23●ジプシー・キャラバン
4ヶ国、5つのバンド、飛び交う様々な言語。
スペイン・ルーマニア、マケドニア、インド、それぞれの国から来たロマ(ジプシー)と呼ばれる移動型民族が集まり、アメリカを横断する、6週間の旅に出ることに。また、メンバーそれぞれの故郷へも出向き、ルーツを探してゆく。
’06年、アメリカ。ジャスミン・デラル監督・脚本・製作総指揮。
この映画を見て、思わず思い出したのが、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。
自分にとっては、ラテン音楽に対する熱い思いが、ギュッと凝縮された、密度の濃い素晴らしい音楽映画で、
何があっても絶対スペインかメキシコに行くぞ!!と思わせるだけのパワーを持った作品だった。
本当に素敵だったな・・・
で、この映画は何と言うか、この系統・・・つまり、音楽でもって旅をするかのようだ。
去年の『クロッシング・ザ・ブリッジ 〜サウンド・オブ・イスタンブール』もそうだったように、この作品も良質なものだった。
濃密で豊かな時間を約束するタイプの、ユニークな作品で、
映画を見るということが、「体験する」、という言葉に置き換えられるかのような、
そんな優れたドキュメンタリーだ。
今回のこれは、流浪の民、「ロマ」の人々を描いた決定版、と言ってもいいように思う。
ところで、「ジプシー」という言い方が蔑称であって、本来は「ロマ」と言う言葉が正式名称、というのは、実はまだ最近に知ったことだった。
去年の自分の大好きだった映画、『トランシルヴァニア』で知ったこと。
それまで、どういう区別をすべきか、よく分かってなくて。
主人公のジンガリナは、ロマではなく、もともとアメリカから来た単なる女性だった。「何を探しに来たのか?」と聞かれて、「愛よ」と言い切る姿がカッコ良かった。
だが、恋に破れて、まるでロマのように彷徨う。
あてどない旅に出て放浪する姿は、ロマの姿と何ら変わりがなく、
現代という時代に縛られた私たちには、到底理解が出来ないほどに、それは自由な空気を身にまとっていて、ロマの民族衣装と共に、自分には感銘を受けたものだった。
ヒロインであるジンガリナが、初めからロマだったというのではなく、
あくまでも、生き方を選ぶうちに、ロマに近づいて行った、というのがポイントだった。
バカみたいに疲弊するような、“現代性”に縛られず、太古の姿を感じさせる情緒こそ、この作品の魅力だった。
流れ流れて、音楽だけを頼りに生きていく、ロマという民族に対する、どことない憧れ。
自分にとっては、この作品を見るのに、前知識としては、それだけで十分だった。
今回のこの旅は、一口に「ロマ」と言っても、バラバラになってしまった彼らの、初顔合わせだったのだ。
彼らはもう別々の国で、バラバラになってしまって、それぞれが独立したものになってしまっていた、それなのに、今回のこの「ジプシー・キャラバン」ツアー。
生まれと育ちこそ違えど、流れる血だけは一緒、という・・・。
ルーツが一緒だったのだ。
「ロマの人」を意味する、「ヒターノ」。
「“スペイン人”である前に、我々はまず“ヒターノ”だ」、という彼ら。
だんだんとお互いがお互いを“再発見”してゆく、そういう楽しみもあったのじゃないかなあ、なんて思う。
アメリカ横断をする、ビッグ・バンド・ツアーとして、彼らは次々と会場をソールド・アウトにしてゆく。
どこか郷愁を誘う、彼らの音楽。中でも、女王の風格を感じさせる、エスマの豊かな歌声が、圧巻だった。
エスマは、マケドニアから。
ジョニー・デップも『耳に残るは君の歌声』で一緒に出演した、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスは、ルーマニアから。
そして、劇中で残念ながら死を迎えてしまった、ニコラエの居るバンドも、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス。
それから他にもう一つルーマニアから、ファンファーラ・チョクルリーア。
そして、フラメンコダンサーを迎えた、アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブルはスペインから。
そして、インドのマハラジャ。
音楽の才能だけを頼りに、流れてゆく彼らというのが、なんだか熱く胸にこたえる。
どこか懐かしい感じがするのは、なぜなんだろう。
2008/02/17 | :ドキュメンタリー・実在人物, :音楽・ミュージカル・ダンス
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コメント(13件)
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『ジプシー・キャラバン』
魂の音楽に熱狂!
ジプシー音楽をルーツ持つ4つの国の5つのバンドの北米ツアー“ジプシー・キャラバン”を追ったドキュメンタリー。この世界にある多種多様な素晴らしき音楽の中で、何よりも血が騒ぐもの、熱く、強く心揺さぶるもの、私にとってそれは、ジプシー・ミュ…
とらねこさん、おはようございます。
彼らの音楽がどこか懐かしい気がするのは
旅先でいろんな音楽を吸収しているからでしょうか?
初めて聞いたのにすっと耳に入ってくるんですよね。
彼らの中には同じ血が流れているということが
映像からひしひしと伝わってくる作品でした!
ジプシー・キャラバン
ジプシー・キャラバン(2006 アメリカ)
原題 WHEN THE ROAD BENDS: TALES OF A GYPSY CARAVAN
監督 ジャスミン・デラル
撮影 アルバート・メイズルス アラン・ドゥ・アルー
出演 タラフ・ドゥ・ハイドゥークス エ…
とらねこさん、こんにちはー。
極上の音楽ドキュメンタリーでしたねー。
やっぱり、ロマ魂にはあこがれちゃいますよね。
“「ロマ」の人々を描いた決定版”というとわたし的には『ラッチョ・ドローム』なんですが、あれを観た時は、私の前世はロマだったのかもとほざいたものですー♪
さぁ、旅を続けようー
とらねこさん、こんばんはぁ〜!!
ああ〜、素晴らしかった・・・もうその一言でした。使っている楽器、話す言葉、踊りは全く違うようでいて、底に流れているジプシーの血は脈々と彼らの中に流れているのだ!!と感じられてどきどきしてしまいました。彼らの音楽の溢れる音の中、それが明るいものであっても、にふっと混じる影のようなものを感じて、時に胸がきゅうぅ〜と切なくなってしまいました。
そして・・・今日は、スーパー・フラメンコ:トマティート&ドランテを聴いてきたんですぅぅぅ!!
ジプシー・キャラバン
*公式サイト
2006年/アメリカ/115分
原題:WHEN THE ROAD BENDS:TALES OF A GYPSY CARAVAN
監督:ジャスミン・デラル
出演: タラフ・ドゥ・ハイドゥ-クス(ルーマニア)、エスマ(マケドニア)、アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサン…
moviepadさんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
そっか、なるほど・・・旅先でいろんなものを、吸収しているのかもしれませんね。
なんだか剥き出しの音楽、という感じがしました!
彼らはそれぞれに会えて、何かを見出したに違いありませんよね!
かえるさんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
かえるさんがジプシー音楽に憧れを抱く気持ちは、かえるさんのURLにも使われている、『ラッチョ・ドローム』から来るものだったのですね!
是非その作品も、見てみたい!と思います
何か人生に必要なエッセンスの凝縮が、旅と、音楽にはギュっと詰まっているという気がします。
rubiconeさんへライブは楽しまれたでしょうか?
こんばんは★コメントありがとうございました。
>スーパー・フラメンコ:トマティート&ドランテ
・・・のライブでしょうか?そちらから帰って来られたのですね!
なんだかこちらまで、興奮が伝わって来ます〜
そうですね、盛り上がる明るい曲であっても、メロウな歌メロが挟まれたりして、すぐにキーチェンジするのですよね!
ジャスミン・デラル監督の「ジプシー・キャラバン」を観た!
映画「ジプシー・キャラバン」公式サイトを見たら、渋谷シネアミューズで初日、ジャスミン監督の舞台挨拶レポートが掲載されていました。ジャスミン・デラル監督については、僕はなにも知りません。載っている写真を見るとなかなかの知的な印象の美人です。調べてみると
ジプシー・キャラバン:今回はレビューになっていない・・・
★監督:ジャスミン・デラル(2006年 アメリカ) ★あらすじ(Yahoo!映画より引用) 4か国5…
あ、こちらの作品もご覧になっていましたか。かえるさんの所にもお邪魔していたのにうっかり気付かずスミマセン。遅まきながらトラックバックさせていただきました。
民族の歴史については私もほとんど知識を持っていないのですが、音楽をやっているロマの人たちを見ていると、自由とか奔放さとか、そういうイメージが強く漂ってきます。まあ、数々の辛い境遇に裏打ちされたものであろうと思いますが、音楽を含めて自分の「ルーツ」を感じられない私にとっては決して手の届かない、ある種のうらやましさすら感じることもあります。本作はそういったものを改めて実感させてくれる作品でした。
こちらにもありがとうございます♪
ジプシーの持つ、ロマという根深いルーツ、これに対する羨ましさ、という気持ちは、すごく分かります。
自分のルーツを考えるのって、人間にとって、すごく大事なことですよね。
話は少し変わるのですが、私は、昔から、日本固有の古典文学が好きだったりします。
万葉集とか、東海道中膝栗毛とか、南総里見八犬伝みたいなものって、小学生の時に喜んで読んでいました。
日本史なんかもすごく面白いと思うんですよね。
今の現代に生きていると、そういう日本史、歴史を感じる瞬間があまりなくて、寂しく思います。
京都は、その点、すごく羨ましいです。いつでも重要文化財が近くにあって。
ロマの濃い歴史的・音楽的ルーツ、放浪の民であるために、場所でなく、音楽にそれを感じることが出来るんですね。