#163.題名のない子守唄
迷いのない目線で突き進んでゆく、その表情に心を奪われてしまった。
崖っぷちに立たされたような、堅固な決意の表情の強さと、どこか影のある哀しみ。
この眼差しがこの映画の全てのように感じてしまって。・・・
ストーリー・・・
北イタリアのトリエステにやって来た異国の女イレーナ(クセニア・ラパポルト)が、金細工の工房を営むアダケル家のメイドに雇われる。それは周到に策を講じて手に入れた念願の職場だった。完璧な仕事ぶりですぐに主人夫妻の信頼を得ると、最初こそ手を焼いていた彼らの4歳になる一人娘テア(クララ・ドッセーナ)の心も確実に掴むのだった。・・・
『ニューシネマ・パラダイス』、『海の上のピアニスト』、『マレーナ』のジュゼッペ・トルナトーレ監督作。
音楽は、エンニオ・モリコーネ。
サスペンスフルな物語の進み方は、これまでのこの監督の人物の描き方と違っている。初めからそれとなく評判を伺って知っていたけれど、やはりこの手法は少し残念に感じてしまう。
それでも、この主人公イレーナを演じる女優さん、クセニア・ラパポルトの、謎めいた表情には、十分に引き寄せられ、次第にそれが気にならなくなっていった。
彼女の過去が、いきなり冒頭のシーンから重ねられていく。
ドラマチックでスキャンダラスな醜悪さに満ちた過去が、現在の疲れた表情の彼女に否が応でも重なってゆく。しかし一心不乱に目的に向かって突き進む、強い意志を感じて・・・。
こんな女性の表情が初めから映し出されたら、初めから一気にこの世界に入ってしまう。それぐらい素晴らしい表情の女優さんだった。
美しいのに、角度によってまるで違って見えるところも不思議で、目が離せない。
私は崖っぷちに立たされた女性、というのに弱いんだろうな。
彼女にとってはまるで、自分の汚辱にまみれた人生で、ただ一つの希望だったんだろうな、と思う。
失った何かを取り戻すかのように、それがなければ自分の人生の全て、意味がないことのように感じていたんだろうか。
彼女にはそれ以外にどう生きる希望を見つけられただろう、と思う。
裸になった姿は、とても痛々しくて胸がズキズキした。(誰か別の女優さんの体と繋ぎ合わせているんだろうけど。)
冒頭の姿とまるで違う姿。
女性だったら誰だって、その変化が、心底恐ろしく感じてしまうだろうって思った。
哀しみに満ちた人間の悲劇を描くのは、トルナトーレの得意とするところで、そこに哀愁を感じてしまうのだけれど、今回もやはりそれだと思った。
ただ、描かれていたのが母性だっただけに、どこかより強い監督自身の“思い入れ”、というものを感じてしまうのだろうか?
ラストのあり方というものも、温かくて・・・。
他に何も持つべきものがなかった女性が、
“希望”以外に何を目標に生きていけたんだろう?
それがたとえ間違った判断だったとしても。
彼女は復讐をしたわけではなく、自分の人生を取り戻そうとしただけだ。
・題名のない子守唄@映画生活「題名のない子守唄」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
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コメント(32件)
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見知らぬ女〜『題名のない子守唄』
LA SCONOSCIUTA
北イタリアの街にやってきたウクライナ移民のイレーナ(クセニア・ラパポルト)
は、金細工商を営む裕福なアダケル家の家政婦となる。彼女の目的は何なのか?
やがて、イレーナの周囲に不気味?? 8
とらねこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございました。
主演の女優さん、本当に素晴らしかったですね。主人公に成り切っていました。
イレーナのしたことは罪ですが、彼女はそうしなければ生きていけなかったのだと思います。
そうすることが彼女にとっては生きることだった、というか・・。
ラストの温かさには涙がこぼれました。
『マレーナ』は未見なので、観てみたいな・・と思っています。
ではでは!
『題名のない子守唄』を観たよ。
余韻のマジック。
『題名のない子守唄』
“LA SCONOSCIUTA”
“THE UNKNOWN WOMAN”
2006年・イタリア・121分
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
製作総指揮:ラウラ・ファットーリ
脚本:ヮ..
とらねこさん、こんばんは。トラバさせていただきました。
観る前は「トルナトーレとサスペンス」が結びつかなくて、どんな作品なのかまったく予想がつかなかったものでした。
とらねこさんのおっしゃるように、主演のクセニア・ラパポルトの表情は素晴らしかったですね。印象的な深い瞳には、台詞以上の説得力があったように思えました。
真紅さんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
そうですね、真紅さんがおっしゃった、「搾取された」という表現は、とても適切だ、と思いました。
娘という存在を母性という立場で求めたというよりは、彼女にとっては、失った彼女の半身を求めるような行為だったのかもしれませんね。
自分の死が近くなってきたことをどこかで感じていたのかなあ、と考えたら、そうする行動があまりにも理解が出来るものに映りました。
『マレーナ』もやはり、一筋縄ではいかない物語でしたよ!スキャンダラスではあるのですが、興味深く見入ってしまいました。
映画「題名のない子守唄」を試写室にて鑑賞。
7月初旬、渋谷のショウゲート試写室にて「題名のない子守唄」を鑑賞した。映画の話 北イタリアのトリエステに長距離バスでやって来たイレーナ(クセニャ・ラポポルト)は、貴金属商を営むアダケル家のメイドになる。家事を完ぺきにこなす彼女は、アダケル夫人(クラウ…
題名のない子守唄 La Sconosciuta
北イタリアは国境近く、トリエステの街に一人の女が降り立った。女の名はイレーネ。地味なコートに身を包んでいるが、異国情緒漂う美貌の持ち主だ。間もなく彼女は高級レジデンス内の掃除婦として働き始め、手段をえらばずそこに住む貴金属商アダケル家の家政婦兼保母の…
とらねこ さま
はじめまして コメント&TB ありがとうございました^^
「題名のない子守唄」は強烈な印象とともに 色々な事を考えさせられ 感じさせてくれる作品でしたね
TB させて戴きました
題名のない子守唄 La Sconosciuta
北イタリアは国境近く、トリエステの街に一人の女が降り立った。女の名はイレーネ。地味なコートに身を包んでいるが、異国情緒漂う美貌の持ち主だ。間もなく彼女は高級レジデンス内の掃除婦として働き始め、手段をえらばずそこに住む貴金属商アダケル家の家政婦兼保母の…
Mariaさんへ
こんばんは☆こちらでは初めまして。
コメントありがとうございました。
ええそうですね、あまりに主人公の抱えるものが痛くて、辛くて、いろいろと考えさせられてしまいました・・・。
TBありがとうございました。
また機会があれば、よろしくお願い致します。
香ん乃さんへ
まず、初めに、香ん乃さん、お許しを!
私、とっくにコメントお返しした気でいました。
うっかりしてました。本当にごめんなさい!
すいませんでした!
ええと、そうですね、重厚なテイストのヒューマンドラマを見せる、トルナトーレなのに、このミステリタッチは少し今までと違いましたよね。
クセニア・ラパポルト。いつも、最高の主人公を見つけてくるのが、この監督ですね。
どの作品でも、本当にイメージ通りな気がします。
題名のない子守唄
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題名のない子守唄
「題名のない子守唄」 LA SCONOSCIUTA/製作:2006年、イタリア
こちらにもー。
トルナトーレ監督作品ということで、爽やかで温かいくらいのテイストを勝手にイメージしてました。
蓋を開けてみたら、もの凄い重厚なドラマが待ち構えていて。私は、こういうサプライズはツボみたいです。
1回見ただけでは、色々と見逃している要素があるような気がしました。2度3度と見ると、また違った感想が湧いてきそうな気がしています。
DVD出たら、是非とも再度見てみたいと思います。
となひょうさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました。
トルナトーレ監督、爽やかで温かいというイメージは私には全然ないかもですw
そうですね、この作品のような感じの痛々しさのあるドラマは、好き嫌いが分かれてしまうんでしょうね。
私もとなひょうさん同様、この作品や、『あるスキャンダルの覚え書き』は、大好きでしたよ。
となひょうさんの好みと私はカブりますよね♪
mini review 08304「題名のない子守唄」★★★★★★★☆☆☆
『ニュー・シネマ・パラダイス』の巨匠ジュゼッペ・トルナトーレの監督最新作。北イタリアの港町を舞台に、忌まわしい過去を抱える美しきヒロイン、イレーナの愛と謎に満ちた物語を描く。イタリアのアカデミー賞ともいうべきダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最多12部門にノ…
TBありがとう。
過去の裸身の映像は、合成ですかねぇ。
ちょっと、僕はそのことには、気づかなかったです。
画面は、フラッシュバックでぼかして在りましたけどね。
kimion2000さんへ
こんにちは〜♪こちらこそ、TBありがとうございました。
え、過去の裸身の映像が合成なんでしょうか?
私は、現在の裸身がボディ・ダブルと思いました。
この女優さんがおいくつなのかは知りませんが、あんなにタルんだお腹ではないでしょう、と思ってしまったんですよ。
あれはおそらく、50歳、60歳の方の裸でしょうね。
過去ももしかしたらボディ・ダブルかもしれませんけど。
『題名のない子守唄』
□作品オフィシャルサイト 「題名のない子守唄」□監督・脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ □キャスト クセニャ・ラポポルト、ミケーレ・プラチド、アンヘラ・モリーナ、クラウディア・ジェリーニ、マルゲリータ・ブイ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、クララ・ドッセ…
「題名のない子守唄」
ひとりの女が、ある家に家政婦として入り込む。彼女の目的は何なのか。ときどき挿入される、忌まわしい過去の場面が関係しているのか。
謎が…
WOWOW放送時は、出産経験のある女優も条件だった、みたいなことを言ってました。
子どもをしばって立ち上がらせたり、いろいろとタイトな描写がありますが、映画として楽しめました。
ボーさんへ
こちらにもコメントありがとうございました!
へえ、WOWWOW放送で、この映画のメイキングか何かをやっていたのでしょうか。
確かに、出産経験がある女性の方が、この苦しみを分かることが出来るのかもしれませんね。
確かに、ちょっときつい描写がありましたが、私もなかなかに満足しました。
『題名のない子守唄』’06・伊
あらすじ北イタリアのトリエステにやって来た異国の女イレーナが金細工の工房を営むアダケル家のメイドに雇われる。それは周到に策を講じて、手に入れた念願の職場だった・・・。感想ヨーロッパ映画賞、観客賞受賞。監督賞、主演女優賞、撮影賞ノミネート。『ニュー・シネ…
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「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」などの作品で知られるイタリアの映画監督、ジュゼッペ・トルナトーレが2006年にメガホンを執ったミステリアスなヒューマン・ドラマ「題名のない子守唄」(原題=見知らぬ女、伊、121分、R15‐指定)。この映画…
こんばんは&おひさです。
そうですね、この映画はおっしゃるように「自分の人生を取り戻そうとした」女性が上手に描かれていましたよね。
また、ぼくはこの映画を見て、まだまだイタリア映画も捨てたもんじゃない、となぜか安堵感を覚えました。
デイヴィッド・ギルモアさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
あれ、以前は英字表記でしたよね?David Guilmourからカタカナに直されたのですねー!
私の知る限り、HNを、ローマ字表記だった方がカタカナもしくはひらがな表記に変えられるのが、一時期流行って(?)いたんですよー♪
そうですね、人生を取り戻す・・。きっと彼女には、失うものが何もなかったんですよね。途中でそれに気付き、すごく哀しくなりました。
『題名のない子守唄』を観たぞ〜!
『題名のない子守唄』を観ました『ニュー・シネマ・パラダイス』の巨匠ジュゼッペ・トルナトーレの監督が、北イタリアの港町を舞台に、忌まわしい過去を抱える美しきヒロインの愛と謎に満ちた物語を描くミステリー・ドラマです>>『題名のない子守唄』関連原題: LASCONOS…
題名のない子守唄
『女は 哀しみを食べて 生きている』
コチラの「題名のない子守唄」は、「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」のジュゼッペ・トルナトーレ監督のR-15指定のミステリーです。
ウクライナ出身のイレーナ(クセニア・ラパポルト)、北イタリアの….