#131.厨房で逢いましょう
予告で観る限り、自分の好みそうな予感がしたのです。エロチック・キュイジーヌ、“官能料理”とHPで取り沙汰されている、創作料理がとても美味しそうで、映像イメージも自分の好みそうな気がしたので。・・・
ストーリー・・・
南ドイツの保養地で小さなレストランを営む天才シェフのグレゴア(ヨーゼフ・オステンドルフ)。彼の作る料理は舌の肥えたグルメたちもうならせる。しかし人づきあいが苦手な彼には恋人もいなかった。その彼が出逢ったのはビアガーデンで働く主婦エデン(シャルロット・ロシュ)。グレゴアの料理を食べた彼女は、たちまちその味の虜になる。 だがその関係を、彼女の夫、クサヴォー(デーヴィト・シュトリーゾフ)が嫉妬して・・・
グレゴアは、天才シェフでありながら、人づきあいが苦手で、孤独であり、休日でも一人、料理の研究にいそしむような、いわば『パフューム』のグルヌイユ的な暗さを持つ人。
セリフに、「医者から女性との付き合いを禁じられている」とあるように、太ったことが原因で、おそらく、女性とは性交渉を持つことが最早出来ない、ということもあり、彼をますます孤独の中に追いやっていたのですね。
でも、そうした彼も、人とのふれあい、会話の中で、なんとなく心のバランスを回復してゆく。彼女がコッソリ厨房に、まるで野良猫みたいに忍び込んでくるのです、休日ごとに。
酷いことに、初めて来た日は、彼の料理を、美味そうにペロペロ食べる(しかも手で!)ばかりでなく、鍋ごと食い尽くしてしまう!正直、この映像には、引きました。いくら綺麗な役でも、ちょっとずうずうしいのではないでしょうか?
私は、この上なく美味しそうな料理のその、ソソられる映像とは別に、ストーリー運びは、どうも納得のいかない中での鑑賞となってしまいました。
彼女は、休みのたびに、彼のところに、自分の子供と一緒に押しかけて来ます。
「料理だけではない、友達なのだ」なんて都合のいいことを言いますが、彼のあの辛そうな目!
彼女を、いちずに、まっすぐに、切なそうな目で見ているのに、彼女は何をしているかと言うと、一心不乱に、料理を食べているのです。
よく平気で、食べれますね!
私は、正直、頭に来てしまいました。
「あなたは私の友達」の一言で、彼の気持ちも一切顧みることなく、タダ飯の大喰らいですよ?
まったく、あんな切ない目で見られたら、普通は、何が原因なのか、考えるはずですよね。私だったら、喉を通らないですよ!
そうでなくても、「大丈夫?」の一言くらいは、声をかけてあげるべきなのでは?
友達なら!
彼女は彼女でずうずうしいし、彼の夫は、非常識この上ないだけじゃなく、とても意地悪。
グレゴアの体型をバカにしただけでなく、しかも酷く追い詰めた挙句、・・・。
これ以上ネタバレするのはやめておきますが、人間の描き方が、「ちょっと意地悪なのでは?」と思ってしまいました。
美味しそうな料理のその上を素通りして、人間の醜さ、底意地の悪さ、そうしたことの方が目立ってしまい、クライマックスを迎える頃には、すっかりふてくされてしまいました。
グレゴアに対して、あまりにこの映画は酷い仕打ちをするのですよね。
そんな訳で、私はすっかり頭に血が上って、映画館を後にしたのですが、
私と一緒に見た友達は、エデンのそうした図々しい、尽きせぬ食欲を、
「純粋な人なんだよ」なんて感銘を受けていたようでした。
「確かにずうずうしいかもしれないけれど、可憐な純粋さがあって、とても憎めない人だ」、と言うのです。
なるほど、確かにハリウッド映画のようなよくある展開とは、全く違うものであったので、普通に考えたら、このドイツ映画の持つ、風変わりさ、そうした面もあるのかもしれません。
しかし、依然として、料理が世界共通の言語であるなら、目の前の人間に対する気遣いも、世界共通と私は思います。
ラストでなんとか持ち直したというのもあるのですが、それにしても、「官能とは言いがたい」テイストの映画でした。
※追記※
後からこの映画について、もう少し掘り下げて考えてみました。
この映画は、一筋縄ではちょっといかない映画でした。
私としては、美味しそうな料理の映像の映し方、衝撃的な意外性を持たせる次の場面への移り方、すごく変わった表現をするので、面白く見れることは見れたのですが、その表現していることは、「どこかおかしい」というものでした。当たり前の表現とは、だいぶ違っています。
自分の大きな欲望(食欲)のために、人の気持ちに気づかない女性(人は悪くないのに)、どうしようもなく我儘で未熟な夫(この人には、同情の余地はありません)・・・
「エデン」(楽園)という原題は、実は彼女自身の食欲が満たされる状態であって、グレゴアその人は、あの初めに出て来た、生きたまま羽をむしられるニワトリのように、まる裸にされてしまいましたね・・。
こういった人物の描き方からすると、たとえば『ショコラ』、この映画と全く対極に位置するものだったように感じます。
「人の食欲は、幸せをもたらす」というようなことを、どこかテーマとして感じさせつつ(『ショコラ』と同様に)、その実、人間の残酷さ、傲慢さというものを、表現しても居るように思いました。
こうした人間の描き方を見ると、実はこの映画の表現していることは、『パフューム』と似ていて、どこか人間嫌いのアーティストによる、「人間を描いた作品」だったように、今私は考えています。
確かに、カカオには中毒性を含む“美味しさ”の魅力があることから、「魔力が潜んでいる」という表現をよくされるので、
もしかしてこのテーマは、『ショコラ』という映画のテーマをさらに掘り下げた、その裏の物語まで描くことを目的とした作品のような気がしています。
人間とその欲望に対して、無条件に「美味しいものは人を幸せにする」というような、軽々しいテーマの掘り下げ方で描いたわけではないこの作品、なんだかとても後味が悪いながら、興味深いものでした。
しかし、それが人間なのかもしれない、そう思います。

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コメント(23件)
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『厨房で逢いましょう』を観たよ。
シェアブログminiに投稿
※↑は〔ブログルポ〕へ投稿するために必要な表記です。
ダンナに非はないと思うなぁ。
『厨房で逢いましょう』
“EDEN”
2006年・ドイツ&スイス・98分
目..
とらねこさん、おはようございます。トラバ、ありがとうございました♪
>確かにハリウッド映画のようなよくある展開とは、全く違うものであったので
そうですよね〜。私ももう冒頭の「まるで生きているかのような鳥の羽」をむしっているグレゴアで、いきなり「う、うわぁぁぁ〜」と思ってしまいました。フィクションだとは信じたいけど、本当に生きた鳥を使ってやっても不思議ではないのがヨーロッパかも、と勝手な先入観が自分に植えついていて。
エデンの人となりは、同じ女としては本当、「なんだよ、おまえ!?」と思いました。彼女の資質は、あれはあれで美徳なんだろうとは思います。つまり、「純粋」と「馬鹿」は紙一重と私は解釈したのですが(言いすぎですよね、ごめんなさい……)、私がグレゴアだったら、たとえ純粋でも願い下げ、です……。
香ん乃さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
そうですね、この映画は、面白く見れなかったわけではないのですが、ところどころ捨ておけない部分がありました。
エデンの鈍感すぎる性格を、香ん乃さんがこうおっしゃってましたが、すごく言い得ているなあ、と思いました
>人非人なまでに鈍感
本当、その通りでしたw・・・で、そうした彼女の性格もなんですが、彼女の夫はもっとひどかったなあ、と思います。
喋っていただけなのに、嫉妬の挙句、数百万?だかなんだかの損害を与えて、人の人生をめちゃくちゃにしておきながら、更に、殴りかかって半殺しの目に合わせただけじゃ飽き足らず、追い詰めようとしてましたが、あれは殺そうとしてたのでしょうか?
実際、グレゴアは、命の危険まで感じるほどでしたよね。
いくらなんでも、喋ってたくらいで、あそこまでやるでしょうか?ちょっと酷すぎるとしか思えません。
厨房で逢いましょう
『私の料理は、あなたを満たす。』
コチラの「厨房で逢いましょう」は、8/25に公開になった”料理で愛を伝えようとするシェフの切ない片想いを、ほろ苦いスパイスをちょっぴりきかせつつ味わい豊かに描く、大人の恋の物語。”なのですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪チラ….
厨房で逢いましょう / EDEN
芸は身を助ける■ストーリー生活のすべてを料理に捧げてきたグレゴアはデブで独身でさえない風貌だけど、料理の腕前は世界一級の天才シェフ。経営するレストランは来年の2月まで予約でいっぱい。そんなある日、カフェで給仕をしている美しい主婦エデンに恋をした。口下手な…
厨房で逢いましょう
厨房で逢いましょう (スクリーンノベルス)(2007/08/25)古閑 万希子商品詳細を見る
梅田シネリーブルで鑑賞。
監督・脚本 ミヒャエル・ホーフマン
(2006年ドイツ/スイス)
【物語のの..
とらねこさん、こんにちは〜。
確かに、エデンの性格はどう捉えていいのか
わからない所がありました。
公園で子供をほったらかして寝込んでしまうあたりや、
自分の旦那に対する洞察力の無さとかからして、
想像力が欠如しているタイプなのかなぁと
考えながら観てました。
そんなエデンでもグレゴアにとってはかけがえのない存在で、
彼女が現れる事で彼の人生も変わっていくんですよね。
残酷ですね。
たぶん繊細で感受性が強い人はこの残酷さに耐えられなくて不快感を感じるのかなぁとか思います。
私的には、グレゴアのやさしい性格や料理人としての
真摯な態度にほれぼれしたので、意地悪で残酷な
この映画も結構気に入っちゃいました。
(あと、結構ニブい性格なもんで ( ̄▽ ̄;A)
ゆるりさんへ
初めまして!コメントTBありがとうございました☆
ゆるりさんは、きっと、この作品をすごく気に入られた方なのですよね!
それなのに、丁寧かつ、寛大なコメントありがとうございます。。。とっても嬉しいです!
辛辣な記事になってしまい、すみませんでした。
多分、彼女が大いに鈍感な人でも、彼女のダンナが、彼を殺そうとさえしなければ、この映画を褒めることが出来たように思うんです。実際に、映像やら、画の切り取り方は見事だったので。
ダンナが高級ワインを片っ端から割ってしまった事だって、エデンとグレゴアの関係からすれば、やりすぎなことに違いないのですが、その上さらに、殺そうとしたことで、すっかり頭に来てしまったんです。
そんな酷いネタバレはさすがに出来ないので、記事にも書けず、悶々としてしまいました^^;
でも、確かに見ている間は、面白く見れたのですよ。
本当に、このダンナが・・(+_+)
「厨房で逢いましょう」タイトルほどオシャレじゃないけど面白い
「厨房で逢いましょう」★★★☆
ヨーゼフ・オステンドルフ、シャルロット・ロシュ主演
ミヒャエル・ホーフマン監督、2006年、スイス ドイツ
タイトルだけを見ると
洒落たレストランの厨房で
何か良いことが起こりそう。
でも最初からそんな話じゃないと
分…..
とらねこさん、こんばんは(^O^)
コレ、見たばっかりなんですが、なんか、ムッたり来ちゃって。グレゴアが可哀想で見てられんかったし、あの奥さん、なんていうヤツじゃー!あの「友達」笑顔が憎たらしい。
で、とらねこさんちのレビュー拝見させて頂いたら、私が頭に来たこと、言いたいこと、全部書きつづってくださっていて、スカ〜ッ!としました^^
そのうちレビュー書いたら、TBさせてください。
それにしても、想像したのとは全然違う映画だったので、ガッカリしちゃいました・・・。
映画『厨房で逢いましょう』を観て
65.厨房で逢いましょう■原題:Eden■製作年・国:2006年、ドイツ・スイス■上映時間:98分■鑑賞日:9月1日、ル・シネマ(渋谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督・脚本:ミヒャエル・ホフマン□製作:ミヒャエル・ユングフライシュ、ロベルト・ガイ…
「厨房で逢いましょう」eden嫌い・・・
「厨房で逢いましょう」面白そうな気配を感じたし、滅多に外すことのないドイツ映画だったのですが・・。想像していたのとは、全く違った映画でした(T_T)
文句だらけになっちゃいましたが、記事書きました(^_^;)
TBさせて頂きました〜。承認後表示スタイルにされたのでしたよね?
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTB、前予告、ありがとうございました。
少し留守にしている間に、早くも記事をUPいただき、ありがとうございました〜!
>なんか、ムッたり来ちゃって
おお!新しい表現?
確かに、グレゴアに対する描き方が、すごく可哀想でした!
これは、笑ってしまいたいような、だからと言って、笑っていいものか?そんな微妙なとこを突いて来る映画でしたよね。
面白く見れることは見れるので、たとえば、私はこの映画よりずっと『ミス・ポター』の方が嫌いには違いないのですが、それでも、これを見た時は、なんか怒ってしまいました。
(続き))お手間をかけてしまって・・・すいませんです〜
latifaさん、TBでお手間をかけてすいませんです。
タイトルの下に、「TBを承認後反映する設定に・・」と書いているのですが、気づきにくいのか、みなさん、読んでくれないというか(泣)、
(あはは〜、冗談ですっ
ではでは〜、早速、今から読ませていただきます!
ゆくぞ〜!出動〜!
厨房で逢いましょう
Eden
201[サイエンスホール/試写会]
公式サイト
2006年ドイツ、スイス
八ちゃんの降水確率:5%
八ちゃんの満足度:★★★★
八ちゃんの評価:★★★☆
私の料理は、あなたを満たす。
エロティック・キュイジーヌ、それは口にしたらなんとも言えない魅惑的な….
真・映画日記『厨房で逢いましょう』
9月25日(火)◆574日目◆
終業後、「ニュー新橋ビル」に寄り、
映画のチケットを数枚購入。
地下鉄銀座線で渋谷へ。
「ル・シネマ」で『厨房で逢いましょう』を見る。
『パフューム』や『善き人のためのソナタ』、『素粒子』と
今年はドイツ映画に当たりが多いが、
…
『厨房で逢いましょう』
エロチック・キュイジーヌ?
確かに“官能”ではあったけど、
『EDEN』であり、『Bitter End』でありましたいきなり、鳥の毛を豪快にむしっていくシーンから始まりです。まずはそれにビックリ。異色だなぁ、と思ったけれど、やっぱり最後まで、なんとも言えない雰囲気漂…
厨房で逢いましょう
ラストには触れていませんが、途中ちょこっとネタバレ気味のようです。未見の方はご注意!
これはちょっと不思議な映画でしたね。
アウトラインはこうです。
主婦に恋したシェフと、シェフの料理に魅せられた主婦。シェフの料理を食べさせてもらうために、厨房…
厨房で逢いましょう
映画に出てくる料理はフランク・エーラーという料理人が作ったもの・・・決してフランク永井ではありません。
『厨房で逢いましょう』『プロヴァンスの贈りもの』
恒例の飯田橋ギンレイホールへ映画鑑賞。1年間1万円で見放題はうれしい♪(HPがリニューアルしています)まず1本目、「厨房に逢いましょう」 (C)2006GAMBITIC-FILMAGIG原題:EDEN監督・脚本:ミヒャエル・ホーフマン 出演:ヨーゼフ・オステンドルフ、シャル…
映画「厨房で逢いましょう」
原題:Eden
美味しくて美味しくて思わず犬のようにお皿に残ったソースまで綺麗に舐めあげる、それが官能料理"エロチック・キュイジーヌ"、??魅惑の料理と大人の恋??
グレゴア(ヨーゼフ・オステンドルフ)は料理一筋、テーブルみっつの小さなレストラン…
<厨房で逢いましょう>
2006年 ドイツ・スイス 105分
原題 Eden
監督 ミヒャエル・ホーフマン
製作 ミヒャエル・ユングフライシュ
脚本 ミヒャエル・ホーフマン
撮影 ユタ・ポールマン
音楽 クリストフ・カイザー ジュリアン・マース
出演 ヨーゼフ・オステンドルフ シャルロ…