#58.サン・ジャックへの道
旅の力、っていうものに、強い吸引力を感じている自分がいる。
普通に暮らしている時の日常での出会いとは違って、そこで会った見ず知らずの人達とは、不思議と妙に意気投合したり。誰かと一緒に旅をする、その時に、いつもは話せない、心の奥にある思い、というものを、なぜだかこのエンカウンター的な出会いには、不思議と吐き出せるものがある。
旅って、旅情って、本当に不思議だ。
私は、この“旅”、というやつの魅力のとりこになってしまって、ツアーコンダクター、・・・旅行の添乗員、てものになった。
旅行の添乗員には、留学経験がある人や、ホームステイ、ワーキングホリデイ、その他もろもろの、同じような経験のある人が多くて、・・・こういった人達というのは、なぜだかみんな、こうしたものと関わっていきたい、という考えがあるみたいだった。
バックパッカーやら放浪の旅だったり、普通の海外旅行とはどこか違うところの、旅情、というもの。そんなものが好きでたまらない人達なのだった。
そういったことなんかを一度でも経験したことのある人であれば、旅の持つ、不思議な力、というものを、もう、無条件で信じていたりする。
なぜだか分からないけれども、旅で出会った人達というものは、ふだん思っていても言えないような、心の奥にある思いを、長時間一緒に居ることで、自然とカミングアウト出来てしまったりする。あれって、なぜなんだろう?
自分は、昔、それは、“夜の作用”じゃないかと思っていた。
昼間には言えないことも、一緒に夜通し居たりする中で、心を解放しやすくなって、昼間、社会や世間一般用の、自分の“仮面”というものから、夜の闇によって、解放しやすくなり、より、心の“内側”、魂に近い部分というものが、表出しやすくなるんじゃないか、と。
・・・そういったところも、確かにあるとは思う。
私には一時期、週に何度も顔を会わせて、朝まで呑んだりするような、飲み仲間が居た。そこで、何度も何度も積み重ねた、朝までの飲み会を経験した仲間よりも、英会話の二泊三日の合宿に行った時の方が、なぜだかずっとそこにいる知らない人達と、ぐっと仲良くなり、意気投合してしまった、なんてことがあった。
それはたぶん、前者が、日常生活の中で、オールの飲み会などで、朝まで一緒に誰かと呑んで、次の日、また自分の所属する日常に、すぐに戻っていく、という手軽さと比べて、後者は、
初めての場所に、知らない団体の中にポーンと放り込まれて、寝食をその濃い三日間の中で経験したこと、その違いが色濃く現れていたのかなあ、なんて思う。
後者が、エンカウンター的な出会いだった、と言えるように思うのだ。
エンカウンター・グループって言うものは不思議で、その短い、期限の限られた数日間の間に、出会って、別れる、そんなものなのだけれど、
お互い知らない人同士が、グループを組まされて、昼と夜とを経験するうちに、妙な作用が生まれてくる。・・・
これは、旅というものの持つ非日常性と、集団心理というものの持つところが、ちょうどよくバランスが取れることによって、
平素の社会生活では、ついぞ見せないような、素顔の自分、というものを、特殊な環境である旅というものの中で、なぜか他人には見せてしまう・・・そんなところなのではないか。
そういった、ちょっと変わった特殊な状況の持つ力なのだ、・・・そんな風に思ったりする。
この映画も、ちょうどそのような感じで、知らない他人同士と、仲の悪い兄弟が、巡礼の旅を経験することになる。
いい年をして仲の悪い兄弟の(もはや中年の域だ)、兄のピエール(アルテュス・ドゥ・パンゲルン)と、真ん中の姉、クララ(ミュリエル・ロバン)、弟の酔っ払いのクロード(ジャン=ピエール・ダルッサン)。
亡くなった母の意向によって、やりたくもない巡礼の旅に出ることになり、その他の知らない人達と一緒に、フランスのル・ピュイから、スペインの西の果て、サンティエゴ・デ・コンポステーラまでの、1500kmの旅をすることになってしまう。
そこに起こる諸々の出来事の中で、初めこそ、元々仲の悪い、性格上にも、欠点ばかりの兄弟たちが、ぶつかりあってばかりいる。・・・のだけれど、いつしか、この長い巡礼路の中で、他の同行者とまず打ち解け始めることから始まって、少しづつ、瓦解してゆく。
おそらくは、この旅を経験することが無ければ、一生、仲良くなることすら出来なかったのではないか、そう思えるような、そんな貴重な旅。
映画のテーマ自体は、この辺り、とても分かりやすくて、旅や巡礼、というより、何よりもまず、人間関係を描きたかったのだろうなあ、なんて思える。
ただ、欲を言えば私には、この人間関係性より、それ以上に、歩く、というこの行為の持つ、シンプルな心地よさや、そこから見える風景。
また、“歩く”というその目線に沿った、スローライフ、スローペースなのんびり感、というもの。
それらを、もっと、存分に感じたかった、というのは正直、否めない。
だけど・・・。
話は変わり、私は実は、この映画を見たのは、仲良くさせていただいている(と、自分は思っている)、他の3人のブロガーと一緒だったのでした。とても、貴重な経験をした。
メンバーは、『瓶詰めの映画地獄〜俄仕込の南無阿弥陀仏』の栗本東樹さん、ソウウツおかげでFLASHBACK現象』の現象さん、『cococo』あかん隊さん(順不同)。・・・と、私。
こんな風に、エンカウンター式、一風変わった寄り集まりで、見るこの映画は、また格別なものがあった。
自分たちは、旅した訳でもないのに、まるで旅というものを、擬似体験した。
こんな不思議、・・・悪くない。
実際、かなり、楽しかった。
だって、ブログをやっていなかったら、知り合えなかった人達なんだもの。
旅行が大好きで、映画が大好きで、私と同じような価値観の持ち主のように思える、栗本さんと現象さんは、二人とも、バックパッカー経験があり、やっぱり二人とも、一筋縄ではいかない人達だったりして、普段から影響を受けまくるのは、言うに及ばず。
また、あかん隊さんは、40歳から覚えたというPCを使った仕事で、会社を興したという、とても能力のある、知的なバイタリティのある方。
こんな人達に影響されて、この映画にも影響されて、
「いつも、物事は、始めようと思ったときにこそ、道は開ける・・・」
そんなことを信じて、恐れず前に進みたくなった、そんな気持ちの私がいたのだった。
2007/04/15 | 映画, :青春・ロードムービー
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
サン・ジャックへの道/ミュリエル・ロバン
シネスイッチ銀座で公開している時に鑑賞予定にしていたものの都合が合わず先延ばしにしてるうちに見逃しちゃったんですよね。そしたらラッキーなことに109川崎で先週末から公開ですよ。109川崎はワタシ的には優先順位3番目のシネコンだけど意外と重宝はしてるんですよね。
…
映画「サン・ジャックへの道」を観る!
「下高井戸シネマ」で、映画「サン・ジャックへの道」を観ました。案内には以下のようにありました。
無神論者の上に歩くことなど大嫌い、仲も険悪な兄姉弟たちが、母親の遺産を相続するため、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで1500キロの巡礼路を歩くこと
映画「サン・ジャックへの道」を観る!
「下高井戸シネマ」で、映画「サン・ジャックへの道」を観ました。案内には以下のようにありました。
無神論者の上に歩くことなど大嫌い、仲も険悪な兄姉弟たちが、母親の遺産を相続するため、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで1500キロの巡礼路を歩くこと
サン・ジャックへの道
3人の兄弟が徐々に打ち解けていくという映画かと思っていたけど、そうではなかった。
「サン・ジャックへの道」感想
退屈な映画かなぁ・・と少し心配したものの、大事件が起こるという訳ではないものの、小さな?事件や衝突などがあったり、旅を続けて行く中、気がつくことや、変わって行く部分など、面白く見ました。4つ☆
とらねこさん、こんにちは!
うお〜〜〜、とらねこさんは、添乗員さんのお仕事をされていたことがあるんですね!!
憧れちゃいます☆
私の友達に、2人、添乗員さんをしていた人がいるのですが、彼女らの言うには、とってもとってもキツイ仕事だと。
そして、一人の友達は、どこでも眠れる(飛行機の中でも)のが自分の取り柄だと言っており、その部分が、添乗員をしている時に凄く役立ったと言ってました。とらねこさんは、どうかしら・・?
私は枕が変わると全然眠れない人です。
あら。映画の事を全然話してなかったな。面白かったです〜。旅をしたくなります。私は一人旅のことが多かったので、こんな数人の旅も楽しそうだな〜と思いました。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました★
そうなんですよ〜、私、元添乗員なんです。
で、latifaさんのお友達にもいらっしゃるのですね。
じゃあ、話が早い(笑)そうなんです、みんな、大変だって言ってたでしょう
精神的にも、肉体的にも、大変な仕事だったと思います。
一日の終わりには、自分が「ボロ雑巾」になったような感じに疲れましたよ。楽しい、というのはあるんですけどね。単純に、体力をものすごく使います。
私も、初めは、乗りものの中では全然眠れなかったんですが、移動中に、必ず寝るようになっちゃいました。今でも、電車が動き始めると、急に眠くなります。
枕が変わると眠れないですって(笑)
私は、本当にどこでも眠れるかもw
今、仕事の昼休憩の時にも、寝っ転がって寝ています(笑)枕も作ったんですよ。シュレッダーのゴミを集めて枕にしました。あ。映画の話をし忘れた。すいません
『サン・ジャックへの道』
‘07.10.06 『サン・ジャックへの道』@ギンレイホール
TRAVEL CAFEを思いのほか早く出なくてはならくなったので、ギンレイホールへ行ってみる。ここは年々姿を消してく「名画座」を残そう頑張っている映画館。狭いロビーにも劇場内にもレトロ感があっていい。すでに公開…
サン・ジャックへの道
2005年 フランス 2007年3月公開 評価:★★★★☆ 原題:Saint J
サン・ジャックへの道
サン・ジャックへの道 それはフランスからスペインまでの巡礼路のこと。ル・ピュイから,サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの遍路道は,ピレネー山脈やカスティーリャ平原を越えて1500??も続く。日本では,お遍路仲間というと,信心深い善男善女の集いのように思う…
こんばんは。とらねこさん,添乗員さんだったんですね。(って,皆さんコメントで同じ事おっしゃってますが,私も)
それでは,この映画のガイドのギイさんのお気持ちなぞ,共感されたのでは?私はこの物語で,結構彼の心境に心を惹かれました。
私自身は仕事が(教育関係)忙しすぎてめったに旅はしない方なので,旅の持つ効果を詳しく語っていただいて,たいへん面白く,目からうろこでした。
自分が教育関係だと,クララが失読症の青年をほっとけなくて,初めはカミーユの教え方のまずさを見てられなくて教え始めたのが,だんだん熱が入ってきた気持ち,よくわかりました。親切心の芽生えもあるけど,プロ意識がそうさせたのもあると思います。そして,師弟関係が成立すると,教え子はほんとに可愛くなるものですし。
小品ですが,とても優れた素敵な作品だと思いました。
ななさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
ハイ、そうなんです。ツアコンでした。
ガイドのギイさんの気持ち、すっごく分かりましたね。
ちゃんと前の日にこの人、料理なんかを準備していたじゃないですか?
あれなんかも、なんだか懐かしくなりました。
私の方は料理を準備、なんてもちろんありませんでしたけど、お土産のお菓子なんかが協賛にあった時は、わざわざ持たされたりして重かったですし、それに、地図やら何やらは各地で準備しないといけなかったので。
お仕事が教育関係の方でいらっしゃるのですね!
教えていただき、ありがとうございます。なるほど、教え子に対する気持ち・・その辺りに共感されたのですね。
初めはほっとこうと思っていたクララも、下手な教え方を見てついつい口を出してしまうところが可笑しかったですし、やっぱりいい人だったんですよね。
サン・ジャックへの道
サン・ジャックへの道ミュリエル・ロバン アルチュス・ド・パンゲルン ジャン・ピエール・ダルッサン おすすめ平均 命の洗濯精神の浄化は非日常から生まれるAmazonで詳しく見る by G-Tools 久々に満足度『高』の映画が見れました。 週末に見た 「サン・ジャックへの道」 が….
サン・ジャックへの道:映画
今回紹介する作品は、『サン・ジャックへの道』です。
まずは映画のストーリーから・・
亡き母親の遺産を相続するため、1500kmもの巡礼路を一緒に歩くことになった険悪な3兄弟。
ほかにも失読症を直して大好きな母親に喜んでもらいたい少年や、ワケありな女性など個性…
サン・ジャックへの道:映画
今回紹介する作品は、『サン・ジャックへの道』です。
まずは映画のストーリーから・・
亡き母親の遺産を相続するため、1500kmもの巡礼路を一緒に歩くことになった険悪な3兄弟。
ほかにも失読症を直して大好きな母親に喜んでもらいたい少年や、ワケありな女性など個性…
mini review 07091「サン・ジャックへの道」★★★★★★★★☆☆
キリスト教の聖地サンティアゴへの巡礼の道のりを、ひょんなことからともに旅するはめになった男女9人の心の交流を描くヒューマンドラマ。それぞれに問題を抱えた登場人物たちが、一緒に歩くことで自身を見つめ再生してゆく姿を、『女はみんな生きている』のコリーヌ・セロー…
mini review 07091「サン・ジャックへの道」★★★★★★★★☆☆
キリスト教の聖地サンティアゴへの巡礼の道のりを、ひょんなことからともに旅するはめになった男女9人の心の交流を描くヒューマンドラマ。それぞれに問題を抱えた登場人物たちが、一緒に歩くことで自身を見つめ再生してゆく姿を、『女はみんな生きている』のコリーヌ・セロー…
TBありがとう。
みなさん、お顔も存じませんが、ふだんのblogでみてると、とても面白い組み合わせですね。
そんなオフ会、羨ましいなあ(笑)
kimion2000さんへ
こんばんは〜♪こちらこそ、TBコメントありがとうございます。
私は顔出ししてますが(笑)、他の方はしてませんものね。
でも、私には皆さん、初めて会った人では実はなかったのですよ。
この方たちは、何度か会いました。
こんにちは!
早速、この記事を読ませて貰いました。
まず、コメントの数に驚いちゃいました。笑
それだけ、この作品が興味を持たれてるんだと実感できましたね。
とらねこさんのレビューですが、僕と視点が全然違っていて興味深かったです。
とらねこさんは、もの凄く洞察力がある方だなぁ…と思いました。
とらねこさんも書かれてますが、旅って、おそらく開放的になるんだと思うんですよね。
知らない土地に、ポーンと放り出されて。
自分のことを知ってる人もほぼ居ないに等しい訳ですし。
なので一期一会ではないですけど、大胆になれるみたいな。
僕はこの作品を見て、本当に旅に出た気分になれましたし、旅に出たくなりました。
それから、話が逸脱しますが…。
僕、とらねこさんのことJoJoさん以前から知ってたことに気づいたんです!
わかばさんのところでコメントを読ませて貰ってたんですよね☆
Elijahさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
そうなんです、ここのコメント数、今より全然多いですね。
いやー、以前は私、もっとブログを頑張ってたんだなーって思いますよね(笑)
あれ、Elijahさんの視点と全然違ってました?
私の方は、Elijahさんの感想は、分かる分かる、なんて思いながら読ませていただきましたよー。
この記事は、自分の旅に関する思いの集大成みたいなものなので、結構語ってしまいました。
そうですね、私も、この映画を見て、すごく旅に行きたくなりましたよ〜。
特に、サンティアゴ・デ・コンポステーラには、一度行ってみたいですね!出来れば歩いてみたいな。。その前に四国巡礼でしょうか(笑)
あ、私も、Elijahさんのリンクに、わかばさんの2.0を発見して、ちょっと驚きました〜★
映画『サン・ジャックへの道』
原題:Saint-Jacques… La Mecque
この聖地巡礼の旅は徒歩で1,500kmというから、四国八十八ヶ所巡礼のお遍路さんが1日30kmを歩いて40日間かけるのと似ている・・癒しの旅のものがたり・・
遺産相続の条件に書かれているのでしょうがない、動機はとっても不純なが…