27●牡牛座 レーニンの肖像
ソクーロフ、歴史4部作の中の、コチラは第2弾だという(公式HPより)。’01年、ロシア=ドイツ合作。
他の映画のサイトでは、歴史3部作と言っているものもあったりするのだけれど、第1弾が『モレク神』で、ヒトラーを描いたもの、第2弾がこちらで、第3弾が『太陽』で昭和天皇を描いたもの、最後が現在製作中の『ファウスト(仮題)』(ファウスト博士)ということになるようだ。
なので、こちらは“新作”として劇場公開されているけれど、本当は『太陽』の方が新しい、というのがどうやら事実のようだ。
とは言え、自分はこの歴史4部作の中では、この作品が初めてだったりするので、シリーズを通して描いていることに触れることは出来ない。
そして、ソクーロフに関してもこの作品で3つめ、決して詳しいとは言えないですが。
ましてやレーニンに関してはほとんど知らないという、そんな状態なので、あまり大した感想は書けないのだけれど。ただ、映画の印象論を述べる、その程度になってしまう・・・
なんて、断りの長い前置きでした(苦笑)。
ストーリー・・・
1922年、モスクワ郊外ゴールキー村。病床で静かに最期のときを待つ男がいた。ロシア革命を指揮し、ソビエト政権を樹立、史上初の社会主義政権確率への指導を行なったウラジーミル・レーニン(レオニード・モズゴヴォイ)である。1918年演説後に狙撃され、その被弾により健康を害し、数度の脳梗塞の発作に苦しんだレーニン。発作の後遺症で右半身は麻痺し、言葉もおぼつかなくなってしまった。見守るのは妻(マリーヤ・グズネツォーヴァ)と妹(ナターリヤ。ニクレンコ)ただ二人。・・・
17×22という簡単な掛け算が出来なくなってしまった、レーニン。
さすがに、共和党政権下のロシアで育った時代もあるソクーロフは、他人ごとに感じることが出来ないはず・・・と思いながら見てしまう。
もう少し生きてくれていたら、ロシア帝国の姿が全く違っていたに違いない、スターリンに後任を譲る直前の、病床のレーニンの姿だ。
右半身不随という割に、残された理性の煌きはさすが。大きすぎる偉人の最後の姿がここにある。
緑がかったソフトフォーカスの映像は見事で、特別なことをしていないはずなのに、なぜこんなに映像の印象がボンヤリとした夢のような印象を与えるのだろう、などと思ったりしながら見ていた。おそらく他の作品とはまた違う、不思議な静けさを持っているようだ。退色してゆく世界の在り様が、未だ理性は残っていて、だがだんだんに遠ざかる意識というものと呼応している。
一方で、対照的なのは、ときどき見せる確かで洞察力の鋭すぎる、圧倒的な知性を感じさせるレーニンと、思うようにいかない、卑小であちこちガタの来ている肉体の対比だ。
そこに閉じ込められた偉人の精神力が、なんとかそれに獅子奮迅と向かってゆくも、まだらボケが始まってしまっている。理解できない自分を理解できないのだ。
だが、何か第六感の確かさ、というのがあって、異常に鋭くて、新しく来た書記長について、その残忍な性質を分かっていた。
大木が倒れてハイキングに行けなかった時にどうするか・・・。
スターリンの出した答え「大木を切り刻む」で、何かを感じ取る、レーニン。彼自身が、倒れた大木でもあるのだ。
その日の出来事として、彼が行けなかった、目の前で倒れた大木。
まるで彼自身の大きな何かが、目の前で崩れ去っていくのを感じたのだろうか。
そんな中、スターリンが突然現れたその時は、違う緊張した空気が走るのを感じる。なんだかゾッとすらしてしまった。その後のソ連のスターリン政権に思いを馳せると、悔しさの残るこの日中の会見なのだった。
自分が打つべき策を講じなければいけないのに、隔離されていて、中央委員会から遠くにいる。電話も手紙もなぜ通じないのか、と迫るレーニン。
最後に出すべき手紙をしたためていたのだけれど、あれはどうなったのだろう?
2008/02/22 | :ドキュメンタリー・実在人物
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ソクーロフと戯れる、『牡牛座 レーニンの肖像』
ユーロスペースのアレクサンドル・ソクーロフ特集鑑賞メモ今年もまたソクーロフの作品をまとめて劇場体験する機会に恵まれるとはなんて幸せなことでしょう。思えば、一昨年の特集上映はレイトショーでかなりつらかったのだけど、日本での『太陽』のHITもあってか、ソクーロフ…
とらねこさん、こんばんは。
そうなんですよ。レーニンさんのことは何も知らなくて、ソクーロフの思いが手に取るようにはわからなかったのでした。
ヒトラーの方が多くの映画などを通して、それなりに人間像を把握しているから、「モレク神」はかなり面白く観られたのですけどね。
それでも相変わらず、圧倒的な雰囲気を創り上げてくれるから、わかんないのに酔いしれてしまいます。
一昨日、超エンタメな「デイ・ウォッチ」を観たんですが、ふとレーニンやソクーロフのことを考えてしまいました。
それもロシア、これもロシアー
かえるさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
そうですね、普通に何も知らずに見て感慨深い、というほどではなかったです。
また是非ともソクーロフ作品は観たいです!
出来れば、ロシア題材のものを見てから、他のを見ようかな、とか、それとも歴史4部作をクリアしようかな、とか夢が広がります。
シモタカに来るのでしょうか、あそこは特集上映はあんまり来ないんですよ。
『デイ・ウォッチ』ですか。自分は『ナイトウォッチ』も見ていないので、ちょと面倒な気がします。
でも、ロシア発のファンタジーなんて珍しいですよね。
こんにちは♪
レーニンばりの斑ボケならぬ斑寝で三分の二
を寝ていたこともあって、本作に関しては本
来ならとてもTBもコメも残せる身じゃないん
ですが、残させてもらいますね。
最初は青色を基調にを霞がかった映像に惹か
れて観てはいたんですがね。
本当にこんなコメントでゴメンなさいね…r(^^;)
牡牛座 レーニンの肖像
ロシア&日本
ドラマ
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:レオニード・モズゴヴォイ
マリヤ・クズネツォーワ
ナターリヤ・ニクレンコ
レフ・エリセーエフ
【物語】
1922年、モスクワ郊外のゴールキ村。1918年の暗殺未遂…
風情さんへ
こんばんは〜☆コメントありがとうございます。
そうですね、これ確かに眠くなるかもしれませんね。
斑寝って言い方が面白いですね。
「牡牛座 レーニンの肖像」アレクサンドル・ソクーロフ
牡牛座 レーニンの肖像
TELETS
2001ロシア/日本
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
撮影:アレクサンドル・ソクーロフ
美術監督:ナターリヤ・コチェルギーナ
音楽:アンドレイ・シグレ
出演:レオニード・モズゴヴォイ、マリヤ・クズネツォーワ、ナターリヤ・ニクレ…
こんばんは。
やっと見たのでTBさせていただきました。
わたしもまだら寝組なので、肝心の大木の最初のエピソードを覚えてないというですね・・・–;
これで4部作のうち3作をいずれもうとうとしてしまったというですね・・・–;
変なコメントですみません。
manimaniさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました!
あ、4部作のうち3作とも斑寝でしたか、manimaniさん・・^^;
大木の最初のエピソードですか?
レーニンがピクニックに行こうとして、大木が倒れていた・・・というシーンがあったのです。
そこのことでしょうか。
あ、そこです。そこそこ。
なので後にスターリンと「大木がたおれていたらどおする?」ってとこが魅力半減でした^^;
もういちど見たいが、また斑寝してしまいそう・・
manimaniさんへ
そんなに、「眠くなる」「眠くなる」言わないでください(笑)
ところで、manimaniさんタルコフスキーお好きでしたよね?
私は全然見たことないので、今度挑戦しようかなあ、と思ってるんですよ。
ソクーロフが「タルコフスキーの直系的〜」というのを聞いて、気になってます。
今度、教えてください(笑)
真・映画日記『牡牛座 レーニンの肖像』
JUGEMテーマ:映画
2月25日(月)◆726日目◆
昨日の風の影響で少し寒いが、仕事は楽。
午後5時半に終業。
急いで渋谷へ。
6時20分に「ユーロスペース」に到着。
『牡牛座 レーニンの肖像』を見る。
監督はアレクサンドル・ソクーロフ。
本作は『モレ…
『牡牛座 レーニンの肖像』・・・ ※ネタバレ少々
2001年:ロシア+日本合作映画、アレクサンドル・ソクーロフ監督&撮影、レオニード・モズゴヴォイ主演。 ≪第15回大阪ヨーロッパ映画祭【東欧・ロシア“20世紀・映画の旅】にて鑑賞≫