24●エルミタージュ 幻想
90分間ワンカット、本番のみの一回撮り、オールエルミタージュ美術館での撮影という、映画史上異例の映画。
これを撮らせた美術館の方も太っ腹でスゴイと思うけれども、ソクーロフだからこそ、というのもあったのかな。’02年、アレクサンドル・ソクーロフ監督作品。
これはいつか見てみたい、という作品だったのだけれど、今回『牡牛座 レーニンの肖像』の公開記念ということで、ユーロスペースにて( → HPはコチラ)特集上映があったのね。
ああ、見れて良かった!まさに映画は体験だなあ、と感激してしまった。
美術館に居ると、いつも別世界に来たような気がして、どこか歴史の重みを垣間見るのだけれど。
この作品はまさにその歴史と美が、過去と現在が、幻想が入り混じって展開するのです。荘厳!
ピョートル大帝、エカテリーナ女帝、アナスタシアも登場。
カメラに沿って視点がエルミタージュ美術館内を見て回るうちに、いつしかロシアの歴史の時間旅行に連れて行かれる。
初めは、一体これはどういうことなのだろう、といぶかしげに見ていたのだけれど、次第しだいに自分がそこに一体化して、一緒に夢を見ているような、うつつの体験を経験してしまう、という・・・そんな自分に気づく。
たとえばテーブルや、陶器の置かれた部屋があって、そこに「今は居ない、かつては居たはずの」、着飾った瀟洒な婦人が、闊歩していたり、
聞こえるかと思えば遠ざかる人々の話し声、まるでさざめくように、歴史の合間に存在し、また消えてゆく人間たち・・・。
最後の舞踏会まで、全くカットがなく進むので、そういうタイミングがピタリ合っているということにも驚いてしまう。
幻想が入り混じるので、自分の意識もどこか遠くへ遠ざかるのだけれど、
それがこの作品の醍醐味でもあったりして。
エル・グレコ、ラファエロ・・・。
そしてレンブラントはエカテリーナ女帝が特に好きで、後年たくさん集め、レンブラントの間があるという。特にダナエがバーンと映るところで感激してしまう。
その辺りで、初めて画像の色調が少しおかしく、色が変わるのだけれど、
この映像上の欠点というべき一点があってこそ、「ああ、本当にこれは1カットで作られているからこそなのだ」なんて、逆に思い出してしまうほど。
それがなければ、あまりの完璧さに、なんだかこの作品全てが幻のように思えてしまったかも?
今まで、いくらでも映画の中で、古い時代の衣装を着た人々というものを見ているはずなのに、
まるでそうした昔の衣装を身につけた人々と、初めてスレ違ったかのように、
自分のこの目で目撃したかのように思ったのは初めてだった。
こういう服装をしてみたいなあ、こんな毛皮を着て、着飾って舞踏会に出たら、どんな気分がするのだろう。なんて思っちゃった。
最後に、この“舞台”から去ることを拒否して、ここに生きることを選び、消えてゆく案内人の姿は・・・
夢うつつと歴史の美を感じるそこに、自分も残りたい!という、私達の思いのような気がして。
皆さん、さようなら!
・・・なんて、私も目を覚ましたくなくなってしまった。
2008/02/18 | :アート・哲学
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コメント(5件)
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こんばんは☆
おお、やっとレビューをあげてくれたわー。嬉しいです♪絵が好きなとらねこさんにもツボだったようで。そうそう、さよならしたくなかったのです。
宮廷舞踏会はまさに本物のようでした。・・・でも、本当に一瞬ですが夢を見ちゃったけど。爆
ワンシーンワンカットといっても、これは何回か撮られたものなのか、たった一回しか撮ってなくてそれを使ったのか、その辺裏話なども興味津々だったりします。結局特集上映期間にはたった一度だけの鑑賞になっちゃいましたけど、あた機会があったらぜひとも劇場鑑賞したいです♪
エルミタージュ幻想 (2002) RUSSIAN ARK
映画史上初!!
驚異の90分ワンカットの映像
シャーロットさんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
はい、UPが少し遅れました。
レンブラントの絵は感動でした!実はまだあれは、本物を見たことがなかったので。・・・
舞踏会のあのシーンは、本当に本物のようでした!
なんだかすごく鳥肌が立ちましたよ。
あ、でも夢を見られてしまったのですね^^;
私も、気持ち良くウトウトしまたけどw
ワンシーン・ワンカット、一発撮りと聞いたのですが、違うのでしょうか?
こんばんは
お〜!『エル幻』ご覧になりましたか
コレ色んな意味ですっごい贅沢な作品ですよね
美術館の使用許可は2日間。そのうちライトの仕込みに26時間費やしクリスマス前休館日の12月23日に撮影敢行!屋外シーンもあり日照の都合で4時間しか使えないとこ3回NG出して残り時間90分ギリギリのところでキメた、らしいです…
ソクーロフはん!あんた漢や!
そして総勢2000人のスタッフ、キャストが入念なリハを繰り返す間、ひたすら体を鍛えてたというカメラマン、ティルマン・ビュットナーのエピソードに涙(笑)
意欲的な実験作て心惹かれるんですよね〜
一編丸々ワンカットてーと『マジシャンズ』とかヒッチコックの『ロープ』(これはワンカット風か)とか…共通点は眠くなること(爆)
サルバトーレ・マイラの『ワルツ』も気になってるんですが未見なんですよね〜
みさま
こんにちは〜♪コメントありがとうございます!
とうとう見ましたよ〜!みさまがこちらをオススメいただいたのは、あの全編ワンカットの『マジシャンズ』の際でした。
その時に話を聞いて、絶対見たい!と思ってたんです。ようやくやってくれて良かった・・・!
これは、本当に感激の作品でした。素晴らしかった。
そしたら、そんなにタイトな日程の中、一日以上、照明だけで時間をかけていたのですね!
うーん、すごい。そして「1カット一回撮り」は、残り時間ギリギリ90分で決めた、ということだったのですか〜。フムフム。
で、カメラマンはずっと体を鍛えていたのですね。確かに、ずっとカメラを抱えきり、というのもつらそう・・・。
ヒッチコックの『ロープ』に、サルバトーレ・マイラの『ワルツ』ですか
覚えておきますね。
全編ワンカットは、かなり辛いですね、見ている方も。
でも忘れられない作品になりました。
オススメしてくださり、本当にありがとうございます♪
私も、意欲的な実験作品、なんて言われると、喉ぼとけがゴロゴロ鳴ります^^