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#101.ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より(トークショーつき)

ざくろ屋敷“画ニメ”って、初めて聞きました。
説明によると、「従来の映像、アニメとは一線を画す、新感覚映像コンテンツ」とか。


こちらの作品では、70枚近い絵画を贅沢に使用して作られた作品。
一枚一枚の絵画を丹念に見るのが好きな人であれば、この作品の空気感を、このテンペラ画を映した映像から、十分に感じ取ることが出来るだろう。
そして、静かに流れるこの時間に身を任せるのを、心地よく感じるだろう。


本当は静止画で作られているのに、この流れるような、たゆたう空気を感じ取るのは、なんとも不思議な異空間のようだ。
時間と時間の狭間に、置いてけぼりにされ、人々に忘れられているかのような、母と息子二人の兄弟。
まるで、よく知っているのに、子供の頃のいつかで、すっかり忘れてそのままになっていた、どこか哀愁を感じる風景のように、
彼らの姿が自分のどこかに、蘇ってくるかのような感覚にさえ襲われる。


フランス、ロワール河のほとりで、静かにひっそりと暮らす彼ら。
光が舞うように、彼らはその一時を、幸せな時間として共有する。
しかし、彼らの時間は、もう残り少ないのだった。
美しかった母に死の影が迫って来ている。


映像は、きらめく川のほとりで、生命を喜ぶかのような、燦燦とした光を映し、
それとは対照的に、暗い死の影を、色濃くだんだんと映し出してくる。
母の美しい横顔は、哀しげな微笑を湛えて、死が容赦なくやって来るのを感じる。

静止画のその中ですら、ズーム・アップしたり、右へ、右へと流れてみたりする。だが、左へカメラが一度移動した時は、心に引っかかるものがあって、やけに覚えていた。
幼子の髪を、くしで梳かし、頭をなでる母。
カメラが、それまでと違って、まるで不自然にギュルギュルっと移動するのだ。
右へ、右へとロワール川を映し出し、悠久の川の流れを感じさせるのとは対照的に。
おそらく、この左へのカメラの不自然な動きは、時の流れを止めることが出来ない、だが時が止まるのを強く望む、“母の一瞬の思い”を、そしてその“至福の時”を表現しているのだろう。


この回は、監督・脚本の深田晃司さんと、全ての絵画を描いた、画家の深澤研さんが、初日のトークショーとして、来ていた。
深澤研さんは、端正な顔立ちの、不思議な感じの人だった。
監督の深田さんは、眼鏡をかけてて頭が良さそう。

この製作の秘話などを、語ってくれた。
このテンペラ画で構成された映像・・・途方も無く時間がかかったこの作品。
お二人は、この映画を撮る前から、元々知り合いだったらしい。
よく知っている画家である深澤さんに、監督の深田さんが、声をかけ、この作品が出来上がったとか。
小説を選んだ後は、一切、絵コンテは描かず、どの絵を切り取るかは、全て画家に任せたらしい。
あと、実際にフランスのざくろ屋敷を見に行って、この作品に携わったらしいですね。


監督の好きなバルザックの、一番好きな作品がこの作品だったらしい。
私もこれは読んだことがあった。何しろ、バルザックは、私にとっても、フランスの作家では、一番目か二番目に好きなので。(特に『谷間の百合』!)
『知られざる傑作』として日本では刊行されているけれど、元々は『人間喜劇』として、89編もの小説、2000人以上の登場人物によって構築された世界、とのこと。大学図書館とかに行かないと、全部はなかなか手に入らないと思う。
こうして、絵画の連作を愛でるかのように、一本の映画としてジックリ味わってみるのも、一興でした。


ざくろ屋敷@映画生活
「ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」より」の映画詳細、映画館情報はこちら >>

 

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コメント(2件)

  1. はじめまして。「ざくろ屋敷」私も先日見てきました。すごくいい映画だと思いましたが、このレビューを読んで何がよかったのか、何であんなに感動できたのか、ちょっと分かった気がしました。
    そういえば映画芸術というHPに監督のインタビューがありました。それを読むと、監督は完全に画家に絵を任せていたわけではなく、文字コンテという形でカットを割ってある程度指定していたみたいですね。
    バルザックの原作、私も読んでみたいと思いました。
    なんにせよ二人の次回作が楽しみです。では。突然失礼しました。

  2. takaさんへ
    初めまして、こんばんは!コメントありがとうございました!
    takaさんは、すごく感動されたのですね。
    とても静謐な、不思議な作品でしたよね・・・
    >監督は完全に画家に絵を任せていたわけではなく、文字コンテという形でカットを割ってある程度指定していたみたいですね
    あ、そうだったのですか☆監督自らのお話に、「絵コンテは全く書かなかった」と言っていたのですが、「文字コンテ」なるものは存在したのですね。では、「ここからここまでの節の中で描く」というような作り方だったのでしょうね?
    ご訪問ありがとうございました!この記事には、きっと誰もコメントしてくれないだろうな、と思っていたので、とても嬉しかったです。
    またよければお話してくださいまし。




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