#164.ヴィーナス
あのね、私、「人間てこれでいい」って思うの。
「男って、本当にいくつになっても・・・」
なんて、この作品のチラシにも書いてあったけど、そんな風に肩をすくめながらね、仕方が無いなぁ〜もう〜って、思ってしまう。
ストーリー・・・
かつて数多の女性たちと浮き名を流したベテラン俳優のモーリス(ピーター・オトゥール)も老境に入り、今では端役の仕事を細々と続ける一人暮らしの孤独な身の上だ。そんなたそがれ気味の日々に、親友イアン(レスリー・フィリップス)の年若い姪ジェシー(ジョディ・ウィテカー)が出現し久々にときめきを覚える。粗野で非常識な姪を持て余していたイアンを尻目に、女心の専門家を自負するモーリスは俄然張り切ってジェシーに近づき、モデルになりたいという彼女のために仕事を紹介するのだが。・・・
『アラビアのロレンス』以来、アカデミー主演男優賞をノミネートされた、75歳の老俳優ピーター・オトゥール。
その彼が、この作品で8度めのオスカー・ノミネート。
監督は、ロジャー・ミッシェル。
何が素敵って、この人間讃歌、オトコ讃歌がいいなあ。
「しょ〜もねえ、エロジジイだね本当に」って、言ってしまっていいの!これは。
紳士だったり、尊敬に値する老境・・・そういうものじゃないってとこが良いのよ、本当に。
いくつになっても、バカで、成長しなくって、そういう男が描けているところがいい。
だって、きっと本当は、皆に尊敬の目で見られるような、そういう人だと思うのね、ピーター・オトゥールさんていう俳優自体。
それなのに、こんなエロジジイ演じちゃってる・・そこがいいんじゃない!うん!
って、気に入っちゃったな。
このモデルを目指すジェシー(ジョディ・ウィテカー)もね、結構ロクでもない女なのよ。
ロクでもない若い男を連れ込んでみたり、それほど人間的に素晴らしいって訳でも、特別にかわいらしい、って訳でもなかったりする。
言ってみれば、ただの若い女、ってだけで、実はそれ以上ではないとさえ言えるかもしれない。
それは私に、ゲーテ『ファウスト』の話を思い出させた。
それと言うのは、私が高校の時に習っていた塾の先生が言ったことで、私が思いついたことではないのだけれど、
ゲーテの『ファウスト』がドストエフスキーの『罪と罰』より優れている理由、という彼の説を語ってくれた。
『ファウスト』では最後に、魂の救済として女性が現れ出るが、マルガレーテはかつてのグレートヒェンという一人の女性で、一人の女性そのものではない。
言ってみれば、女性という存在であれば、何でも良かった、誰でも良かったのだ。そこが、ポイントなんだそうだ。
ドストエフスキーの『罪と罰』では一方、ラスコーリニコフの魂の救済者となるのは、ソーニャという一人の女性で、それは彼女の性格や、魂の美しさに起因する。
ロシア文学のドストエフスキーに、ドイツ文学のゲーテが勝っているのは、それが理由だそうだ。彼はこのことを、たかが高校3年の受験のために通っていた、英語の授業の合間に長々と語ってくれた。ひたすら頭の良い、上智の大学4年生だった。(ドイツ語学科の人だった。)
で、話は戻って、この主人公の老俳優、モーリスが恋する女性というのも、本当は彼女の名前、ジェシーというものがあるにも関わらず、老人は「ヴィーナス」と呼び続ける。
老人にとっては、美そのものとして憧れを抱いているのだ。
彼女の取る行動がどうであるとか、理由すらなく、ただ彼女に「恋する」。
その存在に・・・。
「恋する」という言葉、それを使うのがこの物語の極上のロマンチシズムでもある。
老人であるから、「あがめられる」わけでも、何かを教え諭すわけでも、決してなく、ただ単に、一人の男として、つまり、人間として。
男なんて、女なんて、これでいいのだ。

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コメント(18件)
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そう言って戴けると非常に助かります。
って、現実社会(の9割)ではなかなか通用しないんだけどさ〜〜
映画『ヴィーナス』で、アラビアのロレンスがえろじじいに
この映画『ヴィーナス』は、とあるおじいさんにすすめられたので、観にいってきました。おじいさんといっても、前は大きな会社の社長さんをやっていた偉い人みたいなんだけど。その方曰く、「僕らの世代にいたく響く映画。でも若い人も感動すると思うよ。」
主演のピータ…
映画『ヴィーナス』で、アラビアのロレンスがえろじじいに
この映画『ヴィーナス』は、とあるおじいさんにすすめられたので、観にいってきました。おじいさんといっても、前は大きな会社の社長さんをやっていた偉い人みたいなんだけど。その方曰く、「僕らの世代にいたく響く映画。でも若い人も感動すると思うよ。」
主演のピータ…
はじめまして。TBありがとうございました。
TB返しできなかったので、コメント残しておきますね。
後からジーンと良い気分になる、ステキな映画でしたね。
yes90125さんへ★
こんばんは〜☆コメントありがとうございました。
しかし・・・エロジジイ?!
げっ・・・そんなイメージなかったんだけど。やはりそうか。キミも。
でもジシイって歳じゃないよね?
結構なジジイです。
さっきご飯を食べたかどうか忘れるまでは行きませんが、
事前に前売券を買ってたのに「消えた天使」の当日券をレイトショー料金で買って
得した気分でいたりします。
後日、財布の中から前売券が出てきて愕然・・・
そんな私は今日「ゾンビ3D」の前売券を買いましたよ!
良かったら一緒に3Dメガネかけてプリクラ撮って下さい(爆)
rajaprukさんへ★
はじめまして、こんばんは!
コメント、TBレスありがとうございました。
TBは承認後の反映になっているのですが、文面が見つけずらく、申し訳ありません。んがっ、丁寧にありがとうございますo(^-^)o
そうですね、この映画、とってもじんわり温かく感じちゃいました。
女性より男性、そして年輩の方の方が、この映画を理解でき、感動もできるのかもしれませんが、私はよかったです♪
yesさんへ私、もう『ゾンビ3D』試写会で見てしまいました!ごめんなさい★
あちゃ〜!『消えた天使』の前売り券、もったいないことしてしまいましたね〜
そんなんじゃ、「東京で安く映画見ている」うちに入らないんじゃ・・(小声)
あ、残念
トルネードの社員?と思われる人物いましたが、綺麗でびっくりしましたよ・・・トルネードのくせに
B級映画として、最高に面白かったですよ!これ、B級好きには絶対分かるセンスだと思うんですが、いかがでしょう?
>良かったら一緒に3Dメガネかけてプリクラ撮って下さい(爆)
アハハ(爆)大笑いしてしまいました!
そしたらHPのプロフィールに、ネオの隣にUPされちゃうんでしょうねw
プリの列に並んでたら、高校生にバカにされそうで怖いのでそれはご勘弁を^^;
次回何かでご一緒したいです♪
ヴィーナス
『男って、いくつになっても…。』
コチラの「ヴィーナス」は、名優ピーター・オトゥール主演のロマンティックでホロ苦い人生讃歌で、10/27に公開されたヒューマン・コメディなのですが、観てきちゃいましたぁ〜♪
若い女性に入れ込む老人を悲喜交々演じきったピー…
本当、男っていくつになっても、しょうもなっ!
って笑っちゃいましたね。
あのジェシーちゃんが絵のモデルになってるのを
必死に覗こうとしてたり、それがバレてゴマカそうとして
誤魔化せてないところとかもう(*≧m≦*)ププッ
でも、じんわりとくる映画で、それも良かったですよね。
miyuさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あの美術教室の覗きのシーンは面白かったですよね☆
この映画、見ている人が少ないので、miyuさんの絶賛、すごく嬉しかったです!
ヴィーナス
監督 ロジャー・ミッシェル
(2006年 イギリス)
【物語のはじまり】
モーリス(ピーター・オトゥール)は70才代のベテラン俳優。
かつての俳優仲間達と刺激のない日々を過ごしてい??.
ヴィーナス/ピーター・オトゥール
大好きな映画「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督作品という事で、えっとたしか昨年の11月だったかな?シャンテシネで公開された時に観に行くつもりだったんけど、109シネマ川崎でも公開されるとわかったので先送りにしたのでした。どうせ観るなら鑑賞ポイ…
ようやく観ることが出来ました。ピーター・オトゥールさんのオスカー候補も納得ですね。彼の魅力自体がモーリスに投影されてるようにも思える好演でしたね。決して熱演じゃないとこが、愛おしく感じちゃうのかもしれません。
ラストンシン分記事がツボでした。
すみません、タイプミスです。
最後の一行
「ラストシーンの新聞記事がツボでした。」です。
かのんさんへ
こん××は♪コメントありがとうございます!
おお、かのんさん、これご覧になりましたかー!
とっても嬉しいです。私も、すごくいい作品だったと思います☆
オスカー候補は納得ですよね!!うんうん、彼の魅力そのものが役に反映・・・。まさにその通りと思います。
ラストシーンの新聞記事、私滂沱してしまいました!!
ヴィーナス を観ました。
先日のぷち・ばかんすの旅 帰りの機上で…。
映画「ヴィーナス」
原題:Venus
老いらくの恋は、はたから見ていて気持ちのいいものではない、それでも恋愛への渇望は湧き上がる、幼稚園の頃から70歳を過ぎるまで??懲りない人々??
モーリス(ピーター・オトゥール)は、かつて人気俳優ながら今では死体がはまり役と言われ、私生活も…