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29●歓喜の歌

落語家、立川志の輔の原作の映画化作品。
笑えて、ホロっとして、大人の作品。
安心して見れる良作でした。
それにしても、「餃子ですよ、餃子」の決めゼリフが、とんでもないことに。奇しくも公開一日前にあのニュースが・・・

ストーリー・・・
町の文化会館に勤める飯塚主任(小林薫)は、半年前に市役所から飛ばされてきた典型的なダメ公務員だ。年も押し迫った12月30日の朝、飯塚主任は1本の電話を受ける。それは大晦日の夜に予定している「みたまコーラスガールズ」のコンサート予約確認の電話だった。その横で部下の加藤(伊藤淳司)が青くなっていた。というのは大晦日には「みたまレディースコーラス」の予約も受けていたからだ。さあ、緊急事態発生!「どうせオバさんたちの暇つぶしだから大丈夫だろう」とどこまでも楽観的な主任だったが・・・

これ、なかなか面白い予告の仕方をしていたんだよね。
立川志の輔が落語の席で喋って、それと同じ台詞を役者が喋る。
変わった宣伝の仕方をするものだけれど、一体どういうことなのかなあ、なんて私は思っていたんですよね。やけに印象に残るけれども、なぜなんだろうって。
そしたら、そういうことだったんだな〜るほど。
落語が原作だったから、こういうやり方をしていたのね。
それにしても、こういう予告は今まで見たことがなかった。しかし、原作が落語、というのも、なかなかないことだよね。

しかし、この予告を見る中で面白かったのは、このたった少しのシーンの中で、その当てはめられた役者の上手さ下手さが、如実に分かってしまうところ。
もちろん、前後関係は、こちらには分からない。だけど「台詞を喋る」、この事が、単に言葉を発している以上のものだってことが伝わってしまった。
小林薫の台詞の繰り出し方は、なんて面白いんだろう。

力のある役者だなあ、というのを感じました。あと、由紀さおりも・・・。本当、台詞に重みがあるのよね。すんごい迫力。
「悪いのは、私達ですか?」
たったこれだけですよアナタ。だけどこの人がいう事によって「納得」させられてしまうのよね。
・・・ああ、面白いな、演技って面白いな。そういうのが分かる、いい予告だったと思う。思わず、本編が見たくなったもの。

迷子の警察音楽隊』の時に、
物語の初盤に、設定として「最後に来るのはこれこれこういうイベントですよ。」そう告知されることによって、
観客と作り手の中に、どこか心地の良い、「約束事、決まり事」になると主張させていただいたのですが。
この物語も同様に、やはり「翌日が大晦日」で「発表会がある」、この2点が明示されているだけで、すごく設定が際立って感じたのでした。
さらにこの場合、大晦日というだけで、人々にすぐに想像できる、一つの節目でもある。ここも見事でした!おかげで、とっても居心地が良く、鑑賞が出来た。

なので・・・小林薫が、「シャラポワ」(役・アンナ・カネキ)なんていう外国人クラブのホステスに入れあげて借金まみれ、
更には奥さんと別居中で・・・という、本当にダメダメな公務員でも、彼の演技のコメディタッチな面白さと、この限定された設定。これが功を奏して、あまり気にならずに進んで行くのですね。
きっと、この話の最後には、このダメ男が成長するんだろうって、どんな風に成長するんだろうって、そういう風に楽しむことが出来る。
そしてそれは、たった一日。
・・こういうのが、やはり作り事の面白さじゃないかなって、最近の私はつくづく思います。

ママさんコーラスも、それぞれの人に人生があって、そして彼女たちが精一杯生きている、というのが分かるエピソードも良いし。
中でも、転職をドラクエみたいに繰り返す、やはりダメ亭主(?)を主人に持った五十嵐さん(安田成美)の優しさ、けなげさもいい。
・・・安田成美って、本当にいくつになっても素敵な人なんだなあ。寛容で、美しくて。私、こういう風になりたいな。

それから、一番良かったのは、リフォームの大田とラーメン屋を経営する、大田さん(藤田弓子)のエピソード。
ダンナさんの入院中に、体力のある限り頑張る大田さん。こんな人の餃子なんてさ、美味しいに決まってるだろうな。
この餃子が、主人公を変えていくわけで。
そして、あの印象的な台詞、「餃子ですよ、餃子」が生きてくる。
うーん、上手いな。(とは言っても、ここもやっぱり餃子のせいでちょっと皮肉なことになってしまうんですけどね。)
落語家さんのお噺しって、いつもこんなに上手に出来てんのかしら。
そしたら、私も興味が湧いちゃうな。

そうそう、その立川志の輔も、登場しました。噺し家役で。
チョイ役で出てくるし、あんまり意味のない役柄、っていうのがイキだよね。
あと、リリー・フランキーも、片桐はいりも、筒井道隆も出て来たよ!
それから、根岸季衣、本当上手な人ですねえ。
一人、あまり台詞が上手でない人が居たけど、この人は歌がとっても上手だった。

これは、なかなかの佳作。
安心して見れる、大人のコメディです。

歓喜の歌@映画生活

 

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コメント(21件)

  1. 歓喜の歌

    「歓喜の歌」製作:2007年、日本 112分 監督、脚本:松岡錠司 原作:立川志

  2. こんにちは。
    TB&コメントありがとうございました。
    そう言えば、あのホステスさんの名前は「シャラポワ」でしたっけねー
    シャラポワさんは、地毛ではなくてウィッグだった
    大田さんの餃子、とってもおいしそうでしたね。
    素材と技ばかりが勝負のハイソな料理では絶対に味わえない、懐かしくて温かい美味しさがありそうです。
    根岸季衣と息子のエピソードも好きだったし、
    市長夫人が片桐はいりというキャスティングも好きでした。はいりさんは出番が少なかったのが残念でしたけども。

  3. となひょうさんへ
    こんばんは☆コメントありがとうございました。
    そうですね、ホステスの名前、シャラポワってのがすごくありそうでしたよね!
    で、彼女の髪はヅラ・・じゃなくて、ウィッグでしたあ☆
    大田さんの餃子は、シンプルだけど美味しそうですよね〜。
    根岸季衣と息子のエピソード、おっしゃる通り、彼女が演じるといつも圧倒的な存在感なんですよね。
    この映画、確かな演技力の俳優さんがたくさん出ているのが、私の好みでした。
    片桐はいりは面白かったです〜。

  4. 歓喜の歌/小林薫、安田成美

    題名から察するには年末に観るのが良さそうな題材な気もするけど、そーいえば大晦日の夜を舞台に三谷さんの映画「THE 有頂天ホテル」も正月明けの公開だったんですよね。
    この映画、予告編が始まった頃はそんなに観たいって感じではなかったんだけど、あるラジオ番組に浅…

  5. キャスティングが絶妙というか細かいとこまで「適材適所」という言葉がぴったりな配役だったと思います。安田成美さんはとても奇麗でしたけど、女優としてではなく奇麗なお母さん的な存在感が素敵に感じられちゃいました。由紀さおりさんの存在感はまさにとらねこさんの形容通りでしたね。
    欲を言えばスーパーでマグロを売っていた彼女のソロが聞きたかったです。

  6. 【2008-23】歓喜の歌

    人気ブログランキングの順位は?
    大晦日のダブルブッキング発覚!!
    誠意って何ですか?
    真心って何ですか?
    どうすりゃいいの?
    この一大事。
    きっとあなたの心にあかりを灯す、笑いと涙の音楽喜劇

  7. かのんさんへ♪
    おはようございます!コメントありがとうございました。
    適材適所!まさにぴったりの配役でしたよね。
    一人ひとりが、そのシーンごとに際立っていて、見ていて気持ちが良かったです。
    なるほど、安田成美は、確かに女性として綺麗というより、お母さんとして素敵、おっしゃる通りですね。
    最近、CMで見てても、やけに好意的に感じてしまいます(笑)
    マグロ屋の彼女、歌が上手かったです。彼女が一番でした。

  8. 歓喜の歌 観てきました。

     ブログ仲間BIGLOBE平主任ブログさんのお名前は飯塚さん。しかも主任さんです。飯塚主任と言えばこの映画、歓喜の歌です。なんてったてこの映画の主人公は飯塚主任なんですから。
     と言うわけで、どんな映画かも知らずに、主人公の名前だけで観に行くことに決めました。

  9. 真・映画日記『歓喜の歌』

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    『ライラの冒険』か『歓喜の歌』のどちらを見ようか迷うが、
    『歓喜の歌』は8日からモーニン…

  10. 『歓喜の歌』

    □作品オフィシャルサイト 「歓喜の歌」□監督・脚本 松岡錠司 □原作 立川志の輔 □キャスト 小林薫、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子、安田成美、藤田弓子、田中哲司、根岸季衣、光石研、筒井道隆、笹野高史、塩見三省、渡辺美佐子、斎藤洋介、片桐はいり、でんでん…

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    『歓喜の歌』 2008年13本目 2/3(日) チネ・ラヴィータ
    「歓喜の歌」ベートーベンの第9として日本の年末の風物詩となっているこの歌を巡って起こる喜劇。
    立川志の輔師匠の新作落語を映画化。
    落語を映画化ってのも凄いですね。
    元の落語は知らないのですが、場….

  12. こんばんは。
    つっこむのわすれてました。
    お詫びにフランスロールでも(私のblogにUPしてあります)。
    第9、歓喜の歌って元々画になるけれどコメディもいけるんですね。
    芸達者な皆さんが多かったせいか出てくるキャラがどれもこれも個性的でしたね。
    主任のダメぶりはどうしようもなかったけれど、あの餃子の力は凄いですね。
    やっぱ真心ですよ。
    農薬じゃああはいきませんて。

  13. 健太郎さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    健太郎さんもこの映画、楽しまれたのですね。
    確かに、ちょっとダメダメな男の話でしたが、全体的に、人間愛に溢れていて、温かい気持ちになれましたよね。
    そうですね、第九、歓喜の歌をコメディに・・というのが、落語ならではの和心だったのかもしれませんね。
    毒餃子の話・・・
    連日ニュースでやってるおかげで、「真心がこもった餃子」に感動できなくなってました。

  14. こんばんは。又来ました。
    TB&コメントありがとうございます。
    >ダメダメな男
    スナックの外人ホステスに入れあげた挙句にヤクザに脅されて左遷されて離婚寸前、なダメ男ですからね。
    毒餃子と同じく「煮ても焼いても食えない」と云う事で。
    落ちがついたのでこのへんで。

  15. 健太郎さんへ★
    こちらこそ、TB&コメントありがとうございました。
    〉煮ても焼いても食えない
    ハハハ、まさに!
    とても見事にオチました(笑)
    毒餃子の問題も、ニュースで見るのはいい加減、ウンザリして来ました‥(+。+)

  16. 歓喜の歌

    喜びの 歌に出てほし いろいろの
     原作は立川志の輔の創作落語。とある小さな地方都市の公民館。大晦日コンサートでダブル・ブッキングしてしまった2組のママさんコーラス・グループ。
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