#75.主人公は僕だった
待ってました!ウィル・フェレルの新作。『プロデューサーズ』以来だわっ。にゃは
え、覚えてない?なんて、言いませんよね。あのヒトですよ、あのヒト。鳩と一緒にナチス敬礼してた、あのテンション高いあのヒト。あの時のウィル・フェレルは本当、面白かったぁ〜。
今回は、めったに見られない、彼のシリアス演技らしく、・・・大丈夫なのかな?
なんて思っていた。日本では人気はまだまだでも、アメリカではすでにコメディアンとしての人気を獲得している彼。
ザッとあらすじを聞いた感じでは、自分の人生が小説だった・・・てとこで、放送されてたドラマの主人公だった、なんていう話の『トゥルーマン・ショー』を思い出すし、その上、コメディアンの彼が、この役を・・・というだけで、なんだかいかにもジム・キャリーと比べられそう・・・なんて思ってたのよネ。
・・・でも、その心配はないのかな?『ブルース・オールマイティ』の続編の『エヴァン・オールマイティ』なんていう作品が今後公開を待たれているし。
ジム・キャリーの後釜は、我がウィル・フェレルではなくて、『40歳の童貞男』、『リトル・ミス・サンシャイン』と、去年からなんだか火の玉の勢いのついている、スティーブ・カレルの方が一歩リード、て感じなのかしらね。
そして、この作品の方は、脚本がナショナル・ボード・オブ・レビュー脚本賞を取った、新人脚本家のザック・ヘルム、・・ということもあって、一体どう転ぶのか、思いもよらなかった。
『チョコレート』、『ネバーランド』の監督、マーク・フォースターによって紡ぎ出された世界は、やっぱり、温かくて、素敵なお話だった。
風変わりなシチュエーション・ドラマ。設定も、ちょっと変わっているものとなっている。あまりこうした脚本て、ないかもしれない、なんて思ったりもした。
「自分は小説の主人公だった」・・・だが、主人公ハロルド(ウィル・フェレル)は、税務署に勤める、平凡そのものな人。仕事と家の往復を、毎日暮らしている人だった。
その彼に突然訪れる、変容の時。
満足していたはずの、毎日のルーティンが、変わる瞬間がやって来る。全くドラマ性のなかった彼の生活が、ドラマに彩られたものになってくる。なんたって、彼が主人公なのだから・・・!
とは言え、脇役にすらなりそうもない、地味そのものな人なのに。
アナ(マギー・ギレンホール)と出会い、ときめき、彼の人生が喜劇なのか、悲劇なのか・・・それを言い当てるために、ハロルドが自分の人生に起こったことを、メモに描く。この辺り、『メリンダとメリンダ』を思い出すのでした。
喜劇と悲劇の違いは、「悲劇は主人公は死で終わり、喜劇は結婚で終わる」と言う辺りとか、英文学教授が出て来るのだから、英文科を専攻したことのある人には、分かってもらえるだろうけど、そんな古典演劇の魅力をも思い出す作品となっているのでした。
しかし私には、英文科ばかりでなく、この物語には、『奇々怪々! 俺は誰だ!?』も思い出しました。平凡な日常が、突然、自分の人生も、アイデンティティも、分からなくなってしまう。
この展開の仕方の驚天動地ぶりも、ちょうどこの谷啓主演の、’69年の日本映画にソックリだったのです。
「自分の人生って、一体なんだったんだろう」。
今まで何くれとなく過ごしてきた人が、こんな風に疑問を感じるのは、・・・
それが、そもそもまるで根本的な疑問のように、自分のこれまでの生に対して、大きな疑問を抱いてしまう、ということは・・・
何も、英文学だとか、映画ばかりではないですよね。
きっと、“中年の危機”と呼ばれるもの、この中心になってくるのが、そうした、漠然とした、疑問なのじゃないかと思う私です。
35歳〜45歳くらいによく訪れるというこの中年の危機は、いわゆる“不惑の”40代、と呼ばれるものと、似ているようで。
不惑、というのは、孔子が言ったことですが、孔子だからこそ、“不惑”というのであって、一番迷いやすいから、あえて“不惑”と言うのだそうです。
そして、心理学の本を読む限りでは、その人の人生が成功しているか、失敗と感じているか。
はたまた、金持ちか、貧乏か。・・・
そういったこととは、全く無縁に、皆に訪れるものなのだとか。
今まで自分の人生を、振り返ったことのない人、あまり普段ものを考えない人に、特にキツく訪れるらしい。一気にそこで、いろいろなことを考えてしまうのだそうです。映画ファンは、普段いろんなことを考えているから、大丈夫かもね。なんつってw
話は戻って。そんな風に、自分の人生において、自分のやりたいことを、キチンとやれているのか?それとも、我慢ばかりして、思うような一生を過ごせていないのではないか?
こんな風に疑問が湧いてくるのが、この映画のすごいところ。
この主人公のハロルドが、死ぬという時になって初めて、はたと、自分の昔やりたかったことを思い出します。
ウマ下手ギターを弾く彼の姿が、とても愛らしい。
ギター片手に歌うと、どうしてこう魅力的に見えてしまうんだろ〜(笑)
アナが彼に突如襲い掛かっていくのも、気持ちが分かります(爆←爆弾発言の爆?)
最近『ゲゲゲの鬼太郎』のウェンツもギターボーカルでCD出したけど、今までより魅力的に見えてしまったし!・・・というのは、私だけ?w
自分が死んでしまうとしたら、何をしたいか。
そうしてやりたいことをやれて初めて、「彼は自分の人生を生きた」という実感が湧くのですね。
それからもちろん、人生にとても大切なもの、愛というもの・・・。
そして、疲れた日、家に帰ってホッとして食べるクッキー(あ、いいよね、これくらいのネタバレ。)
この映画を見ると、間違いなく、美味しいクッキーが食べたくなりますよ♪
試写会には、とても美味しいクッキーが一個、ついてきてありがたかったです。
これから見る人は、クッキーをバッグに忍ばせて、この映画を見ましょう〜
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(54件)
前の記事: #74.アクメッド王子の冒険 〜ロッテ・ライニガーの世界
次の記事: #76.メリンダとメリンダ
映画『主人公は僕だった』
原題:Stranger than Fiction
事実は小説よりも奇なり、というけど、小説の主人公がそのまんま僕だったなんて、いかにも嘘っぽくて期待しなかったけど??意外に面白くて感動的な物語??
主人公は国税局に勤め几帳面で計算にも強いハロルド・クリック(ウィル・フェレ…
『主人公は僕だった』’06・米
あらすじ毎朝同じ時間に目覚め、同じ回数だけ歯を磨き、同じ歩数でバス停まで歩き、毎晩同じ時間に眠る会計検査官のハロルド・クリック(ウィル・フェレル)。そんな几帳面すぎる毎日が続くある日、彼の行動を正確に描写する女性の声が彼の耳に聞こえてくる。その声の主は…
『主人公は僕だった』を観たぞ〜!
『主人公は僕だった』を観ましたもうすぐ自分の人生が終わってしまうと知った男が、死を阻止するために奔走するファンタジードラマです>>『主人公は僕だった』関連原題: STRANGERTHANFICTIONジャンル: コメディ/ドラマ/ファンタジー製作年・製作国: 2006年・アメ…
「主人公は僕だった」(STRANGER THAN FICTION)
自分自身の人生が女流作家の執筆中の小説に左右されていることを知った男が、人生を取り戻すための孤軍奮闘ぶりを描いたヒューマン・ファンタジー「主人公は僕だった」(原題=小説より奇なり、2006年、米、マーク・フォースター監督、112分、コロンビア映画配給)。…