#106.アズールとアスマール
初めてこの映画のことを知ったのは、ジブリ美術館で、この映画の展示特設コーナーを見た時。(こんな記事を書きました)
なんとまあ、カラフルな色彩美。まばゆいばかりのこの色とりどりな世界に、圧倒されてしまったのね。
この映画の配給会社が、ジブリ美術館ということで、展示がされていたのだけれど、その絵というのがちょっと変わっていて。
絵は、どういった仕掛けなのか、後ろからライトアップされていて、まるでスタンドガラスのように、色が美しく光と調和していて、・・・本当にステキだった。
この映画のいくつかのイラストが飾ってあったのだけれど、そこにあったのが、あのアラビアの宮殿だったり、バナナの森(ジャングルを抜けていく時に一度だけ映される1シーン)であったり、乳母の慈悲深い愛情溢れるあの何とも言えないシーンだったり・・・
舌を巻くばかりのカラフルさと、神秘性を感じさせる、アラビアの異国情緒性。
後ろから光を与えられた、この色鮮やかなスチールが、スタンドガラスと似たような効果を持ってしまって、心躍らされた。
まるでロッテ・ライニガーの切り絵のようにも思えて(記事はコチラ)、俄然期待してしまったのでした。
ストーリー・・・
領主の子アズールと、その乳母ジェナヌの子アスマール。身分と人種を超えて兄弟同然に育った彼らが、一時の別離を経て再会。2人はジェナヌが歌っていた子守唄に出てくる“ジンの妖精”を捜しに旅立つ。・・・
『キリクと魔女』のミッシェル・オスロの描く世界。
フランスのアニメーターであるということなのだけれど、舞台はフランスから海を渡り、イスラム世界へと飛んでゆく。・・・
肌の白いアズールと、肌の色の黒いアスマールが、二人揃って育つ設定・・・
このさわりを少し漏れ聞くだけで、今まで聞いたことのあるような、伝承物語や、おとぎ話と全く違うのは、すぐに気づかれるかと思う。
「白人」とか、「黒人」と言った言葉を使う代わりに、「目の色が青い」「目の色が黒い」と言い換えられているけれども、これは、忌憚なく言えば、肌の色のことを示しているのだ、と分かるように。
でも、話自体は、その二人が設定されている以外のことで言うと、
よく聞くような、少年を主人公にした、冒険物語。
シンプルとさえ言えるほどだったりして、まるでドラクエやFFのような冒険でありながら、アイテムを手に入れる時に、あまりにアッサリとゲットしてしまう。この単純さに、少々肩透かしを食らったりする。
しかしこの、肌と目の色の違う二人を設定した物語。
ありそうでなかったこの物語は、現代に即したおとぎ話だと思う。例えば、グリムが編簿した、『グリム童話』について言えば、あちこちのドイツ国内の民話であったお話たちということだが、
研究者によると、キリスト教の布教、以前と以後で、物語そのものの展開やあらすじが違ってくる、と言われている。
どういうことかと言うと、キリスト教での価値観が、人々の価値観として浸透したのち、人々の心にとっても、その価値観に即した物が好まれたからであって、
ハッピーエンディングが好まれるようになったり、「努力は報われる」式の物語に、変移を遂げたという。
たとえを挙げるなら、『美女と野獣』。
最後に野獣と結ばれ、「見た目と人の心の美しさは違う」、というような訓示が含まれるものとなってしまったのであって、
たとえば、ギリシャ神話と比べてみれば、その差は一目瞭然だ。
何が言いたいかと言うと、そうした、キリスト教圏のヨーロッパで語り継がれた民話と、イスラム世界で語られてきた民話とでは、その間に断絶があり、その二つが組み合わさるダイナミズム・・・
これが何とも、もの珍しく私には感じてしまった。
映像がとても美しく、ストーリー的には、のほほんとした童話的世界の明るさを持つ一方で、
テーマには現代性を持ち、フォークロア的な古さを体現している。
この映像美は、是非とも堪能して欲しいと思う。
何より目を引くのは、映像の持つインパクト。
アニメーション技術が、とても面白いものだった。
この感じは、うまく言葉に表せないかもしれない・・・。
普通のCGと、どこか、何かが全く違っている。これは一体なんでなのか、ずっと見ながら考えていた。
CGというと、初期のCGアニメは、影がやけに色濃くついていて、そこが自分は嫌いだった。不自然なまでのまばゆい光を受けたような、濃い影だったように思う。
見るからに自然なCGであっても、なんとなくデジタルに変換された感じが、苦手な人もいるだろうと思う。
このオスロのCGは、逆にこのCGの特性というものを、違ったものとして捉えているように思う。
3Dにこだわることをせず、あえて2D的な平べったさを強調されている、と言うべきか・・・。
影が、顔などのある部分にはついている一方、他の部分に全くついていないのだ。
これが、この絵の一番の特徴に思う。逆にこの平面感というものが、建物のゴージャスさ、神秘性、均等性を、かえって切り絵のような、ぺらっとした絵に仕上げている。
この絵の持つインパクトは、ジブリと言えど、驚嘆してしまったのではないかな?なんて思ったりもする。
ちなみに、一日に一度だけの字幕版、フランス語のものを見たのだけれど、日本語版は、香川照之が吹替えをやっているそうです。
それから、渋谷のシネマアンジェリカでは、毎週火曜の、最終回、19:30の回は、ジブリ美術館館長のトークイベントをやってるとか。(詳細はコチラ)
興味ある方は、どうぞ。
「アズールとアスマール(字幕版)」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
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コメント(21件)
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またまた、お邪魔します。
この作品の映像はもちろん音楽もとっても良かったと思ってます♪
字幕版をご覧になったのね!香川さんの吹替えも素晴らしい出来でしたよ。
やはり字幕版もアラビア語のところは字幕がないのですか?吹替え版はフランス語パートのみ、字幕があり声も吹き替えられていました。
んー、確かに独特なべたさがありましたね。物語は絵本の世界観だと思っていたのであまり気にならず、どちらかというと私も絵の独特な表現方法にクラクラ。そうね、3Dのようで2Dさが際立っていたようにも思えます。
アズールの美しい青い目にはすーっと引き込まれそうでした。
アズールとアスマール
目の覚めるような眩しい色調と美しい音楽に魅了〜♪
『アズールとアスマール』 Azur et Asmar
麗しきエキゾチシズムにウットリ。
美しい映像と音楽とテーマが溶け合う夢のような世界。
アラビア人の乳母、ジェナヌに育てられたフランス王子のアズールとジェナヌの息子アスマールに2人は兄弟のように育てられた。ジブリン、ありがとう。その芸術・文化的貢献、自分…
とらねこさん、さらーむ。
ジブリ美術館って、まだ混んでいるのでしょか。
そういえば、いつか行こうと思ってまだ行ったことがなかったです。
という私は宮崎アニメは新しい方のもの3本しか観たことがなくて、どっちかというとチェコやロシアやフランスのアニメの方に魅了されています。
そうそう、ロッテ・ライニガーの影絵アニメもすっばらしかった。
というわけで、夢心地な映像体験でした。
そうなの。ひとつの宗教や文化にとらわれない世界観がよいのです。
HIPHIPと社交ダンスの融合もよし、キリスト教世界とイスラム世界のMIXもよし。
次はF。
立川で上映していることを知り、すっ飛んで観てきました!
冒頭のアズールのぱちっと開けた瞳の色に吸い込まれそうになったところから、もうこの作品の持つ妖しいほどの色彩世界に魅了されてしまいました。丁寧に描き込まれた世界にため息、でした。
そして、愚直なほど真直ぐにオスロ監督のメッセージが伝わってきました。小難しいことではないんだよ、突き詰めれば単純なことなんだよ、と。
アズールとアスマール/Azur et Asmar
*公式サイト
2006年/フランス/99分
原作・脚本・監督:ミッシェル・オスロ
声の出演(吹替版):香川照之、岩崎響、浅野雅博、森岡弘一郎
音楽:ガブリエル・ヤレド
配給:三鷹の森ジブリ美術館
素晴らしい〜{/heart/}
その描き出された未来に希望…
シャーロットさんへ
こちらにもコメントTBありがとうございます♪
この作品は、かなりマイナーな映画かと思ってたんですが、やはり分かる人には分かるよさ、ってものがありますよねp(^^)q
シャーロットさんのように、この物語の、少し日本人に馴染みの浅い部分を、絵本の世界として捉える、というのは、正解だなって思いました!
そして、3Dでありながら2Dっぽいという感じを、わかってもらえて嬉しいです★
吹き替え版の香川さんも、良かったですか〜♪それはそれは。
でやはり、字幕版の方も、アラビア語は字幕ナシでした。言語ももちろんそのままでしたし。
でも、不思議な響きで神秘的な、歌のよさだったり、あるいは喧嘩してる時だったりしたので、あまり不便には感じませんでした・・・。
かえるさんへ
あっさらーむ♪コメントTBありがとうございます!
この二つの世界のミックスっていうところに、すごく主張を感じつつも、
ダイミックに映像で魅せてくれるところがすごく良かったです!
私も、宮崎アニメ(って、もちろん息子は入れずにの話ですよね)は、もののけで初めて好きになったんです。
小学生の時は、『ナウシカ』の良さが分かりませんでしたよ。同じ年の、『ゴーストバスターズ』は好きだったんですけどね。
こっちが自分にとって、衝撃すぎました。
ジブリ美術館は、まだ結構混んでますね。日曜だったからでしょうか。
なかなか立地的に良いですしね、ちゃんと楽しいですよ。
チェコアニメは、私も見たいなと思います。
ロシアのアニメも、見たことないですね。
今年は、アニメを良く見ているので、そろそろデビューしたいです。
rubiconeさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
立川にすっ飛んで行ったとは、なんだかすごく嬉しいです☆
そうなんですよね、冒頭の青い目・・・本当に神秘的な感じがしますよね〜♪
私は、乳母が子守唄をアラビア語で歌うところが、すごく好きでした。
オスロ監督のメッセージは、確かに伝わりましたよね。まっすぐに・・・
偏見なんて、本当に、どこから来るものなのか、人々の心にいつの間にか植えられたものたちなんですよね。
こんばんは
良作なのに公開規模小さくてもったいないですよね
ドラマツルギーもCGの絵作りも、和ものでも米ものでもない独特さで面白かったです
オスローマジックはアラベスク文様と相性抜群ですな
>アイテムを手に入れる時にあまりにアッサリとゲットしてしまう
そそ、ココ軽く波乱エピ入れたくなるところ「そんなことは俺の語りたいことじゃねえ!」とばかりに潔くスルー!
あれ?3つ目は思てたら、お前が持ってたかい!と(笑)
ラストのフィーリングカップル落ちには図らずも爆笑してしまったのですが、イスラム移民問題やスカーフ禁止法で揺れる仏だと結構過激でド直球なメッセージなのかも…
(すみません!合コンで面子足りないときの呼び出しみたいと思っちゃいました…)
オスロー監督、ビョークの「アース・イントゥルーダーズ」のPVも撮ってます
興味がおありでしたらコチラも〜♪
みさま
こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
そうですね、公開規模小さいですね・・全国には少し後に公開されるのですよね、それでも?
しかし、もう少し多くたっていいのにって思いますよね。
しかし、シネマアンジェリカは、元シネマソサエティなんですね!今まで知らなかったから、新しい映画館かと思ってました。
アラベスク文様を、アニメで見る、なんて言うのも、とっても珍しい経験でした。
なんともユニークな映像美でした。ドラマツルギーもおっしゃる通り、結構クセがありますが、新鮮な驚きに満ちていましたね!
イスラム問題は、フランスにとっても、全世界にとっても、あまり積極的に語られない話題、と言いますか・・
さっき、ニュース見てたら、アルカイダがテロをアメリカにまた計画?・・て事で、「緊張の夏 米国の夏」なんて、妙なキャッチつけてました・・フジで。ぉぃ
ビョークって、面白いPV相変わらず作ってるんですね。オスロー監督とも作ったなんて・・さすが、目の付け所がいつも新鮮ですよね、ビョークは。さすが。
アズールとアスマール
(2006年/フランス)
【物語】
アラビア人の乳母ジェナヌに育てられた、フランス人領主の息子アズールと
ジェナヌの息子アスマール。
やがて大人になったアズールは、幼いころに聞かされた「ジンの妖精」を助けに
海の向
『アズールとアスマール』
@渋谷シネマ・アンジェリカ、ミッシェル・オスロ監督。
海の向こうは、不可思議の国だった。
アラビア人の乳母ジェナヌの子守唄を聞いて、まるで兄弟のように育った、フランス領主の息子で青い瞳のアズールと、ジェナヌの実子で黒い瞳のアスマール。
大きくなって乳母の歌…
映画『アズールとアスマール』の美しさに“絶句”(笑)
何か、これは観ておきたいなと思って。
内容等については、こちらをご参照下さい。
映画「アズールとアスマール」公式サイト
……でも、このサイト、ちょっとイラっときますね(笑)。
まず、「え〜っと、どこをどう見れば何が見られるのかな?」というのが分か…
*アズールとアスマール*
「アズールとアスマール」より (c)2006 Nord-Ouest Production – Mac Guff Ligne –
{{{ ***STORY*** 2006年 フランス
アラビア人の乳母、ジェナヌに育てられたフランス王子のアズールとジェナヌの息子アスマール。お乳…
「Azur et Asumar」(アズールとアスマール)美色彩ブラボー!
わざわざ東京まで子供と一緒に見に行って来ました。
キリクと魔女を映画館で見なくて後悔したので、アズールとアスマールは是非映画館で見たかったんです。
感想は、大満足(^O^) 色が凄く綺麗で、アズールの目とか肌の感じなど素晴ら
とらねこさん〜〜見たくて我慢が出来ず、はるばる東京まで出ました。
見て良かったー☆大満足な映像でしたー1
ところで、眼鏡男が、吹き替え版では、ぶーっ!っていうのがしょっちゅうあったのですが、とらねこさんはフランス語版をご覧になられたとのこと。やっぱり、フランス語版でも、ぶーっ!は、あったんでしょうか?
そのブーが、私と娘はとても嫌いで、、そこだけちょっと残念でした。
シネマ・アンジェリカは初めて行ったのですが、隣に「ナチュラル・ローソン」なるものがあって、そこも入ってみました。田舎にはフツーのローソンしかないので^^
>ロッテ・ライニガーの切り絵
これは、とらねこさんちで、知りました。私もこういうの大好きなので、今度探して見てみたいと思います〜♪
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
なんと、わざわざこの映画のために、東京に出ていらしたなんて!!!!
すごい、さすがだ・・・(ア然ボー然)
latifaさんのマニアぶりは、いつも頭が下がります。
それにしても、せっかくlatifaさんを東京にまで呼び寄せたこの作品だったのに、香川さんは「ブー!ブー!」言いとおしだったのですね。
うーん、それは残念です。。。ただ、それはフランス語の方も、やっぱり「ブーブー」言っていたので、もう仕方がないかもしれません。
ナチュラルローソンて、全国にある訳じゃないんですね!
しかし、「ナチュラルローソンに感動」しているlatifaさんが、なんだか面白〜い♪
>ロッテ・ライニガー
映画としての完成度なんかは、特に高いわけではないのですが、いかにも手作りな感じの、アニメの原初的体験は、素晴らしいものがありました。
アズールとアスマール
美しい色彩だ。でも立体感がない。
『アズールとアスマール』
色の美しさを楽しむ。
切り絵のような影絵のような絵本のような…
平面的な印象なのに表情は豊か
青い葉が茂る木の場面も好きだけど、
小さな王女とアズールが木に登っの..
アズールとアスマール
2006年 フランス 2007年7月公開 評価:★★★★★ 監督・原作・脚本・台