#109.キリクと魔女
先日UPした『アズールとアスマール』のミッシェル・オスロ監督作品。
もともと’98年の公開時には、フランス本国で130万人を動員の大ヒットになったのに、日本には公開されなかったとか。それを知った、ジブリアニメの製作者の一人でもあり、自身アニメ作家でもある高畑勲氏が、自らジブリに掛け合って’03年にスタジオジブリ提供として、公開に至ったそうだ。
ジブリの第一回、洋画アニメーション提供作品だそうで。高畑勲が翻訳、演出を手がけている。
DVDには、ミッシェル・オスロ監督の舞台挨拶の模様が収録されていて、興味深い。配給は、この時はまだ、アルバトロス。
ストーリー・・・
キリクの生まれた村には、魔女カラバの恐ろしい呪いがかけられていた。泉の水は枯れ、魔女を倒しに出かけた男たちはみな食われ、残ったのは老人と子供だけ。村を救うべく、キリクは賢者の住むという《禁じられたお山》へ旅に出る。小さな身体に、大きな好奇心を秘めて……。
『アズールとアスマール』で言った時と、重複してしまうのだけれど、何よりこの絵が本当に素晴らしい。
この絵を見ても分かる通り、見ているだけで心躍るような、カラフルな色彩。
オスロ監督は、幼少時アフリカで育った経験がある、とのことで、その時に、このアフリカの色彩、というものを強く感じて大きくなった、と言っていた。
アフリカの土を、まるで火を思わせるかのような真っ赤な色彩で彩る冒頭部分。
見ているだけで、かなり異質な、今まで見たことのない体験、という独特のファンタジーを、この時からすでに作り出しているのね。
やっぱり、物語も、とても深く考えさせられるもので・・・
聞いたことのあるような、ストレートな物語の出だしにもかかわらず、
そして、話の起伏そのものも、次の展開が予想のつくような、どこか「懐かしい」という感覚を持った、童話的な作品であるのに。
なぜだか、とても新鮮で、見たことのないようなもので、ハッと気づく部分がたくさん。
体の小さいキリクが、アイディア満載に、いろんな魔女の意地悪を切り抜けていくとこも勇敢で楽しい。そして、それまで持っている、人々の習慣だとか、偏見囚われずに、考えるのもとっても大事に思える。
「どうして、魔女はイジワルなの?」
魔女には、魔女になった理由があって、男達を食べてしまった、ということにする背景がちゃんとある。そこが、この物語がとっても優しいものだな、とっても深いな、と感じさせる。
何より、「お守りの力に頼らない」、そこがキリクの強いところだ、という一言がすごく好き。
ラストの展開は、少しついていけない、と思う人が居るかもしれないけれど、
本当に勇敢なのは、みんなの持ってる偏見から、真に自由なその精神なのであって。そのハッピーエンディングとしての結末は、何より、どんな人に対しても愛情がある、その心構えなのかもしれない。
しかし、なんと言っても、絵の独特さが、この時からすでに健在なのね。ほぅ・・素敵で、カワイイ。
『アズールとアスマール』での時より、ロッテ・ライニガーの影絵的な影響が感じられて、私は大好き。
『アズールとアスマール』での絵は、むしろ、この影響から、もう少し違うものへと変わっていこうと進化していったのだな、と感じた。コチラになると、アラビア的統一感の感じる建築物などがとても目を引く作品だったから。(ロッテ・ライニガーの影絵アニメはコチラにUP)
ところで、この作品の音楽担当が、ユッスー・ンドゥール。
ちゃんと、アフリカ出身のアーティストだ、というところが頼もしい。
・キリクと魔女@映画生活
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子供と見た映画「ロボッツ」・・(T_T)と「キリクと魔女」(^v^)/
夏休みに子供と見た映画2つを紹介します。まずはロボッツ。
暑さしのぎのために、娘と娘の友達を連れて映画館に行って来ました。
レディスデーだけあって、ママさんとその子供連れでほぼ満席でした。
先に見て来た友達からロボッツ、内容さておき、スピーディーな
ジェット…
とらねこさん〜こんにちは☆
アズールと〜ご覧になられたんですよね。
少し前、拝見して、いいなぁー!!って悶絶してました。
関東では、立川と渋谷でしか上映してなくて・・・トホホ・・・お盆に東京まで行って見て来ようか?どうか、悩み中・・・。
キリク、私も大好きな映画です。劇場で見なかったことを悔やんでいたので、アズールは是非劇場で見たいんですよ・・・。特に個人的にモロッコやイスラム紋様などには特別に思い入れがあるので・・
それと、インランド・エンパイア!
これも見ちゃっているなんて、ますます羨ましいですー。これも限られた映画館でしか上映されてなくて。友達が何故かイタリア語版のインランドの映画のファイルを持っていて、それを見せてもらったものの、全く解らず(当然だが)、30分で挫折してしまいました。
両方見たら、また、とらねこさんちにTBしに、戻って来ます(^_^)/
とらねこさん、違ってたら、ごめんなさい・・ペコ
ユッスー・ンドゥールは男性の様な気が・・・
これ、後で削除しちゃって下さい〜^^
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
そうなんですよね、『アズール〜』せっかくのいい映画なのに、公開規模が小さくて・・
拡大はされないのかしら?
夏休み映画に押されていて、夏が終わったら公開、とかすればいいのにな〜と思ってるんですがね〜。
キリク、latifaさんはさすが、ご覧になってらしたんですね〜♪
『インランド・エンパイア』の方は、イタリア語でなんと、チャレンジされたのですね!
いや〜、イタリア語でも映画でも、むしろ日本語でも、この作品に関しては変わらないかもというのが感想なんですが・・・
でも、こちらは公開はしそうでしょうか?
DVDでも十分と、ぶっちゃけ思うんですが・・・見たらTBくださいね〜待ってます!!
larifaさんへ(つづき)
それから、ユッスー・ンドゥールの訂正ありがとうございました〜!
ミッシェル・ンデゲオチェロとどこかで勘違いしてしまったらしい〜。
“ンで始まる、もの珍しい苗字”ということしか、共通項がないのでした・・うはあっ、恥ずかしい〜。
そして、何とも謙遜しながらの訂正・・・優しい方だなあ。
本当ありがとうございます。
しかし、せっかくの訂正のコメント、削除はしません、ごめんなさい!
「恥は晒せ」と、とあるon友から教わっているんです!
これ私のポリシーなんです!
あ、記事の方は、訂正させていただきました♪
ありがとうございました〜
今後もどうぞよろしくお願いします。
『キリクと魔女』’98・仏
あらすじキリクが生まれたアフリカの村は、魔女カラバの恐ろしい呪いにかけられていた。泉の水は涸れ、魔女を倒しに出掛けた男たちはすべて魔女に食われ、村に残っているのは女子供と老人だけ。「どうしてカラバは意地悪なの?」持ち前の好奇心と行動力で、小さなキリクは…