#56.ラン・ローラ・ラン
私達は、普段、何かのために、息せき切って、死ぬ気で走ることなんて、ほとんどない。
自分のために、ということすらなければ、他人のために、恋人のために。
これは、思いっきり走って、恋人の運命を変えようとした、ある女の子の物語。
ストーリー・・・
ベルリン。11:40am、ローラ(フランカ・ポテンテ)の家の電話が鳴る。裏金の運び屋をしている恋人マニ(モーリッツ・ブライプトロイ)からだ。「ローラ、助けてくれ!ボスの10万マルクを失くした。12時までに金を作らないと殺される。」残された時間は20分。ローラは受話器を投げ出し、マニの命を救うため、その金を工面すべく街へと飛び出した。・・・
先日にUPした、『パフューム ある人殺しの物語』、『パリ、ジュテーム』にも登場の、トム・ティクヴァ監督作品、’98年。
私が一番好きなのは『ヘヴン』なんですが。
この作品、『ラン・ローラ・ラン』は見ようと思って、まだ見てなかったのでした。イメージだけ見て、『奈緒子』(ビッグ・コミック・スピリッツ)みたいな、どのページ開けても走ってる、スポ根モノと勘違いしてた。
この物語では、この時間をスタート地点として、自宅でローラが電話に出ることから、物語は始まる。そして、この一点から先の3パターンある話は、時間を巻き戻しているのだった。
時間を巻き戻す物語というと、ケン・グリムウッドの『リプレイ』などの古典的SF小説から始まって、今までも何度か描かれたSFのテーマでもあるのだけれど、この作品では、いかにもSF、というようなテイストではなくて。
ローラが走っている時に流れているテクノミュージックがすごく印象的だったり、アニメーションが使われていたり、まるでMTVのような、そんな新感覚。もう10年前の作品なので、それを考えると、この物語、さぞかし、斬新に感じたのではないか、と思う。
何度か繰り返されるストーリーの中で、交通事故の起こらなかった回はなかったか、とか、この回では、ガラスは割れなかったか(救急車によって割られてしまう大ガラス)とか、その回ごとに少しづつ違いがある
エピソードの中で、スレ違う通行人の、その後のダイジェスト人生が、一度目と二度目でまるで違っているので、運命は変えられる、というスタンスを取っているのだろうな、と、その行間から感じ取る。
アニメーション映像は、ローラの部屋の扉を開け、螺旋階段を駆け抜けるシーンのTV映像から始まって、ローラの家の門を開けるまでとなっていて、ここから、ローラのパラレルワールドが始まっていくのだった。
SF好きな私としては、一回一回のエピソードの違いというものに、異常に反応したり、全部覚えて比較したりなどするのが、実は趣味だったりするのだけれど・・・。この物語の場合は、そこまでマニア心をくすぐるもの、という感じではなくて、感覚的に、この物語を、楽しむ、という方が合っているよう。
今となると、『バタフライ・エフェクト』、この作品と比べてしまえば、作りこまれた感じがそれほどしないのが残念に思うかもしれない。
それより楽しむべきは、走るローラの、赤い髪と、水色のタンクトップ、この目にも鮮やかな色彩が、POPな感覚で駆け抜ける楽しげな作品として、感覚的・視覚的に、なんとなし楽しむ物語。・・・なのかも。
一度、思いっきり走って、・・・それこそ、運命を変えるつもりで、ひたすらに走ると、きっと、見えてくる風景は違ってくると思う。
私たちは、瞬間瞬間、何かを選択して、過ごしているのだ。
塗り替えたくなる過去の一点というのを、不可思議な力で、捻じ曲げることが出来たら、と考えることもある。
愛の信念てやつで、そんなことが出来ちゃう物語。
そんなものがあってもいいと思う。
2007/04/12 | 映画, :サスペンス・ミステリ
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コメント(8件)
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映画『ラン・ローラ・ラン』
原題:Lola Rennt
ローラがベルリンの街を走る。なんのために走るのか!?理由は問わない、例え裏金運び屋のダメな彼のためでもいい、走ればなにかが起こる。
10万マルクの金を求めて、走るベルリンの街で起こる出来事、第1のパターン:周囲の人々に幸せをもた…
ホップ、ステップ、ラン!〜『ラン・ローラ・ラン』
『パフューム/ある人殺しの物語』の感想で「赤毛のローラ」に言及している方が多かっ
たので、トム・ティクヴァ監督のこの作品を観てみることにした。タイトルは何度も
耳にして知っていたし、公開当時かなり話題にもなっ?? ????
とらねこさま、こんにちは。記事アップされたのですね〜♪
TBさせて下さい。
『パフューム』観たら、「赤毛のローラ」が気になりますよね。
そして自分も赤毛にしたくなる(笑)
主演女優さんの走りっぷり、お見事でした。
自分もちょっと走ってみようかな?とか思ったりしましたよ!
ではでは〜。
ラン・ローラ・ラン
1998年製作のドイツ映画。
恋人のためにひたすら走る赤い髪のパンク娘の周りで起きる様々なトラブルを描く痛快ムービー。ローラの恋人で裏金の運び屋・マニは、あと20分で10万マルク用意しなければ殺されてしまう。マニの命を救うため、金を工面すべくローラは街を走る。
…
これ20分の話を何回もパラレルで繰り返してるわりに、
ピッピコピーなサウンドとあいまってタイトに仕上がってて、
ダレてなくて、いい出来でしたよね。
っつかあんなヘタレなノビタ彼氏、捨てちまえよ!とか思ったけど。(そしたら話が3分で終わる)
白髭、公開当時似たような赤髪で
そっちゅう言われてたのを思い出します。
真紅さんへ
こんばんは★コメントありがとうございます。
>TBさせて下さい
アレレ、ごめんなさい!
私としたことが、今回こそ先にTB&コメントしようと思って、TB出したつもりだったのですが、なぜか反映されていませんでした・・・。
すみませんでした
赤毛、気になりますよね♪
私も、今、赤くしたいな、と考えてたりします。
今頃ですけどね・・・
白髭タンめんごめんご
こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
うんうん!なんだかキュートな作品でしたよね
こういうのがあってもいいよね。
で、そうそう、『es』に出てた、モーリッツ・ブライプトロイ(白髭タン、見た〜?)が、のびのび太だったぁ〜
確かに、ヤツを捨てたら3分で話が終わる(爆)
で、白髭タンたら、白い髭を生やかして、赤い髪をしてたの??なんつて
いやぁーん、怒らないで
でも、結構かわいいなw
私も赤い髪にしようかな〜〜〜
「ラン・ローラ・ラン」 あがく力
「パフューム ある人殺しの物語」のトム・ティクヴァ監督作品です。 公開時劇場で観