#54.ワイルド・アニマル
ああ、ギドクの、手垢と愛でいっぱいの、原点のような作品なんだろうな・・・。
ストーリー・・・
パリの裏町で出会った二人、北朝鮮の脱走兵ホンサン(チョン・ドンジク)と、韓国の出身のチョンヘ(チョ・ジェヒョン)。
チョンヘは、でたらめな性格をした画家で、自分の絵を描くことはせず、人の絵を黙って盗み、それを売ったりなど、チンピラまがいのことをしたりもする。
ホンサンの荷物を盗み取ろうとしたチョンヘだったが、ホンサンはフランス語に疎くもあり、チョンヘからお金もうけをしようと巧みに乗せられて、チョンヘと一緒に、大道芸などをして、男二人、その日暮らしをするようになる。
だが、チョンヘの方は、同じ、パリでストリートアートをしていた、とあるハンガリーからの密入国人女性(ドニ・ラヴァン)に知り合う・・・。
キム・ギドク長編2作目に当たる、1997年の作品。
チョンヘの設定もギドクが一時期を過ごしたパリが舞台であり、チョンヘが、ギドクの初期の“ペルソナ”と呼ばれる、チョ・ジェヒョン(『悪い男』、『鰐』、『受取人不明』)を演じている。
そして内容はというと、ベタな、バディ・ムービー。
だけど、そこはギドク、爽やかGUY二人の、善意と正義の二人、などでは全くなく。
愚かで、チンピラで、どうしようもないダメ男なチョンヘに、
やっぱり、馬鹿がつくほど人が良くて、相棒のダメ男を、ダメと知りつつも、何度も助ける、一途な男、ホンサン。
ギドク好きな男性にとって、この作品はきっと、ギドク初期のこの、気恥ずかしくなるようなベタベタなバディ・ムービーが、嫌というほど人情味が溢れていて、男に対する男への賛辞のような、そんな辺り、
きっと、・・・男心を目いっぱい、くすぐっちゃうんだろうな・・・。
この作品、まるで、ドストエフスキーで言えば、『貧しき人びと』の読後感にも似ている。
巨匠の初期の作品が、こんなにも、人情味の溢れる、恥ずかしいくらいベタな、だけど、ヒューマニズムに満ちた処女作であった、ということに、なんだかフレッシュな感動を抱き、
その後の彼の“大作”や“代表作”と呼ばれる、問題精神でいっぱいの、苦悩を叩きつけてくる渾身の力作には、ほど遠いと言えど、初めのスタートがここだった、ということに、
・・・ヒューマニズムであった、ということに、なんだかとても安心する。
そして、さらにその作家性を愛したくなる、そんな一品、というか。
だって・・・その後の作品と比べれば、力が目いっぱい入ってしまっていて、なんだかとても微笑ましいのだ。
だけど、もちろん、ギドク映像の持つ力強さや、風変わりな表現は、随所随所に見られもするし、やはり一定のテーマも見られる。
いやいや、やめよう!カッコつけた表現は。この作品には、似合わない。
「私は、この作品が好きだ。」
そう、素直に言う事の方が、ずっと似合う、この男同士のバカ一代録。
私は、チョ・ジェヒョンが出て来るのを楽しみにしていた、この作品。
だが、彼よりもチャン・ドンジグにのめり込んでしまった!
まるで『網走番外地』の高倉健のようなんて思っちゃった。
画面いっぱいに、そのカリスマ性が広がり、どのシーンも、表情がとっても素敵なもの。
オマエは、オマエは、何ていい奴なんだ・・・
やめてくれ、頼むから、自分の命を道端に捨てるようなマネはやめてくれ、
そう何度も言いそうになりながら、だけど、決して自分の一度信じた男に、とことん尽くす姿に、「こっちが傷だらけだよ!」となりながら、泣きながら、
「チクショー!チクショー!」とつぶやきそうだった。・・・
そうだね。利口に過ごすこと、自分を偽って生きること、そういうのが一番、つまらないことだよなあ、なんて考える。
バカでもなんぼでも、人を信用するやつにはかなわないよなあ。・・・
何度裏切られても、信用する。どこまでも。
ホンサンは、そんなヤツなんだ。
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コメント(15件)
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キム・ギドクの世界 ??野生もしくは贖罪の山羊??
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渋谷のユーロスペースで開催中のスーパー・ギドク・マンダラも本日が最終日。
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ワイルド・アニマル 野生動物保護区域 Wild Animals キム・ギドク★ネタバレ内容あらすじ
キム・ギドク監督のワイルド・アニマル「野生動物保護区域」 Wild Animals見ました!
当初は『2匹のワニ』というタイトルだった『野生動物保護区域』では、ヨーロッパで最も開放的であり包容力ある都市として知られ
とらねこさん、こんにちは(^O^)
>私は、チョ・ジェヒョンが出て来るのを楽しみにして・・・だが、彼よりもチャン・ドンジグに・・
まるで『網走番外地』の高倉健のようなんて思っちゃった。
言えてます!私も同じでした。高倉健っぽさ?ありまいたよねー☆本当は喧嘩にすっごく強いが、全然それをひけらかすことなく、寡黙で良いヤツって感じで。
ただ、私、この役者さん、この映画で見る前に、ある韓国ドラマで、奥さんにも愛人にもどっちつかずな、不倫男を見てしまっていたので、別人の様でビックリしました。当然、こちらの映画の方が良かったです。
ワイルド・アニマル@ユーロスペース
パリに、南北それぞれのコリアから来た男二人の物語。南から来たチョンヘは芸術家くずれで同胞の作品を盗んでは路上で売って生計を立てている。北から来たホンサンは脱走兵で、特殊部隊に入ろうとしている。ホンサンがパリに着いた当日、チョンヘに騙されそうになったが、当…
いやほんと、人をバカ正直に信用する野郎が最も尊いように思います。
そうやって偽りじゃなく信頼して死ねるのであれば、
そんな幸せなことはないかなあ。
つってね。
偽りまくって生きてるわけですが。
こっぱずかしくなる作品でしたが嫌いじゃないです。
ワイルド・アニマル:相手を理解するということ ユーロスペース
キム・ギドクの映画には欠かせないチョ・ジェヒョンが、可愛げがあるがどうしようもない男を演じる。 タイトル:ワイルド・アニマル 別名:野生動物保護区域、Wild Animals、Wildlife Reservation Zone 監督:キム・ギドク 出演:チョ・ジェヒョン、チャン・ドンジク、ド….
latifaさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます。
ねーねー!!チャン・ドンジグ、すっごく良かったですよね。本当、若い頃の高倉健て、あまり見たことない人も多いと思うんですが、すっごくカッコ良かったんですよね。
チャン・ドンジグの、眉毛の太いところも、憂いの表情も、高倉健のようだな〜、なんて思ってしまいました。
でも、この映画をlatifaさんがご覧になる前に、そんな、どうしようもない不倫男の役をやってたのですね・・・お気持ち、お察しします(爆)
そんなチョン・ドンジグは、見たくないかも(泣)
現象さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます。
そうですよね!バカ正直に信用する男・・・バカだわ、かわいいわで、もう、顔をぐしゃぐしゃにしながら、見てしまいました。
>偽りじゃなく信頼して死ねるのであれば
うん、うん・・自分から選んで、信頼をするでしょ?結果はそうじゃないことを知りつつも・・
そして、理由も聞かないでしょ?(泣)
本当にバカだーこんちくしょ〜(大泣)
真・映画日記『ワイルド・アニマル』
2月24日(土)
(23日からのつづき)
朝6時にロサ会館を出る。
池袋駅から丸の内線に乗り、
大手町で半蔵門線に乗り換える。
午前7時半に帰宅。
何も食べずに寝る。
昼12時に起き、
パンを食べ、
午後1時半に外出。
新越谷駅近くの雑居ビルの4階にある台…
『ワイルド・アニマル』(’97 韓国)〔by 『絶対の愛』公開記念 スーパー・ギドク・ワールド〕
そして6月、この作品からスタート。 監督・脚本:キム・ギドク 出演:チョ・ジェヒョン チャン・ドンジク チャン・リュン 舞台はパリ、かつて絵の勉強をするためにやって来たチョンヘ(チョ・ジェヒョン)もいまやすっかり落ちぶれ、同僚の絵を勝手に持ち出して
ワイルド・アニマル/チョ・ジェヒョン
キム・ギドク監督がデビュー作「鰐」に続いてチョ・ジェヒョンとタッグを組んだ第二作目です。ファンの間ではけっこう評価が高い作品のようで気になっていたんですが、ついに劇場観賞できましたッ。
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ワイルド・アニマル:ダメだけどなぜか憎めない主人公
★原題:野生動物保護区域(〓〓〓〓〓〓〓〓) ★監督:キム・ギドク(1997年 韓国作品) 第七藝術…
こんばんは、コメント・TBありがとうございました。
こちらから先に伺うべきだったところ、どうもすみません。
自分のレビューでは触れませんでしたが、
ホンサンの佇まいには、確かに惹かれるところがありましたよ。
朴訥で、無欲で、恬淡としたところが格好良くて・・・
でも、意外と恥ずかしいんですよね、こういうことを自分で書くのは(苦笑)。
(異性に対することのほうが、割と書きやすいのかも知れない)
お気づきかも知れませんが、
最近、また映画レビューから遠ざかっています。
キサラギは面白そうなので、近々見に行くかも知れませんけれど。
監督の挨拶があったせいか、今日は満員で入れませんでした(涙)。
おはようございます!コメントありがとうございます。
>こちらから先に伺うべきだったところ、どうもすみません
ハっ、イエイエ。こちらこそ、自分のURLの表示不具合だったのに、すみません。
アハハ、ホンサンを褒めるのに、なぜ恥ずかしがるんでしょう
あちらでおっしゃっていたように、確かにチョンヘの気持ちも分かると思いました。
相手がいい奴なのに、その人の良さを利用するんですよね。自分の利益を優先して・・。
このチョンヘという勝手な男にはきっと、ギドクの自己反省を含んでいるのではないか、と想像しました。
ところで、今レビューから遠ざかっているのですね。キサラギ、入れなかったんですか〜。
舞台挨拶のおかげで入れなかった・・
ありがたいようなありがたくないような、舞台挨拶ですね
ワイルド・アニマル
キム・ギドク監督の初期作品(2作目)が名古屋シネマテークで公開されたので観ました。
といっても、この作品、原題として「野生動物保護区域」として、どんな作品だろうと思っていたが。このままの題の方が好きです。
これは殆ど学歴がない監督自身が、絵を描いたりのた…