#153.鬼畜大宴会
熊切和嘉監督の、トチ狂ったデビュー作!
これが大阪芸術大学の卒業制作・・・っていうんだから、相当に凄い。
何でも映画監督であり、教授の中島貞夫から、「これ本当にやるのか」と言われたらしい(Wikipediaより)
ストーリー・・・
学生運動全盛の頃、ひとつの左翼組織が薄汚い文化住宅の一室をアジトとして集まっていた。主なメンバーは、相澤(橋本裕二)の恋人で彼の不在中組織を仕切る雅美(三上純未子)、年長者の山根(財前智弘)、雅美が性のはけ口として利用している岡崎(澤田俊輔)、フォークギターの名手・熊谷、ルームメイトというだけで熊谷に誘われ組織に参加した新入生の杉原(杉原敏行)、そして相澤の刑務所での友人・藤原(小木曽健太郎)らだ。彼らはカリスマ的存在のリーダー・相澤の信奉者で、今は獄中にいる相澤の出所を待ちながら、雅美の下、資金稼ぎや武器調達に奔走していた。・・・
初めに出てくる、「松畜」「鬼プロ」の文字が、まず興味を引く。
’98年の作品でありながら、’60〜70年代の学生運動の時代を描いたということで、タイトルやら出演者やら、テロップの出し方にまで細分に注意を払っているであろう感じが伝わってきて、思わずワクワクドキドキする。
そして始まると、なんなんでしょう、このムンムンとカメラの向こうから熱気が伝わってくるような、撮り方!
はーい!ハイ!ハイ!私好みです!
膝を打ち打ち、前のめりになってしまった前半の私。
天井がやけに低かったり、目線の位置も「こんな目線なんだ」みたいな、荒削りさで、「ぐぉっ!」と胸倉をむんずと掴まれた。たまらない。
例えば資金調達で走るシーンとかも、後ろからなめる、一緒に走る、前から固定カメラで映す、
アスファルトから熱気がこもってモワァっと上がって来て、かげろうみたくなってて人物がよく見えないシーンがこれまた良かったり。
意外に丁寧で面白い撮り方、すごく興味深い。
人物映す映し方も、こちらが気まずくなるほど、迫ってみたり、妙な間があるんだけどそれがリアルな居心地の悪さ、変なショットにいちいち驚かされ、楽しい。
こうした16ミリの異様な熱意というものが、凄まじいパワーとなって全体から搾り出してくるようだ。こうでなくっちゃ、インディペンデント映画は・・・
なんて見ながら思っていたんだけど、学生の卒業制作だったとは後で知りました。
やっぱ、情熱だけで撮ってるのって、好きだなあ〜。
とは言えこの作品、内容的にはそれほど・・・というのが残念。
何より、画的なものばかり追いかけてしまっているんですよね。
一人のカリスマ的リーダー不在の末の、内部分裂、人間同士の醜い争い・・・というテーマであれば、これはもう、よほどの技量がないと描けないところ。
中島貞夫監督が「これ、本当にやるの?」と聞いたのも、無理がないっていうか・・・。
人間個人の心理的な深い闇と、群集心理にある狂乱との絡み合い・・・
テーマに持ってきたのは凄く面白かったんだけど、そこまでいかず、単なるエログロになってしまったのは残念。
後半以降は、画的なインパクトを重視しすぎることで、そうしたテーマから逆に、安易な逃げ道を選んでしまったように思える。
人が人に抱く憎しみや、破壊的願望、暴力の恐ろしさを、
ただ単に「狂気」の一言で片付けてしまうなんて、浅いと思う。
でも、「第一の宴」「第二の宴」・・なんていう辺り、『ソドムの市』を目指したのだろうと思ったり、
特別な群集内での人間心理から、地獄へと向かってゆくというテーマは、ゴールディングの『蝿の王』を思わせる。
でも、この辺りを狙っていたのだとすれば、「分かるなあ〜」なんて言いたくなるような、深い、深いテーマだ。
グロのみに逃げる後半を、もう少し人間の闇の部分に焦点を当てていれば、印象も違っただろうなと思う。
でも、一見の価値がある怪作であることは確か。
熊切和嘉監督は、『フリージア』『空の穴』『青春☆金属バット』という映画も近年、撮っている。見てないんだけど、この作品と似ているのかな?
・・・
そんな訳ないよね?
2007/10/21 | 映画, :カルト・アバンギャルド, :ホラー・スプラッタ
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コメント(7件)
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お邪魔します。
これ、観よう観ようと思っていて、まだ未見ですが「青春☆金属バット」は観ました。坂井真希の偽巨乳と壊滅的人格破綻は楽しめましたが、全体の出来はというと・・・いまひとつ(苦笑)
とはいえ「鬼畜木大宴会」には期待しちゃいます。全共闘を描いた「初恋」があまりにも表面的でスカスカだったもんで〜。生ぬる〜い、モンドなファッションのテケテケ感すら表現されていない映画を観た後は、あの60〜70年代の「エロ・グロ」がむしょうに恋しくなります。
こんにちは、お久しぶりです。
私はかれこれ10年近く前に(題名に惹かれて)映画館で見ました。後半で延々と繰り返される惨殺場面は正直なところ1週間くらい気分が悪かったです。ところで、この映画は最近DVDになっているのでしょうか。ちゃんとチェックしておられるところがさすがとらねこさん。まあそれにしても映像のインパクトやヒロインのサディスティックな佇まいには圧倒されました。昨年上映された「金属バット」は比較的マイルドなテイストの作品でしたがそこそこ面白かったです。本作とは比べない方がいいと思いますけれど(笑)。
c.mamaさんへ
こちらでは初めまして!コメントありがとうございます〜!
そうですか、『青春金属☆バット』はイマイチでしたか。
ただ、この作品も、「学生運動を描いた」と言っても、学生運動らしい学生運動をしているというより、まるで何かの過激派か、カルト教の信者のような感じではあります。
ああ、そういえば、近いのは、どちらかと言うとチャールズ・マンソンかも・・・。
学生運動でなくても良かったんじゃないか?なんて思ったりします(苦笑)
掲げていた理念やら理想主義的行動を少しも感じられないかもしれないです・・・あるのはエロ・グロのみ。
テーマもあまりきちんと描かれた作品ではないのですが、確かにあるのはバカなパワー、って感じですかねw
でも、c.mamaさんがこれをご覧になったら、どういう感想を抱くのか、すごく楽しみではあります!!もし見たら、またお話させてくださいましね^^
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。本当にお久しぶりでございますね〜!
最後の方、確かにグログロでしたね!
あれはさすがに、画ありき、で作った感じがしちゃいますね!
でも、あのために1週間も気分が悪かったとは・・確かに、この時代でこれだけのグロ描写は、なかなかないような気がします。
さすがに今でこそ、すごくグロ描写がドンドン過激になってゆく傾向がありますが、
この時代でここまで・・というのは、珍しいし、ましてや学生が・・・なんて驚嘆します!
なるほど、『青春☆金属バット』はそこそこ面白かったのですか。
この作品は確かにDVDになってはいるのですが、私が見たのは、去年椀さまもいらした、“妄執・異形の人々Ⅱ”の今年のシリーズだったんですよ♪
鬼畜大宴会:映画
今回紹介する映画は、熊切和嘉監督のデビュー作『鬼畜大宴会』をレビューしたいと思います。
これは熊切和嘉監督が大阪芸術大学の卒業作品でもある作品で、この映画は独自な空気感が漂う映画です。
鬼畜大宴会:ストーリー薄汚れた文化住宅の一室に彼らはいた。獄中の首謀…
時間が経ってみると
「若松孝二 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 」より、「鬼畜大宴会」の方がヨカッタと思います。あのムンムンムレムレなパワーは人として見習いたいものです。
GSさんへ
こちらにもありがとうございます♪
初めて来ていただいて、『オーディション』とこの作品にコメントいただけるとは(笑)
私もこれ、完成度はそれほどではないですが、この圧倒的なパワーがいいんですよねw
なるほど。若松孝二の今やってる『実録・連合赤軍 あさま山荘〜』より良いんですね!
私はどうしようかな、と思ってスルーしてしまったんですが・・DVDで見てみようと思います!