26●アイアン・ジャイアント
『Mr.インクレディブル』のブラッド・バード監督、ワーナー時代の作品。
’99年アメリカ。
ストーリー・・・
1957年10月、ソ連の人工衛星スプートニクに全米が揺れた頃のこと。嵐の夜、宇宙から巨大ロボット(声・ヴィン・ディーゼル)が落下した。メイン州で未亡人の母アニー(声・ジェニファー・アニストン)とふたり暮らしの9歳の少年ホーガース(声・イーライ・マリエンタール)は、森の中でこの巨大ロボットと出会う。金属が大好物のロボットは、落下の際に受けた衝撃で記憶を失っており、自分が何者か分からない。ホーガースはロボットが知りたがるままに言葉や世間の慣習を教え、すっかりいい友達になった。近所に住む廃品アートをたしなむ芸術家ディーン(声・ハリー・コニック・Jr.)を仲間に引き入れ、彼の廃車置き場を隠れ場にして楽しいひとときが過ぎる。だがそこへ軍が調査にやって来て・・・
原作、テッド・ヒューズの『アイアン・マン』に基づく作品。
「アイアン・マン」なんて言ったら、私にはブラック・サバスに決まってるんだけど、そうではなく。おそらく、とてつもなくでっかい鉄の塊のロボット、食べるものは鉄で、電線やら電柱やらも食べてしまう・・・と言った、子供の頃に皆が抱くような空想の物語、そうしたものにとても刺激を与えられたのではないかな、なんて思う。きっと、理屈ではなくて、子供心に(特に男の子?)、しっくりくるものなのかも。
ブラッド・バードにとってもそうだったのか、時代は冷戦時代、ロシアのスプートニクが打ち上げられたその時期だ。そして舞台はメイン州の小さな港町。9歳の子供、ホーガースくんが主人公だ。
宇宙のどっかから不時着した(?)ロボットは、敵なのか見方なのか、見た目からして軍事目的に使用されたものだから・・・いい大人にとってみれば、脅威に映る。これは、大人の物の見方だ。
だけど、想像力豊かで、田舎の子供であるホーガースにとってみれば、そんな大人の物の見方なんか、関係ないのだ。言葉も分からないロボット、だが学習能力がありそうなロボットは、「自分だけのロボットだ!」と愛着が湧くホーガースくん。「アメリカ一、ラッキーな子供だ!」と喜ぶ。自分の好きなアニメコミックを見せながら、悪者になっちゃいけない、と教えるのだ。
それから、鉄クズのスクラップで、芸術作品を作ろう、なんていうディーンも、いい大人にしては、想像力の働く人なのだ。新聞読みながら、寝ちゃうかもしれないけど。ママは悪い人ではないのだけれど、シングルマザーで女手一つで育ててるせいで、仕事に疲れていて、遊び相手にはなってくれないのだ。仕方がないんだけど。
それより、この世界での悪者は、実は、アメリカ軍司令部から来た、ケント(クリストファー・マクドナルド)だ。鉄人を、頭から悪者と考えている。
だからこそ、軍一隊を出動要請し、攻撃の手をやめようともしない。
もしかしたら、味方なのかもしれないとはもちろん思わないし、そうでないとしても、「自己防衛のため」にやむなく攻撃している、という可能性すら、考えようとはしない。きっと、保守派の中には、こういう人もいるんだろうな、と考えさせられる。
「武器」というものの使い道には、実は2種類があるのだ。“攻撃のための攻撃”と“自己防衛のための攻撃”の2種類が。もちろん、その判断は難しいことだ。だが、この二つが、戦争というものの本質なのだ。冷戦時代という時代設定だが、当時アメリカが考えた命題だったはずだ。だが今でも、本質は変わらない。今のアメリカ人には、この程度では通用しないのかな。
「武器にはなるな」と、ホーガースくんから教えられたアイアン・ジャイアント。彼が選んだ道は・・・泣かされます。
物語そのものは、ベタだし、アイディアとしても、目新しさというものは、一切ない。それどころか、絵柄もいかにも、古いような感じを起こさせるが、これは、おそらくブラッド・バードのこだわりなんだと思う。
日本のメカニカルなロボットアニメの好きな人には、この狙ったアメリカの古くさい見た目のアニメでは、良さが通じないかもしれない。
アメリカの軍(陸・海・空)全てにとっても、メッセージ性のあるこの作品。
意外にも、物語のバランスがとても良い、良作だった。
2008/02/21 | :アニメ・CG等
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コメント(11件)
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『アイアン・ジャイアント』(1999)
1957年のアメリカ。母親と二人で暮す少年ホーガースは、頭が良くて飛び級してしまったために、友達のいない孤独な少年。そんな彼はある晩森の中で、隕石のように落下してきて記憶をなくした鋼鉄の巨人と出会い友情が芽生える。しかしある事件をきっかけにこのロボットの存在…
祝・ブラッド・バード(作品)オスカー受賞記念ということで。
まずオールタイムベストとか言っておきながら、教えられたことが幾つかあります。これ、原作あったんですね・・・・
『IRON MAN』というとわたしは今秋映画公開予定のアメコミヒーローを思い出します。あと検索するとボディビルの雑誌がひっかかってきます(笑)
よくある『ET』系の作品、と言ってしまえばそれまでですが、IGは少年と友達になる異生物の中でも、とりわけ頭が悪そうで。みるからに「うすらボケ」という顔をしてますよね
でもそんなパーなヤツが状況もわからないのに必死でがんばっている姿には、どうしても涙を誘われてしまうのでした
とらねこさんの記事を読んでいて気づきましたが、この作品「武器」を否定していながらも、どうしても武器にあこがれてしまう、男の幼稚な面も表れてますね(^^;) とほほ
スーパーマンになりたい ブラッド・バード 『アイアン・ジャイアント』(再挑戦)
現在絶賛公開チュウの『レミーのおいしいレストラン』。なんだかんだでまだ観にいけて
SGA屋伍一さんへ
『レミー〜』受賞、おめでとうございます
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
良かったですね〜♪私も、『レミー〜』は、とっても好きな作品ですので、嬉しいです!
>IRON MAN
>今秋映画公開予定のアメコミヒーロー
って、何でしょう!?ちょっと思いつかなくて、申し訳ないのですが。
SGAさんには、頭悪そうな見た目に見えたのですね、なるほど・・
それなのに頑張っている姿が泣けてしまうのですか。
優しい目線ですね。そういうの、私好きです。
カッコいい言葉を並べようとしたら、到底出て来ない台詞ですね。
心がこもっていると思います。
おっしゃる通り、アイアン・ジャイアントが、一般のヒーロー的なカッコイイ顔をしていないのは、狙ってのことだと思います。
>武器を否定していながらも武器に憧れてしまう
極論を言えばそうかもしれませんが。
でも、そういう気持ちを、単に純粋なものに留めておくのが大事だ。
そう言っているように思えませんか?
アイアン・ジャイアント
ブラッド・バード監督作品。
同監督作品「MR.インクレディブル」大好き。
最近のCGアニメからするとセル描きのアニメは、古めかしさを感じるなー。
だけど、そこがまたセル描きアニメの良さだけれども。
主人公ロボットは、宇宙からやってきた。(ある意味エイリアン)
なぜ…
とらねこさん。こんばんは。
ずっと、気になっていたのですが、ようやく観ました。
泣きました。
こういうアニメ、大好きですね。
元気になるし、何だか力がもらえる気がします。
きっと、ジャイアントは戻ってくる。
いかん、またウルウルしてきた。
de-noryさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
温かい物語でしたよね!
とても良く出来た作品なのに、興行的に成功してないんですね。
私は普段興行成績なんて全く気にしないので、むしろマイナーな方がうれしいぐらいなんですが、この作品のように懐かしさの感じる良作アニメで、これが全く売れなかったなんて、悲しく思います。
私はブラッド・バードの『ミスター・インクレディブル』が大好きなんです。
アイアン・ジャイアント
手持ちのDVDで鑑賞―【story】1957年。アメリカのとある小さな村に、全身が鉄で出来た謎の巨人が落っこちてきた。その巨人が発電所で感電していたところを助けたのはホーガンス。好奇心旺盛な男の子だ。記憶はないが、考えることが出来て、感情もある鉄の巨人に、言葉を教え…
こんにちは〜♪
またまたご無沙汰しちゃいました。お元気ですか?
今朝早くに大きな地震があって怖かったですぅ〜
コチラはベッドがガタガタ揺れて、まるでポルターガイストのようでした(汗)
ところで、この映画、スッゴク良かったです。
思いの外感動して、ラストにはボロボロと涙が止まりませんでした。
お気に入りになったのでDVDも買っちゃった♪
由香さんへ鈍感ですね〜。日曜に地震があったのは知ってましたが・・
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
お久しぶりです、由香さん!
地震・・・あったみたいですね!全く気づきませんでした
由香さん、こちらDVD買うほど気に入ってしまったんですね!
へええ、由香さんちょっと意外です・・・!
でも確かに、とても優しくてちゃんと上手く出来た、良質のアニメでしたよね。
アイアン・ジャイアント
THE IRON GIANT
1999年:アメリカ
原作:テッド・ヒューズ
監督:ブラッド・バード
声の出演:ジェニファー・アニストン、ハリー・コニック Jr.、ヴィン・ディーゼル、イーライ・マリエンタール、 ジェームズ・ギャモン
9歳の少年ホーガースは、森の中で謎の鋼鉄の….