#192.ゼロ時間の謎
シックで古典的な雰囲気がバッチリな、落ち着いたサスペンス。
決してわざとらしさやチープさはなく、物語のテンポもちょうど良い。
イギリス古典サスペンスの重々しい雰囲気と、フランス語が程よくマッチした、素晴らしい物語でウットリ。
ストーリー・・・
ハンサムなテニスプレーヤーのギヨーム(メルヴィル・プポー)は若く美しい新妻キャロリーヌ(ローラ・スメット)を連れて、ブルゴーニュ地方の海辺にある大金持ちの叔母カミーラ(ダニエル・ダリュー)の別荘に出かける。キャロリーヌがこの旅行に気がすすまないのは、叔母・カミーラが彼女をひどく嫌っている上、今年は何故かギヨームの前妻・オード(キアラ・マストロヤンニ)もやってくるからだ。新妻と前妻の間には常に微妙な緊張感が走り、ギヨームは2人の間を右往左往するばかり。そこへ厄介な親戚や友人が訪れ、嫉妬と怨恨、策謀、莫大な財産の相続権が絡み、事態は混迷の度合いを深めていく。そして事件は起きた。・・・
’07年 フランス。『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』のパスカル・トマ監督。
原作は、アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ』。
私は原作を読んでいないので、比べることが出来ない。でも、きっとこれって、原作の雰囲気を壊したものには、決してなってないだろうという、落ち着いたタッチ。確かな腕。そういうものを、否応なく感じることが出来て、なんだかとっても満足してしまった。
まず、雰囲気の良さ。フランスの古い洋館の内装やら、その画から滲み出てくる、そこはかとない重厚な雰囲気と、贅沢感。
これが、たまらなくイイ。こういうのって、難しいフランスの文芸派の作品でしか見られないような気がしていたので、お得感が増してしまう。
離島で起きる事件、人里離れたところに集う、複雑な人間関係を抱えた一家、
そしてちょっと風変わりな格好をした、抜け目がなく人間的な探偵とくれば・・・
思わず、日本の横溝正史を思い出してしまう私だけれど。
でももしかしたら、人によっては自分が読んだいずれかのミステリを思い出してしまうようなもの。どの作家のミステリにしろ、自分が読んだことあるミステリに、どこかしら似て感じるだろうか。
・・・というより、このアガサ・クリスティーの方が、後世の数限りないミステリに影響を与えているに決まってるのだけれど。
それなのに、この古臭さを感じない雰囲気作りが見事。
それもこれも、フランス語の新鮮な魅力のためなんだろうか?
“ゼロ時間”それは、殺人が決行される瞬間。
何となく重々しく始まるベテラン刑事の言葉で、雷が落ちたかのような決定的な瞬間から始まる物語。
カメラがそこにある全てを映し出すけれど、そのやり方がとても丁寧で、こちらは安心して身を任せることが出来る。
憂いの表情のオード(キアラ・マストロヤンニ)が謎めいていて、そこに集う人々の中でも空気の違うオーラを出している。だけど、その中にもう一人が、とても緊張感を持たせる謎めいた雰囲気の人も居る。それから、いかにも怪しげな友人や、また別の友人。
これから起こる殺人事件の、舞台に揃う役者の顔ぶれが、なかなかに曲者揃いで退屈しない。どの人もどの人も動機がありそうだし、あまりに怪しげな人達なのだ。
ネタバレはしないけど、最初の犯行が起こるその前場面で、犯人が分かってしまった人も多いだろうと思う。それもこれも、この映し方があまりに丁寧なためだ。
見逃す人は少ないと思うけれど、この親切すぎるカメラワークも、まだその犯人の動機解明にまでは、遠く及ばない。
でも、犯人は分かっても、その犯行の詳細な行動と、それから動機がまだ分からない。このために、ずっと退屈せずに、見ることが出来る。
もしかしてこうかなあ、と思って、それがその通りであっても、
この物語に関しては、とても満足して最後まで見終わることが出来る。
この安定した魅力は、なんとも魅惑的だ。
この物語、音楽の使い方がとっても良かった。
風の音がはためいて、不安を掻き立てるのに、自然の音使いのみで、大仰なオーケストレーションを使用しないのが、とても私は好きだった。
極めて音を排除して作るところが、ハリウッドとはまるで違っていてうるさくなく、とても良かった。
だからこそ、キアラの弾くピアノの音が際立ち、
そしてラストの間近で使われる、突然来る音楽の効果的なこと!
その一瞬、音楽が鳴り出す瞬間は、まさに絶妙。思わず舌を巻きたくなるほど、面白いタイミングで音楽が鳴り出し、私は思わず嬉しくなってしまったほどだった。
この物語の核になるのは、この島のロケーションだ。
海を隔ててフェリーで行くことも出来、かつ、車でも陸続きに繋がっている。
ちなみに、こういう場所、日本にもあるんですよね。
私が行ったことがあるのは、和歌山県の南紀勝浦温泉、ホテル中ノ島という場所。、有名なところなので、知っている人は多いんじゃないかと思います。
なんだか、この映画の「灯台ホテル」にも、一度行ってみたくなりましたね〜。
2007/12/18 | 映画, :サスペンス・ミステリ
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(24件)
前の記事: #191.チャプター27
次の記事: #193.アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵
とらねこさん、こんばんは!
この作品、予告がとてもシックで粋だったので、気になっていました。とらねこさんのご感想を拝読して、やはり素敵で味わいのある雰囲気の映画なんだなぁ、とわかって、楽しみ感が増します。
原作をかつて読んだので、展開やラストは知っているのですが、それでも観たくなる1本です★
香ん乃さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
香ん乃さんは、この原作をご存知なんですね!
では香ん乃さんは、「親指のうずき」の方もご覧になったのかなあ〜。
そうですね、この物語、とっても味わいのある素敵なサスペンスで、ウットリしました。
このクラシカルさが、フランスの風景にぴったりマッチしていて、なんとも上質の物語でしたよ!
私はこれかなり好きでした。
こんにちは♪
事件が起こるまで少し時間がかかった
けれど、そこへ至るまでのプロセスが
オモシロかったですよね。
どいつもこいつも曰くありげな連中ば
かりでしたしね。
犯人&動機当ては片平なぎさの足元に
も残念ながら及びませんでした…。r(^^;)
ゼロ時間の謎
フランス
ミステリー&サスペンス
監督:パスカル・トマ
出演:メルヴィル・プポー
キアラ・マストロヤンニ
ローラ・スメット
ダニエル・ダリュー
【物語】
ハンサムなテニスプレーヤーのギヨームは、若く美しい新妻キャロリ….
風情さんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました。
そうですね、事件の起るその時間に向かって、真ん中に終着するゼロ時間、
この考え方がまた何とも良かったです♪
アハハ、犯人あてはダメでしたかあ。
犯人は実はバッチリ映ってるんですけどねw
こんにちは♪
>犯人は実はバッチリ映ってる
これね〜恥ずかしながら完璧に見過ごしてる
んですよね〜。
時間帯的にどのあたりでした?
冒頭あたりだったら予告CMで寝入ってしまい、
尚且つ「ゼロ時間」の説明は起きて観てたんで
すが、気付いたら2度寝(たぶん5分ほど)しち
ゃったもんで…。
更に言いワケさせてもらうと犯人映ってるとこ
ろを見逃したことで、逆にオモシロく観れたの
かな〜なんて思ってみちゃったりして…。r(^^;)
(広川太一郎調で)
風情さんへ
アハハ、寝てしまっていたんですね。
犯人が映ってるのは一度だけ、一つ目の事件のところですよ。
影でよく見えないながら、明らかに「影になった顔を映している」というシーンで、セリフもあります。
まあ声を聞けば分かりますよ♪
というわけで犯行シーンもしくはこれから犯行が行われるという、その瞬間に犯人が映っている、とても大胆なシーンだったと思います。
そのシーンがあってもなお面白く見ることが出来るのが、この映画の完成度の高さだなあなんて思っちゃいますw
こんばんは。
今日、観てきました!
原作を読んでいない私は、アガサクリスティ独特のストーリー展開が楽しめました。(レトロなミステリィもいいわ〜)
しかし、フランス版にすれば、こんなに粋な映画になるんですね。ショパンのピアノが効果的で、メルヴィル・プポーの男前にウットリ!
でも「キアラ」は益々父親に似てくる・・・母親がドヌーヴなのに・・。しかし、ピアノを弾きながら何食わぬ顔をして足で「あの薬」を蹴飛ばす技はさすが!
cinema_さんへ私は「なんか、横溝正史みたい♪」なんつって大喜びしてたんですけど、とんちんかんです(笑)
おはようございます〜♪コメントありがとうございます!
ね!ね!素敵ですよね〜☆レトロなミステリー
このフランスの旅情をそそるような景色がまた良くて・・・ウットリしちゃいました。
キアラ・マストロヤンニ、お父さんに似て来たのですかww
すぐに思いつかないんですが・・・ごめんなさい☆この作品ではなんだか目元に哀愁を漂わせていましたが。目の辺りかしら?目が少し離れたような顔をしていますね。おっしゃる通り、何食わぬ顔をして薬を蹴飛ばした時はビックリしてしまいました!
そういえばキアラ・マストロヤンニ、『ペルセポリス』では全く違う若々しい声をしていて、すっかり別人のようでしたよw
あ、そっちでもカトリーヌ・ドヌーブが出てきました。
『ゼロ時間の謎』
豪華な格調高さの中に漂うあやしさが魅力。
大金持ちの叔母カミーラの別荘に、甥であるテニスプレーヤーのギョームと再婚した妻キャロリーヌ、前妻のオードらが集う。ミステリーの女王アガサ・クリスティーが自作のベスト10の一本と認める傑作小説が原作なんだって。それ…
今度こそTB成功しますように!
というわけでもろもろの美しさを堪能してまいりました〜。
あの離島やホテルにバカンスで行ってみたいです。海外旅行したことないので…。ワクワクしそうです!
(とらねこさんは今頃あちらへの飛行機の中でしょうか?)
ほんと、落ち着いた雰囲気や贅沢感があって。
年末年始の公開はピッタリでした♪
映画「ゼロ時間の謎」(2007年、仏)
アガサ・クリステイーが自作のベスト10のひとつに選んだ 本格推理小説「ゼロ時間へ」の映画化。 舞台をイギリスからフランスへ移し、 時代設定も現代にしたが、 20世紀前半の雰囲気も漂わせている。 原題(英題)は「L’ Heure zéro(Towards Zero)」。 …
アンバーさんへ
こんばんは〜♪ただいまです!コメントありがとうございました。
またまたTBは失敗しているようです・・。
アンバーさん、TBの失敗は、どうぞあまり気になさらずに。
あれ、アンバーさんは海外旅行はしたことがなかったのですね!面白いですよ。
私も、あの島の雰囲気、堪能してみたいです。
素敵でしたよね。あれはどこなんだろう?
あの絶景を見られただけでもすごく素敵な時間でした!
映画『ゼロ時間の謎』を観て
2.ゼロ時間の謎■原題:L'HeureZero(英題:TowardZero)■製作年・国:2007年、フランス■上映時間:108分■日本語字幕:寺尾次郎■鑑賞日:1月5日、ルシネマ2(渋谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督:パスカル・トマ□脚本:クレマンズ・ド・…
ゼロ時間の謎
殺人は結果であり、物語はそれよりずっと前から始っている。すべての人々、事柄がある点に向かっていく、その点が“ゼロ時間”それは殺人が決行される瞬間!、であるという考えに基づいて書き上げられたミステリーなのです。
避暑地を訪れた若きテニスプレーヤーとその新….
こんばんは。
これも観てるなんてずいぶんと守備範囲が広いですね。
ちょい驚きです。
自分は最後まで犯人が誰かわかりませんでした…
ファッションや恋愛以外のフランス映画が好きで、この監督の『アガサ・クリスティの奥さまは名探偵』を見逃していたので、とても楽しみでした。
フランスらしい優雅な生活を描いた画。
いいですね。
あの空気感はフランス映画じゃないと出ませんね。
ミステリーとしては、コロンボそのままの警視が良かったです。
「シャーロック、メグレ、ミスマープル、ポアロ、コロンボ」
と意味も無く口ずさんでしまいます。
で、あの目撃者が見たのは一体なんだったんでしょうか?
気になります。
『ゼロ時間の謎』 2008年27本目
『ゼロ時間の謎』 2008年27本目 4/5(土) チネ・ラヴィータ
シャーロック、メグレ、ミス・マープル、ポアロ、コロンボ♪。
ミステリーの女王アガサ・クリスティの小説を映画化。
昨年かな?『アガサ・クリスティの奥さまは名探偵』と云う映画が有ったのですが、こ…
健太郎さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
健太郎さんもこれ、ご覧になったのですね!
守備範囲、広いんですよー、私★
>犯人が誰か分からなかった
そうですね♪この映画、とっても上手でしたね。
フランス映画の上品な雰囲気が、また良かったですよね!
>「シャーロック、メグレ、ミスマープル、ポアロ、コロンボ」
おおっ、あの刑事の口ずさんでいた歌ですね!
ウン、こういう細かいところをネタにされるのがいいですね♪
で、おっしゃる通り、「目撃者が見た証言」が余計犯人を分かりにくくしていましたね。でも、後から考えると、間違ったことを言ってないんですよね。
ちなみに、サイドバーにブログマップをつけました。
南紀中ノ島ホテルの場所が、地図に示されているんですよ
良かったら、見てくださいね〜^^
遅くなってしまいましたが、TB&コメントありがとうございます。
守備範囲広いんですね。
お洒落や、恋をメインにしたフランス映画には興味は無いのですが、こう云った作品は好きです。
フランス映画独特の雰囲気がイイですね。
謎が残った?のもまた味ですし、とぼけた刑事も味ですね。
健太郎さん、いつも丁寧に戻って来ていただき、こちらこそありがとうございます。
この作品はなかなか雰囲気もバッチリで、すごくいい歯ごたえでした!
とぼけた刑事もなかなかでしたよね。
あそこが、あんな風に繋がるとは。
謎が残った、というのが何のことなのか、ちょっと分からないのですが、
オードが犯人でない証言をした人のことをおっしゃっているのでしたか。
正直、4ヶ月以上前なので、忘れかけていて、お役に立てないかもしれませんが。
またまた来ました。
>謎
「私はあの晩見た。満月に照らされた男の顔を」
とか云ってましたが、事件の晩は月は出てなかったんですよね。
じゃあ、何を見たのでしょうか?
てのが疑問なんです。
半分、世捨て人みたいなおっさんでしたから、神様の声でも聞いたんですかね。
いや、見えた、か。
健太郎さんへ★
こんばんは!何度もお越しいただきスミマセン。
〉私はあの晩見た。満月に照らされた男の顔を
この件ですが、それは、学生時代に犯人が起こした事件のことではありませんでしたか?
私も時間が経ったので、断言出来るほど自信はないのですが‥
もう一度見ないとお答え出来なそうですね。
お役に立てずすいません。
ゼロ時間の謎
L’HEURE ZERO/TOWARDS ZERO(2007/フランス)【DVD】
監督: パスカル・トマ
出演:メルヴィル・プポー/キアラ・マストロヤンニ/ローラ・スメット/フランソワ・モレル/ダニエル・ダリュー/アレサンドラ・マルチネス
ふたりの妻は多すぎる
ミステリーの女王、アガサ…
ゼロ時間の謎♪駅ビルシネマ・フランス映画祭にて
アガサ・クリスティーの代表作が遂に映画化!
京都シネマで観ることが出来なかった作品です。今回の映画祭で再上映となり、鑑賞できるチャンス到来。9月25日に駅ビルシネマ・フランス映画祭にて鑑賞
何とこの作品は結構人気があるようで、当日行くと前売りにてすでに…