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59●ランジェ公爵夫人

ランジェ公爵夫人ここに出てくる恋愛は、まるで負けるわけにいかないゲームのようなもの。
だけど、恋心より理性が負ける時が来たら、それに命をかける。挙句、殉死する・・・。

ストーリー・・・
パリの華やかな舞踏会でランジェ公爵夫人(ジャンヌ・バリバール)は、モンリヴォー将軍(ギヨーム・ドパルデュー)と出会う。公爵夫人に激しい恋心を抱くモンリヴォー。公爵夫人は思わせぶりな振舞いで彼を翻弄し続ける。追い詰められたモンリヴォーは、たしなみや信仰を理由に拒絶する公爵夫人を、誘拐するという手段に打って出た・・・

’06年フランス・イタリア。ジャック・リヴェット監督。

こうした、ヨーロッパの貴族の社交界での恋愛話、なんていうものは、そもそも、日本人にとって、それほど身近に思えるものではないかもしれない。
ここに出てくる人々の宗教観も、
現代の日本に住む私たちには、少し遠い価値観かもしれないなあ・・・。

私は、この原作は読んでないけれども、バルザックの力強い筆致によって語られる雄弁な物語は、この映像化した作品よりはずっと分かりやすいものでは、と予想する。

地元社交界のスター的存在で、身分も家柄も申し分なく、かつ美貌でも聞こえたランジェ公爵夫人にとっては、モンリヴォー将軍との出会いは、初めは退屈しのぎの恋愛ゲームにしか過ぎなかった様子。
薄暗い灯りを点して、誘惑するポーズを様々に工夫を凝らす夫人。
おそらく、この遊びこそ、彼女のこれまでの人生の中でも、楽しみの一つであったのだろう。でもその遊び自体、それほど深入りをするものではなく、あくまでも気晴らし程度かもしれない。
男に対して、本気で気を引いてどうこう、というのではなく、あくまでも気紛れなもの。そうそう簡単に浮気をするつもりはなく、自分の評判を貶めるほど悪女ではなかったのかも・・・これは、最後になってよく分かる。

モンリヴォー将軍についても、その風貌や見た目に惹かれていたかは定かではなく、彼の経歴を一風変わったものだと思っていたぐらいかもしれない。
自分の見たこともない砂漠や前人未踏の地やら、ナポレオンの下で勇敢に戦ってきた彼の話を聞く彼女の態度も、本気でその冒険に思いを入れて聞いている、という風には見えない。
むしろ、自分の手練手管が成功しているのかどうなのか、そちらの方が気になるし、自分の思うような褒め言葉が聞けないことを、物足りなく感じていたのかもしれないと想像する。

だが、このモンリヴォー将軍は、本当に純粋なのか、何度も彼女の甘言に乗って、まっすぐに彼女の家に通うようになってゆく。
初めの頃の彼女にとっては、舞踏会の最中に、話題の将軍を連れ回す方が面白かったに違いない。決して体を許すことなく、将軍の気持ちだけを翻弄してゆく。
だが、それがある日逆転してしまう。

モンリヴォー将軍の取った、ランジェ公爵夫人を誘拐する、などという手荒なやり方は、むしろ彼女の行動守備範囲内から逸脱する、ということでその殻は破れたのかもしれない。
ランジェ公爵夫人の私室や、舞踏会会場、という「彼女の支配する」空間でない場所で、全く違う扱いを受けるというのは、思ってもみないことだったのかもしれない。
「奴隷のように焼きごてを顔に施す」と言われて逆に、被虐的な笑みを浮かべるのだ。本当は、支配するより、被支配を受けてみたかったのではないだろうか?

それがキッカケで、将軍に対して一人、思いを募らせ始める夫人。
恋愛が、彼女主導のゲームでなくなった辺りから、全てを失う覚悟をしてゆくのだ。

ここに描かれる二人の、肉体が中心でなく、あくまで恋愛が精神的なもののみで成り立っている辺りに、まず現代の人には共感しづらいかもしれないけれど・・・。

でも、肉欲、というものを絡めずに、相手の男を、あるいは女より、上に立とうとすることの、いかに難しいことか・・・。
相手を支配するとか、被支配の関係で居るというのは、なかなかやろうとすると大変なことだったりする。
相手より自分の愛が大きくなってしまった方が負け・・・。

ただ、この作品は正直、映画としてはそれほどの出来映えとも自分には思わなかったかな。たぶん自分は、原作の方が好きかも・・・。
バルザックは大好きなので、私の期待が大きすぎたのだと思うんだけれど。
同じフランスの、いい年した男女の深い恋愛モノ、というと、『イザベル・アジャーニの惑い』の方が私は好き。見ているだけで辛くなってくるような、泥沼っぷりを発揮していたように思う。

ランジェ公爵夫人@映画生活

 

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コメント(9件)

  1. こんばんは。
    私も観てきましたが、平日のせいか回りはほとんどシニア!だってバルザックの名作なのですものね。
    しかし、私も原作を読んでいないのでわかりませんが、きっと原作のほうがよかったのでは?
    とにかく会話が多く、眠気をこらえるのに必死でした。「美しき諍い女」の監督なので、ある程度覚悟はしていましたが・・・・観る方も忍耐が要りますね。最後のほうでやっと理解できましたが、この作品は映画にするのは難しいのかも?

  2. cinema_さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    そうなんですよ、原作は、バルザックということで、やはり客層がちょっと上のようなんですよね。
    私バルザック、大好きなんですよ〜。
    ただ、私もこれ原作を読んでないんです。
    バルザックは昔から、大好きで、本は隈なく読んでいたつもりだったのですが、この原作は、これまで一度も見たことなかったんですよ。
    でも確かに、物語の起伏がそれほどなかったんですよね。
    眠くなっても仕方がないかもです・・・w。
    こういうのって、本で読む方がきっと心理が伝わりやすいのかもしれませんよね。
    本が読みたくなりました(ただ、まだハードカバーで高いんですよね)。

  3. 真・映画日記『ランジェ公爵夫人』

    JUGEMテーマ:映画
    4月8日(火)◆769日目◆
    一日中、雨&強風。
    特に、朝、家を出た時がひどかった。
    仕事をサボりたくなったくらいだ。
    ここが普通に働く人とニートの分かれ目なんだろうね。
    で、雨の中、なんとか働きましたよ。
    働いた後は、映画ですよ。

  4. ジャック・リヴェット監督作品「ランジェ公爵夫人」

    フランス映画作家の中で、私が最も敬愛しているジャック・リヴェット監督の最新作「ランジェ公爵夫人」を、神保町の岩波ホールで見た。

  5. 「ランジェ公爵夫人」

     2006年/フランス、イタリア
     監督/ジャック・リヴェット
     出演/ジャンヌ・バリバール
         ギヨーム・ドパルデュー
         ミシェル・ピコリ
     文豪バルザックの名作の映画化。
     19世紀のパリ。舞踏会の華であるランジェ公爵夫人は、モンリヴォー…

  6. ◇『ランジェ公爵夫人』◇

    2007年:フランス+イタリア合作映画、ジャック・リヴェット監督&脚本、ジャンヌ・バリバール、ギョーム・ドパルデュー、ミシェル・ピコリ共演

  7. ランジェ公爵夫人

    監督:ジャック・リヴェット
    (2007年 フランス/イタリア)
    【物語のはじまり】
    ナポレオン軍の英雄モンリヴォー将軍(ギョーム・ドパルデュ…

  8. ランジェ公爵夫人

    交わされる言葉の紡ぎだす官能と悦楽、息詰まるような愛と途方もない情熱。
    そして、業火の苦しみ__恋愛心理の不可解さ、愛の魔力に翻弄される。
    物語:1823年、ナポレオン軍の英雄アルマン・ド・モンリヴォー将軍は、スペインのマヨルカ島にあるカルメル会修道院ミサ…

  9. ランジェ公爵夫人

    2006 フランス イタリア 洋画 ドラマ 文芸・史劇
    作品のイメージ:切ない、おしゃれ
    出演:ジャンヌ・バリバール、ギョーム・ドパルデュー、ビュル・オジエ、ミシェル・ピコリ
    「恋の駆け引き」なんて言うと、なんとなくシェークスピアを連想してしまうが、本作はバルザ…




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