81●フィクサー
シドニー・ポラックの冥福をお祈りします。
ストーリー・・・
フィクサー=弁護士事務所に所属する”もみ消し屋”。ニューヨーク最大の法律事務所のフィクサーであるマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)。彼が巻き込まれた最大の危機……。全米を騒然とさせた3000億円の訴訟問題。完全勝訴か和解の道を選ぶのか迫られたとき、ニューヨークno.1の実力を持つ同僚弁護士がある全てを揺るがす秘密をつかんでしまう。ボスからすべてのもみ消しの特命を受けるマイケル。命を狙われる同僚(トム・ウィルキンソン)、さらに関わったマイケルも・・・
’07年アメリカ。
トニー・ギルロイ初監督作品。製作総指揮に、ソダーバーグ、主演のジョジクル、シドニー・ポラック、アンソニー・ミンゲラが携わったという、そうそうたるメンバー。
シブいオヤジ大集合の、社会派エンタメの佳作だ。
アンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックは一緒に会社をやっていたとか。
アンソニー・ミンゲラの訃報が、と思ったらシドニー・ポラックが・・・。
本当に仲が良かったんだなあ・・・。
想像通りの素晴らしい作品で、見て良かった〜♪と思った。
私はこの手の作品が大好き。なんとも言えなくなるような、こういうムード作りがね。
自分の大好きな『摩天楼を夢見て』、これを思わず思い出すような雰囲気だったの。
(これは主に脚本のデビッド・マメットが好きなせいだと思うけど)
こんな風な、ペーソスと皮肉の混じり具合というものがさ、
ああ、好きだ、すっごく好きだ・・・。
とは言え、脚本だけでビシっと世界を確立していた『摩天楼〜』には、決して及ばないのだけれど、
こちらでも、手堅い魅力というものは感じられる。
まず冒頭、クールでスタイリッシュな登場のマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)。
揉み消し屋と言っていかにもカッコ良さげに登場するんだけれど、相手はアタマに血が昇ってしまって、口で言って分からせようとするのは、あまりにも大変な作業なんだなあ、というのが分かる。
カッコいい職業というより、本当に大変そう。
揉み消しそのものが大変なのに加えて、ワガママで理屈の通じないクライエントの相手。これが本当、理不尽に大変そうなのね・・・。
マイケルの仕事ぶりは、その場の空気を読みながら、
諦めずに相手を説得し続ける、人間相手の泥試合なんですね。
そもそも、理屈で分かってくれるなら、こんなに簡単なことはないわけです。
その人それぞれの立場があり、言い分があって、そこに“感情”があるから・・・人間の生の感情って、いつも取り扱い要注意なもの。
今回、この取り扱い要注意になってしまったのは、自分の昔からコンビを組んでやって来た、優秀そのものの仕事仲間、アーサー・イーデンスなのでした。
しかも、今回のミッションの大変さは・・・AAA(トリプルA)級。
動いているお金そのものの大きさもさることながら、
事件性としても、これまで関わってきた彼とその同僚の功績も、
すべてがパーになりかねない、異常なまでのバッド・シチュエーション。
物語は、途中、時間軸を少しだけイジクってある系。
難しくは全くない描き方だけれど、この異常な事態のテンション、持続する緊張感というものに、一役買っている。
とは言え、この手のテンションを持続するのが苦手な、注意力散漫なタイプの人は、途中退屈してしまうかもしれないけど。
信頼出来る仲間だったはずの同僚の、突然のバーン・アウト。
もしかしたら、どっかでおかしくなることなくやって行くには、
マトモな神経の持ち主にはムリなのかもしれない。
もっとも応えるのが、その人の善の基準。
正しいものを信じたいという、ピュアで気弱で繊細な部分は、
普段のキャリアの中に殺され、埋もれてしまっているから、
突然顔を出し始めるのが脅威のシグナル。分かっていてもやられてしまうから余計に、怖ろしいシロモノなのだ。
ところで私は、時々、まっとうに生きるってことは、なんて退屈なんだろー、なんて思う時がある。
できれば、闇の世界とかに身を置いてみたい。
たとえ日陰の暮らしをしようとも、一時的に大金を稼いで、後にはノンビリみたいな、さー。
そういう闇の世界に身を置く方が、アタマの使いようもありそうだし、体力も生かせるし。
ボンクラな凡人人生は、ヌルイよね。
何より、闇社会の方が退屈はしなそうだし、
老後を介護保険だとか、年金に頼るより、よっぽど安心できそうだしね。
だから本当は、スパイとかになりたいんだけれど、どうやってなればいいのか分からないから困ってるんだ。
まあそれはおいといて。
マイケルの仕事において、一番大変な時期が訪れた。
ここぞ、という時に、一番賢い選択を取らないと、彼の全てが終わりなのだ。
彼が何かに自分を賭けることは、これまでおそらくなかったに違いない。
その日その日を何とか永らえるよう、賢く堅実に、だが良心を殺して、家族をさえ犠牲にしてやって来たのだ。
道を踏み外す、女副社長のカレン(ティルダ・スウィントン)は、対照的な存在だ。
その肩に重い任務があるために、返って簡単に良心のタガが外れる、その微妙な危うさを見事に表現。
ティルダ・スウィントンは、この役でアカデミー助演女優賞を得た。
物語は、緩急をつけながらも、男の孤独さや、人生の妙味に時に触れながら進んでゆく。
彼の気持ちを変えるような出来事が起きた時、すでに彼はこの事件にドップリ浸かって、泥沼にハマりこんでいるのだ。
それから、彼は大博打を打つ。
秀逸なのは、そのラストの映像。
ネタバレなので、見た人だけ進んでください。::::::::::::::::::::::
全てを終えた彼が、見知らぬタクシーに乗る姿。
カメラは、バックミラーを見る彼を、長回しで映し出す。
バックミラーに映るのは、何かと言えば、後ろの車の姿だ。
なぜこんなに長いのだろう、と考えながら見ていると、
マイケルの表情がどんどん明るくなっていく。
車はずっとタクシーの背後を、ぴったりついたままだ。
ここでハタと気づくのが、これまでの人生で、彼は常に“何か”に追われていた、ということだ。
彼の良心は、一時も休まることがなかったということ、常に背後に迫る何かの姿を、その目の端に入れていたということ。
最後、この仕事を辞める
ことが出来てようやく、安心した一人の男の姿だ。
ゲームに華々しく勝ったというより、むしろ損失も大きかったが、
初めてホッと肩の荷を降ろすことができたのだ。
それらを、このバックミラーに迫る車一つで、考えさせるようになっている。
彼はおそらく、これまでの人生、もう幾度仕事を辞めようと考えていたに違いない。
だからこそ、ラストの決断は早く、見事な切り返しになっていたのだ、と。
このラストは、普段なかなかないぐらいの素晴らしいエンディングじゃないか?
そう思いながら、席を後にした。
そうだ、人生はいつか、博打を打たなければいけない時があるのだ。
2008/06/03 | 映画, :サスペンス・ミステリ
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コメント(21件)
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フィクサー
『マイケル・クレイトン―― 罪を消したければ、彼に頼め。』
コチラの「フィクサー」は、本日4/12に公開された弁護士事務所の裏で暗躍するもみ消し屋<フィクサー>を描いたサスペンスなのですが、早速観て来ちゃいましたぁ〜♪
2007年アカデミー賞で、ティルダ….
とらねこさん、こんばんは。
すごい!流石な観察力ですね!
タクシー、全く気付かなかった…(苦)
何故か、カレンの小心者具合ばかり見ちゃってました…。
最初から最後まで途切れない緊張感が、とても楽しめました。
とらねこさん、こんばんは!
私、この「フィクサー」、そして「モンテーニュ通りのカフェ」と続けて観てシドニー・ポラックさんがとても印象に深く残っていたので、訃報を新聞で読んだ時は「えっ?」とにわかには信じられませんでした、病気の影なんて感じられなかったじゃないですか。凄い方ですね〜。心から御冥福をお祈りします。
しかしこの作品、緊張とスリルとふとしたそこここに人間臭さとでも言ったらよいのかが、ない交ぜになって画面に釘付けでした。
その人間臭さって言うのは多分、登場人物それぞれ格好いいんだけれど、でもそれ以上に生活し背負っているものの重さがそれぞれリアルに描かれ感じられたからかもしれない、なんて思ったりしてました。面白かった!!
フィクサー-(映画:2008年31本目)-
監督:トニー・ギルロイ
出演:ジョージ・クルーニー、テイルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン
評価:88点
公式サイト
(ネタバレあります)
ジョージ・クルーニーがでると、どんな役をやっていても「俺様映画」になってしまうところが面白い。
脚本も….
ヨゥ。さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ヨゥ。さんもこちら、楽しめたんですね!良かった。
そうなんですよ、おそらく、ほとんど心理描写らしき心理描写が描かれていない、この作品で、
あのラストシーンでのあの表情の移り変わり。
あれだけで随分といろいろなことを表現しているんですよね・・・。
かなりあのラストで全体の印象がUPしちゃいました。
おっしゃる通り、ティルダ・スイントンの小心者ぶりは、真に迫った演技でしたね。
rubiconeさんへ
こんばんは〜♪ちょっとお久しぶりです。コメントありがとうございました。
そうですよね!私も『モンテーニュ〜』を見ていましたし、全く元気に見えましたよね。
そうですね、この人間臭さ。カッコいい役ではなくて、むしろ、男の哀しみがよく表れていて、
おっしゃる通り、リアルだからこそ良かったです。
男って、年とともにドンドンカッコ良くなって、味が出てくるオヤジがいるんですよね。
ジョジクルのハンサムぶりは好みでは全然ないんですが、こういうカッコ悪いほど人間的な役をやると・・・w
認めざるを得ませんね(爆)
フィクサー [監督:トニー・ギルロイ]
個人的評価:■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)】 別に「もみ消し屋」の話でも、社会派サスペンスでもない。
【2008-91】フィクサー(MICHAEL CLAYTON)
人気ブログランキングの順位は?
【フィクサー】・・・弁護士事務所に所属する“もみ消しのプロ”。
男は、完璧に罪を消せるはずだった・・・。
マイケル・クレイトン──
罪を消したければ、彼に頼め。
フィクサー
こんなアニキが欲しい?
エンドロール時のタクシーの映像は良かったですね〜いつもcastなどを凝視しているために、ちょいと注意力散漫になってしまったけど、表情が変化する様子にドキリとしました!
「人生には二度勝負する時がある」と説教好きの伯父に教えられたことがありました。俺にはその時がもう来ないのか・・・いや、通り過ごしたのかどうかもわからない。日々のパチンコの勝負では決してないはず・・・(汗)
オスカー作品賞候補の中で、俺的には『フィクサー』か『つぐない』だったなぁ〜ってくらい気持ちよい映画でした。
kossyさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました。
で、kossyさん、パチンコまた最近やってらっしゃる?んー、kossyさんがパチンコやり始めると、またもや映画記事UPしなくなっちゃうんじゃないかと心配ですw
私の場合、エンドロールに映像が流れていると、逆にキャストを見忘れてしまって、ああーせっかくのキャストを見忘れてしまったああ!ということになってしまうんですよ〜。
エンドロールは落ち着いてキャストが見たいですぅ。
とか言いつつ、「エンドクレジット時にベタにNG集が流れている」とか大好きなんですけどネw
今年のオスカー関連ですか。私は、今年は何故か結構好きなのが多いんですよ。
去年とは全く違ってw
kossyさん、まだ『JUNO』見ていらっしゃらないですよね?忘れないで!
私は一番好きなのは『JUNO』でしたよ。
特に、オヤジさんが素敵な辺り、kossyさんにも気に入ってもらえそう!
『フィクサー』を観たぞ〜!(試写会にて)
『フィクサー』を観ました弁護士事務所に所属し、裏で暗躍するもみ消し屋“フィクサー”の苦悩と焦燥を描きながら、ある大企業の集団訴訟をめぐる陰謀劇に迫る社会派サスペンスです>>『フィクサー』関連原題:MICHAELCLAYTONジャンル:スリラー/サスペンス上映時間:120…
No.137 フィクサー
邦題のタイトル、”フィクサー”ってどんな意味?
と調べて、トラブルを裏で穏便に処理するもみ消し屋という
意味だった。そのため、マイケル(ジョージ・クルーニー)が
あらゆる難題を爽快にもみ消していくお話かと思っていました
No.137 フィクサー
邦題のタイトル、”フィクサー”ってどんな意味?
と調べて、トラブルを裏で穏便に処理するもみ消し屋という
意味だった。そのため、マイケル(ジョージ・クルーニー)が
あらゆる難題を爽快にもみ消していくお話かと思っていました
TBありがとうございました。
邦題のタイトル、”フィクサー”ってどんな意味?
と調べて、トラブルを裏で穏便に処理するもみ消し屋という
意味だった。ジョージ・クルーニーが鮮やかに
企業の不始末をもみ消していく爽快感を得られる話かと
勘違いしていました。欲と正義の狭間で揺れる
話だったので面食らいましたが、見ごたえのある
ドラマでした。多額の借金あるとあの選択に
なってしまうのでしょうね。
シムウナさんへ
こんばんは〜♪こちらこそ、TBありがとうございました!
んー自分は、ジョジクルって、ソダーバーグとの交友関係があって、自分も監督をしていたり、製作に携わったり、割と面白いことをしている人だなあ、といった印象からか、
それほど「鮮やかで!爽快で!」と言ったエンタメ娯楽作品的イメージはないかなーという感じです。
むしろ自分の場合は、こういうシブい、男のカッコよさを感じられる作品の方が好きだったりする方なので、
初めの思い描いていた娯楽作と違っていたら、逆に嬉しくなってしまうんですよね。
フィクサー
2007年上映 監督:トニー・ギルロイ 主演:ジョージ・クルーニ 腐敗しきった企…
TB&コメントさせてもらっちゃいますねぇ〜。
エンディングでのタクシー撮影についてですが、
深い!深すぎる!何という洞察力w
私はどっちかというと、大きな事をやり終えたという充実感に溢れていたシーンにしか写りませんでしたw
あの余韻は、実に格好良かった!
oguoguさんへ
こんにちは〜♪お久しぶりです!コメントありがとうございました!
エンディングのところについては、自分は結構シビれた瞬間でした。
あそこまで長回しで撮られてなかったら、たぶん考えなかったかもしれません。
長回しにされると、途端にいろいろ考え出してしまうんですよね
ちなみに、長回しの後、もう一度カメラを切り返してまた同じ風景を撮るのは、しつこくてあまり好きでないですね・・・。
まあ、私が気が短いからかもしれませんけど><
とらねこさん☆
ぎゃははは・・・なんとスパイになりたいのですねー?
しかも闇の世界に生きてみたいとな。
とらねこさんらしい~?
でも闇に生きるにはもっと狡猾な人物で無いと、そこに身をおくこともままならないような・・・
最後のタクシーの表情、めっちゃ良かったです。
さすがジョージ兄さん。
これを観ていて思ったのですが、「ザ・イースト」に登場する悪徳な企業で、それに加担するのが仕事みたいな立場もあるのだなーと。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪ノルさん、こちら気に入ったのね〜、嬉しいです!
ハイ…私はスパイになりたいです。どうやったらなれるのかなあ…日本だと、歴史小説を読んだりすると忍者がスパイみたいな立場だったようなので、忍者モノが結構好きです!
闇の世界、いつも憧れるんですが…私だけかな?
確かに、裏切りなんかがねえ、自分の身を危険に晒す要因になったりしますよねえ。非情の世界にどっぷり包むのが辛そうだな…
タクシーの表情!うおおお!まだ覚えてますよ〜
あれ、エンディングとしてあれほど素晴らしいものってないですよね!ああ、ノルさんのおかげで思い出しました…。
ザ・イーストを思い出されたということは、もしやご覧になってたんですね!?あれ?書かなかったのかしら?それともこれからかな?