#40.HOTEL
『リービング・ラスベガス』のマイク・フィッギス監督作品、2001年。イギリス=イタリア。
カメラ同時進行の画面4分割に魅せる手法、全編脚本ナシのアドリブ、なんていう、
大勢のキャストを使っての、かなり実験的な作品。
この記事は、エロネタも含みますので、嫌いな方は読まないでください。
ストーリー・・・
ベネチアのリド島のとある老舗ホテル。そこでは、『マルフィ公爵夫人』の撮影が行われていた。わがままな監督(リス・エヴァンス)は、出資者、プロデューサー(デヴィッド・シュワイマー)、出演者と喧嘩になったりする。
だがここのホテルには怪しげな秘密があり、地下室のところから人が消えてゆくのだった。・・・
撮影に際しての監督からの手紙、というものがこの映画のドキュメンタリーに入っていて、それによると、
一。衣装はナシ。皆自前の服で登場。
一。ヘアメイク係はなし。皆自分でやる。
一。送迎はしない。ベニスは車なんて必要ないだろうと。(ベニスにて撮影)
一。ギャラは全員同額。平等主義。
一。台本はなし。皆アドリブ。
・・・・・・・・・・・・・・。
だそうです。俳優の中には、アドリブでこれだけ大勢のキャストを抱えた、実験的作品ということで不安に感じていた人も中には居たようだった。
でも、サルマ・ハエック(TVレポーター役)はなんだか嬉しそうに生き生きしていました。
音楽もマイク・フィッギス監督自らがトランペット、ギターを演奏しているようで、抽象的な現代音楽風の、変わったサウンドが流れたりもしていた。
この先、ネタバレ気味の感想:::::::::::
途中で画面が4分割した時は、一瞬、やっぱり、ヒヨります。
「見たことのない映像だ!」と。
でも、このビジュアル・エフェクトに大した意味があったのかな?と考えると、そう意味があったというほどではないにしろ、
一度エロいシーンがあって、そこを4ついっぺんに映すのは面白いな、と思いました。
レズビアンのシーンや、これからセックスしようとしている男と女だとか、ついついエロを目で追ってしまうと思います。と言っても1シーンでしたけどね。
この手法、もしかしてAVの選択画像なんかを見ながら思いついたのだったりして・・・っ。
たとえば、「これからコトに及ぶ男女の画像」が上画面二つにあり、「今コトに及んでいるレズビアンの画像が、下右画面にあり、
下左画面には昏睡状態の監督に向かって話しかける人の画像、というものがあれば・・・
人間としてついつい、下左画面の話を聞きつつも、上画面二つを見てこれからコトに及ぶのを「いつ始まるのか」と期待して、
「実際にコトに及んでいる右画面のレズ映像でとりあえずは興奮する、という、この構図が当然でしょうねぇ。
とは言えこの4分割も『カンバセーションズ』のように、ずっと画面がデュアル・フレームの2分割ではないので、それほど疲れる印象はなかった様子。
映画の中で映画を撮影していて、『マルフィ公爵夫人』の物語、これは中世英語を使用しているので、それで初めてこちらは劇中劇なのだな、と分かる、というシーンもあり、この劇中劇が同時進行してゆく。
その合間に、ホテルの中の別の人物、例えば映画出資者の、富裕の夫婦の様子、プロデューサーの頼んだ殺し屋の一味や、その他様々な人達のシーンが連ね、一人また一人と、地下室に消えたりする。
ただ、地下室に消えていく人々のことは、消えたまま語られないで話が終わってしまいます。あ、消えたのだな、という。
ただ、このホテルに居る人たちがとても怪しくて、ガラス窓の向こうから覗き見ているのだけれど、どうやらこの人達は不思議な力を持っているのか、
例えば監督(リス・エヴァンス)をガラス窓の向こう側から狙撃して、監督は昏睡状態に陥るのだけれども、“銃弾の跡はあるが、体内に痕跡はなく”、
(現代科学では一応、その同じ場所から出て行ったという医者の説明がある)
ホテルの中で昏睡状態を続け、メイドと関係を結ぶことでまた意識が戻ってしまう、という、超常現象的な出来事がある。
さらに、リス演じる監督は、このホテルの中で不思議な力を得た、と考えることが出来るようだ。
地下の調理場の薄暗い中に、人の切断された手足が映っているのは、私としてはこの映画が『HOTEL』だけに『HOSTEL ホステル』を思い出してしまうのだけれど・・・
それも同じシーンが繰り返されるだけで、それ以上特に説明がないので、“恐怖感を煽る”といった、ホラーのようなタイプの作りではなくて、不条理感を持たせた印象。
画面が4分割にされて映し出されるこの映像は、映画監督(リス)が昏睡状態に陥った後、ルーシー・リュー扮するリポーターとのインタビューの中で、
「自分が今いないところも見えるようになったとは、本当ですか?」
と聞かれ、その場で、ルーシー・リュー扮するリポーターの夕べの行動などを言って、それがどうやら当たっているので、昏睡状態に陥ってからその能力がついた、ということなのだろう。
ただ、リスが昏睡状態に陥る前からこの画面4分割は行われていたので、これはただ単にホテルの監視カメラだったりして?
なんていう仮説が出来上がるけれども。
評論家いわく、このカメラの使い方というものは、ホテル内のインナービジョンだ、というのはなかなか面白いものだと自分は思った。
だとすれば『隠された記憶』でのビデオ画面の用い方を彷彿とさせるので。
最初の4分割で、あのカメラ映像は、ホテル内を縦横無尽に描いているのだが、そうした“何かの存在”を感じさせる、映画のカメラとは別のビジョンというのがそれである。
なのでこの作品はもしかしたら『隠された記憶』に影響を与えたのかもしれない、なんて思ったりもする。
私はこの『隠された記憶』は、オチの衝撃度や、犯人は誰か、といったこと横において、このもう一つ別のビジョン設定、というものが面白い存在だったように今では思っている。
映画のカメラが映し出す被写体に、本来一方向であるものの先に、カメラというものが存在する。
そのファインダーの向こうには何かが存在するわけだが、それを映し出さないことによって、何か不気味な存在のみを感じるわけだ。
さらに、もう一つ別のカメラからの映像では、こちら側からの映像と同じ被写体がそこに映ることもあり、その際には、そのカメラとこちらの見ているビジョンは同じ、ということもありうるわけだ。
一方で観客の見ているビジョンであるのだが、何か別の存在が見ているのもこの同じビジョンであったりもする。
にもかかわらず、その“もう一つのファインダー”の向こう側が映されない、というのは興味深く、そこが恐怖を煽るのだ。
何かの存在が確かにある。だが、そのファインダーの向こうにいる何がいるのかが描かれていない、というのは、なかなかに興味深い。
本来、映画のカメラの被写体の先に、もう一つ別のカメラが存在し、それがために一方向ではなくなるのだ。そのビジョンがクロスすることもある。
リスが昏睡状態にいる時に目の中から別の映像が現れるところで、魂だけが別の場所に行って、元自分の仕事の片割れであったプロデューサーに、夢なのか現実なのか話しかける場面がある。
つまり、どうやら異次元の世界に繋がっているらしい。
さらに、ホテルの中に怪しげな人物たちが居て、彼らは、人が消えていっても存在しているし、かつ映画関係者やその他の人達と関係がないようだ。
この怪しげな人達をホームビデオのモニター画像で見ると、人々の眼が光るシーンがいくつもある。
これはホームビデオの画像をそのままネガの状態で映し出している、というビジュアル・エフェクトなのだが、このホテル側の人達は前出した様々な能力を持っているという設定の様子だ。
ホテル自体も怪しげな設定で、前出の超常現象が起こると同時に、ここに棲む人達も不思議な力を持っているのだろう。
それにしてもギャラが全員一緒とは、なんだかリス・エヴァンスがかわいそう。
ルーシー・リューのようにちょっとしか出ない人もいれば、リスのように出ずっぱりの人もいるのに・・・
リスの場合、全裸まで披露していましたよ。ボカシはかなりキツくかかっていたけど。
まあ、彼の場合、裸を披露するのは、特に上半身はいつものことなのかな。というか、シャツにちゃんとボタンがかかっている役って少ないのかも(笑)
この少し難解気味な実験的作品を、楽しめたのも、リス・エヴァンスのおかげ!
リスの演技を見ているだけで楽しめてしまう私なのです(笑)
撃たれて寝ているのに眼球がキョロキョロ動いたり、昏睡状態なのに、笑っているような、不気味に起きているような(笑)
アドリブでやってるんだよね、リス〜♪と考えて。
やっぱ、アイツ面白い。
2007/03/12 | 映画, :カルト・アバンギャルド
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HOTEL
ベニスで“マルフィ公爵夫人”をドグマ様式で撮影する事になり、とあるホテルに役者やスタッフが集まる。 自己中な監督(リス・エヴァンス)が覚醒昏睡状態になってしまったため、プロデューサー(デイヴィッド・シュワイマー)が監督を引き継ぎ、何とか撮影を続けた。 怪し….
とても細かく分析されていて、おぉ〜と思ってしまいました。
哀生龍ははなから理解する事を放棄して、好きな俳優にだけ注目して“見る”事に逃げてしまいましたから(苦笑)
>ギャラが全員一緒とは、なんだかリス・エヴァンスがかわいそう
逆に、「ギャラはもっと少なくてもいいから、もっと出演時間を増やして!!」と思った人もいるかも?
これ、なんか凄かったですねぇ〜。
トラネコさんの書いてる5か条を知ってて見るのと
みないのとじゃあ大分感じ方や評価違ってくるでしょうね。
DVDはメイキングとかもあってまあまあ面白かったですが。
私は、こういうのちょっとダメでした。。
DVD『HOTEL』デラックス版 ★・・・・
DVD『HOTEL』デラックス版HOTELデラックス版制作データ;2001英・伊/アートポート ジャンル;サスペンス 上映時間;111分 監督;マイク・フィッギス出演;ジョン・マルコヴィッチ/ルーシー・リュー/デヴィッド・シュワイマー/サルマ・ハエック◆STORY◆ヴェニスの…
哀生龍さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました。
これ、私、難解系の映画と初め思わなくてザックリした感想を書いていたのです。
書いた後で、他の方が分からない、と書いているのを見て、難解映画だったのかなと思って、解釈系にして書き直し、二倍の量になってしまいました。
そしたら、夜更かしして、今日遅刻してしまいました(泣)
そうですね、普通だったら出番が多いのって嬉しいことでしょうが、アドリブだとさすがに「前に出よう!」と前に出て輝ける人ってそういないと思うのです♪
リスは爆発力も本当凄かったですよね。
ヘーゼルナッツさんへ
こんばんは〜♪お久しぶりです。
コメント&TBありがとうございました〜
そうですね、DVD見ても特典まで見ないで切ってしまうと、分からないでしょうね〜
それに私も、実は見る前は知らなかったんですよ。後から特典を見て、そうだったのかと思いました。
>私は、こういうのちょっとダメでした。。
いやいや、私もこれは特に面白くはなかったです。
でも4分割のクアトロ・フレームはどんなものかな、と思いまして☆
こちらにも
お〜!洞察深いですね!そしてリス愛!
16分割と聞くと象印クイズ「ヒントでピント」を、画面分割と聞くとフィッギス監督思い出すんですけど…
>でも、このビジュアル・エフェクトに大した意味があったのかな?
そうなんす〜。物語ることに対して効果的かと問われると如何なものかと…でも絵面的には「おぉ!」とは思うんですよね
難解ちゃ〜んな作品ですが、わたくしはドグマの連中に対する監督からのシニカルかつ屈折したラブレターなんじゃないかと解釈しました(笑)
で、とらねこさまはこの作品、カルト・アバンギャルドのカテゴリに入れましたか(笑)
ぷぷッ『忘八』とか『ビジターQ』と並んでる…
>エロいシーン4ついっぺん
ココ、クロップアップ発動ですから(笑)
オメガトライブの晴や仮面ライダーカブトもかくやの勢いで!
みさま
こんばんは☆コメントありがとうございます〜。
みさまのオススメ、やぱり「一見の価値のある」ものが多いですよね。さすがっ!
>絵面的におおっ!と思う
うん、本当にそれだけ、って気がしなくもないんですが、もう、後続者がいないのでそれでネタになりますもんね・・笑
>ドクマの連中に対するシニカルかつ屈折したラブレター
詳しくは分かりませんが、なんか思うとこアリなのですね(ザックリした解釈でごめんなさい☆)
>クロップアップ発動ですから(笑)
おお、さすがにボキャブラ度高いなあ〜。
エロシーン良かったですよね、もう、「まだかまだか」って感じでした。
あの期待させ感がなかなか♪
こんばんわ。
風邪をひいて、休んでます。
でも、頑張って試写会には行ってきたけれど・・・
ちょっとしんどい。
今日はこちらにコメントをしたらもう寝ます。
隠された記憶に影響を与えた!?
・・・わけはないと思うけれど(苦笑)。
相手はハネケ監督っしょ?
ハネケは自分の道まっしぐらって感じがしますが
実際はどうなんでしょう(笑)?
コレはなかなかユーモラスな映画で、
いまだに鮮明に覚えている作品です。
おっしゃるように、リスの横顔・目キョロキョロの
シーンは不気味でありながらも面白さたっぷり
で楽しめました。
最後まで眠らずに観れたし、
個人的にはアリっちゃあ・・・アリな作品かな?
HOTEL
【映画的カリスマ指数】★★★☆☆
あなたはどこまでこの物語に酔える?
睦月さんへ
こんにちは。コメントありがとうございました。
風邪は大丈夫でしょうか?あまり無理しないでね。私のところは、いつでもいいですから。気が向いた時で構いませんので、私のことは後回しにしていいですよ。
>隠された記憶に影響を与えた!?
この点、少し説明不十分だったので、付け加えました。
ホテルに存在するインナービジョンであるカメラというものの存在が、『隠された記憶』で使われていた、映画のカメラともう一つ別個に存在するものであるところが同じだと思いました。
本来被写体であるはずのスクリーンに映し出される映像に、もう一つのカメラが存在する。
そのファインダーの向こうには確かに何かの存在があるのに、それが描かれていない、この点が、面白いな、と。
本来一方向であるはずのカメラ・被写体というこの関係に、カメラ・被写体・もう一つの被写体、となり、このビジョンというものの構成が、多角的になってくるんですよね。
さらに、この“もう一つのビジョン”そのファインダーの向こうにある存在が隠されたまま、というのがこちらとしては恐怖を煽られる。
そこに何かが存在する・・・この双方向のビジョンがこの作品でも使われていたのだと思い至りました。