#169.エディット・ピアフ 愛の讃歌
ストーリー・・・
1915年にパリのベルヴィルで生まれたエディットは幼くして両親と生き別れ、祖母が営む娼館に身を寄せる。一度は失明したものの奇跡的に回復し、後に大道芸人の父に引き取られ、日銭を稼ぐためにストリートで歌っているところを、名門クラブのオーナー、ルイ・ルプレ(ジェラール・ドパルデュー)に認められ、その歌声から“ピアフ(雀)”と名づけられる。やがて世界的なスター歌手となった彼女は生涯最愛の恋人マルセル(ジャン=ピエール・マルタンス)と出会うのだった。・・・
’07年、フランス。監督・脚本、オリビエ・ダアン。
全編通して、彼女の激情がほとばしるような、めくるめくようなドラマ性。
彼女の歌があったからこそ、こうして、限りなく熱いものがこみ上げてくるのあろうか?
“人の伝記”といったジャンル映画がどうも得意でないためか、初めはこれ、スルーしようかと思ってたんだ。
フランスのシャンソンという音楽も全然知らないし・・・
冒頭で、ピアフが「ビリー・ホリデイ」と同い年なの」というシーンがあっだけど、ビリー・ホリデイのCDは持ってても、エディット・ピアフの名前は聞いたこともなかった私。
スズメを意味する名前を名づけられるピアフ。
このエピソードと、彼女の逞しく、人の心を摑んで離さない声を聞いて、日本人なら誰しも美空ひばりを思い出さずにいられないと思う。民衆に愛されたところも、貧しい出身も。この眉毛も。
そう思うと余計、今まで興味が湧かなかったシャンソンというものが身近に感じた。
物語は、時系列をグルグルと自由自在に描く。彼女の晩年を描いたり、子供の頃を描いたり・・・だが、彼女の人生には一貫性があった。
いつも歌がそこにあったということ。子供の頃から、ずっと歌を歌っていたこと。
ピアフの歌声を物語の冒頭で聞けたことが、この世界にすんなりと入っていける理由になった。なんて心を掴む歌声なんだろう。
歌詞もえげつない感じ。
気取ってないパリの裏側ってこうなんだ。これぞ民衆の力強さだ。
祖母に娼館で育てられた子供時代は、惨めなものとして描くのかと思いきや、そうではなかった。
むしろ、ティティーヌという、“娼婦にもっとも似合わない娼婦”に、大事に育てられ、心が温かくなる。彼女との別れのシーンは、思わず涙したほどだ。
火の中にマリー・テレーズを見るシーンは、なんとなく『ジャンヌ・ダルク』を思わなくもないけれど、彼女の目が見えるようになった、という奇跡は、彼女をして、一生涯信心深くさせるキッカケになっただろうと。
娼婦に塗られた口紅が、真っ赤で、まるでピエロのように見えるのだけれど、この口紅から老年のピアフへと場面転換がされてゆく。
眉毛のないピアフの表情は、物悲しい可笑しさも感じたりして、なんとなくピエロのようでもあった。
真っ赤な口紅は、ティティーヌを思い出す・・・こういう演出は、とても好きだ。
さりげなく、その娼婦の存在を、どこかでずっと忘れなかったピアフを、言葉少なに描いている。
音楽で上手に心を昂ぶらせられた、これがとても快感だった。
ピアフの歌を聞いているだけで、涙が出そうになってしまう。
一本の映画で所詮、人一人の人生を描くには、尺が短いこと、その割に見ている方にはどこか退屈を感じるところ、そんな伝記映画のマンネリ感を破ろうという意志が見て取れる。
確かにそうした退屈さとは一線を画している・・・ドラマティックな激情がずっと流れている。
監督のオリビエ・ダアンは、エディット・ピアフ役のマリオン・コティヤールに「トランス状態で演じること」と言ったそうだ。
彼女の演じる、エディット・ピアフには、どの瞬間もどの瞬間も、まるで“伝説”のように感じさせる、などと言ったら、言いすぎだろうか?
きっとこんな風に、オチャメで、口数が多くて、下品で、愛らしい人物だったのだ。
そして、若い頃からずっと、猫背。
猫背と言えば、老年(と言っても彼女にとっては、ということだけれど)だけかと思いきや、若い頃もずっと猫背なので、それが時代考証を表してはいなかったのがちょっと分かりずらかったかな。よくよく見れば、皺の数とか、アゴのあたりのタルミだとか、細かく作っているのにビックリするにも関わらず。
それにしても、これを演じているのが26歳のかくも美しい女優さんなのだ。驚いてしまうでしょ。ここまで演技派だったなんて・・・素晴らしいキャスティングだと思う。
少なくても、私は彼女じゃないと、見に行ってなかった。
『TAXI』で初めて見た時から綺麗な人だなあ、と思って、『ビッグ・フィッシュ』『ロング・エンゲージメント』少ししか出演シーンがなくても、強烈な印象を残す女優さんだなあと思った。
特に一番好きなのは『世界でいちばん不運で幸せな私』(’03)だ。
若い人にしか分からないだろうこの作品。まだ見てないなら、是非とも見て欲しい1作だったりします。
・エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜@映画生活「エディット・ピアフ 愛の讃歌」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
2007/11/11 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物, :音楽・ミュージカル・ダンス
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コメント(19件)
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真・映画日記『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』
9月30日(日)◆579日目◆
「SRナイト」の打ち上げが終わったのが朝の5時。
7時半に帰宅。
しばらく寝て、起きると午後1時半。
外は雨。
今から外出して銀座で映画を見るとすると
帰宅は9時ころかあ。
なんか、かったるいなあ…
そうだ!先週の日曜日に行った…
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜
誰でも一度は耳にした事があるであろう『愛の讃歌』を大画面で聴きたくて鑑賞―【story】『愛の讃歌』など、数々の名曲で世界中を魅了した伝説の歌姫エディット・ピアフの生涯を描く伝記ドラマ―歌手を目指す母アネッタ(クロチルド・クロー)の娘エディット(マリオン・コテ…
こちらにもお邪魔します。
この映画はとても評判が良かったのですが、私はちょっと酷評になってしまって・・・
とらねこさんも感動されたようなので、コソッと寄らせて頂きました。
マリオンの演技は素晴らしかったのですが、どう〜もイマイチダメだったんです。
ちょっとピアフの風貌などを受け付けなかったのかもしれません。あ〜ん!ヘナチョコですみません(汗)
*エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜*
{{{ ***STORY*** 2007年 フランス=チェコ=イギリス
1915年にパリのベルヴィルで生まれたエディットは幼くして両親と生き別れ、祖母が営む娼館に身を寄せる。一度は失明したものの奇跡的に回復し、後に大道芸人の父に引き取られ、日…
そうなんですよね。わかります。
マリア・カラスにしろ、ピアフにしろ、どうも伝記的かな?と思うと一瞬腰が引けてしまいます。
でもその種のを観るといつもやたら感動。
特にこの作品では彼女の壮絶な人生があったからこそ、私たちが今あの歌声を聴ける・・ということがよくわかりました。
マリオンにもびっくりですよね〜
TBさせてください。
エディット・ピアフ 〜 愛の讃歌 〜
エディット・ピアフ 〜 愛の讃歌 〜 (2007 フランス・イギリス・チェコ)
原題 LA MOME
監督 オリヴィエ・ダアン
脚本 オリヴィエ・ダアン イザベル・ソベルマン
撮影 永田鉄男
音楽…
とらねこさん、こんばんわ
>冒頭で、ピアフが「バディー・ホリーと同い年なの」というシーンがあっだけど、
すいません、僕はこの台詞をよく憶えていないため
自信がないのですが、(わ、ピアフそっくりだ!と映像ばかりに気をとられていたもので…)
生年月日データを見る限りではバディー・ホリーではなく(ピアフと同じ1915年生まれの)ビリー・ホリディではないか、と。
バディー・ホリーという歌手を僕は恥ずかしながら知らなかったのですが、若くして飛行機事故で亡くなってしまった方なんですね…。
>真っ赤な口紅は、ティティーヌを思い出す
うっ、これは気づかなかった…。
言われてみればそうですね。
もう1回、この映画を観たくなりました!
由香さんへ
こちらにも、コメント&TB,ありがとうございました!
そうですね、時々由香さんは、結構辛口・・・?なのかな?と思ったり、甘口なのかな・・・?と思ったり。
いまだにどっちなのか分からなかったりします(笑)
私もまあ、その点は人のこと言えないかなあ〜。
私はこの映画は、あまり評判いいとは知りませんでした。というか、あんまり人のを読んでなかったんですよ
Cartoucheさんへ
こんばんは。コメントありがとうございます。
そうですね、ついつい、知らない人の伝記物・・・と思うと、腰が引けてしまいました。
でも、『永遠のマリア・カラス』にしろ、この作品にしろ、見終わった後は、とっても心に残る良作になってます。
moviepadさんへ私ったら、バディー・ホリーのCDなんか持ってないのに、何を間違えてしまったのか、取り違えてしまいました。訂正ありがとうございました。
こんばんは☆コメントありがとうございました!
>バディー・ホリー
すいませんでした
しかも、ビリー・ホリディの方は持ってるという・・。
「バディー・ホリーとビリー・ホリディって名前が似てるなあ」と考えていたら、間違ってしまいました
ティティーヌのシーンから、赤い口紅を塗るシーンに移行していくんですよね。赤い口紅を、まるでサーカスのピエロのように塗るシーンも、本当はティティーヌが娼婦という商売を嫌っていたのが分かる、いい象徴の使い方だなあ、と感心しました。
ティティーヌのことは、セント・ヘレナの奇跡と結びつけて、ピアフが祈りを捧げる際に、どこか彼女のことを考えていたのでは、と思っています。きっと、ピアフにとっては、奇跡と信仰心と、娼婦という、普通では考えられない組み合わせが、ピアフの中にあったように思っています。監督のティティーヌの描き方はとても好きです。
私は、一生ピアフはティティーヌを忘れなかったと思います。moviepadさんが、ティティーヌと娼婦のエピソードを取り上げた箇所、とても好きでした。私も、彼女の存在は、特別だと思います。
エディット・ピアフ 愛の讃歌
「エディット・ピアフ 愛の讃歌」LA VIE EN ROSE/製作:2007年、
こんにちは。
マリオン・コティヤールが素晴らしかったですね。
こうして改めて自然体の彼女を見ていると、とても同じ人物とは思えないですー
彼女を見るのは初めてではなかったけれど、ここまで演じきってくれるとは正直驚きました。
となひょうさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
私、マリオン・コティヤール、大好きなんです。
顔も好きなんですが、ここまでするとは思わなかったです!
本当に彼女の演技には、賞賛を惜しまない気持ちでいっぱいです・・・
私はこの作品も、すごく好きだったんですよ。
この監督の、ピアフに対する愛を凄く感じました。
エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜-(映画:2008年17本目)-
監督:オリヴィエ・ダアン
出演:マリオン・コティヤール、マノン・シュヴァリエ、ポリーヌ・ビュルレ、シルヴィー・テステュー、エマニュエル・セニエ、ジャン=ピエール・マルタンス、マルク・バルベ、ジェラール・ドパルデュー
評価:73点
公式サイト
「愛の….
とらねこさん,お久しぶり!
これ,やっとDVDで鑑賞しました!
一応TB試みてますが,たぶん反映されないと思うので
記事はURLの中にも入れてあります。
とっても,感動しましたよ〜〜〜。
ピアフの生き様にも,圧倒されましたが
何よりあの声!!歌い方!なんてパワフルで,ドラマティックな歌い方をするんでしょうねぇ。
人生の,酸いも甘いも噛み分けたひとでないと
あんな表現力はないでしょうねぇ。
私も彼女の声で美空ひばりを思い出しました。
ピアフさんよりはスケールが小さいけど生き様も似たものを感じました。
ピアフはすずめ,ひばりさんと同じ鳥の名前ってのも似てますね。
シャンソンはあまり興味がなかったけど
彼女の歌をもっともっと聴きたくなりましたね。
ななさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
お久しぶりでございました!
ななさんもとっても感動されたなんて、すっごく嬉しいです!
歌に自分の魂をこめる感じが、すっごく良かったですよね!
ななさんも美空ひばりを思い出しましたか。
フランスの「すずめ」に、日本の「ひばり」というイメージで、ピッタリですよね!
私も、シャンソンはなんとなく美輪さんのイメージだとか、梅ちゃんのイメージ?しかなかったのですが、ピアフの歌う歌には、感激しちゃいました!
エディット・ピアフ 愛の讃歌
コチラの「エディット・ピアフ 愛の讃歌」は、シャンソン歌手エディット・ピアフの波瀾万丈な47年間の人生を描いた伝記映画です。
主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞で主演女優賞を獲得したことでも話題になりましたね〜。なワケでやっとレンタル出来たので…
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜
LA MOME
監督 オリヴィエ・ダアン
出演 マリオン・コティヤール シルヴィー・テステュー
パス??.
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜
愛を生きた世界の歌姫 涙と喝采の物語