#174.呉清源 極みの棋譜
まだ存命の呉清源、御年90歳。冒頭で本人の姿が出て来て、おやっ、と思う。
チャン・チェンの姿がとても美しくて、美男子だったという呉清源の若い頃の姿を想像させる。
ストーリー・・・
1914年に中国・福建省で生まれた呉清源(チャン・チェン)は、7歳で囲碁を学び始めたちまち“天才少年”と呼ばれるようになる。1928年、日本人棋士、瀬越憲作(柄本明)の尽力によって母と来日。その実力で日本囲碁界のトップに。1936年、清源は中原和子を紹介され翌年、結婚。しかし太平洋戦争が開戦、母たちは祖国への帰国を余儀なくされる。1944年、清源は徴兵検査を受けるが持病のため免除。その頃から次第に深い孤独を感じるようになっていくのだった。・・・
“失われた日本”、あまりに美しい日本の情景に、思わず心を奪われた。
静かに、静かに、心に行き渡る。
こういう映像を自分は期待してこの映画が見たかったのだ、と心底感じた。
どこか懐かしい感じのする、畳。古い家屋。
差し込む光も、全てが自然光のような、まるで目の前に居るかのような錯覚に陥る。
チャン・チェンも文句なく美しく、黙っていても気品に溢れている。
残念なのは、目が眼鏡の奥で、あまりよく見えないところだ。
もっと寄ってくれたらいいのに、と思うが、カメラはそれほど寄らない。
一番寄ったのも、対局の時のほんの少し。だが、それも、幾度もあることではなかった。
この時代の文人に讃えられ、熱狂的に愛されたという、呉清源。
川端康成は、「私は呉さんを見るのが好きだ。少年のころは、美少女と貴人を合わせたような姿だった。一見して天才といふ印象を受ける。」と書いているし、
谷崎潤一郎も、「俗世間を離脱した超凡なものがあの顔にある」、と書いた。
そして、呉清源と実際に対局したことがある、という坂口安吾も、「非人間的な勝負の鬼」と言っている。
天才ならではの壮絶な孤独、とのことだが、日中戦争が始まった頃の日本に住むのは、さぞ耐え難きことだっただろうと想像する。
元々とても繊細で、碁と勝負と、その上での哲学のことしか考えていないような人だったようだ。
“囲碁の神様”と言われた呉清源。
チャン・チェンが佇む姿には、静謐さが漂っていて、何か別の精神が宿っているとすら言えるような超越した何かを感じさせる。
この人を見るのが好きだ、と川端康成が言ったのも、なんだか分かる気がする。
俗世間の汚れた垢、といったものを感じない、精神的な存在であるかのようなクリアな純真さ。
そういう人なのだろうなあ、と思う。
何より一番心に残るのは、この美しい風景だった。
自分は一度も行ったことがないはずの場所なのに、どうしてこんなに心が落ち着いて、懐かしさが溢れてくるのだろう。・・・
だけど、あまりに台詞が少ないので、別のことばかり考えていた。
私は、囲碁の知識は全くないので、そうした勝負のあれこれなどは分からなかったけれど、この作品は、囲碁の手や専門的な知識のことは、それほど触れていなかったような?
それとも、本当に分からないため、頭を素通りしてしまった可能性もありますが・・・。
ただ、そうした囲碁のことが分かる人には、もっと感動できるかもしれない。
私には全く想像もつかなかったのだけれど、この静かに流れる静謐さ、というものに、寄り添って見ていた。
ただ、寝不足で行くのは厳禁。
100%、まず間違いなく、眠くなりますから。
十分に睡眠を取っていても、すやすや寝てしまうかもしれません。
私が見た時は、オジサン率がすごく高かったのだけれど、いびきが聞こえてきました。
ずっと起きているのは至難の技。
まず、ご飯は絶対に食べない方がいいし。
私はいつも映画には、《ドライハード》の激辛なミントを持っていくのだけれど、この作品では、次から次へと口に放り込んでいました。
それでも、途中ちょっと寝てしまった。
谷啓のナレーションがあまりに良くて、思わず見たくなってしまった今作だったのだけれど、谷啓のナレーションは当然ながら、予告だけでした。・・・
囲碁を知ってる人、和な空間をじっくりと腰を据えて見てみたい人、チャン・チェンのファン、そういう人には楽しめる映画だと思います。
え、私・・・?
正直、そのどれにも当てはまらなかったので、辛かった・・・。

2007/11/19 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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コメント(19件)
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呉清源 極みの棋譜
中国
ドラマ&伝記
監督:ティエン・チュアンチュアン
出演:チャン・チェン
柄本明
シルヴィア・チャン
伊藤歩
【物語】
昭和3年、北京で囲碁の天才少年と騒がれた呉清源は、棋士・瀬越憲作の
尽力で14歳で母と兄と共に来日…
こんにちは♪
ボクは男のクセに囲碁はおろか将棋も不調法
なんですが、何故かこれ等を扱った作品が好
きで観に行って来たんですよ。
>囲碁の手や専門的な知識のことはそれほど
触れていなかった
対局の緊張感なども、もう少し伝えて欲しか
った気がしないでもなかったです。
寝ちゃいましたか〜。ボクは珍しく全然眠く
ならんかったです♪ (゚▽゚)v
「呉清源〜極みの棋譜」感想 映像秀麗だが内容は・・・
チャン・チェンの眼鏡+和服姿の写真に惹かれ、どんな映画かな?と調べたら、“碁の神様”と呼ばれた中国・福建省出身の稀代の天才棋士(14歳で来日して囲碁交流で日本と中国のかけ橋となった)呉清源氏の半生を描いた実話、という??_
とらねこさん〜こんにちは☆
私は眠りはしなかったものの、寝ちゃう人が多い映画だろうなぁ〜と思います。
風景とかは、素晴らしいんだけど、内容は、ちょっと起伏が少ないというか、なんというか・・
もっと碁の実力が凄い!という処とか見せて欲しかったです。といっても、全然碁のことは知らないんですけども。
チャン・チェンの和服姿はとてもカッコ良かったです♪
風情さんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
とっても画の美しい作品でしたよね。
こだわりまくった感じがします。
こういう古い日本の家屋や、雰囲気が、本当に心に染み入りますよね・・・。
確かに、もう少し、碁のことは、触れてくれても良かったな〜と思います。
寝ちゃいましたが、ほんの少しでしたよ。
でも、流れる空気が良かったです。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
そうですね、確かに、もっと碁の実力の凄さ、という説明的な箇所があった方が、逆に彼の持つ静謐さを、引き立てていたかと思います。
あと、もっと寄りの映像があっても良かったと思います。
引きはすごく良かったんですけどね。
とらねこさん、こんばんは☆
意外なのを観られていてびっくりしました〜。
「チャン・チェンだな〜。でも寝ちゃいそうだなぁ」とスルーしようか迷ってました(笑)てかまだ迷ってるんですけど(笑)
【2007-166】呉清源 極みの棋譜
人気ブログランキングの順位は?
中国から来た史上最強の棋士
その数奇なる昭和時代を描く<真実>の物語
美しき天才の、静かなる孤独。
20世紀に一人・・・
華麗なる運命が、いま訪れる──
ヨゥ。さん
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
あれ、意外でした?私、谷啓のナレーションにやられてしまったんですよ。
「これ絶対見たい!」って思ってましたから。
しかし、一番いいのは、予告でしたね。
うーんそうですね、これは大きな声では言えませんが、スルーしてもいいかもです☆
呉清源 極みの棋譜(2007) 〜ヒカ碁ファンですが打てません
'''あらすじ'''
'''「昭和の棋聖」と呼ばれた何百年に一人の天才棋士、呉清源'''。
'''中国人であった彼が生きた昭和と日本'''は、必ずしも'''真理…
聖なる空間〜『呉清源 極みの棋譜』
THE GO MASTER
中国・北京に生まれ、その天賦の才を買われ14歳で囲碁修行のために来日した
呉清源(ご せいげん)。川端康成を始めとする文豪に愛され、昭和囲碁界最強の
打??.
とらねこさま、こんにちは〜。
これは、あまりお気に召さなかったのですね?
私は、凄い映画だな、と思ってしまいました、眠くもならなかったんですよ。
チャン・チェンくん観たさだけで鑑賞したのですが、とっても「志」のある監督さんだな、と思いました。
もちろん、チャン・チェンくんもよかった!
でも、評判はイマイチなようですね。。仕方ないか。。
ではでは、また来ます〜。
真紅さんへ
こんばんは〜♪コメント&TBありがとうございます!
真紅さまは、随分とこの映画は、感じ入ってご覧になったのですね。
私は、もう少し役者の表情が見たい、という瞬間が何度もあったんですよね。
全体としての画は美しいのですけど、もう少しチャン・チェンの演技を、じっくり見たかったです。
額縁眼鏡をかけているせいか、目の表情が読み取りずらかったのですが、加えて遠目に映すので、途中で落胆して、眠ってしまいました。
呉清源 極みの棋譜:こういうささやかな日中友好も良いよね
★監督:ティエン・チュアンチュアン(2006年 中国作品) シネマート心斎橋にて。 『花蓮の夏』にひ…
こんばんは。
>どこか懐かしい感じのする、畳。古い家屋。
そうですね。私の感覚では母方のおばあちゃんの家に通ずる懐かしさでした。家屋や庭園の落ち着いた雰囲気には、何だか癒されるような気がしますね。だいたい私は「わび・さび」もよく分からないのですが、たまに京都市内のお寺を訪れて、庭を見ながらひたすらボンヤリと過ごす一時が好きです。
・・・そうそう、映画の話を忘れていました。
私の場合、寝てしまうことはなかったものの、穏やかすぎるストーリーの流れにちょっと退屈さを感じました。もうすこし見せ場を作ってくれたほうが見応えがあったと思います。呉清源氏の誠実な人柄はスクリーンを通して伝わってきましたが。
最後に。
いつの間にか、ブログヘッダーにサブタイトルが付いていますね。すごく身につまされる一言なんですけれど(苦笑)。
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
椀さま、この映画をご覧になったのですね☆
この映画での映像を通して、本当に心がすうーっと落ち着いていくのを感じました。
いいですよね、日本家屋。
京都の話、いいなあ〜
もちろん、京都じゃなくても、日本の家屋や、古い神社仏閣って、本当に好きです。ああ、またやりたくなってしまうなあ(遠い目
椀さまは、いつでも足を伸ばせば京都のお庭があるんですね。いいなあ、いいなあ・・。
そうそう、映画の話ですが、確かにちょっと穏やかすぎましたね。もう、眠気との戦いでした。
ブログのサブタイトルは、ずっと以前からあったんですよ。でも一つ前のは「TBコメント承認制」みたいな、気の利いたことは書いてなかったりしたんですが。
とらねこさん
ちょっとお久しぶりです!この映画記事どおり、
チャン・チェンの舞台挨拶という大阪では珍しい上映会で観てまいりましたー^^
そうそうチャン・チェンってめちゃくちゃキレイな
目をしているのに、この映画ではややめがねで
隠れてましたよね。
囲碁のウンチクよりも、碁盤に向かって碁を
静かに打つ、チャン・チェンの姿を撮れれば
それでいいんだ!みたいな絵がまず浮かんだ
映画なのかなと思いました。そんなに退屈
しなかったんですけど、恐ろしいくらいスロー
ペースな映画な割に、時代はどんどん進んでいく
不思議な作品だと思います。
ロケは近江八幡(滋賀県)でやったみたいですよ。
チャン・チェン、そのあたりのケーキがすごく
美味しかったらしくて、その話を熱心に
してました。^^
とらねこさん、
どうも最近、ライブドアブログにまったく
TBを受け付けてくれないみたいで、
エラーになっちゃいます。ごめんなさい!
kazuponさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
チャン・チェンの実物に会えたなんて〜!
やっぱり、カッコいいんでしょうね♪
おっしゃる通り、この作品では、眼鏡で隠れてて、せっかくの目が見えないんですね。
でも、本当のハンサムさんて、眼鏡だろうが眼鏡じゃなかろうが、美しいのが分かるんですよね。
イイナア・・・
ちなみに、TBは、お気になさらないで下さい。
そういうのは、どこでもありますよね。
た、確かに、すっごくスローペースで進んでいくのに、時代だけはドンドン進んでいくのが不思議な映画ですね(笑)
同じことを言うにしろ、kazuponさんに言われると、不思議と新鮮な気がするのは、何ででしょう!?
(褒めすぎ?)