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#49.リアル・フィクション

リアル・フィクションキム・ギドク監督’00年。
なんとまあ・・・荒々しい作品。撮影時間、たったの3時間20分。日数にして一日で撮り上げたというものだった。


ストーリー・・・
公園で肖像画を描いている男(チョ・ジンモ)。彼は、描いた絵にケチをつける客や、場所代を脅し取ろうとするヤクザ達に怒りを溜めている。
ある日、ショートカットの少女がデジタル・カメラで自分を撮影していることに気づき、誘いのままに彼女の後を追うと、そこでアングラ演劇のような、“もう一人の自分に出会う”という場所へと誘われていた。
そこで自分のかつて軍隊時代に経験していたトラウマのようなものが、蘇って来て、彼は、自分の中の暴力性を噴出させてゆく。・・・


35mmカメラ8台とデジタルカメラ10台で撮影したという、マルチカメラ作品。
公園をある一点から描き出す、固定されたカメラの映像を見た時は、とてもビックリしてしまった。
なんちゅー荒々しさだと。


公園で絵を描く異邦人のような姿は、ギドクの過去を思わせる。

主人公の男は、絵を描きながら、頭には盗聴器を付けている。
外音をシャットアウトしているかのような姿。その公園の音声ではない別の音が音響を包むのだ。
そのくせ、聴いているのは、近くの公衆電話の会話の内容。どうやら、込み入った話のようだったりして、誰か他人の、心の内だ。人の内密な会話には耳を傾けている。


不思議な少女に連れ去られた場所では、急にカメラが切り替り、デジカメの映像になったりなどして、なぜだか急に不安な心持にさせる。
ここ、“もう一人の自分に逢う”という、不思議なステージの上で、彼と対峙する相手は、まるで彼自身の過去を話すかのような会話を繰り広げる。


この舞台を映し出すデジカメ映像は、その後も、彼を追い続ける“視点”となって、ラスト間際まで彼の行動を追ってゆく。
このカメラは、彼の内面なのだろうか?それとも、彼の内面から見た、別の彼の姿なのだろうか。


デジカメ映像でないものは、リアル、現実と捉えて良いのだろう。
いや・・・仮想現実、“リアル・フィクション”なのかもしれない。
主人公は、次から次へと凶行に走ってゆく。


ギドクならではの衝撃的な映像もある。
花屋でのセックスシーン、その後の殺害。
ショートカットの少女の流す血。

少女の流した血は、下水へと象徴的に流れ込んでゆく。
下水、汚濁した水は、この街全体の下に流れているものである。

 

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コメント(15件)

  1. キム・ギドク「real fiction」感想 実験的な映画でした 

    撮影時間、たったの3時間20分という、韓国映画史上最短撮影時間で撮影された映画(ちなみに、2000年4月25日の午後1時〜午後4時20分)
    見た感想は、やっぱり、実験的映画を作ったな、って(そのまんまじゃ(^^;))思い

  2. とらねこさん、こんにちは!
    これ、ご覧になられたのですねー☆
    私は、これ、凄く実験的な映画だな〜って思いました。
    ラストでスタッフの人が集まって来る処が
    写っていましたよね。

  3. latifaさんへ
    こんにちは〜♪TB&コメントありがとうございました☆
    はい、マンダラで見ました!
    latifaさんのところに行って、驚きました。韓国語で見ていらしただなんて。
    全然3歳児並なんかじゃ、ないじゃないですか〜!
    原語で見る方って、そうとうにマニアでいらっしゃるな、と、尊敬のまなざしです・・・。
    そうですね、最後のスタッフが集まるシーンありましたね。そしてカメラが終わってもまた別の人が・・という終わり方で。
    おっしゃる通り実験的な作品でしたよね。

  4. 青春が時として瞬時に見せてしまう永遠……

    等身大の青春、そして画然とある世界への敵意、ふとまみえた同じ想いで呼吸している女を発見したことで、これまた青春が時として瞬時に見せてしまう永遠……これが製作時44歳ギドクの点描しているものなのである。

  5. 真・映画日記『リアル・フィクション』

    3月9日(金)
    仕事は午後6時半に終業。
    さあ、ここからが大変だ。
    御成門駅から三田線に乗り日比谷へ。
    そこから千代田線に乗り換えて乃木坂に。
    「国立新美術館」で「異邦人(エトランジェ)たちのパリ 1900-2005」を見に行く。
    まず、この日初めて来た…

  6. 『リアル・フィクション』

    昨日から引き続き、キム・ギドク監督作品の日本初公開の「リアル・フィクション」をモーニング鑑賞(朝1回のみでした。)監督・脚本:キム・ギドク出演:チュ・ジンモ、キム・ジナ、イ・ジェラク上映時間:84分-Story-公園で肖像画を描いて暮らす彼は絵にケチをつける客…

  7. 『リアル・フィクション』

     韓国の異才キム・ギドク監督による長編5作目で、日本未公開だったもの。東京・渋谷のユーロスペースで開催中の「スーパー・ギドク・マンダラ」にて鑑賞(2007/3/9)。 評価:☆☆ 近くの公衆電話を盗聴しながら、公園で肖像画を描く画家。彼がチンピラ3人組にかつあ…

  8. とらねこさん☆こんばんわ。
    お返事大変遅くなってしまいすいません。
    この作品、同じ日、同じ時間に鑑賞してたのですね〜!しかし、混んでいた気が・・・
    もう1人の自分との対峙は、あの時点では気付きませんでした。連続する凶行は、ギドクっぽい不条理さに溢れた死に方だったりしてびっくりしましたが・・・
    全編に渡って、行き所の無い閉塞感に溢れていましたね。一方でスピード感があって、撮影のスピードがそのまま出たような。
    とにかく、異色作ですが、観ている間は引き込まれる一品でしたね♪

  9. リアルフィクション

     遠くから客観的に見つめるようなカメラの先には、肖像画を描いている青年がいる。
     描いた絵はけなされ、場所代をせびるヤクザ達に翻弄されるようで、心の方向が向かない彼は、近くの電話ボックスの会話を盗聴しながら描き続ける。
     変わった少女が….

  10. orangeさんへ
    こんばんは☆コメントありがとうございました。
    おお、やはり、一緒だったのですね!
    私の方は、なかなか記事をUPすることが出来ずにいましたので、随分と前の話になりますが(笑)
    もう一人の自分との対峙は不思議な感じがしましたよね。あの雰囲気、悪くなかったですが。
    連続する凶行の方を私は、どこからどこまでがフィクションなんだろう、と考えて見ていました。
    カメラが多くて疲れました。
    深読みしすぎてしまったのが災いしましたが、あのテイストで、もっと難解な作品だったら面白そうだな、なんて思います。
    しかし、本当に異色とも言える、スピード撮影ですよね。・・・

  11. リアル・フィクション/チュ・ジンモ

    主演はTVドラマ「パンチ」や映画「ワニ&ジュナ」「MUSA−武士−」のイケメン俳優チュ・ジンモさん。キム・ギドク監督作品にチュ・ジンモというのはワタシ的にはかなり意外な組合せって感じがします。でも2000年以前のチュ・ジンモさんのポジションがよくわかんな….

  12. こんばんわ。
    主人公を追いかけていくカメラの目線、何かが起こりそうで起こらないなぁ、と思っていると突然の惨劇。意味を考えてると置いてけぼりになりそうで考えるのやめてしまいました。とても不思議な魅力の作品ですね。

  13. かのんさんへ
    こんばんは〜☆コメントありがとうございます!
    そうですね、あのことの起こるタイミングは、おっしゃる通り、突然でしたよね。
    ビックりしました。私も、意味をいろいろと考えて見ていたのですが、「違うかも・・・」と思いつつ、それでも最後まで疑いながら見ておりましたw

  14. リアル・フィクション

    殺意(悪魔の囁き)の物語。
    劇中劇の手法に思えて幻惑させる。
    チュ・ジンモの表情、様子があり得すぎる。
    ぞくっとする作品です。映画への挑戦でもある。
    シネマコリアでの詳述解説
    名古屋シネマテークでのキム・ギドク特集上映にて

  15. リアル・フィクション

     ●キム・ギドク監督作品レビュー● ・5作目「魚と寝る女」 ・6作目「コースト・ガード」 ・8作目「悪い男」 ・11作目「サマリア」
     コチラの「リアル・フィクション」は、キム・ギトク監督の4作目となるヴァイオレンス・サスペンスです。ちょっとずつでも観ていき….




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