#73.約束の旅路
この映画は最早、今年のロングラン・ヒットとして銘記される作品になるんじゃないかな、と思う。
東京では、“岩波ホール”という、レアな劇場で公開されたのだけれど、それももう2ヶ月前の話。
それなのに、こちらではまだまだやっているし、全国公開では、まだまだ6月、7月からとなるんですね。「約束の旅路」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
ベルリン国際映画祭、観客賞、その他受賞というこの作品だけど、とても丁寧に作り上げられた、大河ドラマ、といった感じ。
私が行ったのはGWだったのだけれど、そのせいもあってか、ほぼいまだに満席状態でした。すごい、人気あるんだな、って実感。客層も、この映画館だからか、年齢層が高め。
渋谷のミニシアター系とは違って、こんなにのんびりな、追加・追加に次ぐロングラン公開というのも、この岩波ホールならでは、と言えるのかしら・・・。
ストーリー・・・
母親から、ユダヤ人を偽ってイスラエルへ逃れるよう命じられたエチオピア難民の少年。無事に移住を果たし、シュロモという名で義父母と暮らすようになるが、そんな彼を激しい差別が待ち受けていた。・・・
監督、脚本、原案に、製作と、全てに渡って携わっているこのラデュ・ミヘイルアニュという人の、思いのこもった、渾身の一作なのだろうな、と思う。
物語は、アフリカ難民やイスラエル・ユダヤ人など・・・初めはそうした政治色の強い映画なのかな?と思って見たら、違う。テーマは重いけど、良質のヒューマンドラマ・・・一人のアフリカ人(エチオピア人)の成長物語だった。
ユダヤ人と偽ってイスラエルへ亡命した、シュロモというまだ幼い一人の子供の話。実際にこの映画にあるように、この“モーセ作戦”と呼ばれる亡命計画で、この映画のシュロモのように、エチオピア人を初めとした、アフリカに住む貧しい人々が、押し寄せてきたそうだ。
主人公シュロモは、嘘などつきたくなかっただろうし、靴など履きたくなかっただろうし、それよりもちろん、故郷とも、母や家族とも別れて、知らない土地で暮らすのは、さぞかし心細かっただろう。
「せめてこのシュロモだけでも」という母の必死の思いより、他の家族と離れて孤独を感じる、まだ小さい少年の心。
この時の彼が食事を食べなくなってしまう姿は見ているものに痛々しい姿で映る。その理由は、「自分が成長するのが怖いから」だ。
「母にこの次会ったときに、自分が成長してしまっていたら、母は自分を見つけられないだろう」と言う・・・
体重を気にして、食事制限をするうちに、拒食症になってしまう、というのは、私達の知識の中にある。そしてそれが、“心の病気”として、メンタルケアを必要とする、ということも。・・・
だがこれは・・・「成長を拒否した少年の心」。
同じ食事拒否でも、こうした壮絶なまでの少年の心は、私たちは知らない。
だからか、この養父母のヨラム(ロシュディ・ゼム)と、養母ヤエル(ヤエル・アベカシス)の優しさがしみこむようで、ここも見所だ。
なんでも養母ヤエル役の、ヤエル・アベカシスはイスラエルの大人気女優だとか。様々な場面で少年を助ける、懐深い母親の代わりの役で、とっても目立って素晴らしかった。
それから、このシュロモ役をやった3人の、幼き才能を含めて、俳優たちがすごくイイ子揃いだった。配役に4ヶ月もかけた、というだけあって、ぴったり。
正直言うと、私はこうした、“NHKの大河ドラマ”のように、成長するごとに違う俳優さんがやるのは、正直好きじゃない。でも、この映画では、顔も、3人がとても良く似ていたし、みなそれぞれの魅力があって、どの役者さんも皆良かったように思う。そして、みんな、揃いも揃って、みんなとってもハンサムだった。
幼年期をやった、モシェ・アガザイ君。『シュレック』声優、『スターウォーズ』、『E.T.』声優・・・“ポッと出の子役”とかでは全然ない、キャリアを持っていると言えるカナ。メモ代わりに書いておきます。
それから、少年期の、モシェ・アベベ君。この子の祖母や親類はモーセ作戦を行っていて、・・・それから、青年になったシュロモ役の俳優、シラク・M・サバハは、実際に自分が“モーセ作戦”(’84年)を経験している、とのこと。
ただ・・・正直言うと、私はこのシラク・M・サバハ、青年期のシュロモをやった青年は、少しカッコ良すぎたように思う。どのシーンも、うっとりするほどカッコ良くて、まるでミュージシャンか、モデルのよう。立ち姿だけで様になっていて、あまりにも素敵でビックリ。
でも、この人は、エチオピア系ユダヤ人協会のスポークスマンとして、活躍している人らしい。
あと、好きだったのは、宗教一問一答みたいなシーンで、赤肌の話をするところ。サラ(恋人)が、徹底的に惚れこんでしまったのも、無理はないな。
こうした、宗教のシーンて、あまり映画で見たことないので、逆に新鮮だった。
普通であれば、“故郷を失ったユダヤ人が、聖地エルサレムに寄せる思い”のようなものは、ユダヤ系文学やら芸術には、こうした“異邦人的”命題が、いつも感じられたり、するものだけれど。
ユダヤ人を偽って、自分のアイデンティティを失った、聖地において、故郷のアフリカを思う・・・
この逆転の設定が、伝統とは違って今日的だったようにも思ったりした私だった。
ちなみに、この映画、ブログ募金キャンペーンなるものもやっているのですね。(詳細はバナーをクリック↓)
参加ブログ1つにつき、50円の募金になるとのこと。そして5月10日現在では、1718ブログが集まり、UNHCRの基金で、井戸を掘ることになったそうです。
まだ全国ではこれから、というところもあるかと思います。当初の目標は、1600の井戸、ってことだったんだけど、これ以上集まったらどうなるのかな?
・約束の旅路@映画生活
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(21件)
前の記事: プリズン・ブレイク vol.1(第2話)
真・映画日記『約束の旅路』
3月15日(木)
終業後、神保町にある「岩波ホール」へ。
『約束の旅路』を見る。
スーダンやイスラエルを舞台にしているが、
一応フランス映画。
予告編や邦題のイメージからロード・ムービーかと思ったら、
スーダンからイスラエルに来た少年の成長が中心。
ス…
約束の旅路
【映画的カリスマ指数】★★★★☆
生き延び辿る母の愛
こんばんわ。
台湾の件は気になさらなくて良いですよ。
あと、管理が追いつかなくてウチのほうにいただいたコメントに返信が出来てません・・・お許しください。
これ、ご覧になったんですね。
私、こういう内容の映画がひどく苦手で、最初は全然この物語の真意が分からなかったんですが・・・あとでいろいろ調べてやっと感動が湧き上がりました(苦笑)。
シュロモを演じた子たち・・・ホントによくキャスティングされてましたね。
それにしても岩波ホールって、年季が入っている劇場ですねえ・・・びっくりしましたわ(苦笑)
睦月さんへ
こんばんは〜☆こちらにコメントTBありがとうございました。
あれ、台湾でしたっけ。ごめんなさ〜い
コメントは大変だと思いますので、ゆっくりやってね☆
>最初は全然この物語の真意が分からなかったんですが
そうだったのですか。これ割と分かりやすいのかな、と思ったのですが、確かに私も、初めて聞くことばかりでした。
岩波ホールって、本当古い映画館でしたねー。
「約束の旅路」:日本橋バス停付近の会話
{/hiyo_en2/}日本橋から眺めた風景って、ずいぶん殺風景ね。
{/kaeru_en4/}小泉前首相が高速道路を地下化したいって言った意味もわかるような寂しい風景だよな。日本橋っていやあ、日本の旅のスタート地点なのに。
{/hiyo_en2/}そういえば、「約束の旅路」の主人公が旅を始…
結構、評価高いですね^^
私は、もう途中からだめでした。
配役3人変える意味もわからないし
なんせ、だるだるでしたわ。。。
しかも、最後あれ母親ですよね?
うまくいってなによりですって感じで・・・
靴を脱ぐシーンとか好きですよ^^
『約束の旅路』★★・・・
『約束の旅路』オフィシャルサイト制作データ;2005仏/カフェグルーヴ、ムヴィオラジャンル;ヒューマン 上映時間;149分 指定;なし監督;ラデュ・ミヘイレアニュ出演;ヤエル・アベカシス/ロシュディ・ゼム劇場:4/30(月)岩波ホール◆STORY◆1984年、スーダン難民キャ…
ヘーゼルナッツさんへ
こんばんは〜☆コメントTBありがとうございます。
ヘーゼルナッツさんは、これ、ダメだったのですね。
私は、良心的に作られているということ、アフリカの現実に根ざした、アフリカの人の心を丁寧に表現した作品、として、一応の評価はしていますが、
本音を言うと、それほど・・・という気持ちは良く分かります。
物語の緩急があったか、というと、それほどでも、という感じですよね。
こんばんわ☆とらねこさん。
大変コメントお返し遅くなってしまいごめんなさい・・・
ユダヤ人を取り上げた作品が多いものの、アフリカから生きる為にユダヤ人を偽るという計画を根幹に置きながらも、母と離れてしまった悲しみが伝わってきて、観ている間はずっとあの別れの冒頭が頭から離れませんでした。
子供時代から青年時代までの役者が印象に残るものの、違和感よりも彼らの姿がとても枠にはまっていましたね。
成長期としてかなり重い部分もありますが、観ていて階段を登っていくようなラストもまた心に響いてきました♪
約束の旅路
母と子が交錯する人間の生き様を描いた物語。
エチオピア系ユダヤ人だけが、密かにイスラエルに行く事の出来た「モーセ作戦」を皮切りに、母と子の別れが冒頭に押し迫る。
子は母の元を離れる術に抗いながらも、このスーダンの難民キャンプの過….
orangeさんへ
こんばんは〜★コメントTBありがとうございます。
わざわざすみません・・・
私これ、見る前に、どうしよっかな〜、なんて思って、orangeさんのとこ、読ませていただきに行きました。
ずっと前のことなのに、律儀に覚えていてくださり、ありがとうございます
そして、いつも丁寧なコメント、ありがとうございます。私のところは、無理しないでいただいて構いませんので・・・。
で、この作品ですが、おっしゃる通り、自身のアイデンティティの問題、というより、
冒頭で描かれた母と子の別離、その姿が全体を通して忘れられなかったですね。
>観ていて階段を登っていくようなラスト
ええ、そうですね☆きっと、この主人公がまっすぐにこれからも生きていくんだろうな、という予感がしますよね。
『約束の旅路』
(原題:Va, vis et deviens)
—-「行け、生きろ、生まれ変われ—-」
この映画のキャッチコピー、凄まじいね。
「それでタイトルが『約束の旅路』。
しかもランニングタイムが2時間半とくれば、
ちょっと腰が重くなるのも仕方がないよね。
でも、やはり映画は観てみなけ…
約束の旅路
「約束の旅路」 VA, VIS ET DEVIENS/製作:2005年、フランス
おおおおおっ。こちらにもお邪魔します素晴らしい作品でしたね。私は、鑑賞直後よりも、翌日また翌日の方が感動が強まりました。とても貴重な体験でした
シュロモの人生は、一見過酷に思えるんですけど。徐々に、違う捉え方をするようになった私です。これ程に人生を謳歌しているシュロモ。先進国で物質的に恵まれてヌクヌクと生きている私達の暮らしは、本当に幸せと言えるんだろうか。お金が一杯あって欲しい物が簡単に手に入る暮らし。それよりも、貧しくても豊かで広い心を持っているシュロモの方が人間として何倍も幸福なんじゃないか。そんな風に考えるようになりました。
鑑賞後のみならず、確実に私の人生観に影響を及ばした作品でした。映画を見ている間は楽しめるド派手な作品は幾らでもあるけど、こんな風にいつまで経ってもシミジミと感動できる作品にまた出逢えたら嬉しいなぁ。
隣の評論家さんへ
こんばんは〜★コメントTBありがとうございました。
となひょうさんにとって、これはじわじわ来る作品だったんですね〜。
シュロモの人生は、確かに幸せだったように私も思います。
イジメられたりして、ツライことはあったと思うのですが、何より、とても理解のあるステップ・ファミリーに恵まれて、すくすくと育っていったんですよね。
人生観にまで影響を及ぼしたのですか〜!それはすごいですね。
となひょうさんにとっては特別な映画なのでしょうか。
映画「約束の旅路」
スーダンの難民キャンプに、エチオピア人の母親と男の子(シャロモ)がいる。
ご飯は譲り合って食べている。どうやらこのキャンプに希望はない。
そんな時母親は特定の人だけがイスラエルに脱出できることを知る。
エチオピア系のユダヤ人だけが、スーダンからイスラエ…
『約束の旅路』
イスラエル(とアフリカ。一部フランス)を舞台に、少年の苦悩と成長を描き、生きることの意味を鋭く問いかける傑作。 東京・神保町の岩波ホールにて最終日に鑑賞。(乾燥が遅くなってしまった) 『約束の旅路』 評価:☆☆☆☆☆ 今年鑑賞したイスラエル関係の映画…
“約束の旅路”
★公式サイト
スーダンの難民キャンプ。
ユダヤ人であれば、イスラエルに脱出できることを知った、ある
エチオピア人の母は、我が子をユダヤ人と偽らせ送り出す。
生きて、何ものかになるようにと
Va, vis et deviens 約束の旅路
生きのびるために、9歳のエチオピア人少年は、ユダヤ人と偽って、イスラエルへ・・・・。
6月23日、京都シネマにて鑑賞。主人公シュロモはエチオピアのキリスト教徒だった。混乱したエチオピアの村を離れて、スーダンの難民キャンプへ逃れる。しかし、彼は…
約束の旅路(DVD)
貧困、紛争、迫害…。私たちの知らないところで難民の人々はどんな苦境に直面しているのか? 言葉だけでは説明し尽くせない。母と別れ、本当の名前を隠し、ユダヤ人と偽って異国の地に渡った少年の成長、そして葛藤を描いた感動作です。本作は1984年に敢行された、エチオ….
約束の旅路
2005年 フランス 2007年3月公開 評価:★★★★☆ 原題:Va,vis