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#183.ジャッキー・ブラウン

ジャキー図らずも、映画の冒頭で胸がいっぱいになってしまった。
『110番街交差点』のオープニングソングがかかり、横向きのパム・グリア。
スチュワーデスの制服を着て、少し疲れて見える。・・・

あれから丸10年も経ってたんだ。まだ、こないだのような、あるいは遥か昔のような。10年て、こんな風に感じるものなんだなあ。

ストーリー・・・
メキシコ航空の黒人スッチー、ジャッキー・ブラウン(パム・グリアー)は、その少ない年収の裏で、別の顔を持っていた。それは、武器密輸人、オデール(サミュエル・L・ジャクソン)の裏金の運び屋。ある日、捜査官レイ(マイケル・キートン)に目をつけられたジャッキーは、5万ドルの金を押収されてしまう。ジャッキーは、ATFの捜査当局、レイ達に協力すると見せかけて、彼らと、また、武器商人オデールの双方をも騙しにかける、残りの人生をかけた大博打を打つことに決めたが・・・

’97年、アメリカ。監督・脚本、クエンティン・タランティーノ、製作・ローレンス・ベンダー。原作、エルモア・レナード。

これは当時、決して評判のいい作品ではなかった気がする。割と、ボロクソに言われていたような。でも、私はとっても好きな作品だった。どうしてこれって、そんなに評判が悪かったんだろう?

時間軸をズラして見せたり、派手なやり合いのない、淡々と進む地味なドラマだから・・・?
それまでの『レザボア・ドッグズ』、『パルプ・フィクション』とは違って、古いR&B、ブラック・ミュージックのイメージそのままの映画。
シブい哀愁漂う、シックで素敵な作品だったのにナ・・・。

冒頭の『110番街交差点』が、ラストでもう一度、今度は歌詞に訳入りでかかるのが、なんと言ってもクールなこの作品。私は当時、大感激して映画館を出たのを覚えている。

人生最大、そして最後の大博打
このゲットーから出るための、最後のクロス・ロード・・・
もう自分が若くないと知っているヒロインが、ダメダメ人生から、なんとか形勢を立て直すための、人生最後の大博打なのだ。後はない。
この後のなさ、ギリギリ感。
これがこの映画を支配している感情であって、それがあるためにこの作品を傑作たらしめているのだ。

マフィアと、警察、法の目もくぐり、法の反対側に位置する輩の目もくぐり、二つをいっぺんにペテンにかけようなんていう、この、たった一人の中年女の賭け。
もしこれがうまく行かなければ、一生刑務所行きかもしれないし、それどころか、命すら危ないかもしれないのだ。
だけど、彼女は賭けた。
残りの人生を、ロクでもないまま終わってしまうのか、それと反撃に討って出るか、最後のチャンスに、彼女は乗ってみせたのだ。

♪そこから抜け出せば、ゲットーを抜け出せる・・・
110番街交差点。好きな曲だったな。・・・

きっと、このことが起こるまで、彼女の中で、ずっと温めていた計画だったのかもしれない。年収の少ない職業(フライトアテンダントって、そんなにアメリカではもうからないの?なんて思うけど)に、なんとかしがみつくのではなしに。どうしようどうしようと、毎日思いながら。
そこから抜け出して、行動に出た。
人生を賭けてのたった一人での反乱だったのだ。

後味には、少し淡い悲哀を感じる、・・・そんなラスト。
ハッピーエンドなのに、ホロ甘い大人の別れ。
恋らしきものがあったのに、大人だから、踏み込まずに終わるの。
この対比があるからこそ、その成功に、勝利の美酒に酔う甘さだけでない、ビターなハーモニーが加わっていて。・・・

パム・グリアーは、ここではクールな姐御なんだけど、強すぎず、とてもいい感じ。44歳という設定だけど、とっても綺麗で・・・。
初めの方に出て来た、保釈請負人の、マックス・チェリー(ロバート・フォスター)のセリフが、すごく優しくて、素敵なの。
「キミが、歳なんて言うなよ。キミに関しては、その台詞は通用しないぜ。
だってキミは、29歳の時と同じ容貌しているに決まっているのだから。」

この台詞は、ソックリそのまま、『コフィー』が大好きだった、タランティーノの、パム・グリアーへのリスペクトだと思うし、
何より、優しさと紳士さの溢れる素敵なセリフで・・・
保釈請負人、マックスの、最後まで貫く純愛もまた、とっても素敵な大人の純情という感じ。
申し訳ないのだけれど、私は、この作品はこれで三度目に見たのに、
今まで、このマックスの存在は自分にとっては、結構どうでも良かったみたい・・・。
見返してみたら、このオジサンがとっても素敵に思えちゃった。かわいいオジサンだったんだな。

実は私、武器商人、オデール、サミュエル・L・ジャクソンが、当時一番印象深くて大好きだった。
こんなにサミュエルが、カッコ良く見える作品なんてないと、ずっと長年思ってた。
当時、カンゴルの帽子を、片っ端から買いまくったりしてた。何色も持ってたよ。まるっきり、サミュエルのマネっ子なんだけどね。それカブって歩いてたら、クラブで外人さんに「ジャッキー・ブラウン!」て言われたよ(笑)

それから、マヌケのボーマンは、クリス・タッカー。それからシド・ヘイグもなんと裁判官役で登場!
それから、今更知ったのだけれど、このATFの捜査官レイ役、マイケル・キートンは、『アウト・オブ・サイト』の時と、全く同じ格好だったなんて(原作がエルモア・レナードで一緒なのです)。

人によっては、このユルいペースで進む物語が、あまり好まないかもしれないけれど。
なかなかないよ〜、目開けたまんま、居眠りをするデ・ニーロの姿なんて。

当時、デ・ニーロが、この役をやる、というのが、見る前一番不安だったな。なんたって、デ・ニーロは、顔立ちだけで十分威厳があるし、マフィアのドンの役こそ似合うのにって。
いくらタランティーノが『タクシー・ドライバー』が好きだからって、デ・ニーロがマヌケな役なんて無理でしょう!と思ったのだけれど・・・
本当に自然に、“マヌケ役”として、デ・ニーロが呼吸していることに、当時はとっても感激しちゃったんだ。
こないだ、『スターダスト』でデ・ニーロにビックリした人も居ると思うけど、ちょっと変り種のオカシなデ・ニーロを見たい人は、この作品をおすすめ。
デ・ニーロって、本当に凄いんだ、なんて思った。

そして、言

 

2007/12/06 | 映画, :アクション

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コメント(19件)

  1. とらねこさん
    丁寧なコメントありがとう!書き方悪かった
    んですが、単独版「プラテラ」もエルレイが何者か?はリール消失で判らないんです。全く同じです。何者なんだ?(笑)
    「ジャッキーブラウン」!「パルプ」の後で似た映画を期待した人は正統ブラックスプロテーションで今一つな評判でしたけど、今ではタラちゃんのベストに挙げる人多いですね
    普段iPodでシャッフルさせて曲聴いてる事
    多いんですけど、♪フゥ〜ウゥウ〜♪
    ジャッジャーン!
    「110番街交差点」が鳴るとおー!
    ってなって瞬時に冒頭のあの映像が浮かびます!
    パムの曲は味があって好きです。日本人が唄ってるように歌詞が聴き取れると思いません?
    99 years is a long long time, 1999 years is such a long long timeって歌ってしまいます〜
    見直したくなりました

  2. kazuponさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
    本当、エル・レイは一体何者なんでしょう〜。
    でも「流れの有名人」、謎は謎のままでよいのかもしれませんね^^
    「キミがあのエル・レイか」
    (一同)「おお〜っ、オマエが噂の・・・」
    というシーンだけで十分ですもんね!(爆
    本当そういうセンスは大事ですよね☆
    ああ、そうそう、ジャッキーブラウン、これをタランティーノの傑作に挙げる人が多いですか!
    私が一番好きなのは・・いやなんでもないッス
    しかし、パムの曲、実は昨日見たDVDにちょうどこの曲がオープニングで使われてて、おお、タラはここから引っ張って来たんだ!というので感激してたんですよ。そのDVDは『残酷女刑務所』です♪
    >99 years is a long long time, 1999 years is such a long long time
    Wow, Look at me! You’ll never be free〜ee〜eee〜
    (この伸ばしっぷりがいいんですよね)

  3. だよね〜!
    The DELFONICSのハートさんはお気に入りのふぁるせったーです。
    そして往年のしゃうたーではボビー・ウーマックがイチバン好きだ!「110番街交差点」では抑え気味ですか、「準備は万端だぜ」って感じのしゃがれ声がクールです。
    この曲、来年早々再び劇場で聴けるかも?ですよ。男気映画で。
    パム・グリアはこの映画に出て、初めて女優としての自信を持てたんですって。「クエンティンがわたしに気づかせてくれたの」って言ってました。それまではずっと自分をダメ女優と思っていたそうで。
    50歳手前で若い男性(←タランティーノ)に自分を最高だって言ってもらえるなんて、すごくロマンティックです。
    そしてパム・グリアに感謝されたタラちゃんは、世界中の女に感謝されたようなもんです。←言い過ぎました。すんません。

  4. ふぇあるーざさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    The Delfonicsは、なんてロマンチックなムード漂う素敵なR&Bなんでしょうね〜♪
    あの曲がかかってる時に口説かれたら、女性はついついコロンといってしまうんじゃないでしょうか?
    そして、ボビー・ウーマックがお気に入りのふぇあるーざさんだったのですね☆
    私には、かれのしゃがれ声は、酒焼けしすぎ&ドラッグやりすぎ、かつ葉巻まで吹かしてそうに思えてしまったのですが、これが飲み屋でかかったら、まず「テキーラショットで〜」なんて言いながら、自然に手が出ている自分にハタと気づくと思います。
    「準備は万端だぜ」という言い方も、とても素敵だと思います。まるで、英語の直訳的表現みたいです
    パム・グリアはそういえば、当時のインタビューでそう言っていましたね。
    おっしゃる通り、タラちゃんは、なかなかにレディ・リスペクターで素敵です☆

  5. 「ジャッキー・ブラウン」

    ジャッキー・ブラウン東芝デジタルフロンティアこのアイテムの詳細を見る
    黒人スチュワーデスのジャッキー・ブラウン(パム・グリア)は、密売人の売上金をメキシコから
    アメリカに運ぶ副業を持っていた。だが、ひょんなことから逮捕され、捜査官レイ(マイケル・キートン)

  6. こんばんは〜♪
    コメント&TBエコー、どうもありがとうございました〜!
    そうそう、これサントラも最高でしょうね〜♪
    かなり音楽が気に入ったので、欲しいなぁ、と
    思っているところです。
    デ・ニーロが思いがけない役で、おぉ〜・・
    こんな風にも出来るんだ、こういう要求(?)を
    したラタンティーの監督ってやっぱりすごい・・って思いました。
    「コフィー」見てないんで、是非とも見てみたいと
    とらねこさんの記事を読ませてもらって思いました♪

  7. メルさんへ
    こんばんは〜♪コメント、TBありがとうございました!
    (TBエコーって言い方かわいいですねw)
    メルさんが、『レザボアドッグズ』に続いて、この映画も見てくださって、とっても嬉しかったです〜♪
    サントラすごくオススメなんですよ!
    普通に聞いててもシブくて素敵なR&Bなんです。
    デ・ニーロは、あれだけマフィアのドンをやっててこの映画なんですもんね。
    この当時は、この映画の前に『ヒート』だとか『カジノ』でマフィアの役をやってた後だっただけに、余計ビックリしましたよ。
    『コフィー』はオススメです〜♪

  8. 「ジャッキー・ブラウン」

    たまにはタラちゃん(クエンティン・タランティーノ監督)でも観ようかなーーー。

  9. この作品にトラ・コメ入れてくるとは、さすがとらねこさん。
    お礼に「タカの爪」のトラバ入れておきましたので、よろしくぅ。
    おっとこの作品・・・
    さすがタラちゃん、
    渋い仕事してるねっ・・・て感じましたっ。

  10. ひらりんさんへ
    こんばんはッス!コメントありがとうございました。
    確かにこれ、シブい映画でしたね。
    ひらりんさんはイマイチだったのね。残念・・。
    タラちゃんにしては哀愁感漂う、なかなかイイ作品だと思うんだけどなぁ★

  11. ジャッキー・ブラウン

     コチラの「ジャッキー・ブラウン」は、製作総指揮も務めたエルモア・レナードの小説「ラム・パンチ」を、クエンティン・タランティーノ監督が映画化した痛快クライム・サスペンスです。主演は、「Lの世界」でレギュラー出演陣の中で唯一ストレートの女性キットを演じてい…

  12. そうなんですか?評判悪かったとは知らずに、
    なかなか面白く観てしまいました。良かったですよね?
    サミュエルのハンチングはもう似合いすぎ!
    とらねこさんがかぶってる姿も見てみたいです〜♪

  13. miyuさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうですね、これは当時、評判悪かったというより、『パルプ〜』の後で華々しい作品を求められていて封切られた割に、
    そうでなくシブい作品だったので、期待を裏切られた人が多かったみたいんなんですよね。
    サミュエル、この頃なんだか若くてカッコ良くてビックリしませんか?
    私は帽子大好きなんで、軽く30個は持ってます〜。

  14. うわぁ〜30個はすごいっ!
    あたしも帽子好きなんですけど、
    そんなには持ってません。
    でも、今度ハンチング挑戦したいなぁ〜って
    思ってるところなんですよ〜♪

  15. miyuさんへ
    ハイ〜帽子大好きなんです。
    半分はキャップなので、最近はソイツら被ってないですし、
    たくさんあってもお気に入りばっかり被ってしまいますけどね♪
    ハンチングは、着る服とかも限定されてしまうんですよね。お洒落じゃない服だと似合わなくて・・。
    去年買った、お気に入りのハンチングは、チェック柄です

  16. 2007年のとらねこさん、こんばんわ。
    「レザボア・ドッグス」の次に借りようと思っていたら六本木のレイトにかかっているのを知り、よく調べもせずに速攻で駆けつけました。
    ・・・・こんな尺が長い作品とは知りませんでした。お家に帰れなくなった。
    でも面白かったから許す。

  17. imaponさんへ

    ワーイ♪2013年のimaponさん、こんばんは〜!
    六本木ヒルズのレイトで見て来たんですね!
    こちらも結構気に入ったみたいで嬉しいな〜♪
    帰れなくなっちゃったとは可哀想に…。

    私もこれ見たの、新宿だったんですが、オールナイトで見に行きました。
    何となく雰囲気がいつもと違う気がして、ワクワクしました^^
    imaponさんにも、逆にいい思い出になるといいな!

  18. 通りかがりの者です。
    2、3日前、アメリカの作家、エルモア・レナード死去の報。内容読むと映画「ジャッキーブラウン」の原作者とのこと。
    「ジャッキーブラウン」は「110番街交差点」のテーマ曲をカバーした映画として知っていました。
    ボビー・ウーマックの「110番街交差点」テーマ曲は、映画音楽史上屈指の名曲と私は確信してます。
    「ジャッキーブラウン」、レンタルショップへ行くと運よくあったので借りました。
    う~ん、こちらも良いですね~。
    キャスティング最高、ラストシーン最高。
    クールの一言です。

  19. さぽにん99さんへ

    初めまして、こんばんは〜!通りがかりでもコメントを残してくださり、ありがとうございます。嬉しいです!
    そうですね、つい先日訃報を聞いたばかりですね…。残念なことです。ハードボイルド作家として、英文学専攻の頃にいくつか読みました。まだまだ読み残した彼の本がたくさんあります。『ラム・パンチ』は読んでないなあ…。

    あ、『110番街交差点』、こちらの方の映画をご覧になりましたか。私こちらをまだ見ていないので、機会があったら見たいなあ〜なんて思っていたところです。
    ボビー・ウーマックのテーマソング『110番街交差点』は最ッッッ高!!!私も大好きです。
    あれ聞いた途端に、まるでシガーの香りがむんと部屋中に薫るような。何とも味わい深い、渋くて素敵なオジサマの声…♪

    この作品も私、大好きです。劇場でこの時二度目の鑑賞でしたが、すでにDVDで何度も見てますよ^^*




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