31●スエリーの青空
甘さを控えめにした、淡々とした描写。
女の子の怖いもの知らずな行動が怖くて、ヒヤヒヤしながら固唾を呑んで、次のシーンを見守ってしまった。
ストーリー・・・
21歳のエルミーラ(エルミーラ・ゲーデス)が、小さな息子を連れて2年ぶりに故郷に帰ってきた。家出同然に飛び出した彼女は、恋人とサンパウロで暮らしていたのだ。祖母と叔母の家で暮らし、サンパウロに残った子どもの父親であるマテウスからの連絡を待つエルミーラだが、やがて彼が戻る気がないのを知る。地元でかつての恋人とも再会し、愛されるエルミーラだが、町を出て行きたいという思いは消えることはない。そこで彼女はある計画を実行に移す。・・・
21歳という若さで子供を産み、そしてその父親に捨てられる・・・。
傷ついた時って、心が萎縮してしまうんじゃないか、と思うのだけれど。彼女の行動は、そういう感じがまるでなく、このブラジルの片田舎の、生まれ育った町から、出て行く決心をする。
この物語は、そんなスエリーの、ちょっとあぶなげなやり方でお金を貯めるその有り様を、ヒヤヒヤしながら見守っている感じだった。
売春クジを売ろうとするエルミーラは、「スエリー」と名乗る。
彼女がいったいどうなるのか、この先どんなことが待ち受けているのか、と怖ろしくなりながら、少しづつ変わってゆく彼女の姿を、観客である私たちは見る。
彼女のおなかが出た服装などを見て、危なっかしくも思ったり。
だけど、彼女のおなかは、少し肉が乗ってしまっている。子供を一人産んだ、という設定なので、ちょうどぴったりの感じがあるというか・・・。
おなかはあまり出さない方がいいんじゃないかなあ、なんて余計なことを言いたくなってしまった。自分も人のこと言えないけど(´-д-;`)
彼女がこの町から脱出しようとした、そのやり方は決して、正しいものとは言えなかったかもしれない。
彼女のことを気遣ってくれて、彼女に本気でどうやら惚れているらしい男、ジョアォン(ジョアォン・ミゲル)も居たのだけれど・・・。
彼女にとっては、情に流されるのでなくて、別の人生を選んだ。
ブラジルの国境の向こうまで見渡せるかのような、印象的な青空。
そういう遠くの何かを彼女は見通していたのだ、と最後になって私たちは知る。
時々、中学生や、女子高生の頃には、こういう女の子が時々居て、
彼女が変わっていく姿を、間近にその姿を目にすることがある。
その子が、あまり仲の良いとは言えない同級生であるにしろ、親しい友達にしろ、彼女がどうしてそんな風に変わっていくのだろう、などと考えると、人ごととは思えなくなったり、その子のことをしょっちゅう考えたりした。
私がふと思い出したのは、高校の時に一緒のグループだった女の子のことだ。
ミホちゃん(仮名)というのだけれど、学年で一番、キレイだった。人形みたいな顔をしていた。だけど、父親が彼女を殴って、歯が欠けていた。
眼球も、少し向きが違ってしまって、まっすぐ前を見ると綺麗なのに、
下を向いていても、眼球だけ、違う方向を向くようになってしまっていた。
そのミホちゃんは、「族のアタマとつき合っている」とかで、それがバレてまた父親に殴られたりしていた。
ミホちゃんは学校一綺麗だったけれど、学校一悪かった。
私は、彼女とは一番仲良かったわけではないけれど、私たちのグループの一人に居た。
なぜこの子が一緒にお昼を食べるグループなんだろう、と考えることもあったけれど、とにかく同じクラスだった2年間、ずっと一緒にお昼を食べていた。
遊びに行ったことは、一度しかなかったけど。
高校卒業したら、一緒じゃなくなるんだろうなと思った。
今頃どうしているんだろう。ちゃんと生きているのか不思議で仕方がない。
あの切り離された“高校時代”という枠の中にしか、ミホちゃんは生きていないような気がした。
女の子は、自分の気持ちで動くので、それが怖いことがある。
見た目も、何も、全て気持ち次第で変わってしまう。
スエリーの場合は、見た目じゃ分からない、彼女が本当は心に秘めた計画というものがあって、
それで彼女は、夜という“閉じられた空”から、“青空”へと、
“軌道修正”することが叶ったのかな、って思う。
もし、上手くいかなかったら、どっかで怖ろしい目にあってたら、彼女の未来はなかったのかも。
そういう危うさが、怖い。それが女の子って生き物なのかな。
時々、青空のある世界を失ってしまうと、戻っていくのは本当に大変なんだ。
彼女が、帰って来れて、そしてその向こうへと旅立つことが出来て、良かったけれど。・・・
2008/03/01 | :ヒューマンドラマ
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真・映画日記(1)『スエリーの青空』
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2月16日(土)◆717日目◆
六本木でイスラエル映画を見ようとしたが、
うまく時間が間に合いそうになかったので、
渋谷の「イメージフォーラム」で公開中のブラジル映画『スエリーの青空』を見ることに。
主人公エルミーラは恋人マテウス…
『スエリーの青空』 O CEU DE SUELY
旅の途中。
エルミーラは、小さな息子を連れて、サンパウロから故郷の田舎町イグアトゥに帰ってきた。「Suely in the sky」という意味のこの原題は、ビートルズの「Lucy in the Sky with Diamond」からとったのだそう。邦題は、所有格のようにもとれるのだけど、あくまで…
とらねこさん、ぼあたるぢ。
スエリーちゃん、21歳なんてビックリでした。
お腹出ていましたかー、気づかなかった。
ラテン女の豊満なバストの方に目が釘付けになっておりました。(笑)
豊かな日本だって、エンコーなどなど気軽になされてしまうのですからね。
彼女は愚かではあるけれど、気持ち的にはわからなくはなかったです。
単純に対価として売りまくりわけじゃなく。くじ引きの景品にしちゃうところに、ささやかな抵抗や戸惑いやプライドや奥ゆかしさがが見え隠れするような・・・。
演出、映像はかなり好みでしたー。
ミホちゃん的な女の子、私も中学の時の友人・知人に思い当たるコがおりますー。
かえるさんへ
こんばんはー♪コメントありがとうございます。
本当、途中で「21歳」と出てきた時は、びっくりしましたよね。
お腹、気になりませんでしたか?
腹まわりが結構脂肪のっかっていたのに、よくお腹出してるなあって思ってたんですよ。
そうですね、でも胸が立派だったので、あんまり目立たないかもしれませんね。
そうそう、決して売春そのものじゃなかったんですよね、彼女の場合。おっしゃるとおり、日本の女子学生の援交とは違いました。
だけど、本当にアタリがあったところが、逆に彼女の誠実さ?って言ったら変だけど、ちょっとした冒険だったというか。
決して騙して馬鹿にしただけ、という気がしなかったのですよ。
私にも、彼女の気持ちがわかるようなところがありました。だからこそ余計、この話が怖かったです。
女の子の怖さってありますよね。
かえるさんも、ミホちゃん的な女の子をご存知なのですね。
「スエリーの青空」
ブラジル北東部の田舎町。ここにやって来た一台のバスから降りてきたのは赤ん坊を抱いた
21歳のエルミーラ(エルミーラ・ゲーデス)。2年前、家出同然にこの町からサンパウロへと
出て行った彼女。祖母の家で暮らしながら、後から来るという恋人を待ち続けるが、ほどなく
彼…