#52.パリ、ジュテーム
18人の監督が、パリの20区の中から、各が一つづつ選び、それぞれパリへの思いを綴る短編オムニバス。
一人の持ち時間は5分。
これだけたくさんあると、とても好きなものも、あまり正直頭に残らないものも、ありました。
なので、私の場合は、気に入った物語だけピックアップ。
あとはスルーで参ります・・・。
一番好きだったのはコレ
19区 お祭り広場
オリヴァー・シュミッツ監督作品。
医学生のソフィ(アイサ・マイガ)が、19区のとある広場で、瀕死の重傷を負ったハッサン(セイドゥ・ポロ)を介抱する。
なぜか重傷にも関わらず、コーヒーを注文するハッサン。彼の最後のコーヒーが、紙コップで運ばれてくる。・・・
実は、この医学生ソフィは覚えていないが、実はハッサンは、彼女にナンパして、声をかけ、一緒にコーヒーを飲もうと、誘ったことがあった。その時断られてしまったコーヒーを、彼は注文し、紙コップで二人は飲むのだった。・・・
この5分の中で、もっとも印象に残った作品。偶然に会った彼女を、ハッサンは思い続け、仕事をしながらも彼女のことを思い出したりなどしていたのだった。
たった5分の短編と言えど、ここまで見せるんだ!なんて、とてもジーンとしてしまった。胸が苦しくなる。死が近づいてきているのに、自分をなんとか思い出してもらおう、とする彼の姿が、痛々しくて、初々しい。前向きな姿が余計涙を誘う。たった5分なのに、涙が止まらなくなりそうだった。
人生最後のコーヒー・ブレイク。
次に好きだったのは、コレ
10区 フォブール・サン・ドニ
トム・ティクヴァ監督作品。(『パフューム』、『ヘブン』、『ラン・ローラ・ラン』)
盲目の学生トマ(メルキオール・ベスロン)が、美人の女優の卵、フランシス(ナタリー・ポートマン)に出会う。フランシスからの突然の電話で、詩的な別れの言葉を切り出されたトマ。
彼の頭に、彼らの過ぎ去った、幸せな時間が去来する・・・。
これもまた、とても素敵だった。
思わず、トマの気持ちになって見てしまう。電話の言葉を聞いた時の、盲目の青年トマの顔のアップが忘れられない。
目の表情が、何を映し出しているのか、一瞬、分からないの。彼は盲目なので。だけど、映像は、彼の内面を描く。
彼の記憶の中で、彼女がとても美しかったこと、彼の不自由な目では見えていなかったはずのその景色は、彼の中には、生き生きと、映し出されていたんだ。・・・
そう思って、とても苦しくなる。彼がどれほど彼女を好きだったのか、苦しいほど伝わってくる、その映像が素晴らしい。
『ラン・ローラ・ラン』で使われていた時と同じ、ぐるぐる回るカメラワークが、とても効果的だった。
12区 バスティーユ
イザベル・コイシェ監督作品。
1年半つき合った、若く美しい、愛人の客室乗務員(レオノール・ワトリング)を選んで、妻(ミランダ・リチャードソン)に離婚を申し出ようと、最後のディナーの席で、妻を待つ夫(セルジオ・カステリット)。
妻は見飽きた赤いコートをまた着て、ウィンドウの向こうに姿を現す。
その見飽きた赤いコートに、もう愛してはいない妻への、ウンザリする気持ちが蘇る。
聞き飽きたいつもの同じ歌を歌いながら、食べ飽きた味の、いつものポテトサラダを作る彼女の姿を。
最早彼女への愛情はとうに枯れ果て、それと相反するかのように、現在の愛人との、熱いラブロマンスに思いを馳せる男。
別れを切り出した彼に、泣きながら一枚の紙を差し出す妻。
そこには、白血病のため、余命いくばくもない、と書いてある医師からの診断書だった。
愛人に、「僕のことは忘れてくれ」と手紙を書き、愛人を捨てて、妻へ“愛している振り”を演じる彼の姿がそこにあった。聞き飽きた歌を歌いながら、ポテトサラダを作る妻を、背後から抱きしめる彼。
その後、寝たきりになった妻へ、村上春樹(“ムラカミ”)などを読んで聞かせる彼。
愛している振りをすることで、もう一度妻に恋をした男。
彼女亡き後、赤いコートを見ると、辛い気持ちが蘇るのだった。
『赤いアモーレ』(大好き!!!)を監督・主演した、セルジオ・カステリットが出ているだけに、妙に嬉しくなってしまった。(あっちも赤い・・・。思い出すなあ。)
しかも、レオノール・ワトリングが出ているし!(『トーク・トゥ・ハー』『バッド・エデュュケーション』他)
うーん。こんなやり方をしていたら、いつまで経っても出来上がらないなあ・・・焦っ。
ただでさえ、3週間近く前に見たのに!
サクサク行かなくっちゃ!では、お次。
20区 ペール・ラシェーズ墓地
ウェス・クレイブン監督作品。
ホラーの第一人者である彼が、意外にもオシャレな一作であることに、まず笑ってしまう、愛らしい作品。
何より、私の大好きなオスカー・ワイルドのお墓にお参りする男女二人ってのが、いいじゃない。ユーモア精神溢れる文豪の前にして、女(エミリー・モーティマー)は、この男(ルーファス・シーウェル)のユーモア精神は、自分が生涯を共にするに足らないものだ、ということに悲しいかな気づいてしまう。
「人生に大事なのは、ユーモア精神!」
私は実は、以前に全く同じことを思って、友達にそう話したことがあった。笑いのない人は、嫌だな。いつも、笑ってられる関係がいいんだ。マジメな顔をずっとしてたり、カッコつけてたりする人は、きっと、ずっと一緒には居られないと思う。
この映画では、オスカー・ワイルドの墓に接吻した男が、ユーモアの泉が湧き上がってくるのも、なんだか素敵。オスカー・ワイルドの幽霊役は、14区の監督、アレクサンダー・ペインが演じている。
6区 カルチェラタン
フレデリック・オービュルタン&ジェラール・ドパルデュー(!)、ダブル監督作品、主演のジーナ・ローランズ(←)は脚本も書いている。
熟年離婚の二人の間柄、というのも、小粋で、ちょっと切なくてオシャレ。二人とも、いろいろありすぎな人生において、お互い好きだけれども、第二の人生を歩き出すための、前向きな熟年離婚だったのだ。
7区 エッフェル塔
シルバン・ショメ監督作品。
本物のパントマイム・アーティストを用いた、ちょっと風変わりで面白い小作品。
エッフェル塔の写真を用いた妙な映像も楽しくてカワイイw
8区 マドレーヌ界隈
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督作品。
セリフのない映画の中に、古典的なテイストを漂わせる、古いタイプの吸血鬼映画のようなこの感じが素敵で、思わず見ているだけでワクワクw
吸血鬼に恋した男の物語ってのもなんだかとってもイイ感じで私好み。
オルガ・キュリレンコ(『薬指の標本』)が吸血鬼役、最初の犠牲者役で、ウェス・クレイブン(20区の監督)が出て来る、なんていうトリビアも楽し。
イライジャの後ろ、何気に血の形が、まっ赤なハートになっているのも、オシャレで、表紙の『パリ・ジュテーム』のピンクのハートと呼応している所がいいでしょ。
4区 マレ地区
ガス・ヴァン・サント監督作品。
運命の人に逢った、といきなり話しかける、思い込みの激しいホモ役、ギャスパー・ウリエルが素敵すぎっ。ガス・ヴァン・サントもさすがのお得意分野、とてもセリフが良かったナ♪
ギャスパー・ウリエル、『ハンニバル・ライジング』が楽しみだ〜!
←こちらの男性は、イライアス・マックネル。この人もなかなか素敵でした。『エレファント』は全然覚えてないけど。
さーて、ようやく終わりに近づいてきました!やっぱり、どうも私は、語り出すと、止まらなくなるのかなぁ〜。
どれも手短に済ませようと思ってたのに。
お別れは、1区 チュイルリー
ジョエル&イーサン・コーエン監督作品。
ブシェーミの顔を拝みながら、パリにお別れを告げようかな〜
コーエン・ブラザース曰く、「ブシェーミが映画の中で、叩きのめされたり、殺されたりするのが好きなんだ(笑)」ですって〜。
私にとって、この作品が「見たいな」って思わせられたのも、一番の要因は、実は、ブシェーミだったんですね〜♪
相変わらず、「変な顔」してました(笑)(←『ファーゴ』のセリフに何度も出て来てたでしょ?)
その他、2区の、日本代表の諏訪敦彦監督作品や、『トゥモロー・ワールド』のアルフォンソ・キュアロン監督作品(17区)なんかも楽しみにしてたけど、ちょっと自分にはイマイチでしたので、触れずじまいで終わります。
ではでは、みなさん、ボン・ソワ〜
・パリ、ジュテーム@映画生活
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(61件)
前の記事: お祖母ちゃんのお葬式。
次の記事: 1周年
ななさんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
ななさんはマレ地区がお気に入りですか☆
これって、見た後すぐは特に・・と言う感じだったのですが、時間が経って考えてみると、なかなか印象深い1節でしたよね♪
『カルチェラタン』私も好きでしたよ。実はこれ、深い話だったように思っています。
そして『お祭り広場』これはすごく好きでしたね・・。切なすぎるんですけどね。
パリ、ジュテーム@我流映画評論
今回紹介する映画は、素晴らしい監督・キャストが揃ったフランスを舞台にした珠玉のオムニバス作品の『パリ、ジュテーム』です。
まずは映画のストーリーから・・・
街の印刷所に英国の女性客が通訳のガスパールと共にやってくる。
店主と女性客が奥に行っている…
≪パリ、ジュテーム≫
パリ、ジュテーム プレミアム・エディション
¥3,652 Amazon.co.jp
(DVDレンタル@2007/11/24)
原題PARIS, JE T’AIME
製作年度2006年
製作国フランス/ドイツ/リヒテンシュタイン/スイス
上映時間120分
監督ブリュノ・ポダリデス 、グリンダ・…
パリ、ジュテーム
パリ、ジュテーム プレミアム・エディション
監督:トム・ティクヴァ、ガス・ヴァン・サント、諏訪敦彦、クリストファー・ドイル、ジョエルN..
こんばんは。
私も「お祭り広場」すごく好きです。
5分であんなに入り込ませてジーンと切なくしてくれるとは!
ほんとにどのお話も10分はあると思っていました。
しばらくしたら、また無性に見たくなりそうなかわいい作品たちでした
ひめさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
『お祭り広場』は、名前とは全然違って、悲しいお話でしたよね!
本当、こういう短い作品の時って、その前後を思わせるような、時系列の並び替えがあると、物語の時間軸に広がりがあるんですよね。
なので、5分とは思えないんですよね。
また見たい、かわいい作品でした。
「パリ、ジュテーム」
「死ぬまでにしたい10のこと」のイザベル・コイシェや、「ファーゴ」などのコーエン兄弟、「グッド・ウイル・ハンティング」などのガス・ヴァン・サント、「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペインなど世界の18人の映画作家がパリ20区のうち18区を舞台に約…
こんばんは、トラコメありがとうございました。
ぼくは、ジーナ・ローランズ主演の作品がいちばん気に入りました。特にラストがいかにもフランス映画してるなあと感じました。あと、ジュリエット・ビノシュ主演のものや、コーエン兄弟作品などがよかったです。
たった5分間で、これだけのドラマができるというのは驚きでした。やはり、「アメリ」のプロデュサーの企画力がよかったのかも知れませんね。
それでは、またよろしくです!!
David Gilmourさんへ
こちらでは初めまして☆こちらこそ、TBありがとうございました!
ジーナ・ローランズの主演のものが一番気に入られたのですか〜!そうですか♪
分かります、分かります!
私も、これ、ほんの短い5分という中に、人生が見えて・・・。
目頭が熱くなっちゃいました。
プロデューサーが、アメリの・・なるほど、なるほど。
ウン♪とっても素敵な企画だったと思います^^
こちらこそ、またよろしくお願いします。
PARIS JE T’AIME (2006)/パリ、ジュテーム
【邦題】パリ、ジュテーム
【あらすじ】パリの街そのものをテーマに、パリの様々な場所で撮り上げられた1編およそ5分、全18編からなるオヮ..
『パリ、ジュテーム』’06・仏・独・リヒテンシュタイン・瑞
あらすじ男には、交際1年半になる客室乗務員の愛人がいる。今日、妻を愛していないことに初めて気づいたレストランで男は妻に別れ話を切り出すつもりだった・・・(バスティーユ)感想パリをテーマに、複数の監督が競作したオムニバス映画。話、短っ!1つの話が、5分ぐ…