32●君のためなら千回でも
『チョコレート』、『ネバーランド』、そして今度『007』の新作を撮る、マーク・フォースター監督作品。
原作は、同名タイトルの小説が大ベストセラーになった、新人作家、カーレド・ホッセイニ。’07年、アメリカ。
ストーリー・・・
信頼と絆で結ばれていたアミール(ゼキリア・エブラヒミ)とハッサン(アフマド・ハーン・マフィードザダ)。しかし、アミールの過ちが2人の運命を引き裂いてしまう。その後、ソ連侵攻によりハッサンを残し、アミールはアメリカへ亡命。強い後悔を残しながら・・・。20年の平穏な生活をアメリカで送るアミールの元へ、かつての恩人、ラヒム・ハーン(ショーン・トーブ)からの電話が鳴る。“もう一度やり直す道がある。”過去を取り戻すため、ハッサンのために大人になったアミール(ハリド・アブダラ)は再び故郷へと旅立つ。しかし、そこに待ち受けていたのは、思いもかけない衝撃の真実だった。・・・
少年時代を描いた話というと、それだけで十分に見たくなるポイントになる。
大好きだった友達の話を描いた、少年同士の友情。子供らしい精神的な強さを持つ子もいれば、勇敢ではまだない子供。
特に、友達と一緒に大人になっていく、というのがまたいいのだ。
後に作家になった子供と、その回想話というと、自分には『スタンド・バイ・ミー』をどうしても思い出してしまう。
木で作ったパチンコ玉で、嫌な上級生に向かっていく・・・あ、これは自分の好みだなあ、と思いながら、自然にその世界へ入りこんでしまった。
この作品では、アフガニスタンの少年時代の情景、これが本当に素晴らしくて、目を奪われる。
人種の入り混じる文化にあって、アフガンの人達の持つ、等身大な人種間の差別等が、赤裸々に描かれていることにも、目を見張る。
使用人と主人のある種奇妙な関係、そこにある思い、というものが面白い。
主人と使用人と関係であるために、普通の子供同士のまっすぐな友情を本来は持つのが難しい、主人の子であるアミールと、使用人の子であるハッサン。
彼らの場合は、ハッサンが素晴らしい性格で、アミールを優に超えている能力を持つために、逆にその友情が、成り立つものとなっていたようだ。
彼らの父親、アミールの父親、ババ(ホマヌーン・エルシャディ)と、ハッサンの父親である、使用人アリとの関係も、ちょうど同じで面白く見れる。
そして、父親の、使用人へ寄せる、絶大の信頼感がなんだか嬉しい。人種は違うアフガン人とハラブ人である交流であるかもしれないが、それは一般的な主従関係ではない。(後で別の事実が分かるのだけれど)
だからこそ、“あの事件”が起ったときに、アリは決然と出て行くことを決め、それを止めるのは、主人であるババの方だったのだ。
だけど、自分には、本当はアリは分かっていたのだと思う。
ハッサンがそうしたことをするわけはなく、だからこそ、何も息子の話を聞かずとも、事実を分かっていたに違いない。そういう場所で働く気にはなれないからこそ、出て行ったのだと私は思う。
出て行くな、と止めるババに対して、この時に返すアリの台詞が好きだ。
「私はもう、あなたの使用人ではない。だから、あなたに指図される立場ではない」
なんて誇り高い人種なのだろう、と胸がせいせいする思いだった。
物語としては、前後するけれども、この少し前に、とてもショッキングな出来事が起る。
アミールとハッサンをバラバラにしてしまうような、少年にとってはキツイ出来事が。
だけど私には、その時とったアミールの卑劣さというもの、それらが心に引っかかって、以来クライマックスを迎えても、ずっと忘れられずにいた。
ネタバレをそこまでしてしまうのには抵抗を感じるので、もうこれ以上言うのはやめたいけれど、簡単に言うと、アミールの行動。
最初からずっと、ハッサンに守られるかたちで居たアミールだけれど、結局ハッサンの危機に、彼を助けるような行動がどうしても取れない。
ハッサンは、アミールのためにそこまでしたのに・・・。
それはそれとしても、その後の行動も、アミールは、酷すぎる。
ハッサンを陥れるため肝計を練って、彼らが使用人としての居場所を失くしてしまったのだ。
子供のクセに、なんて卑怯なやつ!というのは、アミールより、むしろ、イジメっ子の上級生の方かもしれない。
だけど、この物語の主人公も、負けず劣らずヒドイ。
『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部、ジョナサン・ジョースターとディオの関係が、ここではまさか逆だと思わなかったね。
この先、ネタバレです。鑑賞予定のある人は、読まないで下さい::::::::::
感動ものを期待して、見に行った人は、このアミールの酷さを許せるのかな?
少なくても、私は、完全にこの主人公が、嫌いになった瞬間があり、それは、ハッサンに対する少年の頃にしたこと。
ハッサンに盗みの濡れ衣を着せるところは、本当に許せなかった。
そのため、その後大人になってから取る行動に対しても、「あのアミールは、一体いつ成長したの?」なんて思ってしまい。ニューヨークで育って、すぐに結婚するほど、一人前になったわけ?なんて思ってしまって。
・・・ハッサンに対して、後悔しているとか、そういう描写があれば別だったかもしれないけれど、特にそういったシーンは映画では見つけることが出来なかったし。原作ではあるのかもしれないけれど。・・・
ソーラブのために命をかけて、原理主義のアジトに向かうけれど、その辺りのアミールの強い決心や、心の動きというものがあまり明確に感じられなかった。
アミールがソーラブに向けていう、「君のために千回でも!」の台詞が、薄っぺらく聞こえること、聞こえること・・・。
主人公の心がそれほど強くない、というのは仕方がないかもしれないけれど、卑怯者というのでは、私は少しも感動は出来ないかも。
ハッサンがあまりにもかわいそうで、逆に泣けてしまった。
そもそも、このアミールが原作者なのよね、なんて考えたら、ひねくれて考え始めてしまって、止まらなくなった。どこからどこまでがフィクションで、どこまでが事実なんだろう、なんて。
原作者の体験を元にした話というのは、どこかできっと自分を美化しているに違いない、なんて考えてしまったのがいけなかったかな。
2008/03/03 | :ヒューマンドラマ
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コメント(20件)
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映画「君のためなら千回でも」
原題:The Kite Runner
なるほど最後まで見たときに、これは満足度1位でもいいのかな・・原作は全世界で800万部以上の小説、ドキュメンタリー的過去の過ちを悔い改める映画・・
小説家となったアミール(ハリド・アブダラ)のもとに一通の手紙が届く、時は遡り、1…
君のためなら千回でも
『この誓いは今、 君に届くだろうか。』
コチラの「君のためなら千回でも」は、全世界で800万部を超える大ベストセラーである同名小説を映画化した2/9公開となった感動ヒューマン・ドラマなのですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪
監督は、「ステイ」、「主人公は僕….
君のためなら千回でも
マーク・フォスター監督作品という理由だけで見てみましたこの作品。絶賛の声も多数聞こえるだけあって確かにいい映画ではありましたが、マーク・フォスター作品として見るとやはり諸手を挙げて評価できるほどの映画ではありませんでした。
ご存知の通り、マーク・フォス….
【2008-46】君のためなら千回でも(The Kite Runner)
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この誓いは今、君に届くだろうか
『君のためなら千回でも』
□作品オフィシャルサイト 「君のためなら千回でも」□監督 マーク・フォースター □原作 カーレド・ホッセイニ □脚本 デヴィッド・ベニオフ □キャスト ハリド・アブダラ、ゼキリア・イブラヒミ、アーマド・カーン・マーミジャダ、ホマユーン・エルシャディ、ショーン…
君のためなら千回でも
2月23日(土) 20:05?? 109シネマズ川崎4 料金:1200円(レイトショー料金) パンフ:600円 『君のためなら千回でも』公式サイト アフガニスタン人の話。 ソ連侵攻の少し前からタリバン時代までの20年間くらいの話。 原題は、’Kyte Runner’なんと凧ランナーだ。何…
君のためなら千回でも
英語タイトル:The Kite Runner、カーレド・ホッセイニ原作、マーク・フォースター監督。ソ連侵攻1年前の1978年のアフガニスタン・カブールから米同時多発テロ前年の2000年のカリフォルニアまでの物語。従ってそれ以後の更なる激動は当然なく、今となっては物足りない気がしな…
君のためなら千回でも
この誓いは今、君に届くだろうか―
『チョコレート』『主人公は僕だった』のマーク・フォースター監督が、兄弟のように育った少年2人の心の傷と許しを描くヒューマンドラマ。
原作 カーレド・ホッセイニ 『君のためなら千回でも』(旧題『カイト・ランナー』)
監督 マーク…
こんばんは コチラにもコメントさせてもたいますね!
私は主人公アミールはハッキリいって好きにはなれませんでした。
アミールの成長を見守る大人たち、そして誠意をもってアミールに接するハッサンに比べアミールは魅力があまりにもなさ過ぎました。
しかもハッサンの息子を助けるのも、ある事実を知らなければ動かなかった感じで、それで友情といえるの?という感じですよね。
息子を救うだけでなく例の木の所ででもハッサンに対する謝罪の言葉が欲しかったなと思います。
●君のためなら千回でも(The Kite Runner)
日本人にとって縁遠い世界中近東の世界の物語で、タリバンも出てきて子供を連れ去るといった内容もあるということで、男尊女卑で残忍さをも??.
コブタさんへ
こちらにもありがとうございます♪
コブタさん、いろいろと気が合って、なんだかとっても嬉しいです!
私も、アミールの周りの人はともかく、アミールその人が全く好きになれませんでした。
少年時代にもアミールは、それまでいつもハッサンに助けてもらっていたにも関わらず、
目の前で行われるハッサンの本当の危機に、何もせず黙って見過ごしましたね。
それだけでなく、それが理由で疎ましく思い、さらにウソまでついて、盗みの罪までかぶせた。ハッサンは、まっすぐ歩くことすら出来ず、具合が悪くて寝込んでいたのに、心配すらせず、挙句の果てがそれですよ。
NYに行って育って、その後電話があって、人に言われなかったら、思い出しもしなかったでしょうか?
少年時代の描写が好きになれないにしろ、それでも、最後で取り戻してくれれば文句を言いはしなかったですが、このクライマックス部分が一番下手くそで、マイナスの上塗りをしてしまいました。クライマックスのアルカイダに行く部分は、正直ホコロビだらけで、イマイチすぎました。
君のためなら千回でも
人はなぜ、大切なものが見えなくなるのか?・・・人はなぜ、時が経たないとそのことに気づかないのか?・・・失ってからしか、その重みは量ることができない。
今だからこそ、君に伝えたいことがある。
まだ平和だったアフガニスタン。少年時代のアミールとハッサンは強….
アメリカ映画「君のためなら千回でも」を観た!
「君のためなら千回でも」という映画を観ました。何度か予告編を観ていたことと、アフガニスタンが描かれているというので、興味が湧いたというわけです。がしかし、う??ん、見終わってみるとやっぱり、かなりご都合主義でなおかつハッピーエンドの「アメリカ映画」でし
君のためなら千回でも:The Kite Runner
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3月7日、京都シネマにて鑑賞。2003年、その衝撃が世界中…
「君のためなら千回でも」を見て次の「007」を期待できること…
この作品の監督マーク・フォスターの次回作は「007シリーズ」の新作であることを知って、この映画を見る。彼のこれまでの作品やこの「君のためなら千回でも」と「007」とはかなり隔たりがあることを感じるので、一体、どうなのだろうかと期待と不安である。しかし、…
君のためなら千回でも
君のためなら千回でも スペシャル・エディション [DVD]
監督:マーク・フォースター
出演:ハリド・アブダラ、ホマユン・エルシャディ、ゼキリ…
こんばんは〜。
たしかに!私も、あれっ、アミールはいつ成長したんだろう??と思いました。
最後、涙がとまらなくなったけれど
あの行動がハッサンが生きているときにできていたら・・・
というのも同時に思いました。
ひめさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、ハッサンは生きている間、ずっとあの家を守っていましたが、
その間アミールはアメリカに逃亡し、ぬくぬくと過ごしていたんですよね。
ハッサンがあまりに不憫で可哀想に思ってしまってしまいました。
この作品、去年高い点数をつける人がたくさん居たのですが、星1つにしたのは私ぐらいかもしれません。
mini review 07290「君のためなら千回でも」★★★★★★★★★☆
『チョコレート』『主人公は僕だった』のマーク・フォースター監督が、兄弟のように育った少年2人の心の傷と許しを描くヒューマンドラマ。ソ連とタリバンに翻弄(ほんろう)されるアフガニスタンの過去と現在を見せる、衝撃的な政治ドラマでもある。原作はアメリカで300万部…
『君のためなら千回でも』’07・米
あらすじまだ平和だったアフガニスタン。少年時代のアミールとハッサンは強い絆で結ばれていた。恒例の凧上げ合戦で優勝したアミールは、凧を追うハッサンを迎えに行く途中で、ハッサンが街の不良から暴行を受けているのを見てしまう。だが、勇気を出せずに見過ごしてしま…