66●モンテーニュ通りのカフェ
パリ8区、モンテーニュ通り・・・。
カフェを通じて垣間見る、人びとの生活。
そこにある甘さも、苦さも、愛情を持って描かれる物語。だから酔えた。
ストーリー・・・
若き日をパリで過ごした祖母(シュザンヌ・フロン)の思い出話に憧れ、田舎町からパリにやってきたジェシカ(セシル・ド・フランス)。どうにかモンテーニュ通りにあるカフェにもぐり込んだ彼女は、本来は男の職である“ギャルソン”の仕事を始める。
劇場や高級ホテル、ブティックなどが並ぶ界隈に立つ店にやってくるのは、ジェシカがこれまでの人生で会ったこともないようなセレブばかり。女優(ヴァレリー・ルメルシエ)、ピアニスト(アルベール・デュポンテル)、舞台や映画の関係者、美術収集家といった客たちを、ジェシカは興味深く観察し始める・・・
見終わった後、とても温かい気持ちになって、人生の奥深さを感じることが出来た物語。
群像劇をこうして描く物語って好きだ〜。
人々を描く時に、そこに愛があるのが好き。
完璧でない人間たちが、完璧でない人生を送る、だけどそこに人生の重みを感じることが出来る、
そんな奥行きがあった。
フランス映画特有の、ビターテイストをどこか感じることが出来るけれど、
ラストに至ってはまぁるく収まる、人の良さというものも感じることが出来た、そんな物語。
ピアニストのジャン=フランソワ・ルクソール(アルベール・デュポンテル)は、成功したピアニストで、何の不満もなく人生は続いているはずだったのに、なぜか満たされない。
順風満帆な人生からむしろ、逃げようとする行動、鬱屈する不満、そんなものを抱えている。
気紛れなピアニスト、に初めに見える彼が、実は、
愛するピアノを、単なるお高くとまったクラシックファンだけのために弾くことに、疑問を持ち始めているのだった。
慈善病院で、芸術に薀蓄を語らない人たちに向けて、ピアノを聴くルクソール。
きっと、「これだ」と彼の中で思ったに違いない。
私はと言うと、人生はそうしたものであるんじゃないかな、って思うときがある。
ひとまず自分の出世欲であるとか、物欲、愛の成就を行って、人生に不満を抱えずに、たとえ成功を収めた人であっても、
いや、そうだからこそ、一段レベルの高い、何かに向けて、
生きる目的といえるようなものを、求めていくように思う。
どの程度満足するか、その度合いというものは人それぞれで、どの辺りで満足するかは言えないとしても、人生のステージとして、また別の次元を人は求めて徴求していくんじゃないかなと。
そして、そうした時に、その人らしさ、より個性と言えるようなものが、出てくるんじゃないかと自分は思っている。
でも、そういう次元の高い悩みというものは、芸術家でない、彼のマネージャーの妻には通じない。それまでの人生を否定し、彼女の存在価値を軽視する、単なるワガママとしか思えないのだ。
こういう時に、女は無理解なのかもしれない。
でも、このピアニストは、そうした女の無理解を、軽蔑しようとはしない。
むしろ、愛で包んで、自分と同じ道を辿る希望を抱き続ける。
一度壊れそうになっても、その危機を乗り越える。今度は二人で。
一人ひとりのエピソードがそんな風に、どこか自己表現と、そして人生と密接に結びついた形で、丁寧に語られていく。
群像劇なので、他の人の人生も垣間見れていき、そうした物語が微妙に交錯していくのが、本当に好きだ!
男と、女と、エゴと、人生。
カフェの女ギャリソンは、まるでこの街に降りた天使。
温かい笑顔と、飛び切りチャーミングな耳心地のいい声。
そこに、珈琲の美味しそうな匂いが加わって、かつ、彼女の男服姿ですよ。
なんだか得した気分の、愛らしいドラマ。
それにしても、ここまでかわいらしい演出のセシル・ド・フランスは、初めて見た気がする。
『スパニッシュ・アパートメント』、『ロシアン・ドールズ』、『ハイテンション』という出演作。
『ELLE』誌で、「友達になりたい女優一位」という、女性からの支持の高さも大きく頷けちゃう。
ホント素敵な人なんだけど、あんまり男とラブラブな姿とか、似合わないような気もする・・・のは私の偏見?
その他、TV女優のカトリーヌ(ヴァレリー・ルメルシエ)のエピソードも良かったナ。
なかなかキュートな物語でしたよ。
2008/05/04 | :ヒューマンドラマ
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コメント(15件)
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AVENUE MONTAIGNE (2006)/モンテーニュ通りのカフェ
【原題】FAUTEUILS D’ORCHESTRE
【邦題】モンテーニュ通りのカフェ(2008年4月26日公開)
【あらすじ】劇場や有名メゾン、高級ホテルが並ぶセレブな街??..
モンテーニュ通りのカフェ
フランス
ドラマ
監督:ダニエル・トンプソン
出演:セシル・ドゥ・フランス
ヴァレリー・ルメルシェ
アルベール・デュポンテル
クロード・ブラッスール
【物語】
劇場や有名メゾン、高級ホテルが並ぶセレブな街、パリ8区のモ…
こんにちは♪
>ラストに至ってはまぁるく収まる
ボクも紆余曲折を経ながら、最後はみんな
イイ方向に納まる終わり方は大好きです。
凡才故のひがみになりますが成功者達の悩
みはチト贅沢過ぎるかなと思えなくもなか
ったんですが、その悩みにもがきながら更
に高みに上っていく姿に何か、感動と言う
か共感できるものがあって観てヨカッタと
思えた作品でした♪ (゚▽゚)v
風情さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、このラストの温かさは、とても安心感のあるもので、うれしくなりましたね。
そうそう、セレブで、世間的成功を収めた人でも、何かしら悩んでいるんですよね。
確かに知ったこっちゃない感じはあるかもしれませんが(笑)
コレクションを全て手放さないといけない蒐集家の姿は、ちょっと切なかったです。
こんにちは。
私もこういう他人の人生がうまく絡み合ってる映画って好きで、ちょっと「ラブアクチュアリー」を思い起こしちゃいました。
セシルは本当に素敵ですよねー。
ショートカットも可愛かったし。
さりげない天真爛漫な感じがぴったりでした。
全然いやみな感じがしないし。
あすかさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あすかさん、そういえば以前も『つぐない』のところで、『ラブ・アクチュアリー』のお話しをされていらっしゃいましたよね。
あすかさんがいかに『ラブ・アクチュアリー』が好きだったか、伝わってきちゃいました★
セシル・ド・フランスは、すごく素敵でしたね
こんな風にハッピーになれる映画って、いいですよね^^
モンテーニュ通りのカフェ
監督:ダニエル・トンプソン
(2006年 フランス)
【物語のはじまり】
田舎からあこがれのパリに引っ越し、モンテーニュ通りの“カフェ・ド??.
『モンテーニュ通りのカフェ』
4月に観たい観たいと騒いでいた『モンテーニュ通りのカフェ』をやっとのことで観てこれました。
こんなに長い期間上映していてくれたユーロスペースさんに感謝。
劇場や高級ホテル、有名メゾンなどが並ぶ由緒正しき街、パリ8区のモンテーニュ通り。マコンから憧れを抱い…
『モンテーニュ通りのカフェ』 Fauteuils d’orchestre
心の琴線に響く、エスプリッチなパリの人生賛歌。
田舎町からパリにやってきたジェシカは、カフェ・ド・テアトルで“ギャルソン”の仕事を始める。映画が始まってすぐ、フランス語の響きが私は好きなんだなーってことを再認識。映しだされた街の風景に重なって聴こえてき…
モンテーニュ通りのカフェ
人生に 恋をした・・・時には人生にエスプレッソを。カフェで交差する人生__パリ8区、モンテーニュ通り。この通りからは美しく聳え立つエッフェル塔が見え、シャンゼリゼとジョジュ・サンクを結ぶ黄金の三角形と呼ばれる、パリきっての豪奢な地区。モンテーニュ通りには…
モンテーニュ通りのカフェ
『人生に恋をした パリ、8区。 夢が座る時間に、 カフェも開く』
コチラの「モンテーニュ通りのカフェ」は、エッフェル塔を望み、シャンゼリゼとジョジュ・サンクを結び、劇場やオークション会場といったセレブが行き交う一角に実在する”カフェ・ド・テアトル”….
うんうん、セシル・ドゥ・フランス本当に
チャーミングで素敵でしたね〜♪
友達になりたいって本当分かるなぁ〜。
彼女みたいに屈託なく笑われちゃうと、
心が洗われてしまいますよね〜。
初対面で思わずすんごい打ち明け話をしてしまったり、
彼女の笑顔に気付かないうちに触発されたりってのが
すごく説得力があって、良かったです。
おばあちゃんが言ってたように本当天使みたいだって思っちゃいましたよ〜。
miyuさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
セシル・ドゥ・フランス、本当に天使のようでしたね!
こういう、ナチュラルでかわいくて、素敵な女の子って、本当に癒されますよね!
自分は、癒し系になりたいと思いつつも、どこかスイートにはなりきれなくて、
どっかビターテイストを醸し出してしまうのですが・・・。
初対面で、いきなり友達になれちゃうタイプの子って、いいですよね。
私ももっとフレンドリーになろうっと!
「モンテーニュ通りのカフェ」
こんなカフェで働けるっていいなぁ〜って思っちゃった^^
モンテーニュ通りのカフェ
なんて明るい映画だろう。元気をもらえた