※10.『美女と野球』
現在、最強のコラムニストと謳われるリリー・フランキーの、黎明期に書き綴ったコラム集。
『リリー・フランキーの死亡遊戯』という、ゴキゲンなタイトルを冠し、音楽雑誌『クロスビート』に掲載された。
内容は主にエロネタから下ネタまで・・・と言うのは冗談にしても、200万部を越すロングセラー、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』に比べたら、無駄にカウパー液充満した作品だった。
それにしても、このクリティカルヒットの心地いい金属音はなんだ。
何を語らせても面白いリリーさんは、きっとスプリンターに違いない。
5Pという短い文章に、リリーさんのエッセンスが、縦横無尽に組み込まれている。
アツイものを感じさせたり、たかが下ネタ、されど下ネタには、極めて集中力の高いほとばしる何かを感じてしまう。
発想はとても独創的で、だけどよく馴染んだ何かがある。
それはたぶん、男性にとっては、居酒屋などで、やたらと面白い話をしながら機嫌良く呑んでるようなムードメーカー気質の誰か。
「うん、それってさ、私の場合は〜〜、」なんて、思わず話しかけたくなるような気楽な文章のリリーさん。
私にとって、オモトモダチになりたいナンバー1だ。
この本を読んでいたので、私にとっては、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』映画のタイトルは、よそ行きにすら感じられてた。
オカンは、“とにかくブラックユーモアとか、下ネタとかが好きで、そうした話題で一日中笑っているような陽気な人”、リリー・ママンキーだったし、
オトンは、“九州からやってきた伝説のパンクロッカー”、リリー・パパンキーだった。
だって、リリーさんがそう言ってたもん。
映画よりずっと、自分にはこちらの方が親しみやすくて好き。
映画の方は、リリー入門て感じですわ。
’93年に掲載されてから、リリーさんにとって初の出版物となるはずだったこの作品は、“あとがき”によると、やはり、リリーさんにとって特別な、パーソナルな一面に触れるものなのだそうだ。
だけど、読み落としてはいけないのは、文庫本のあとがき、つまり“あとがきのあとがき”部分だった。
’98年に書かれた“あとがき”の後に、文庫本用に書かれた、2005年のこちらの本人の手によるこれは、この12年という、いわゆる干支を一回りした後のものだ。
リリーさんの成長と、ノリにのった才人の、流れるような筆の違いを感じさせる。
子供の頃は恐ろしかったこんな雷雨も、いつの頃からか、それを心地好いと思い、どこかで楽しんでしまうようになった。昔、祭り囃子(ばやし)を聞いた時のように、心がじんわりと踊ってしまう。
車の運転をするようになってからは更に、この気象が好きになった。
ワイパーの効かない大雨の中。前も後ろも横も視界の閉ざされた車中で、路肩に車を停めたまま彼女と話をするのが好きだった。
空き地に転がった土管の秘密基地の中でドキドキしながら雨やどりした時のように、ここがどこなのか分からなくなる。
ここではないどこかにいるような気がする。この世界に二人しかいないような気がして急に愛おしさが込みあげてくる。
閉じ込められているのに、甘酸っぱい空間。
(以下、『美女と野球』(Amazon)あとがきより抜粋)
んも〜、びっくりしたよ!全然人が違うみたいで。なんだこれ、カッコいいじゃねーか、って。
リリーさんに言わせれば本当は、「今の俺はこれくらい書けるレベル」と言いたいのかもしれない。
まんまと術中に陥った私は、それまでのエロネタ炸裂ぶりとの、余りの違いに、滝の汗でした。
リリーさん、カッコ良すぎ。
2007/06/21 | 本
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コメント(3件)
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白鬚もリリー好きンキーvなひとりですが、
コレもコチンネタにほのかに滲む人間賛歌が素敵な一品だよね!
とらねこ3が東京タワー、未読なのが以外だけど、マジおすすめデス!
映画はね、本には勝てない!
つかあの内容と文は本だからこそって感じだから、
あとがきでリリーシビィっ☆ってなったんなら
もう絶対アカン!おかん!ってなるから!
それにしたってリリーの周囲はスパイシーなエロ人ばっかだけど、
あれかな?割とみんなぶっちゃければこんなんなんかな?
白髭タンさすが白髭タンならでは!
ンキ〜♪
>リリー・好きンキーv
ウマイ、ウマ〜イ
サックリ投げたパンチも握りこぶしっ!な一言に、いつもながらウットリ
>映画はね、本には勝てない!
おお、そうですか!あれ、映画は映画でなかなか頑張ってたと思うけど、でも、リリーさんの文はね〜。本当、ウマイですもんね〜
私も、先に映画見たから、平気だったけど、それでも、このコラムにあった、オカンのエピソードが頭によぎって、余計に泣けたのかも。
私も読んでみようかな♪と思います。
スパイシーなエロ仲間、本当に楽しそう★
でも、こういう人って、そんなに女にモテないと思うんですけどね。