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#67.ツォツィ

ツォツィ南アでは最大の都市、ヨハネスブルグ。アパルトヘイト以降の姿を映し出す。
2005年アカデミー賞外国語映画賞受賞。
これは、アフリカ映画では初の快挙だという。


ストーリー・・・
旧黒人地区ソウェトのスラム街。
自分の本名と過去を封印し、幼い頃からたった1人、社会の底辺で生きてきたツォツィ(プレスリー・チュエニヤハエ)。仲間とつるんで、富裕階級の人間から暴力で金を奪うのだった。
ある日、高級住宅地を歩いていたツォツィは、黒人女性が運転するベンツを見かけ、女性を脅し車を盗んで逃走。しかし、後部席に赤ん坊がいることに気が付く。紙袋に赤ん坊を入れ、途方に暮れている時、女手ひとつで子供を育てているミリアム(テリー・ベート)と出会う。ツォツィは、彼女に赤ん坊を預け…。


これは、観て良かったなあ、という作品だった。
映像で見せるその感じもすごく良かったし、心にぐいぐい来るものがあった。
この主演のプレスリー・チュエニヤハエの演技が本当にむき出しな感じがして、セリフが少なくても心がズシンと伝わってくる・・・すごくいい表情をするのだ。

しかも、彼の出身もまた、タウンシップの治安の悪い地域で、彼の行く末を案じた母親が演技を習わせたそうだ。
初めは、一番この映画中での冷淡な殺し屋、ブッチャー役でオーディションを受けたけど、急遽主役になったとか・・・それもこうして見ると、本当に納得。


ミリアム役のテリー・ベートもとっても良かった。「綺麗なだけじゃなく、聖母マリアのような雰囲気を兼ね備えた女性を・・・」とのことで彼女に白羽の矢が立ったそうだけど、こちらも本当に納得。
授乳のシーンは、本当に忘れられない。


その彼女が子供にお乳をあげる姿を、食い入るように見て、まるで自分が赤ん坊になったかのような表情をするツォツィの表情もすごかったなあ・・・
本当に剥き出しの演技。
黙ってスクリーンを睨む姿は、本当に心が冷えきったような、そんな表情をするのに、あらゆるシーンで納得いく、素晴らしい俳優さんだった。


音楽もとっても良かったし。ZOLAは、2002年の最優秀アーティスト、最優秀サウンドトラック賞など、南アで数多くの賞を受賞し、スーパースターなんだそうだけど、この映画でも少年のチームの恐ろしいアタマ、フエラの役で出演。
このサントラの多くはこのZOLAの手がけるものだ。なかなかカッコいいサントラで、こちらも欲しくなった。


善悪の見分けのつかない、底辺で生きてきた青年、ツォツィは、自分の心で、どこが痛みを感じるべきところなのか、・・・
物語の冒頭では恐らく知らなかったのだろうと思う。
そして、自分の心が痛いというところ、自分の心がとっくに死んでいて、痛みや辛さを自分では感じないように、途中で自分をコントロールするようになってしまったのだろうと思う。
それは、少年にとって、封印された事柄だった。


いつ自分の心が死んだのか、それすら自分で気づかず、ただ生きるだけで精一杯だったのだ。
それを思うことは、少年にとって、心の旅路のようなものだったのだろうと思う。


初め、この映画の出だしを見た時は、正直、『シティ・オブ・ゴッド』を思い出し、また少年犯罪モノなのか、と少々ウンザリした。(私はいつも内容なんてロクスポ調べずに見るので、いつも行き当たりバッタリなのだ。)
だけど、物語が進むに従って、『シティ・オブ・ゴッド』というより、『ある子供』を思い出していた。


赤ん坊を見て、生命の尊さを、初めて感じたり、そこで初めて自分の原点に気づいていく。
赤ん坊は、まるでツォツィ自身が生まれ変わった姿のようにも見えたり
または、自分の最後の良心の象徴でもあるかのような、よるべき身のない、頼りない姿なのだ。
激しいばかりの映像ではなく、少年が、なかなか見つけられない良心を見つけようと、彷徨う姿がすごく心に残る。


ネタバレになるが、最後、警察に包囲された時のツォツィの、赤ん坊をしっかりと抱いた姿。これは、まるで、赤ん坊が彼自身の良心、としか自分には見えなかった。
彼の犯した罪は、確かに大きい。だが、彼は、彼の良心は、こうして「たった今生まれた」と言えるのではないか、と。
そして、良心のない人間は、動物とすら言える、こうも言えるだろうか。

この物語の冒頭で、彼は人間ではなく、獰猛な動物だった。アフリカの肉食動物だった。
だからこそ、あの包囲されたときに、赤ん坊を落とさないで欲しかった。彼に生き続けて欲しいと願った。
この映画で描いていた、あのシーンの苦しいまでの緊張感は、立派なものだと思った。間の長い取り方、苦しいまでに感じた。

なかなか素晴らしい作品だ。


これは、オススメできる!

ツォツィ@映画生活
「ツォツィ」の映画詳細、映画館情報はこちら >>

 

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コメント(58件)

  1. 映画『ツォツィ』

    原題:Tsotsi
    これがアパルトヘイトのあった南アフリカのスラム街の現実なのか、世界一の格差社会といわれる国の現在なのか、まだ幼さの残る子供達の怖ろしい現実・・
    南アフリカはヨハネスブルク、そのスラム街に不良グループのツォツィ(プレスリー・チュエニヤ…

  2. 「ツォツィ」

    南アフリカの不良のガキの話というので、ほとんど興味がなかったが、香ん乃さんの評を読んでから、いつか見ようかな?とは思っていた。
    ツ??.

  3. 我が家では簡単にしか書きませんでしたが、とらねこさんの評、そのとおりだなーと思いながら読みました。
    南アフリカのことが少し分かったのも、よかったです。

  4. ボーさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    共感してくださり、ありがとうございます。
    この作品は、とても好きでした。
    こういうすごい作品が、ドンドン出てくるなんて、頼もしいですよね。

  5. 『ツォツィ』を観たぞ〜!

    『ツォツィ』を観ましたアパルトヘイト後も続く南アフリカの過酷な現状と、未来への希望を見つめ、2006年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した感動作です>>『ツォツィ』関連原題:TSOTSIジャンル:ドラマ/犯罪上映時間:95分製作国:2005年・南アフリカ/イギリス監督・脚…

  6. ツォツィ

    TSOTSI
    2005年:イギリス・南アフリカ
    原作:アソル フガード
    監督:ギャヴィン・フッド
    出演:プレスリー・チュエニヤハエ、ケネス・ンコースィ、テリー・ベート、モツスィ・マッハーノ、ジェリー・モフォケン、ゼンゾ・ンゴーベ
    南アフリカ、ヨハネスブルグに、ツ…

  7. TVドラマ「相棒」のシーズン7?の薫ちゃんの友人が殺される回のオープニング曲などに、このサントラの16、17、18が使われたそうです。
    とても素敵な曲で、ずっと気になっていたので、さっそく買いたいです。
    映画も感動作なんですね。こちらも、見てみたいです。
    情報ありがとうございました。

  8. きょみさんへ
    初めまして!コメントありがとうございました。
    そうなんですね、『相棒』でこのサントラが使われたのですか〜!
    この曲、すごくカッコいいですよね!サントラをこの後買われるのでしょうか。
    映画の方もこれ、なかなかにオススメですよ。
    私はすごく好きでしたよ〜!良かったら見てみてくださいませ
    感想、お待ちしてまーす!




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