#151.クワイエットルームにようこそ
“大人計画”の松尾スズキ監督・脚本作品、『恋の門』』以来3年ぶりにあたる。
この濃さがハマる人にはハマるし、ダメな人には全くダメってヤツかもしれない。
私はというと、面白くて笑ってるうちに、だんだん本気になって見入ってしまった。えぐられた。
私にしてみれば、余計なものを過分に持ってる、このクドさがたまらん。
やれ世間の癒しを求める風潮だとか、“泣かせ”映画だとか、メジャーに乗っかることを、ひとまず表現方法の第一に考えてない辺りが、何より嬉しいのだ。
やりたい放題やってるしね!(笑)
そんな訳で個人的には、ヤケに松尾スズキ作品と、相性がいいような気が勝手にしている。いや本当1シーン毎に、「クドっ!!」と悶絶したくなるこの「多分に過分」なテイスト。何もクドカンが出ているから、ってだけじゃない。(あ、ごめん。つまんなかった。)
お笑いが大好きだったり、飲んで騒ぐとなれば人一倍陽気だったりするヒロイン佐倉明日香(内田有紀)。気付くと、周りの煩雑さや熱狂に包まれるうちにいつしか生まれる、元の自分の目指していたものと、今いる自分とのその違い。
やってくる自覚、自分は大したものではないのだ、との認識は非常に辛い。
それなのに向き合うとなると、トコトン深く、それこそ心の複雑怪奇さそのままに、抱え込んでしまう。
それこそ、精神病チックなほどに。
松尾スズキ原作のこの同名小説は、’06年芥川賞ノミネート。そしてこの監督と、脚本も担当している。
ファーストネームもファミリーネームも“どっちも名前みたい”な「さくら・あすか」は、“どっちも名字みたい”な「松尾・スズキ」の、彼自身を代弁する存在のようじゃないか?
それなのに、舞台は精神病院。
自分だけはマトモだと信じるヒロインが、自らの病に知らぬ間に直面し、それと対峙するというテーマのストーリーだ。
深い。
触られたくは決してないところまで、エグってくるこの表現は、『恋の門』で留まっていた、表層の上ズミをすくって、楽しく繋げたストーリーとは訳が違う。(いや、これはこれですごく楽しかったし、良作だったけど。)
やはり、松尾スズキって凄いんだな、深いところまでググーっと入り込んでゆくんだな、と深く考えこんでしまった。
偶然にも、先日UPした『サイボーグでも大丈夫』と並べて、精神病院を舞台にした“日韓対決”に(個人的に)なったが、どちらも作家性の色濃い作品で、しかも禁忌の領域、精神病院を舞台にしたもの。それぞれに楽しんだ。
俳優としてのクドカンも最高★このタイミング、ばっちし。面白い!
こういう友達居たよな〜って感じ。
蒼井優も、素敵だな!見事に血圧低そうな少女を演じている。
彼女が演ると、すごくかわいいの。妙なことばっかり言うんだけど、すごく魅力的な子。やっぱ上手だなぁ。
妻夫木の贅沢な使い方もステキ。
ストーリー・・・
28歳でバツイチの明日香は、締め切りに追われるフリーライター。同棲相手の放送作家・鉄雄とはすれ違いの日々が続き、仕事にも行き詰まった彼女は、気がつくと、クワイエットルームと呼ばれる閉鎖病棟の一室にいた。・・・

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コメント(52件)
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クワイエットルームにようこそ
芥川賞候補になった松尾スズキの同名小説を自ら脚本・監督を手掛けて映画化したドラマ。主演は内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう他。
<あらすじ>
フリーライターの佐倉明日香は、目が覚めると、見知らぬ白い部屋でベッドに拘束されていた。そこは、精神科の女子閉鎖病…
『クワイエットルームにようこそ』’07・日
あらすじ佐倉明日香は28歳のフリーライター。ようやく手にした署名コラムの執筆は行き詰まり同棲相手ともすれ違いが続く微妙な状態。そんなある日、明日香は気がついたら真っ白な部屋のベッドに拘束されていた。アルコールと睡眠薬の過剰摂取により丸2日間昏睡状態だっ…