43●ノーカントリー
アカデミー賞の作品賞&監督賞を取った作品というのは、やっぱり要注目になるのだけれど、
その発表が終わってすぐの公開、という、まるで結果を分かっていたかのような印象。
批評家の評価もこぞって高かったというこの作品。私もすっごく楽しみにしていた。
ストーリー・・・
メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、死体の山に出くわしたルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は、大量のヘロインと現金200万ドルが残されているのを見つける。危険を承知で大金を奪ったモスに、すぐさま追っ手がかかる。必死の逃亡を図るモスを確実に追い詰めて行くのは非情の殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)。そしてもう一人、厄介な事件に巻き込まれたモスを救うべく老保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が追跡を始めるのだった。・・・
アカデミー最多ノミネート8部門、受賞も最多の、4部門。
原作は、「血と暴力の国」、コーマック・マッカーシー(ピューリッツァー賞受賞作家だそう)。
前述の作品賞&監督賞、それから助演男優賞のハビエル・バルデムと、脚色賞を受賞している。
ハビエル・バルデムは、『夜になるまえに』でもアカデミー賞主演男優賞をノミネートされているし、『海を飛ぶ夢』でもヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。
ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン、コーエン兄弟と来れば、映画好きなら誰しも避けては通れない道だったりするのだけれど、
私としては実は『ファーゴ』以降はそれほど好きな作品は見つからなくて。
でも、『ファーゴ』があれほど好きだったので、出るたびに期待せずにはいられなかったりもして・・・。
ああ、『ファーゴ』面白かったなあ、またあの作品に肉薄するほどのデッカイのが、ガツンと欲しいな〜と思っていたところ、来ましたよ、来ましたよ!
これはさすがに面白かったなあ〜。待った甲斐があったってモンです。
『ファーゴ』というよりこれ、実は彼らのデビュー作、『ブラッド・シンプル』を思い出す作り。
『ファーゴ』にはさすがに適わないけれど、『ブラッド・シンプル』に立ち返った!という気がして、大満足だったのでした。
少しもダレずに一気に見ることが出来る。そして、そこに何か不気味なテーマ性が潜んでいるように感じるのは一体どうしてなのか・・・。
コーエン兄弟が一体どんなマジックを使っているのか、正直私なんかじゃ検討がつかない。描かれ方はシンプルそのものなのに、とにかく面白い。
ところが最後に行くに従って、ゾっとしてしまう結末へと向かってゆく。そして初めて、それほどシンプルな物語でなかったことに気がつくという。
その頃にはもう遅くて、ただアメリカの良心がどこかで捻じ曲がり、拳銃を所持していなかったテキサスの保安官のその気持ちが、暗澹たる闇の深さへと沈み込んでいるのと同様に、見ている我々も一緒に暗闇を経験するのだった。
どっかで何かが間違ってしまって、その道を軌道修正することは出来ず、悪の横行を止めることが出来ない。
自分のルールで動き、その信念に基づいて行動を続けていた、圧倒的存在感のアントン・シガー(ハビエル・バルデム)。
彼の運命を変えたきっかけになったのは、では何だったか?
あくまでもCall(賭け)をしなかったモスの奥さん(ケリー・マクドナルド)の姿が印象的だ。
ラスト、終わり方があまりに尻切れトンボでブチっと終わる。
予想していなかった瞬間で終わるのだった。
このせいで、なんだかんだと文句が出るかもしれない。
ただ私に言えることは、ハリウッド的に、帳尻合わせ的な終わり方をするよりは、退屈を感じないで済む方がずっとありがたい、ってことかな。
でもね、このブチっと切れた終わり方。
物語というより、今の自分たちの現実生活に繋がっているような、そんな感じもあって。
まるで、議論をしている最中に、途中で急に言う言葉を失くしたかのように、途中で終わる物語。
この話は終わっていない、自分たちの社会に本来あるべき何かについての話だから、とも思える。
2008/03/20 | :サスペンス・ミステリ
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コメント(76件)
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正義が死んだ国
94「ノーカントリー」(アメリカ)
アメリカ、テキサス州、メキシコ国境に近い砂漠。狩に来ていたルウェリン・モスは偶然死体の山に囲まれたピックアップ・トラックを発見する。そしてその現場の近くで200万ドル近い金を発見し、危険を承知で持ち帰ってしまう。しか…
【劇場映画】 ノーカントリー
≪ストーリー≫
メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、死体の山に出くわしたルウェリン・モスは、大量のヘロインと現金200万ドルが残されているのを見つける。危険を承知で大金を奪ったモスに、すぐさま追っ手がかかる。必死の逃亡を図るモスを確実に追い詰めて…
『ノーカントリー』
アカデミー賞4部門受賞の話題作をやっと鑑賞ー。とにかくハビエル・バルデムのイッちゃった演技は強烈でした。
テキサスの砂漠で狩りをしていたモスは、銃撃戦が行われたと思われる現場を発見。複数の死体が転がる現場には大量のヘロインを積んだトラックがあり、近くから…
ノーカントリー
【NO COUNTRY FOR OLD MEN】R-152008/03/15公開(05/03鑑賞)製作国:アメリカ監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン製作:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、スコット・ルーディン原作:コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』(扶桑社刊)出演…
『ノーカントリー 』を観たぞ??!
世の中は計算違いで回る。ハンニバル・レクター以来の映画史上最悪の死の運び屋殺し屋アントン・シガーが映画の冒頭からその威力を発揮しておりました。おかし
ノーカントリー
コメディが続いていたコーエン兄弟が「ブラットシンプル」タッチの犯罪スリラーに再び取り組みました。
久しくご無沙汰しています。
忘れた頃にやってくる健太郎でございます。
5月6月7月とblogをほったらかしにしていましたが、今更ながらに上半期の決算です。
>『ノーカントリー』
殺し屋が冷徹すぎて、「あんたそれで商売に何の?」と終始疑問でした。
そのせいか作中のトミー・リー・ジョーンズの如く理解不能でした。
コーウェン兄弟監督は好きなのですが、これはどうもダメでした。
また宜しくお願いします。
『ノーカントリー』 2008年36本目
『ノーカントリー』 2008年36本目 5/5(月) 仙台フォーラム
コーエン兄弟監督の新作。やっと仙台でも公開されました。
アカデミー賞4部門受賞(最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀助演男優賞、最優秀脚色賞)の作品。
コーエン兄弟の作品は好きなんです。
『ファ….
健太郎さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おお、そんなに長い間、ほうって置いたんですね、ブログ。
ただ、今の状態だと、私も人の事は言えないです・・。最近は。
確かに、殺し屋のアントンが、無慈悲というより、機械、怪物的で、
全く計算もしていないように思えましたよね。大味な犯罪、というか。
リアリティはまるでないんですよね。
私も、この描き方は、今どき、それほど衝撃とは言えないんじゃないのか?とも思いました。
ただ、人間性を描こうともしていない作品だなあ、とは思いました。
純粋な悪でしたね。
こんにちは。また来ました。
コメント&TBありがとうございました。
「理解出来る、出来ない」と「映画の良さ」は別物ですが、殺し屋の冷酷さがあまりのもあまりにもだったのでどうにもなりませんでした。
今までのコーウェン兄弟監督作品のブラックなユーモアがなかったせいでしょうか?
ちと残念です。
健太郎さんへ★
こちらこそ、TBとコメント、ありがとうございます。
そうですね、この作品は、良さが理解出来なくても仕方がないかな、と思います。
そういう映画でしたよね。
でも私、今思い出してもやっぱり好きです(笑)
ノーカントリー
2008年,アカデミー賞受賞作品。DVD[E:cd] リリースを待ちかねての鑑賞。 単純に「感動した」とは言いがたい。しかしさすがに,途方もないパワーを持った,超ヘビー級の作品だった。 あらすじ: 狩りをしていたモス(ジョシュ・ブローリン)は、死体の山に囲まれた大量の…
こんにちは!毎日暑いですね。
今年ほど秋の到来が待たれる年はありませんわ。
で,この作品ですが,私もコーエン兄弟のファーゴは大好きで・・・
これを観た後,久々にファーゴを見直して
やっぱり傑作だな〜(ファーゴが)と・・・。
これも,面白い・・・というか凄い作品で
お腹いっぱいになりましたね。
シガーのキャラの圧倒的な怖さとか,恐怖心をあおる見せ方とか・・・素晴らしかったです。
ラストは煙に巻かれた感じでしたが
勧善懲悪なんかで嘘っぽく終わるよりよっぽどいいですね。
ななさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
本当、毎日暑いですね〜。日本はどんどん、亜熱帯気候らしくなっていきますね。
『ファーゴ』、私も当時からずっと好きな映画です。
自分のフェイバリット映画の、TOP20には絶対入るかなあ。
私は、こちらの作品も、すっごく好きだったんですよ。
すごく怖かったんですが、面白く見れました。
ラストも良かったですね♪
「ノーカントリー」
「ファーゴ」(1996年)や「未来は今」(94年)などの作品で知られる米国のジョエル&イーサン・コーエン兄弟が2007年にコーマック・マッカシーの小説「血と暴力の国」を映画化したクライム・サスペンス「ノーカントリー」(原題=No Country For Old Men、米、1…
No.125 ノーカントリー
本年度のアカデミー作品賞に選ばれているので、これは
観ておかないと・・・意気込んで観賞を終えた結果、
何が言いたいのだろう、何を主張したいのだろう・・・と
混乱状態になってしまった。
TB有難うございました。
何度もあのラストシーンはどんな意味が
あるんだろうとかこの物語の本当に
伝えたかったことはなんだろうと
理解できず苦しみました
アカデミー賞作品賞だったので期待したのですが
自分には合いませんでした。
シムウナさんへ
こんばんは〜♪はじめまして!
こちらこそ、TBありがとうございました。
そうでしたか、ラストの辺り、難しかったですか。
結構コーエン兄弟は、もちょっと分かりやすいものを撮っているような時でも、飄々としたブラックさを持っている、とは言えますかね・・。
この作品が合わない人、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』が合わない人は、中にはいるでしょうね。
自分は好きですが、そういう人が居ても仕方ない作品だったように思います。
ノーカントリー
第80回アカデミー賞、
作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞をとりました。
コーエン兄弟の作品はあまり好きではないのですが、
「海を飛ぶ夢
」が素晴らしかった、ハビエル・バルデムが
助演男優賞を取ったということで観ようと
いや、観なくてはと思いました。f(^^…
『ノーカントリー』’07・米
あらすじ狩りをしていたルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)に追われることになる。事態を察知した保安官ベ…
おいっチュv とらねこタン!
いやーコレ驚嘆せしめられたよね!
まっさか、世界を覆いつくす不条理という名のアイツ。
アイツが8:2分け!しっかもビッチシ!とはね!びっくりだよねー。
たまーに助かるその確立は2かー。そっかー!と活目しました。
白鬚は最後の宇宙人ジョーンズの奥さんとの夢会議を
それでも浸水した水をかき出せ!倒れるときは前めり!
というまさしく親父の蜘蛛の糸な光明的暗示に思ったけど。
とらねこタンはどう思った?
不条理にだってアクシデントは起こるんだから、
この世に確実なんてないんだよねー。世界経済とか(号泣)
白鬚タン
ばんは〜♪オイっちゅ、オイっちゅ〜
どうだった、白鬚タン、結構面白かったでしょ?^^
私ね、これはすごく面白かったー!
ま、グロいのが嫌いな人にはダメかと思うんだケド。
アハ、あの人のあの髪型。。もう、爆笑してしまった!8:2分けかあ・・・え゛、助かる確率と同じとな?:後ろ2割★
宇宙人ジョーンズ、もしくはボスのCMで耳から湯気噴いてるアイツ♪
うん、あの夢は、出来るだけのコトをするしか私たちにはするべき道はないと。私もやっぱりそういう風に受け取ったよ!(さすが、白鬚タンー★)
うん、“不条理にすら、アクシデントが起こる”。
やはりあの扉の出口で終わるのは、自分らの世界に繋がっているという扉だったのかなあと。
世界経済、まさかこうなるとはね、ってヤツだね。
自分の話なんだけど、9月の時点で、旅行を決める時に友人にこう言ったんだよ。
「今年の燃料サーチャージの高さは、今年末まで待てば、状況がもう少し変わるはずだ。だから、来年になってからにした方が自分はいいと思う」って。
いや、マジで。だけど、この時期にしか休めないから、ってんで、涙を呑んで、あのバカッ高い時期に(今思えばサイアクだよー!)行っちゃったんだ。
そんな私もバカを見た一人・・・ぐっすん
映画としてのこの作品の面白さや楽しむポイントが分からなかったので、とらねこさんの所にくれば分かるかなと・・・(笑)
“コーエン兄弟の作品の魅力が分かる人には分かる”って事なのかな?と記事を読みながら思ってみたのですが、とらねこさんと皆さんのコメントのやりとりを拝見している内になんとなく理由が分かってきました。
哀生龍が期待していたもの・求めていたもの・こんなことが描かれているのかなと想像していたものと、実際に描かれていたものが全く噛み合っていなかったようです。
そして、噛み合っていなかったと言うことに、とらねこさんの所に来るまで哀生龍自身が気付いたいなかったと言うことで・・・(大汗)
哀生龍さんへ★
おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
>楽しむべきポイントが分からなかった
>哀生龍が期待していたもの・求めていたもの・こんなことが描かれているのかなと想像していたものと、実際に描かれていたものが全く噛み合っていなかったようで
んー。哀生龍さんの記事を読む限り、私自身は共感するところがたくさんあって、
えっ?なんて思ってしまったんですが‥。
ノーカントリー
NO COUNTRY FOR OLD MEN
2007年:アメリカ
原作:コーマック・マッカーシー
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン、ウディ・ハレルソン、ハビエル・バルデム、ケリー・マクドナルド、バリー・コービン….
ノーカントリー
2008年3月上映 監督:コーエン兄弟 主演:トミー・リー・ジョーンズ 純粋な悪…