#98.ブリッジ
アメリカ、サンフランシスコ。風光明媚な観光地である、ゴールデンゲート・ブリッジは、世界最大の自殺の名所でもあると言う。
このドキュメンタリー映画は、これまでに描かれた中でも本当にタブーを扱っていて・・・“人が死ぬ瞬間”を描いている。
テーマは、自殺だった。
自殺・・・。
この言葉が使われているというだけで、トラックバックが載らないブログもあると聞いた。
匿名性の強いこの世界とは言え、何でもアリの言いたい放題、と言うわけにはいかない・・・だけど、検閲をどこまでかけるか、その境界線は不明瞭だ。
“自殺”や“死”といった話は、あまり言ったり考えたりしたくない、という人も中にはいるかもしれない。
「避けて通りたい」とまで意識的に思わずとも、「何となく聞きたい話じゃないんだよな」と、無意識的にそう、感じてしまう人もいるかと思う。
なので、この先は、「そんな重たい話題は、あんまり聞きたい気分ではない、」と言う人は、ご注意をお願いします。
映画では、一年かけて撮影がされていて、実際に24人が飛び込み、その故人の遺族や知り合いに話を聞きに行く、といった形で撮影がされたそうだ。
恐ろしいほど、ガチのドキュメンタリーだ。・・・
とある映画祭では、上映拒否をしたとか。
だが、監督のインタビューを読む限りでは、「自殺しそうな人がいたら、管理事務所に電話をまずかける」、という事をルールとした、ということだし、そのために6人の自殺を食い止めてもいるそうだ。
だけど、実際に、目の前で人が迷い、ためらい、また考え直したり、・・・
そして、飛び込んでゆくのを見るのは、気持ちがいいものでは全然ない。
ここにあるのは、間違いなく、その人の最後の“生”から“死”に至るその瞬間であって。
映画としてどうとか、衝撃的な映像だからこうとか、全く考えられない。
「極めてシリアスな意図だからと言えど、じゃあそこに、ヤジウマ精神がないと言えるのか?」と考えなくもないけれども、少なくても、何かを考えるきっかけになるはず、と思う。
私には正直言って、この類のテーマは、昔から慣れ親しんだものだったりする。私の友達には、鬱傾向が強くて、病院通いしないと生きていけないような友達が、割と多く居た。最近でも実を言うと、「抗ウツ剤を50錠飲んだ」と言って電話して来た友達が居て、その友達との電話を切った後、私が兄弟に電話し、母親に電話して、救急車の手配までした。・・・
それから、まっすぐ歩けなくなってしまって、階段から転げ落ちてしまった人もいるし、病院通いしてる、っていう人は結構居た。
そして、そういう人は、ガサツそうに思えたりしても、何か小さなキッカケすらあれば、すっかりウツのムードに包まれてしまう、という、危なげな人もいる。まるでガラスのようなメンタリティだ。
例えば、『ペイ・フォワード』を見たら(私が好きと言ったのだけど)、すっかりウツが酷くなってしまった人が居た。
私から見れば、あの映画は、
“少しでもいいから、何か世界にある一片の善の精神を、あるか分からないけれども、あると信じたい何かを、自分も行おうではないか”、という映画だと思ったんだけれども。
その友達にとって見たら、綺麗ごとにしか思えなかったらしく、まるで逆の世間だ、と感じてしまったそうだ。
その後、車椅子の人をバス通りから押して歩いた時に、誰も手伝おうとする人がいなくて、その後、ドンドン病気が悪くなって、すっかり仕事まで行けなくなってしまった人がいた。
この人はこの時、ウツでモヒカンだった。
世間に反抗したいのか、それとも逃避したいのか、どちらか分からない。
それから、他には、『嫌われ松子〜』を見て、やっぱり、「激ウツ入った」という友達も居た。
その人に「見ない方がいいよ」なんて言われてしまったので、とにかく今まで見ずにいる。
私は、そういう人達に影響を受けてしまって、こちら側のメンタリティの方に同調してしまった時期があり、すっかり、“作り笑いが出来る人達”というものに嫌気がさしてしまった頃があった。もともと、そうした傾向はあったとは思う。
しかし私はと言うと、さほど繊細に出来ていないのか、いくらそんな友達が多くて、どんなに影響受けても、病院のお世話になったことはまだ一度もない。
だけど、本当言うとギリギリのラインだったと思う。
私の場合は、本とか好きだったので、自分よりずっと賢い人の意見に耳を傾けていた。だから、自分一人の悩みなんて、大したことない、と思うことが出来たのだと思う。
以前、大学で英文学を専攻していた、と話したことがあると思うのだけれど。
私が卒論を書いたのは、実は、自殺をしてしまう、一人の女の人の話だった。
ワンシチュエーションものの戯作で、家の中で行われる、母親との会話のみによって始まり、幕を閉じる。
どう閉じるかというと、この女性がピストル自殺をして終わる、という、限りなく重たい話だ。
最後、銃声が轟き、それがまるで「No!」と言っているかのように聞こえて、終わる。
ショッキングな終わり方で、カミュの戯作を思い出させる。
物語は、終始、これから自分が死ぬ、ということを、母親に納得させようとしているかのような、そんな会話が続くのみだ。
自分が生きる気持ちがなくなってしまった様々なことを、挙げ連ねているのだ。
私は、この話には、本当に粉々になったような気持ちにさせられた。
辛かった・・・。
この映画、『ブリッジ』は、故人の周りの人たちにインタビューしたもので、少し齟齬があり、温度差がある。正直、私の選んだ卒論ほど、破壊力のあるものではないけれども、死をみつめ、その周辺から浮き彫りにしていった作品ではある、と思う。
追記、私の選んだ卒論はコチラです。
マーシャ・ノーマン『おやすみ、母さん』

2007/07/10 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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コメント(21件)
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ブリッジ
アメリカ
ドキュメンタリー
監督:エリック・スティール
出演:
【物語】
美しく荘厳なフォルムで見るものを魅了するサンフランシスコの巨大吊り
橋“ゴールデンゲートブリッジ”。アメリカを代表する観光名所として知
…
こんにちは♪
知り合いや身内に自ら命を絶ってしまった
こともりましたが、自分自身としては自殺
の「じ」も思い描いたこともないこともあ
って、かなり自殺というものを軽く…とい
うか無関心でしょうか?、と言う目線だっ
たこともあって本作はボクにとって兎にも
角にも重かったです。
風情さんへ
こんばんは〜★コメントTBありがとうございます。
うーん、軽々しく扱えないですよね、さすがに自殺っていうテーマは・・・。
私は、好きなミュージシャンや、好きな作家が、ことごとく自殺しているので。
20歳からずっと、「自分は27歳で死ぬから」って言ってたんですよね。まあ、若気の至りで。
自殺を考えたことがあまりない、という人には、どういう反応なんでしょうか?・・・これから早速お邪魔しますね!
「ブリッジ THE BRIDGE」 映画 感想
何かの映画祭で凄い話題になったらしい、という噂を聞いていた、サンフランシスコのゴ
真・映画日記『ブリッジ』
7月10日(火)◆497日目◆
最近、日記でテレビドラマも取り上げるようになったけど、
あくまでも本命は映画です。
まあ、ドラマはたかだか45分くらいなので、一日2本は見ようと思えば見れる。
午後7時半、恵比寿ガーデンシネマで『ブリッジ』を見る。
これどうやっ…
ブリッジ
最初にこの映画のポスター(チラシだったかな?)を目にした時は、サンフランシスコの美しいゴールデンゲートブリッジを舞台にしたオムニバスラブストーリーかと思ったりもしたんだけど、とんでもない見当違いで予告編を観て呆然。なんとなんと、ゴールデンゲートブリッジから….
レザボアCATs様
TBをありがとうございました。ここなつです。
普通に日常生活を送っていると、見過ごしてしまうようなことがこの作品には色々と隠されている、と思いました。
私の周囲にはそういう方があまりいらっしゃらなくて…でも、この作品でもそうですが、身内のことを考えると胸が苦しくなります。
又こらのブログにもいらしてください。
「ブリッジ」
えっとですね。非常にマジメな作品だと思います。
ドキュメンタリーとして、地道な取材と、高い志、そして人目を引く題材。
…でも、すみません、私は途中で寝てしまいました。
そもそも、サンフランシスコの名所、ゴールデンゲイトブリッジ、ここは屈指の自殺の…
ここなつさんへ
初めまして★コメント、TBレスありがとうございます!
そうですね、周りにそういう人が居るかいないかで、自分にとって身近に感じるかどうか、というのが違ってきそうですね。
自分の身内だったら、と思う想像力がここなつさんはおありなのですね。
また遊びに行かせていただきます。
重い映画だった・・・「ブリッジ」
予告を観たときにとても惹かれるものがあった。おそらく僕にはあわない映画、きっと見終わった後「観なきゃ良かった」と思うに違いないと予感はしたのですが、なんだか惹かれるものがあり、観ることにしました。と言うことで、ブリッジです。
とらねこ様
お返事ありがとうございました。
又ちょくちょく寄らせていただきます!
ここなつさんへ
おはようございます!わざわざ戻ってコメントくださり、ありがとうございました
こちらこそよろしくお願いします^^
ブリッジ
ゴールデンゲートブリッジ。世界最大級の吊り橋であり、サンフランシスコの観光名所の一つでもあるこの橋には、「世界最大の自殺スポット」というもう一つの顔があった。そんな裏の顔を固定カメラを使って一年間記録し続けた、自殺という行為に迫る異色のドキュメンタリー映….
こんばんは。
僕の友達にも一人、鬱だった奴がいます。そいつは転職を気に鬱病を克服しましたが、他にも会社で二人、鬱病になって辞めていった人がいました。彼らは今どうしているんだろう。まさか自殺したりしてないよな。
そんな感じで、自殺という行為に関して深く考えてしまう映画でした。
えめきんさんへ
こんばんは〜★コメントTBありがとうございました。
この話、ただでさえ重い話だったのですが、自分もさらに重い話をしてしまいました。
でも、人生を生きていくうえで、時々重い話が出来ない人は嫌だな〜という時もあったりします。
いつも楽しいばっかりの人ももちろん好きですが、どっちの話もするのが本当、って思ったりします。
そんな訳で、TBコメントありがとうございました。
ブリッジ [映画]
★★★★★★★★★★ http://the-bridge-movie.com/
『ブリッジ』
大阪から別府へと向うサンフラワー号の甲板から海を覗き込んだ事がある。
当時、少し暑くなり始めた季節だったので甲板に出て夜風に当たる事にしました。室内もそれなりに冷房が効いていたのですが、雑魚寝のタコ部屋で涼んでいるよりは周りに誰もいない場所で夜風に….
こんばんは!
有り難い事に周りで命を絶った人はいませんが、自殺により身内に先立たれてしまった人を知っています。仲が良かった友人だったけど流石にどう声を掛けたら良いのか分からなかった。
命を絶つ側も辛いのかもしれないけど、残される側も同様に苦しいのかななんて思ったものです。
トルネード叶井がらみって事で半分ショック・ドキュメンタリーのような物を観るつもりで映画館に出かけてしまいましたが、やっぱり映画が終わると血と気分が沈みますね。
橋の欄干を超え、そして最後の一歩を踏み込むかそうでないかが生と死の分かれ道。意外と生も死も近い存在なのかもしれませんね。
蔵六さんへ
こんばんは★コメントありがとうございます。
そうですね、この映画は、残されるものの立場から描いた作品でしたよね。
本人が、いつとは限らないけれども、周りの人にS.O.Sを出してはいるのですよね。
でも、そういう空気を健康な精神の人はとかく毛嫌いするものだし、重い話題だ、と向き合うことを避ける・・
こうした話は、まさに出来ない相手と出来る相手がいるんですよね。
生と死は隣合せなのに・・・
こうした話が出来る人こそ、本当の友達かな、と思ったりもしました。
ブリッジ:映画
今回紹介する映画は、衝撃映像のドキュメント作品の『ブリッジ』です。
映画のストーリー
毎年900万人の観光客が訪れるサンフランシスコの象徴、ゴールデンゲート・ブリッジ、全長:2,790m、高さ:230m、海までの距離:66m。
そこはアメリカを代表する観光地であると同時に…
ブリッジ
ブリッジ(2007/11/22)エリック・スティール商品詳細を見る
ゴールデンゲートブリッジ・・景色としてはすばらしく、観光客もたくさん訪れるこの場…