も面白かったです。
    そうですね、男性には優しくしないと。性欲一本で行為が出来る若い頃はともかく、年とともに優しさが必要になってくるのかなあなんて最近思います。

  10. ウラヤマアンドさんへ
    こちらでは初めまして!コメントありがとうございました!
    『椿三十郎』は見てないんですが、ダメでしたか。
    そうですね、この作品のリメイク、是非見たいですね!
    今やってる戦争を舞台にして欲しいところですー。
    >ラストシーンが物足りない。アクションシーンがもうちょっと欲しかった。
    上の方のレスでも書いたのですが、エロを描いてもこの監督、直截的に描かないし、その裏に広がる人間心理を描くから、単なるAV,ピンク映画にならないんですよね。
    それと同じように、戦争を描いても、銃撃戦そのものを描くつもりはなかったのかなあと私は思います。
    ロドリゲス、ゾンビ映画ですか。ハハハ、もしかして『デス・プルーフ』お好きでしたか。
    デス・プルーフの銃撃戦の時にかかってた曲、私まだ覚えてますよ。股でクルクル回りながら一斉にやっつけるところ!

  11. 片足を吹き飛ばされた西に岡部軍医がマシンガンを移植!! コレラ治療薬と騙されて関東軍が開発したゾンビ薬を飲まされた日本兵と壮絶な戦いを繰り広げる、、、
    プラネット・テラーってそんな話だったよね!!
    >銃撃戦そのものを描くつもりはなかったのかなあと私は思います。
    ああ、そう言われれば。敵兵ひとりも出てこなかったし。銃撃戦じゃなくて『爆発』そのものですね、あれは。
    この映画のエピソードがすべて性的なものであったことを鑑みて、あの『爆発』は西の性的妄想の『爆発』だったんじゃないか。みんな死んでるのに自分ひとりだけかすり傷ひとつなしだなんて。これはポランスキーの『反撥』のような性的妄想エスカレート映画がラストで『爆発』した傑作なんじゃないか。
    ならばその前の夢のようなコスチュームプレイは、岡部軍医の性的妄想として片付けたい。男の性的妄想なんて所詮コスプレ程度ですから。

  12. ウラヤマアンドさんへ&
    >この映画のエピソードがすべて性的なものであったことを鑑みて、あの『爆発』は西の性的妄想の『爆発』だったんじゃないか
    うん、その視点面白いですね★
    ラストでドバーンと爆発する、あれは西の性的衝動の爆発、むしろ性の讃歌と言ってもいいかもしれません♪
    セクシャル・ボルケーノ!で最後一気にカタルシス^^
    “ジャンヌ・ダルク風”ではなく、あくまでも天使★
    そして性愛の女神さまでしたね、若尾文子。
    で、男の性の妄想は儚いもの・・・
    うん、西の爆発と対照的な岡部軍医の結末を考えると、あのコスプレってなんかカワイらしかったですよね♪




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