54●悲しみが乾くまで
喪失と孤独と再生。
デンマークの俊英、スザンネ・ビア監督の描く世界というものは、テーマが常に重く、カメラはひしと対象物に迫り来るようで、画面いっぱいに映し出されたリアリズムに、時に息苦しさすら感じるかのような肉迫の仕方をする。
ストーリーは、常に簡単にうまくいく物事や、単純に割り切れる世界では決してなく、
物事ありのままの進み具合や、人の気持ちのズレというものが、否応なく映し出されるため、この重苦しい世界観を、中には苦手に感じ、
身を入れて見ることの出来ない人も中には居るかもしれない、と自分は予想する。
私はと言えば、時に、映画に単なる娯楽以上のものを求めてしまう傾向があって、
人生そのものすら感じさせるような物語に、自分は全身全霊をかけて没頭してしまう。
人は、いつも自分の人生をふり返ってみたり、その生き方について常日ごろ、真剣に考えたりするもの生き物ではない、それは分かる。
「映画は娯楽」・・・、そういう点もあるかと思う。
だけど、キム・ギドクや、このスザンネ・ビアのような監督の作品に出会えて、本気で人生について考えを廻らしてみるということは、
実は一番、今の自分にとって大切なことのような気がする。それだけの威力を持っている。
順風満帆な人生なら、悩むこともないだろう。
楽しいことだけ考えていたい、そういう気持ちは誰しも理解の出来ること。
だけど、自分が抱えきれないほどの悲しみが訪れたら、とうてい自分の手に負えない、手に余る余程の大事件がもし起こったら。
大きすぎる喪失というものに、呆然自失になってしまうような物事に出会ってしまったら。
そうした時に初めて、キム・ギドクや、
喪失と再生の物語、スザンネ・ビア監督の作品に手をつけてみるといいのではないかと思う。
うん、それからでも決して遅くはない。
(この作品ではなく、デンマーク時代の作品を見てネ。)
ストーリー・・・
オードリー(ハル・ベリー)は、夫と二人の子供たちに囲まれ、平凡だが幸せな日々を送っていた。しかし、事件に巻き込まれた夫ブライアン(デヴィッド・ドゥカヴニー)が射殺される。愛する人を失った悲しみから立ち直れなかったオードリーは、夫の幼馴染みで親友のジェリー(ベニチオ・デル・トロ)を思い出す。彼は弁護士だったが、今はドラッグで堕落していた。オードリーはそんな彼を好きではなかったが、自分と同じように夫を深く理解し、愛していてくれたことを知り、親近感を持ち始める。オードリーは、それぞれが立ち直るため、共同生活をしようと提案する。
ただ、この物語。
去年見た『アフター・ウェディング』(’06)と『ある愛の風景』(’04)がことのほか素晴らしくて(『しあわせな孤独』(’02)は自分的にはイマイチでした)、
それと比べてしまうと、ちょっと見劣りする感じはある。
とは言え、タッチはまるでこれまでのスザンネ・ビア作品と同じで、テーマも似通ったものになっている。
サム・メンデスを製作に向かえ、デンマークのスザンネ・ビア監督が初めて挑んだ英語作品。
脚本こそ別の人が書いているにしろ、これまでの作品とそれほど変わりはなく、
むしろ『チョコレート』(’01年、マーク・フォースター監督作品)のハル・ベリーを主役に置き、デル・トロなんていう映画好きが泣いて喜ぶ俳優さんまで引っ張り出して来て、見ごたえある演技として決して申し分はない。
どことなく今までの作品より見劣りしてしまうし、テーマの掘り下げも少し、この監督にしては、軽いような気がしてしまった。
それにつけても、デル・トロのカッコよさ、これは久しぶりに堪能できて、満足満足。
いやあ、『パンズ・ラビリンス』の頃、「デル・トロ監督」なんて呼ぶ人が居て、「違ェよ、デル・トロと言えばベニチオでしょうが!」と言いたかったけど、(いや言えなかったんだけど←小心者)
やっぱりデル・トロと言えばベニチオだよね〜。
昔、「メキシコのブラピ」なんて呼ばれていて、照れていたインタビューを呼んだけど、
いやいや、これからもそのセクシーさで頼みますよ!
2008/04/09 | :ヒューマンドラマ
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コメント(23件)
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こんばんはとらねこさん。
私も観てきました。この監督の作品はやはり気になって・・・。それにしてもベニチオ・デル・トロとハル・ベリーの組み合わせなんて、セクシーなシーンがあるのでは?と期待したけど、その部分を抑え気味にして、内面の苦悩をこの監督ならではのアップで表現していて・・・とくに「目」のアップが効果的でした。でも、ベニチオの「薬」から立ち直る苦悩の演技は素晴らしく、「21グラム」のときと同じくらい満足しました。ハル・ベリーもボンドガールのセクシーさを持ちながら「チョコレート」やこの作品みたいのも上手く演じられるのですね。
cinema_さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
ベニチオ・デル・トロの目の演技、おっしゃるようにすごく印象的でした。
なんだかいつもより、すごくカッコ良く思えちゃいました。
普段から絵になるんですけど、こういうちょっとダメ風な男の役がまた似合っちゃってますね〜!
ハル・ベリーも、ここ最近はヒットがないだけに、こういう演技派の役もやらないと勿体ないですよね〜♪せっかくのアカデミー女優ですし!
『チョコレート』はこないだ、ヒース繋がりでまた再見してみたんですが、やっぱりこの作品はすごく良かったです!
真・映画日記『悲しみが乾くまで』
JUGEMテーマ:映画
3月30日(日)◆760日目◆
マンガ喫茶で少し休み、
午前8時に帰宅。
午後1時過ぎまで寝る。
しばらくだらだらして、
2時20分に外出。
3時40分に銀座に着き、
「シネカノン有楽町1丁目」へ。
『悲しみが乾くまで』を見る。
いやあ、…
悲しみが乾くまで〜サブプライムな2人
公式サイト。原題Things We Lost in the Fire(私たちが火事で失ったもの)。スサンネ・ビア監督、ハル・ベリー、ベニチオ・デルトロ。舞台がシアトルの住宅街だけで2時間の作品。一見、焦点が定まらないように見えるが、2人の葛藤が濃密な時間の中で流れている。
とらねこさん、こんばんは♪ 「とらねこさんは絶対この作品をご覧になるだろうなぁ」と勝手に思っていたので、レビューを拝読できて嬉しい今です★
>時に、映画に単なる娯楽以上のものを
>求めてしまう傾向があって
同感です。娯楽としての映画も素晴らしいのですが、ときには、生き方や心情を正面からぶつけてくる作品と出逢うのも尊いものですよね。
今作、私も今までのビア監督の作品に比べると、ちょっと「うーん」という感じでした。ビア監督のメガフォンでなかったら、絶賛してたかもしれませんが、彼女の作風が好きなあまり、厳しい目で観てしまいました。アメリカ進出は喜ばしいですが、もっとリアルで容赦のなかったビア監督の世界観を、今後の作品でまた観たいです。
デンマーク時代の作品を見慣れていた目には「ハル・ベリーとデル・トロ! 豪華すぎて違和感……!」と、失礼にも贅沢に映ってしまいました(^^;)
香ん乃さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます!
最近香ん乃さん、お忙しいのでしょうか?TBをおやめになってしまったのですね。
>映画に娯楽以上のものを求めてしまう
共感していただき嬉しいです☆そうなんですよ〜、オバカ映画も好きですし、スカッとするのも楽しいんですが、自分と向き合うための映画、それぐらい身を入れて見れる映画に出会えると、この上ない幸せを感じてしまいます!
そうなんですよね、「ビア監督としては」と考えてしまうと、物足りないものがありました・・
ケナす気もないですが、褒める気もないかもw
この作品も観てきましたー。
僕もスサンネ・ビア監督作品には惹かれてしまいますね。
彼女の描く日常的な風景や心情が好きです。
なんて言うのかな…メロドラマになりがちなテーマを、もうひとつ上の世界観で上手に描いてるというか。
今作でのベニチオ・デル・トロの演技、素晴らしかったですよね!
表情ひとつだけで、あれだけの感情が伝わってくるなんて。
僕もデル・トロと言えば、ベニチオ派です♪笑
あ!キム・ギドク監督の『ブレス』も楽しみですよね☆←僕も彼の作品は観ずにはいられないんです。
Elijahさんへ←こちらに設定させていただきました〜♪
こちらにもありがとうございます♪
『魔法にかけられて』を見て以来、「王子」とみんなに呼ばれているElijahさんを思うと、
すっかり私の頭の中では、王冠をかぶって、袖口がバルーンな「王子服」を着ているElijahさんを考えてしまいます。
そんな訳で、Elijahさんの絵文字は、
>メロドラマになりがちなテーマを、もうひとつ上の世界観で上手に描いてる
分かります!私も、まさしくそう思います。
映画をケナす時に、「メロドラマ」と言う人がいますが、私はメロドラマの中に、日常の重大なテーマがこめられている、と思うんです。
描き方次第ではありますが、人の人生にいろいろな物事が起きるというのを、メロドラマと言って馬鹿にすることはないんじゃないかと思うんですよ。
Elijahさんもデル・トロ好きですか♪
キム・ギドクもお好きなんて嬉しいです〜★
悲しみが乾くまで 2008-18
「悲しみが乾くまで」を観てきました〜♪
オードリー(ハル・ベリー)は、夫のブライアン(デヴィット・ドゥカウヴニー)と二人の子供に囲まれ、幸せな生活を送っていた。しかし、或る日ブライアンが事件に巻き込まれ射殺されてしまう。悲しみのどん底の突き落とされたオ…
アフター・フューネラル〜『悲しみが乾くまで』
THINGS WE LOST IN THE FIRE
やさしい夫とかわいい二人の子どもに恵まれ、何不自由ない生活を送る美しい
主婦オードリー(ハル・ベリー)。…
とらねこさま、こんにちは〜。
ここに来る前に、『魔法に〜』二度目鑑賞記事に頷いておりました。
わかるわかる、その恋愛観!と・・・。
で、スサンネ・ビアですけれども。。
私は『ある愛の風景』にガッツーーーーンンとやられたんですが、この映画似てるなぁと思いながら観ていました。
デル・トロさんは本当に素敵でしたね。メキシコのブラピ?知らなかった〜。
ガエルくんも「ラテンのブラピ」って言われていたような・・・。
『しあわせな孤独』にも涙した私でした。
ではでは、また来ます〜。
真紅さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
『魔法にかけられて』感想の恋愛観に、共感していただけて、とっても嬉しいです。
そうですね、『ある愛の風景』に、ある意味似ていましたよね。
おっしゃる通り、ガエル君も、同じ言い方されたことがありましたね。
ただ、デル・トロの方がもっと前ですけど。
でも、「ポスト・ジョニー・デップ」と同じような言い方で、よく使われる表現なのかもしれませんね。
悲しみが乾くまで/ハル・ベリー
「アフターウェディング」を監督したデンマークの俊英、スサンネ・ビア監督作品です。といっても「アフターウェディング」は迷ったあげく、行きつけてない劇場での公開だったこともあって観てないんです。後々に評判が良かったのを知って後悔しました。という事で今度は後悔….
この映画が見劣りするんですか?いろいろと感慨深いものがあったので、その言葉にプチショックを受けましたが『アフター・ウェディング』はよっぽどスゴイんだという風に思うことにします。やっぱり観に行けばよかったナァ。
かのんさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
かのんさんはこの映画がすごく心に沁みてしまわれたのですね!
でもそうお聞きすると、なんだか嬉しく思ってしまいます。
そうなんですよ、かのんさん、『アフター・ウェディング』と『ある愛の風景』は、ビア監督が脚本も担当していて、
一方この作品と『しあわせな孤独』は脚本は書いていないんですが・・
この違いが大きいように自分には思います。
とらねこさん、こんばんは!
今更のレスというかなんというか、でなんなんのですが、
>TBをおやめになってしまったのですね。
いえいえ、そんなことないんですよ。ご訪問いただいたときに使っていたテンプレが、たまたま、トラバに対応していないものだったようなんです。
私はまったくそれに気づいていなくて、ご訪問者のかたに「トラバできないんだけど」と言われて気づき、慌てて別のテンプレに変えました。
なので、トラバは大歓迎のまま微妙に復活しておりますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。今作と関係ないコメントをお返事を今更で、失礼致しました。
香ん乃さんへ
こちらにもコメントありがとうございます〜♪
TBは一時期だけだったのですね。しかも、新しいテンプレのせい・・そうだったのですか。
香ん乃さんは、他にもたくさんPCを使ってしなければいけないことがありますもんね♪
何もブログに固執せず、幅広くいろいろな方面に手を伸ばしていらっしゃって、とても興味深いです。
お忙しい時に、遊びに来てくださり、ありがとうございました。
香ん乃さんの活躍を、遠くから祈っております。
悲しみが乾くまで
夫が死んだ。私には彼が必要だった。愛する者を失った二人が、互いに寄り添った奇跡の時間。失うことと、生きること。悲しみを乗り越えようとする男と女。
物語:オードリーは、夫のブライアンと二人の子供たちに囲まれ、平凡だが幸せな日々を送っていた。
だが、悲劇は…
「悲しみが乾くまで」
スサンネ・ビア監督の映画、この1週間で3本目^^ベネチオ・デル・トロの演技が圧巻でした!
悲しみが乾くまで
『そう、きっとあなたを利用した。 夫を亡くした女は、夫の親友と暮らし始めた。』
コチラの「悲しみが乾くまで」は、「アフター・ウェディング」で、2007年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデンマークの俊英スサンネ・ビア監督がハリウッド進出を果た….
メキシコのブラピことデル・トロさんの演技を堪能しました。
ギドク監督は好きなのですが、どうもビア監督はあまり
肌に合わないかなぁ〜と思っていたのですが、
デル・トロさんのおかげで少し克服できました。
miyuさんへ★
おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
>メキシコのブラピ
アハ♪どっかの雑誌でこう言ってたんですよー。
デル・トロ自身「俺はミッキーマウスみたいだ」って言ってました。“人気が出て来た状況”を示しているんだと思うのですが、その時自分は「いくら何でもミッキーマウスはないだろう」と思いました(笑)
ビア監督とギドク監督はテイストが違うと思うのですが、どこか共通点がおありかと思われますでしょうか?
悲しみが乾くまで
WOWOWで鑑賞―【story】夫のブライアン(デヴィッド・ドゥカヴニー)と2人の子どもに囲まれ、幸せな日々を送っていたオードリー(ハル・ベリー)。しかし、ブライアンが事件に巻き込まれて死亡。その葬儀の日、オードリーは夫の親友ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)と再会す…