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85●マンデラの名もなき看守

マンデラの名もなき看守偉大なる囚人と、彼に心を寄せていく看守、
この辺りをもう少し丁寧に見せて欲しかった物語。

ストーリー・・・
アフリカで刑務所の看守として働くジェームズ・グレゴリー(ジョセフ・ファインズ)がロベン島の刑務所に赴任した1968年、アパルトヘイト政策により、反政府運動の活動家の黒人が日々逮捕され、投獄されていた。グレゴリーはそこでネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバート)の担当に抜擢される。黒人の言葉・コーサ語が解るので、会話をスパイするためだ。妻のグロリア(ダイアン・クルーガー)は夫の出世を喜び、順風満帆のようだった。・・・

’07年、ドイツ・フランス
ビレ・アウグスト監督・脚本。

27年間、塀の中に収容されていたネルソン・マンデラ。看守との静かな心の交流を描いた物語。
南アのアパルトヘイトに立ち向かっていった、ネルソン・マンデラと言えば、現代の英雄に違いない。その一方で、その長い闘争の最中に武力行使を辞さない戦いもあったのも事実だったようで、その内容もかなり過激なものだったらしい。
そのくせ、ここではそうしたことはあまり描かれてはいなくて、内容は、綺麗に上澄みを掬った様な印象を感じさせられる。

ネルソン・マンデラが牢屋の中にいる期間。その間のことであるから、実際に戦う姿が描かれていないのも致しかたないのか・・・という気持ちはあるけれど。
自分の中で何とはなしに『ヒトラーの贋札』を思い出させられた。ナチスドイツとアウシュヴィッツを描いていながら、そのド真ん中をまさに外れていた映画だったから。
ユダヤ人収容所でありがなら、贋札作りをする、特別な囚人を描いたことで、別の箱の中の世界を見せたように。

この作品では、ネルソン・マンデラがすでに牢に入れられていて、戦う兵士やアパルトヘイト政策を施していた政治機構そのものが直接的に描かれているわけではない。政府はマンデラを監視し続けるという役割を続け、だが彼を殺すことなく、長い間の国内紛争は、決して止まないという状態。
マンデラが抵抗勢力の人々の大きな心の拠りどころであったがために、彼を一思いに殺すことも出来ず、苦心惨憺した政府が、27年間という長い間彼を拘束していたのだ。

物語の描き方はというと、それほど細密な心理が描けてはないなかったのが残念。
これから昇進を控えた、人種差別主義者であったジェームズ・グレゴリーが、ネルソン・マンデラに出会い、その彼の思想に影響されていく姿に、もう少し説得力が欲しいところ。
自由憲章を読んだというそれだけで、これまでの彼が持っていた人種差別思想に影響を与え、それらがガラっと変わった、という描き方であるのだけれど、そのあまりの変わりようが、なんだかもったいない印象がしてしまった。
当時極秘事項として国家機密にされていたはずの自由憲章を、読みたいと思い、それを手に入れてしまう。それまで全く違う考えだったはずなので、彼が考えを変えるまでの道のりにもう少し変遷を見せて欲しかったかな。

とは言え、ネルソン・マンデラを演じたデニス・ヘイスバートは、凄く威厳たっぷりに思えたし、
コーサ語を教えてくれた子供の頃の友人がくれた、お守りを大事にするシークエンスなんかは私はすごく感動してしまったし。
そういう二つの相反する考え方の中で、心が揺れ、
結果として自分の信じる方へと傾いていくジェイムズ・グレゴリー。
ネルソン・マンデラという人を描くのではなく、周りから描いたというこの映画だったのね。
映画として、当たり前のような表現しかしていなくて、あまりにアッサリしすぎだったのでした。

今現在も生きている人の伝記映画って、やっぱり面白くない。

マンデラの名もなき看守@映画生活

 

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コメント(19件)

  1. こんにちは♪
    マンデラ氏、グレゴリーの人物像もヨカッタの
    ですが、個人的に心底感化さているワケでもな
    いのに、生まれ育った環境から当たり前のよう
    に差別意識を受け入れ、尚且つ周りからの目線
    や体制に従っていなければ家族を守れないこと
    を知っていて「黒人はテロリスト」と言ってし
    まっているグロリアと言う人が個人的に一番興
    味深かったですね。
    正直なことを言うと、マンデラ氏の人となりを
    語った作品かと思ってたんで、チョイ肩透かし
    を喰らっちゃいました…r(^^;)

  2. マンデラの名もなき看守

     仏&独&ベルギー&南アフリカ
     ドラマ
     監督:ビレ・アウグスト
     出演:ジョセフ・ファインズ
         デニス・ヘイスバート
         ダイアン・クルーガー
         パトリック・リスター
    【物語】
    1968年、アパルトヘイト政策下の南アフリカ共和国。黒人差…

  3. 風情さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    そうですね、私もちょっと肩透かしを食らってしまったかな。。。
    確かに、グロリアって奥さんには、少しイライラさせられましたね。
    ただ、この時代のアングロサクソン系の人の一般的な姿が、この彼女のようだったとしても、さほど驚きはしないかな・・。
    むしろ、自分とそのダンナの出世の方がきっと大事で、周りの目ばかり気にしてたのでしょうか。
    物ごとの本質とかを考えない人は、こんな感じだったんでしょうね。ジェームズ・グレゴリーと好対照に描かれている人物でした。

  4. マンデラの名もなき看守(Goodbye Bafana)

    公式サイト。南アフリカのネルソン・マンデラ大統領を20年以上に渡り看守として手紙のやり取りを検閲していたジェームズ・グレゴリーの自伝作品「Goodbye Bafana」が原作。ビレ・アウグスト監督、ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバード、ダイアン・クルーガー。

  5. とらねこさん、こんにちは!
    私もとらねこさんと同じ感想を持ちました。
    題材は良いんだけれど、もうちょっと心理描写を突っ込んで描いて欲しかったな〜。
    ラストの1文が言えてるわ〜と思っちゃった。
    やっぱり主人公が、まだ生きている間の映画っていうのは、当然作り手にも遠慮があるだろうし、ガツンと来る映画は作れないのかもしれませんね^^

  6. 「マンデラの名もなき看守」感想と、その後のマンデラ氏

    なかなか良い話しでした。少しだけ「善き人のためのソナタ」が頭をよぎる内容だったな〜。看守と囚人の心の通じ合いといえば「サルバドールの..

  7. latifaさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうですね、なんとなく肩透かし感を感じちゃいました。
    どうも関係者が作った映画とかは信用できない、なんて思うんですが、それだけじゃなくて、今まで映画化されるのを反対してきたネルソン・マンデラが、この映画ではOKした、というも、ちょっと引っかかってしまった私だったのでした・・。

  8. マンデラの名もなき看守

    【映画的カリスマ指数】★★★☆☆
     
     時代を変えた影の偉業
     

  9. マンデラの名もなき看守 原題:GOODBYE BAFANA

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  10. 【2008-173】マンデラの名もなき看守

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    27年間囚われた、のちの南アフリカ初の黒人大統領。
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  11. マンデラの名もなき看守

     『27年間囚われた、のちの南アフリカ初の黒人大統領。 今、秘められた感動の実話が明かされる。 あなたに逢って、知った。世界は間違いだらけだと─』
     コチラの「マンデラの名もなき看守」は、2008年に生誕90周年を迎えたネルソン・マンデラが、自信の人生の映画化….

  12. 「マンデラの名もなき看守」

    マンデラは有名でも、こういう看守さんがいたことは世間には知られてませんよね〜

  13. mini review 09366「マンデラの名もなき看守」★★★★★★☆☆☆☆

    南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラの“囚われの27年間”にスポットを当てた感動作。政治活動家として刑務所生活を強いられたマンデラと、彼との出会いによって社会を見つめ直す白人看守グレゴリーの交流が描かれる。監督は『ペレ』のビレ・アウグスト。マンデラを…

  14. マンデラの名もなき看守

    南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラの、囚われの27年間。
    そこにあった白人看守との交流を描く、実話をもとにしたストーリー。
    ??.

  15. マンデラの名もなき看守/Goodbye Bafana(映画/DVD)

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  17. マンデラの名もなき看守

    GOODBYE BAFANA
    2007年:フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・南アフリカ
    監督:ビレ・アウグスト
    出演:ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバート、パトリック・リスター、ダイアン・クルーガー
    南ア初の黒人大統領、ネルソン・マンデラと、彼が27年にわたる….

  18. マンデラの名もなき看守

    もし神様が歴史を変える偉人に使者を遣わすのなら、このジェームズ・グレゴリー氏もまたその一人でしょう。ネルソン・マンデラ元大統領が27年の投獄生活から解放されるその裏側に実在した一人の白人看守視点から描かれたこの映画は、『インビクタス負けざる者たち』を鑑賞後….

  19. マンデラの名もなき看守

    邦題では「マンデラ」とありますが、これは知名度を利用しようという意図があっての採用でしょう。この映画の最大の注目点は基本的に「実話」で構成されているというところでしょう。またひとつ、映画から「いいこと」を学びました。




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