#195.ペルセポリス
イランの少女の物語を、フランスの白黒アニメで送る、画期的な作品。
監督・脚本、原作、マルジャン・サトラピ、’69年生まれのマルジ。彼女の半生記でありながら、まるで激動のイランを経験するかのように感じた。
ストーリー・・・
1978年のテヘラン。9歳のマルジ(声・キアラ・マストロヤンニ)は、パパとママ(声・カトリーヌ・ドヌーヴ)、そしておばあちゃん(声・ダニエル・ダリュー)に愛され、何不自由なく暮らしていた。そんな時代に革命が起き、反政府主義者だったおじさんが帰ってくる。しかし革命から1年後、おじさんが投獄。自由に発言もできなくなった社会にマルジの将来を案じた両親は、彼女をウィーンへ留学させる。・・・
’07年、カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞、その他’07年アカデミー賞外国語映画賞、フランス代表作品、などなど。
何より、アニメでありながら、この芸術度の高さと、圧倒的な絵のセンスがすごい作品だった。これをまだ(当時)29歳の監督が自分で本を書き、それを監督したなんて。・・・モノトーンのキツい対比性の中、人物描写と違って、点描の多い背景画。
一枚一枚が、とても印象的だ。
絵がとにかく素晴らしいので、見ていて楽しい。
物語は、特に子供時代は、あまりに色々なことが起こる。
警察の目をかいくぐってみたり、反政府的活動を行っていたり。
それなのにこの絵の効果なのか、物語はあっけらかんとしている。
ブルース・リーに憧れてみたり、街で売っているアイアン・メイデンを買って来て(ABBAではなく)、家で大音量で聴いてるところなど、思わず共感してしまう。(しかも、テニスラケットでエアギター!新しい!)
この少女の目線で描かれているせいか、まるで、モノクロであることを忘れてしまうかのように、明るくサクサク物語は進む。暗さがないところがすごく若者らしく、前向きで、共感が持てる。
しかし、言動統制がなされていたり、あのほっかむり(何て名前だったかな?)をよく「かぶり直せ」と言われたり。
あまりに自分は、イランのことを知らなすぎるせいか、この物語を見ていく中で、驚くことばかり。いつの間にか、主人公の気持ちと一緒になって、見入ってしまった。
何が起ろうと、若者であれば、そこから何とか自分なりの道を見つけていく。
それしか、ないのだ。自分らしくいつも生きようとするところが、この人らしさ、明るさ。一個の少女なのだ、私と、アナタと変わりがないんだ。
でも、家族の人達は皆、風変わり。反政府的な活動をしている人も多いようだし、考え方も急進派だったのだろうと思う。すごく印象深い、素敵な家族だった。普通のイラン人とは少し違う考え方なのかもしれないけれど。
お母さんが泣く時は、悔しくて泣く時だ。街で男女不平等に出会った時、結婚の時も、反対していたので、泣いたお母さんだった。
特に、私が好きだったのは、お婆ちゃんだった。ブラの中にハーブを入れているなんて、とっても素敵。(ちょっと『バス男』を思い出すけど ←最近見た私w)
「説教するのはキライだけれど、いつでも公明正大であれ」と言ったおばあちゃん。
おばあちゃんが言ったアドバイスは、それだけだっただけに、余計心に響く。
イランの少女の物語であろうと、どこにいても、おんなじだ。
一人の女の子が、自分の幸せを求め、自分らしさを求め、もがき苦しむ物語。
普通の青春物語として、自己探求の物語として、見ることが出来た。
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コメント(33件)
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『ペルセポリス』
「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお
『ペルセポリス』
Persepolis@マルジャン・サトラピ&ヴァンサン・パロノー監督(2007年フランス)
1978年、イラン。9歳の少女マルジャン(愛称マルジ)はパパとママ、大好きなおばあちゃんに囲まれて、幸せに暮らしていた。しかし革命が起きた後、学校は男女別々、女子はヴェール着用などの…
「ペルセポリス」 まずは知ることから・・・
ちょっと前にNHKのニュースで紹介されていて観に行きたくなりました。 僕がイラン
とらねこさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
>イランのことを知らなすぎるせいか、この物語を見ていく中で、驚くことばかり
僕もそうでした。
>一個の少女なのだ、私と、アナタと変わりがないんだ。
こういう単純なことに知らないと気づけないということに改めて気づきました。
彼らもそれぞれさまざまな思いで生きているということを気づけない。
そのためにやはり知るということが大事なのだなと思いました。
はらやんさんへ
あけましておめでとうございます!
コメントTBありがとうございました〜♪
そうですね、イランに住む一人の少女なのに、
資本主義、自由経済の自分たちと、こんなにも変わらぬ思いを抱いている。
そして、こういうアート的作品を作ることが出来るのだとは、驚いてしまいました。
この作品を見てくださっただけで、なんだか嬉しい気持ちでいっぱいです
こちらこそ、ことしもどうぞよろしくお願いします。
とらねこさん、こんばんは
ほとんどモノクロトーンの作品でしたけど、それを気にさせない面白さがありました
マンガのアニメ化って全然珍しくない話ですけど、自作を自らアニメ化する人ってどれだけいるだろう? と考えてみたら、それこそ手塚先生くらいしか思い浮かびませんでした。それだけをとっても、マルジさんが行動力のある人だということがよくわかります
お気に入りのシーンは、やはりおばあちゃんが日本人感を語るシーン(笑)と、ビフォーとアフターで恋人の顔がまるで違ってしまうあたりですね
たくさんのエピソードがぎゅうぎゅうに詰め込まれているので、また別の機会にもう一度見直して思い返してみたいところ(あ、マンガ買えばいいのか)
>あのほっかむり(何て名前だったかな?)
映画では確かスカーフと言っていたような。チラ見した原作ではヴェールと書いてありましたが
チビマル子ジャン(デカもあり) マルジャン・サトラピ 『ぺルセポリス』
2007年最後に観た映画。イラン生まれの女性、マルジャン・サトラピが、自らの半生
SGA屋伍一さんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございます。
そうですね、アニメを書き、映画化し、それを脚本と監督と・・・
マルチな才能のマルジさんじゃん!
手塚治虫に匹敵するなんて、素晴らしい才能ですね。
それに、イランの歴史’70年代〜一気に内側から描かれる、ってのはかなりすごいことかと思いますよね。
>ビフォーとアフターで恋人の顔がまるっきり違ってしまう
ここすごかったですねー、いくら「恋は盲目」と言え、あんなに違うなんて・・
ところが、同じ女性として言わせていただくと、恋する女性にとっては、あれくらい違うものなんですよ、これが。
売れた本でもありましたよね、「脳は騙す」でしたっけ。あんな感じなんでしょうね。人間の網膜なんて、そんなものですって。特に夢見る乙女は。
>スカーフ
いえいえ、映画で「スカーフ」と大概のシーンで出て来るんですが、一度か二度、一度かな?出てくるんですよ、イラン語の正式名称が。
メモりたい!と思ったが忘れました。
とらねこさん、こんにちはー。
そうなんです。すっかり共感して観ちゃいました。
ラケットでエアギターって万国共通なのねー。
あ、監督も主人公も69年生まれみたいですよ。
ほっかむり(笑)は、すっぽりかぶるタイプはチャドルで、スカーフはヘジャブですかね。
アフガンのはブルカっていう名前だったり。
おばあちゃんの存在もすんごいよかった。
『ペルセポリス』 PERSEPOLIS
ユニークでエクセレント。
1970年から90年代、激動のイランで生まれ育ったマルジの物語。フランス語圏のコミック、バンドデシネ(BD/ベーデー)はA4版でフルカラーのものが一般的なのだそう。ページ数が少なくイラスト的な表現になっていて、ストーリー重視の日本の漫画に…
とらねこさん、こんばんわ!
遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。
ABBAじゃなくて、アイアン・メイデン。
このマルジのパンク精神は、多分おばあちゃんの血筋ですね。
僕もあのおばあちゃんのキャラが
一番気に入りました。
レトロ感漂うモノクロ映像が
ひたすら心地よい映画でした!
ちなみに、映画の中のゴジラの雄たけびは
マルジャン・サトラピ監督の声だそうです(笑)
ペルセポリス
ペルセポリス(2007 フランス)
原題 PERSEPOLIS
監督 マルジャン・サトラピ ヴァンサン・パロノー
原作 マルジャン・サトラピ 『ペルセポリス』
脚色 マルジャン・サトラピ ヴァンサン・パロノー
音…
かえるさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます!
>ほっかむり(笑)は、すっぽりかぶるタイプはチャドルで、スカーフはヘジャブですかね。
>アフガンのはブルカっていう名前だったり
おお!かえるさん、さすがよくご存知ですね☆
教えていただき、ありがとうございます。
私も、とても共感して見れました。
ラケットでエアギターも笑えましたね。
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moviepadさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
>このマルジのパンク精神は、多分おばあちゃんの血筋ですね
うんうん!(笑)本当にそうでしたよね。
お母さんも、どっか気の強い人でしたけど、マルジにはおばあちゃんの影響がすごく強そうですよね!
私も、この絵の一枚一枚が、とにかく良かったです♪
アハハ!ゴジラの声がマルジの声なんですね!なんか面白い女の人ですよねw。
友達になれそうです(笑)
真・映画日記(1)『ペルセポリス』
JUGEMテーマ:映画
12月23日(土)◆663日目◆
この日、久しぶりに映画館で3本見た。
それぞれ別の場所だったから移動がちょいとしんどかったけど。
まずは渋谷「シネマライズ」で『ペルセポリス』を。
カンヌで賞を獲っているし、オシャレな感じがするから超満員…
パンクは死なず〜『ペルセポリス』
PERSEPOLIS
パリ、オルセー空港。望郷の念にかられた一人の女性がやってくる。彼女が空港
のベンチで回想する、自身の思春期とイラン殮.
とらねこさま、こんにちは。「しんく」です(笑)。
マルジは’69年生まれですね。
画がとってもシンプルで、逆に新鮮に感じましたね。
記事中に画をたくさん入れてらっしゃいますね〜、その気持ちわかります〜。
私も、おばあちゃんが大好きでした。節目節目の言葉が胸に沁みましたね。
しかし、胸を毎日10分間氷水につける、っていうのだけは信じ難かったです・・・。
ホントにそれで、張りが保てるのでしょうか・・・やってみようかな(嘘)。
ではでは、また来ます〜。
真紅さんへ
「しんく」さん、こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
もしや・・かえるさんとお話をされたのでしょうか(笑)
あ、マルジの生まれた年を書き間違えがありました!気づいていただき、ありがとうございました。
シンプルな絵ですが、白と黒のバランスが妙に絶妙なんですよね!
センスが光るいい絵でした。
おばあちゃんは、本当にカッコ良かったですね!
確かに、氷水に胸を漬けるのは私も嫌かも・・
真紅さまがやって効果があったら、教えてください(笑)
私もやろうかな・・
ペルセポリス/キアラ・マストロヤンニ
この作品についてはホントに何も知らなくて、ホームにしてるチネチッタで急遽上映が決まったというだけで、それならこの映画には何かあるのかも福袋的感覚で観に行っちゃいました。イラン出身の女性監督による自叙伝的なアニメーション作品なんだそうです。
声の出演はそ….
あの絵のタッチを観ていると私でも描けそうと思ってしまうのですが(笑)、その親近感が味わいになってるのかもしれませんね。
まったくノーマークの作品だったこともあっていろんな意味で揺さぶられる映画でした。自由を求め謳歌する気持ちは誰もが一緒だとあたりまえのことを再確認させられちゃいました。
かのんさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます!
アハハ、確かに、このタッチはすぐにでも書けそうな気がしますね(笑)
でも実はこれ、かなりコダワリ抜いて、アートワークに気を使ったそうですよ〜^^
私も、どんどん予想だにしない驚きが、随所随所で膨れ上がるのを感じました。
自由を求める気持ちはどこで育っても同じなんですよね、むしろこの主人公のノビノビとした感性に打たれましたよ。
ペルセポリス
Persepolis
激動のイランに生まれ育ったユニークな少女マルジの成長日記。監督自身の半生をユーモアとロック魂で綴る長編アニメーション。
イランの歴史的背景や生活ぶりを興味深く観る一方で、どんな時も自分らしさを忘れない少女の姿が世代や国を超えた普遍的なド…
とらねこさん、こんばんは☆
この作品、「ロック魂」という言葉に惹かれて観に行ったというどこか間違っている私ですが、とても気に入りました。
そうそう、どこにいようと、女の子の心は変わらない。
人はどんな状況でも、前に進むように出来ているのかな、と前向きに思わせてくれる作品でした。
背景の点描のような感じ・・・ほんと人物造型とは対照的な感じで味がありました^^
sallyさんへ
こんばんは〜☆お久しぶりです!
コメントありがとうございます。
「PUNK IS NOT DED」なんて言われたら、ついつい見る気満々になってしまいますよね〜!「デッド」のスペルが違うところなんて、モロにツボです☆
それに、女の子としても、本当に共感するものがありましたよね!
sallyさんも、点描好きですか?
私は、スクリーントーンを使わない、人間の手で描いた点描、というのがすんごく好きなんですよ〜。
おっしゃる通り、人物描写とは全然違いましたね。
ペルセポリス
ペルセポリス(Persepolis)とは、
アケメネス朝ペルシア帝国の都。
ダレイオス1世(ダーラヤーウ1世)が建設した宮殿群であった。
遺跡はイランのファールス地方(当時の地名はパールサ地方)に
あり、ペルセポリスの名はギリシャ語の記録に由来する。
ペルシア語でな…
TBさせて貰いました。
遠くのイランの存在が身近に思えました。
本当にどこにでもいる一人の少女の物語
なんですよね。
あらためて映画って凄いと思います。
おばちゃんの言葉、胸に響きました。
ペルセポリス 観てきました
映画ブログのはずなのに、最近映画の記事を書いていないなぁ。だって、最近仕事が忙しくレイトショーに間に合わないんだもん。1週間以上も映画館に行っていないなんて自分でも信じられません。と言うわけで、土曜は休日出勤だったので日曜日に久々に映画館に行ってきまし…
やまさんさんへ
こんばんは!お久しぶりです!
コメント返しが、遅くなってしまってすいませんでした・・・!
ちょっと最近、用事がたてこんでいました。
で、この映画ですが。
マルジは、すごく才能のある人なのだろうと思うのですが、同時にすっごく自分の身近に感じることのできるようなキャラクターでした。
まるで自分を見ているかのようでした!!
ペルセポリス
イランの現代史–なんてよく知らなかったものだから、革命運動や戦争でどれほど血が流されたか、人々が不安な生活を強いられていたか、マルジの家族や親類、隣人たちがどんな目に合わされたか、ショッキングでした。
思想の統制、娯楽の禁止、自由な言論の禁止。軽々….
ペルセポリス イランが舞台のシュールな映画
先日、ペルセポリスという映画をDVDで観ました。
イラン人の女性を主人公としたアニメ作品で、イランが抱える問題を比較的軽いタッチで、かつシュールな視点で捉えています。
8歳のマルジは快活な女の…
『ペルセポリス』’07・仏
あらすじ1978年のテヘランに住む9歳の少女マルジ(ガブリエル・ロペス)は、両親や祖母とともに何不自由なく暮らしていた。そんなある日、革命が始まり、新イスラム共和国が誕生。反政府主義者として投獄されていたアヌーシュおじさん(フランソワ・ジェローム)も解…
ペルセポリス
= 『ペルセポリス』 (2007) =
1978年のテヘラン。 9歳の少女マルジはブルース・リーの大ファンで、何でも知りたがる女の子。
父エビと母タージ、おばあちゃんと幸せに暮らしていたが、翌年、イスラム革命がおきると生活環境は一変。 風紀を厳しく取り…