#187.雪の女王(トークショーつき)
宮崎駿監督に、多大な影響を与えたという、ロシアの1957年のアニメ。原作はアンデルセン、レフ・アタマーノフ監督の作品が、三鷹の森ジブリ美術館、スタジオライブラリーによって、カラーになり、鮮やかになって登場した。
ストーリー・・・
北の国の小さな町に、カイという少年とゲルタという少女が住んでいた。二人は大の仲良しで、「いつまでも仲良くしよう」と誓い合っていた。だがある長い冬のこと、カイは、雪の女王のしわざで、目と心に雪のカケラが刺さってしまう。それ以来、カイは、物事の醜いところしか見えなくなってしまった。そして女王にさらわれ、二人は離れ離れになってしまうのだった。春になっても戻って来ないカイを探すため、ゲルタは町を後にする。・・・
スタジオジブリの、このシリーズ、“三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー”では、これまでも、『王と鳥』、『アズールとアスマール』など、古い名作アニメを紹介してきている。前回の『アズールとアスマール』では高畑勲によって、日本語監修・翻訳・演出をされていたが、こちらの作品は高畑勲監督には、随分と思い入れのある作品だったようだ。
今回は、そしていよいよ、宮崎駿監督が、ずっと昔から影響を受けた大好きなアニメ、と称してはばからなかったという作品の登場。それがこの『雪の女王』。それも、スタジオジブリによって、優しいカラーになって登場。昔に白黒で見た、という人もいるよう。(HPは → コチラ)
同時上映は、『鉛の兵隊』。
私は、「この『雪の女王』の物語に大きな影響を受けて、この話を題材にしてアルバムを作った」、という谷山浩子という歌手の、トークショーつきの試写会で見て来た。
三鷹の森ジブリ美術館の館長も登場したり、また、谷山浩子の作った曲を、手嶌葵という、今活躍している若いアーティストの歌う、ミニライブもついてきた。この時歌った曲が、『岸を離れる日』という、この映画の1シーンにインスパイアされて作られた曲。とってもいい曲で、なかなか素敵な時間となった。
またこの時に、スタジオジブリが出している、無料の小冊子、『熱風』をいただいた。ここに、HPに全て掲載されていない、宮崎駿監督の、インタビューが全て載っているし、他にも、この『雪の女王』に関する、訳者(字幕担当)の児島宏子さんによるこの映画の評論だとか、多くの情報が載っていて、とても興味深かった。(パンフレット必要ないくらい?)
これは、書店においてある無料のものらしい。ちなみに、取り扱い店の載っているwebページのURLは、→ コチラになります。古いアニメに興味ある方は、この小冊子だけでも、読む価値はあるかも?なかなか面白いですよ。
最近、ユーロスペースで、チェコアニメ映画祭がやっていたり、ユーロでは他に、『ハンガリアン・フォークテイルズ』という、見るからに印象的な絵の芸術的なアニメの特集もあったり。(ユーロスペースのHP → コチラ)
かと思えば、今度12月22日から公開される、フランスのアニメの『ペルセポリス』も、製作年度は今年のものですが、’70年〜’90年のイランが舞台になっているらしいし、それも面白そう。なんだか、いろいろな海外のアニメって、テーマがすごく深かったりするものもあるんですよね。とは言え、チェコアニメは、全然詳しくないので、正直どれから見ていいのか分からなかったりする私なんだけど。
この『雪の女王』は、宮崎駿監督が「自分の原点」と力説してはばからない、というもの。ヒロイン・ゲルダの心の優しさ、強さ。まっすぐで一途で、純粋そのもの。・・・そんな辺りが、どうやら宮崎駿監督は強く感じられたようだ。
ゲルダは、カイに対するその強い思いだけで、寒々とした木枯らし吹き荒れる中に、旅立ってゆく。旅先の女たちは、ゲルダの強い思いをみて、ついつい協力してしまう。特に、私は、意地悪な山賊の娘が、ゲルダの優しさを見て、泣き出してしまうところが好きだなぁ・・。
これを、宮崎駿監督は、こう言っていたよ。本当は、山賊の娘は、寂しかったから、森の動物たちを、縄で捕らえて、自分の世界に君臨していた。だが、ゲルダに出会うと、自分には、思う相手がいないことに気づき、そして、本当は寂しかったのだ、という事に自ら気づくから、動物たちを解放するのだ、と。
ゲルダは、自分で何をする、というのではなしに、その思いが、世界を変えてゆく、というのです。なるほど、なんて思ってしまった。
それから、敵の雪の女王。最後の最後で対峙するときも、決して戦わないのだけれど、これは、自然そのものが相手だから。戦わないところがいいのだ、単なる悪という存在とは違うのだ、という解釈を、ジブリの方が言っていました。ふむなるほど〜。
この50年前のアニメ、実にいろいろな物語に影響を与えている作品らしい。
私が見つけたのは、『アズールとアスマール』との共通点なんかもそうでした。
特に一緒だったのが、雪の女王の宮殿に着く前の、階段下の宮殿部分、その間を通り抜ける通路が、まるで一緒!階段の手すりのところ、画の切り取り方も、角度までまるで一緒なのには、ビックリしてしまった。
それから、雪の女王に、連れ去られ、橇に乗せられるカイの姿は、ちょうど『ナルニア〜』と一緒です。カイを探し当てたゲルダが、到着する、館も、『ナルニア〜』の雪の女王の宮殿と、ちょうど同じような感じでビックリ。なるほど〜、これ、もしかすると、そればかりでなく、色々なアニメが影響されているのかもしれない。
それだけじゃなくて、“紅と白の薔薇”のモチーフは、様々な芸術で何度も使われてきた、有名なものとなっているようだし。そういえば『スキヤキウェスタン ジャンゴ』でも使われてました。
ただ、このアニメは、さすがに50年前のものなので、覚悟が必要だと思います。アニメの博物館的な価値は、十分にあるのでしょうけど、普通にアニメが好き、という程度では、その価値は見出せないかも・・・。古いアニメに興味がある人だけに、オススメかな。
・雪の女王@映画生活
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コメント(15件)
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確か一昨年くらいNHKのアニメでやってたんですよね
『雪の女王』
http://www.youtube.com/watch?v=o6EYZZwGR44&feature=related
思えばこの作品↑も、「あの名作を現代の技術を使って蘇らせたい」という狙いだったのかなあ
じつはこの記事を読むまで、この「ロシア版」のことは知らなかったんですけど(^^;)
日本でアニメのパイオニアといえばやっぱり手塚治虫なんですけど、宮崎さんはわりと手塚先生に対しては批判的ですね。わたしはそれは「天才にありがちな嫉妬心」から来てるんじゃないか・・・と解釈していますけど
『ペルセポリス』はわたしも興味あります。原作のコミックがバジリコから出ています
http://www.basilico.co.jp/book/books/901784-66-8.html
SGA屋伍一さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
へえ、NHKのアニメで『雪の女王』があったんですね。
YouTubeありがとうございました!早速見に行ってみましたよ。
SGAちゃんはそういえばアニメはお詳しいですが、チェコアニメなんかの辺りはあまり興味ない感じでしょうか。
確かに、手塚治虫と宮崎駿てあんまり共通点がないな、と思ったのですが、全く違うところに立っているのかもしれませんね。
私は手塚治虫は『火の鳥』とか『シッダールタ』、『奇子』なんかも好きですし、文庫のものは、それこそ買い漁ってほとんど彼の作品は読んだなあ〜。
ペルセポリスは、興味ありますか★ただこれ、単館モノ扱いだと思うんですよね。
この原作を書いた人が、この監督なんですよ〜。
連日すいません
>チェコアニメなんかの辺りはあまり興味ない感じでしょうか。
興味のあるない以前に、ほとんど見る機会がないというのが実情かなあ(笑)
近いところで言うとユーリー・ノルシュテイン(ロシア)の『話の話』というのを部分的に見たことがあったけど、よくわかりませんでした(^^;)
>手塚治虫と宮崎駿てあんまり共通点がないな
宮さんも最初は漫画家志望だったみたいなんだけど、手塚さんの画風に似てしまったのに気づいて全部原稿破り捨てたとか
手塚さんがディズニーから始まってアニメをあくまで「娯楽」「マンガの延長」と考えているのに対し、ジブリのお二方は「芸術作品」として作ってる、という印象を受けます。どっちが欠けても今の隆盛はなかったでしょう
>『ペルセポリス』
バリバリ単館系ですね(笑)。でもちょっと遠出してでも観てみたいなあ
SGA屋伍一さんへ
おはようございます〜★
>ユーリ・ノルシュテイン
ノルシュテインの先生がシュワルツマンやヒトルークにあたり、さらにその先生がアタマーノフ、この『雪の女王』の監督ということになるんだそうです。
繋がってるんですね・・・
手塚アニメは「娯楽」「マンガの延長」ですかね・・・。私は、手塚漫画は、中にはかなり深い文学的着眼点のあるものもあると思ってますよ。
自分は手塚漫画はそこが好きなんです。だけどSGAちゃんがおっしゃる通り、その手塚漫画も、アニメになった時にどうなるのかというと、ちょっと自分には分からなくなっちゃいます。
『アトム』をつい考えてしまうと、一般大衆向け娯楽へ位置を下げたと思ってしまいますよね。
>ペルセポリス
SGAちゃんの好きなタイプのアニメかどうかは分からないのですが、ちょうど冬休み期間に見れるので、ちょうどいいですね〜♪
手塚アニメは、商業アニメばかりじゃありませんよ(笑)
それはお仕事の1つに過ぎません。
実験アニメのシリーズは、手法やアイデアも素晴らしくて
アートとしても、社会性としても、洒落ててブラックで
とっても面白いんですよ!
ぜひ、ご覧になってみてください。
「ある街角の物語」
「展覧会の絵」
「ジャンピング」
「おんぼろフィルム」
あたりは特にオススメです。
むしろ私は、ジブリ作品は、こうした実験精神に溢れた
アニメはほぼ皆無のように思えます。
良質な大衆作品だからこそ、あんなに動員行くんでしょうし。
ochiaiさんへ
こんばんは〜♪なんか、お久しぶりです!
コメントありがとうございます!
おお、そうですか、手塚アニメはやはり、実験的な面白いことをしているものも、たくさんあるのですね!
私は、正直、手塚アニメって、全然見たことないんですよ。
漫画を見て、あんまり面白いのでビックリして、大好きな人になったのですが、アニメとしてどういう功績を行っていたか、というのは、全然知りませんでした〜。教えてくださり、ありがとうございます!
ジブリ作品は、また全然違う立場なんでしょうね。
私は正直、それほどジブリって好きだったわけではなく、『もののけ姫』から急に好きになったクチだったりします。
大人になってようやく、ジブリの良さに気づいた、って感じでした。
とらねこさん、こんばんは!!&お久しぶりです。
しかし、トークショー&ミニライブ付きでご鑑賞とは!!素晴らしいですねぇ。記事拝見していて、ここはへー、そうだったんだ!と新たな発見をしたりしてます。
でも、やっぱりとらねこさんも雪の女王にナルニアの白い魔女を連想されてたんですね〜!!ほんとにそっくりでしたよね〜!
私は「鉛の兵隊」もとっても印象深かったです。悲劇なのに、幸せ感があるラストには、参りました!!
雪の女王(新訳版)/鉛の兵隊
*公式サイト
「雪の女王(新訳版)」
1957年/ロシア/65分
監督・脚本:レフ・アタマーノフ
原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン
原題:СНЕЖНАЯ КОРОЛЕВА
声の出演:ヤニーナ・ジェイモー、アンナ・カマローワ、マリヤ…
rubiconeさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます。
そうなんですよ〜!トークショーが目当てだったのですよ。なかなかに興味深かったです。
ナルニアはあちこち彷彿とされましたよね。
雪の女王の屋敷なんか、最初に通される居間の作りまで似せてましたよね。
あと、『アズールとアスマール』なんかも私は似てると思ったんですが・・。
鉛の兵隊は、この時は上映されなかったんですよ。
見たかったです。残念
雪の女王<新訳版>
「雪の女王<新訳版>」 (同時上映「鉛の兵隊」) 製作:1957年、ソ連(ロシア
おおお〜っ、トークショーつき試写会ですかぁ
羨ましいけど『鉛の兵隊』は見れなかったのですねぇ、残念。
TB&コメントありがとうございます。
とらねこさんのレビューを拝見して、色々と掻き忘れていたことを思い出しました。
カイが連れ去られるシーンは、『ナルニア』を思い出しましたよねん。この作品をイメージしてナルニアを撮ったのかなぁと思ってました。
ゲルダの純粋で真っ直ぐな強さを見ていたら、少しだけ『ライアーゲーム』のナオちゃんを思い出しました。(龍平くんじゃなくて翔太くんの方だったけど、見てたかな?)年末の一挙再放送を見たばかりだったので
となひょうさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
そうなんです!トークショーつき、歌もすっごく良かったんですよ、見た人みんな口々に、すごく歌が良かったって言ってたんです。
知らない分野は、トークショーに限りますね!すごく勉強になるんですよ。
ちょっと嬉しい試写会でした!しかも、場所はアンジェリカでやったんですよ。
あそうそう、アンジェリカの近道は、知ってる人それほど多くないかも・・なので、恥ずかしがる必要ありませんから^^v
そうですよね、連れ去られるところ、『ナルニア』ソックリでしたよね。
で、となひょうさんは、他の何かドラマを思い出されたのですね☆
まっすぐな女の子のゲルダ・・とっても良かったです。あんな風に一途に生きたいです。
こんばんは♪
おや、ミニライブ付とは羨ましい
手嶌葵×谷山浩子てーと「歌だけはよかった」と評判だった『ゲド』の「テルーの唄」コンビですね!
や、個人的には『ゲド』好きなんですけどね〜
やぱしいまわの際の1枚はジミヘンじゃなくて谷山浩子でしょ(笑)
さて、文化事業か手の内バラシかって珠玉の作品を次々繰り出すジブリライブラリーですが本作は直球でハヤオ直撃したんだろなぁ感がひしと感じられて面白かったです
ゲルダ=戦闘ヒロイン元型
山賊娘=屈折少女元型(→後に改心)
囚われの姫じゃないんですよね、戦うのは女の子!うわ〜こんなんいっぱい観てるわ〜(笑)
日本のヲタクのメンタリティが生み出した幻想だと思てたら50年前のロシアにその原点が!
チェコアニメだとカレル・ゼマンやイジー・トルンカ辺りがオススメですかねぇ
人形アニメなんですが独特の味あって好きなんですよね〜
みさま
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
お!なるほど、『ゲド〜』の歌のコンビでしたか☆
以前もジブリ関係に縁のあるシンガーだったのか・・。
ジブリの音楽の選曲、本当いいものばっかですよね。
>やぱしいまわの際の1枚はジミヘンじゃなくて谷山浩子でしょ(笑)
あー!そー言えば、以前コチラにて
http://www.rezavoircats.com/archives/64715783.html#comments
みさまがそう言ってくれてたことがありました!映画ばかりでなく音楽マニアのみさまが選ぶとは、谷山浩子には一目置いちゃいます。
そうそう、谷山浩子は、駿とは一味違う、自分なりのこの映画の解釈を加えていて、すごく興味深かったですよ。
この『岸を離れる日』という歌も、本当にいい曲でした。
>ゲルダ=戦闘ヒロイン元型
>山賊娘=屈折少女元型(→後に改心)
ハヤオ繋がりで河合節も効いてるユング派解釈な一言、さすがっス☆
そっかージャパニメーションの原点と言われると感慨深いですね・・・。
>ゼマンとトルンカ
是非、見てみますね。渋谷にチェコ料理+チェコアニメのコースを出すお店を発見したんですよ。みさまも興味ありましたら教えますよ〜。
雪の女王<新訳版>/鉛の兵隊(’57)
先日新作DVDリリースのレフ・アタマーノフ監督作品。作品誕生50年記念として、昨年日本でオリジナル版初公開、雪の女王に連れ去られた少年を、幼なじみの少女が探しに旅に出る物語のロシアのアニメ。原作アンゼルセン童話との事でも気になっており、先日「人魚姫」モチ…