#166.僕のピアノコンチェルト
なんだか愛らしい作品だった。
シリアスすぎたり、いろいろなことを考えさせる、という重い映画ではなく。
心のどこか温かい場所に、このスイス映画は、きっと収まるような気がしている。
ストーリー・・・
別世界から来たような天才児、ヴィトス(テオ・ゲオルギュー)。初めて買ったおもちゃのピアノで「ハッピー・バースデー」を弾きこなし、幼稚園で地球温暖化について語り、お遊戯そっちのけで辞書を読みふける。IQは高すぎて計測不能だった。そんなヴィトスに両親は輝かしい未来を夢見ていた。・・・
この作品の主人公、テオ・ゲオルギューは、実際の神童だそうだ。9歳の時からピアニストとして活動している、将来を嘱望された人でもある。
なのでもちろん、最後のピアノのシーンが素晴らしいのに、舌を巻いてしまう。
天才児の孤独が描かれ、過分なまでの期待を両親から受けた彼が、次第に息苦しさを感じるようになってくるシーンは、見ていてこちらまで気が滅入ってくる。
だけど、両親としても、期待せざるを得ない気持ちは分かる。彼の才能を伸ばすために、正しい教育を受けさせたい、それは親としてきっと当然のことだ。
だけど、彼のためと思い、無駄なことを片っ端から排除する母親ヘレンと父親レオ。
親が出かけている間に、子供に酒を飲ませ、大騒ぎをしていた、ダメダメ子守のイザベルには、笑わせられただけに、彼女をクビにしてしまうのは残念に思った。人になつかない、難しい子供のヴィトスが、ようやく心を開くことが出来た後だっただけに・・・。
でも、親からしてみれば、とんでもない子守だ。それは当然なのだけれど。
しかし、人間にはいかに無駄と思われる時間が必要か・・・なんて思う。
一見すれば、全く意味もないような物事に、その人にとって大事な何かがあり、それらを子供から排除してしまうことで、子供の何かを失ってしまう。
でも、それこそ、教育というものの難しさなのかもしれない。
親になったことのある人には、この辺り、きっとよくよく考えてしまうところだろうと思う。何がその子のために本当に正しくて、必要なことなのか・・・
大人の願望、自分が果たせなかった願望が含まれていないか・・・
考えれば考えるほど、親という存在は、難しいんだなあなんて思った。
子供が天才でなくたって、基本は同じことだ。子供は、真っ白なキャンバスに見えて、教育次第でいかようにでも出来そうに思うに違いない。
だから、そうしたことに、ヴィトスが自分自身で解決していったという、この途中からの方向性の転換が、私には嬉しく思えてならなかった。
そうせざるを得なかった、天才児ヴィトス。頭が良すぎるが故の行動というものは、凡人の我々にはなかなか出来ないことだ。
また、ヴィトスのそうした“自分の命を救うための方向転換”に、お爺ちゃん(ブルーノ・ガンツ『ヒトラー 〜最後の12日間』、『永遠と一日』、『ベルリン・天使の詩』)のアドバイスがあった、というのが喜ばしかった。普通のサイズの頭しか持っていなかったお爺ちゃん。だけど、何が本当に大事なのか、知っていたんだ。
大事なその時に、絶妙なタイミングで、本当に重要なアドバイスが出来た、そのことにも。
思うんだけれど、お爺ちゃんは、ヴィトスの命の恩人だったように思っている。
ヴィトスにとって大事だったのは、人と人とのコミュニケーションであり、本当に彼を分かってくれる理解者であり、愛情を彼が捧げたくなる人物。
両親は、ヴィトスの将来を思うあまりに、現在目の前に居る彼が、次第に見えなくなっていたのだろうと思った。
ラストのあたりでの、天才児の起こした、Internetを使用した金儲け・・・
マジメに働いているお父さんからすれば、そして世間一般の価値観からすれば、彼のやったことは反社会的な行動ともいえるし、ギリギリのラインで(いや、すでに法律違反だ)本当には許されないことかもしれないけど、
これを見ている人はそうは思わないだろう。
爽快そのもの。してやったり。
天才児はこうでなくっちゃだ。
だけど、お爺ちゃんはそのお金を、違う使い方をしちゃった。自分の夢を実現させることがついに出来たけど、本当に大事だった天井の修理は・・・
余談だけれど、この作品のHPは、見やすくてすごく良かった。HTMLだけでシンプルに作られたwebページ。
loadingにかかる無駄な時間もなかったし、いちいち動画が使用されていないところがすごく良かった。eiga.comで作られたものだったようだ。
映画のHPはいつも過剰にフラッシュが使われているのが、非常に面倒で見るのがキライな私なのだけれど。
他の映画も見習ってくれればいいのに、と思う。

2007/11/07 | 映画, :ヒューマンドラマ, :音楽・ミュージカル・ダンス
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コメント(29件)
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ユーモアもあってあたたかい作品でしたね〜♪
おじいちゃんていう距離感は大事ですね。
両親は近すぎて力入りすぎちゃいそうで。
>全く意味もないような物事に、その人にとって大事な何か…
そうなんですよねぇ。イザベルも子供の頃からすごく魅力的でしたし。あーゆー「世間から見た普通じゃなさ」が世の中溢れていて結局それらに救われたりする。
おじいちゃんは天井の修理にお金を使わなかったのがいかんかったのかぁ〜。ふむふむ。
アンバーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました☆
なかなかの佳作でしたよね。
確かに、両親じゃ、だめだったんですかね・・・。
ただ、お母さんも、悪者に描いてなかったのが良かったです。
始めは普通教室で飛び級させるだけだったのに、人に言われてだんだんと英才教育になってくんですよね、
自分の仕事を増やしてまで、息子に賭けようとするのがら、誰だって次第に期待してしまうんですね。・・
イザベルは良かったですね。
ヴィトスも、彼女の前では、等身大の自分になれたんですよね、きっと。あの結婚指輪は、彼女の方が適さなかったのかもしれません。
>天井の修理
あれさえ自分でやろうとしなければ・・・でも、飛行機事故が死因じゃなくて良かったですね。
僕のピアノコンチェルト
ピアノだけではなくIQも高いスイスの天才児のお話。
いや、みんな可愛らしくてピアノが上手。へそ曲がりで傲慢な天才児の、演技なのか地なのかよくわからない、様子が本当にすばらしい。
話はファンタジーで「おいおいそんなのあり?」って突っ込みながら見てください…
こんー。
こっちにもオジャマしますぜー(笑)。
これ、当たったんだけど、他のと日にちがカブってんのよねぇ・・汗。
どっちも観たいんだけどねぇぇ・・汗。
悩むわぁぁーーー
何の曲を弾いてるか聴きたい!!
Hendrixさんへ
こんばんは〜♪こちらでは初めまして!
コメントありがとうございました^^
ええと。。。
>これ、当たったんだけど、他のと日にちがカブってんのよねぇ
これちょっと意味が分からないのですが・・
これもう、公開始まってますけど?
一曲だけ、ショパンを弾いてました。それしかわからんかった〜・・・焦っ
あ、意味プーよね!
公開は知ってるよー。
明日、銀座のテアトルで、サンスター?だっけかな?、主催して、「試写」と呼んでいいのかな??
当たったの。鑑賞券じゃないよ、もちろん。
だけどぉぉ、「約束」が観たいのさーー、
でも、こっちも観たいのさー。
分身したいカンジィィィ〜、(←ただのバカでぇぇぇーーす)
Hendrixさんへ
アハハ、意味プーでしたぁ☆
銀座テアトル、てことは、“試写”ではありませんね、なるほど、サンスターのスポンサーがついての企画だったのですね。そういうのって、あるんですね〜。
『約束』の方が見たいって・・・これって、その日と同日だったんですね。確か、mixiのカキコ見たけど、日にち間違って書いてませんでした?
>分身したいカンジィィィ〜
あ、ですね〜。そゆ時ありますね。私も自分のコピーロボが欲しいな〜。
僕のピアノコンチェルト
★★★★ 邦題やチラシを見る限り、天才ピアニストのお話しと勘違いしてしまうだろう。もちろん主演の少年は、実物の天才ピアニストであり、劇中もピアノの演奏が一番感動的ではある。 しかし原題が主人公の名前であることからも判るが、この作品は音楽映画はなく、脅威
僕のピアノコンチェルト
「僕のピアノコンチェルト」オリジナル・サウンドトラック(2007/08/29)サントラ、 他商品詳細を見る
監督 フレディ・M・ムーラー
(2006年 スイス)
原題:VITUS
【物語のはじまり】
6歳…
僕のピアノコンチェルト
モーツァルトのようにピアノを弾き、アインシュタインのように数学の才能をもって生まれてきたヴィトス。頭脳は天才でも心は12歳の少年のまま。
そんな彼が自分自身でいられるのは、大好きなおじいさんと一緒にすごす時間だけ。優しさに満ちたおじいさんの言葉が、少年…
『僕のピアノコンチェルト』
※カンの鋭い人は注意。※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。
(原題:Vitus)
—-今年って天才ピアニストの映画が多くニャい?
すでに公開されたところでは『神童』。
この夏が『ピアノの森』に『私の…
こんにちわ。
なんか可愛らしい作品でしたね♪
テオ・ゲオルギューのピアノには本当にびっくりしました。これを見るだけで満足って感じでした。
母親のいらだつ気持ちもよく描けていて、微笑ましいものでした。
私も感想を書いたので、TBさせていただきました。
僕のピアノコンチェルト VITUS
『山の焚火』は1985年公開ですから、今から20年以上前の映画ですが、難解な映画ではあるけれど、とても印象深く、たくさんの静謐で美しいシーンが記憶に残っています。 蜂の羽音しかしない静かな山の中の、姉と弟が暮らす小屋で聞こえる掛け時計の秒針の音。 不気味な…
とらねこさん、ぐーてん・あーべんと。
かわいい映画でしたねぇー。
教育について考えさせられたりつつも、ひたすら爽快にハートウォーミングっ。じいさんと孫のふれ合いってのもよかった。
#ああ、ところで、何だか、Livedoorブログにトラックバックができなくなりました・・・。
そうそう、映画の公式サイト、フラッシュのやつは嫌いです。いつもなんかヴァージョンアップしろとか、ダウンロードしろとかになっちゃうしー。基本的には文字情報を求めてアクセスするっていうのに前フリ長すぎー
jesterさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
>テオ・ゲオルギュー
この子は説得力がすごくありましたよね〜。
なんたって、本物の神童なんですもんね。
母親も、イライラするんですが、彼女の気持ちも分からなくはないですし、悪い人ではなかったですよね!
かえるさんへ
ぐーてん・あーべん☆コメントありがとうございました!
すっごくかわいい物語でした!
映画的に優れたもの、という作品ではないかもしれませんが、人間の温かさ、というものを感じられました。
前半の天才の孤独から一転、後半はおじいちゃんのために、天才が飛翔していく姿が好ましかったです。
TBは今、エキブロさんと相性が悪いのですね。了解しました。お手数をおかけして、申し訳ありません。
映画の公式サイトって、無駄なものが多いですよね!
私のPCはスペックが小さいので、映画のHPとか、ブログもサイドバーにたくさんアフィリエイト貼ってる人は、なかなかロードしてくれないので、遊びに行くのがすごく面倒なんですよ。
『僕のピアノコンチェルト』 VITUS
心地よいFLY&PLAY.
天才は大変、でも、輝ける子ども時代なのだ。
天才的な頭脳をもち、ピアノも弾きこなす神童、ヴィトスの物語。ハイジの国スイスって、馴染みがあるようで意外と身近じゃない国だよね。だって、純粋なスイス映画はほとんど日本公開されていなくて、ス…
Vitus (2007)
【邦題】僕のピアノコンチェルト
【あらすじ】驚異的なほどに高い知能指数を持ち、ピアノの才能も天才的。“こうなったらいいのに”と思い描く夢を全て叶える能力をもつヴィトス尮..
僕のピアノコンチェルト
ブルーノ・ガンツ。いい役者ですよね。このお話は私が考えていたのよりも、ずっとフ
真・映画日記『僕のピアノコンチェルト』
JUGEMテーマ:映画
11月19日(月)◆629日目◆
寒い。とにかく寒くなった。
そのせいなのか、肩と背中のコリがひどい。
けど、こういう時でもなんとなく映画館に行ってしまう。
4つ選択肢があり、
その中から『僕のピアノコンチェルト』をチョイス。
原題は『…
「僕のピアノコンチェルト」
スイス映画で音楽の天才少年を描いた「僕のピアノコンチェルト」を観ました。
スイス映画で音楽が題材だと「退屈」だと思うでしょうけど、トンでもないです。
ゆるめのコメディとしてなかなかですし、楽しいドラ 8-` р
インサイダー取引は楽しかったです。
天才少年なんか身近にいないので、おとぎ話としてとても面白かったです。
おじいさんも生きる天才だったというころなんでしょうね。質素に生きる以外の金は持たないのがカッコイイです。
クマノスさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました!
お返しが、だいぶ遅くなってしまいまして、どうもすみませんでした!
インサイダー取引、私も見ていて面白かったです。楽しいファンタジーでした。
私も頭がそんなによかったら、絶対お金儲けがしたいですw
おじいさんは、本当に素敵でした!
生きる天才・・・確かにそうでしたが、最後天井くらいは、自分で直さず大工さんを雇って欲しかったです(笑)
僕のピアノコンチェルト
僕のピアノコンチェルト’07:スイス
◆原題:VITUS◆監督:フレディ・M・ムーラー『山の焚火』◆出演:テオ・ゲオルギュー、ブルーノ・ガンツ、ファブリツィオ・ボルサーニ、ジュリカ・ジェンキンス、ウルス・ユッカ
◆STORY◆別世界から来たような天才児、ヴィトス….
独断的映画感想文:僕のピアノコンチェルト
日記:2008年8月某日 映画「僕のピアノコンチェルト」を見る. 2006年.監督:フレディ・ムーラー. 出演:テオ・ゲオルギュー(ヴィトス・フォン・ホルツェン(12歳)),ブルーノ・ガンツ(祖父),
とらねこ様
TB・コメントありがとうございました.
いつも周回遅れのTBに丁重なお返事をいただき恐縮しております.
子供の出る映画にはいつもしてやられます.テオも良かったけど,ファブリッツィオが可愛かったですね.
それとスイスって言語のおじや状態なんですね.ドイツ語・イタリア語・フランス語が使われていると聞いていたけど,英語も平気で混じっていたようで,いったいどうなっているんだと思いました.
ほんやら堂さんへ★
おはようございます♪こちらこそ、コメントありがとうございます。
イエイエこちらこそ、いつもTB返しが遅くなってしまい、申し訳ないです。
おっしゃる通り、スイスは色んな言語が使われるんですよね。
ドイツ語がスタンダードな地域もあるようですし‥
ところで、人種のおぢやって言い方面白いですね。“人種の坩堝”とはよく言いますが、英語だとサラダボウルなんて言いますね。
日本語で言うとおぢやなんですか、なるほど。
『僕のピアノコンチェルト』’06・スイス
あらすじまるで別世界から来たような天才児、ヴィトス。初めて触ったおもちゃのピアノで『ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー』を弾きこなし幼稚園で地球温暖化について語り、お遊戯そっちのけで辞書を読みふける。なんとIQは高すぎて計測不能・・・。感想正真正銘の神童…
映画「僕のピアノコンチェルト」
原題:Vitus
少年とおじいさんの物語といえば「ウォルター少年と、夏の休日」を思い出す、男の子にとってリタイヤして余裕のできたおじいさんはとても親しみやすい存在??
この映画、ただ単に現役天才ピアニスト少年が主役を演じたというだけではない、いわば少年の…