#38.松ケ根乱射事件
そもそも私が見ようと思ったのは、西川美和が、
「面白い。こういうの作ってみたいなんて考えてしまうけど、自分は山下みたいには絶対面白く出来ないので、作ってみたいなどとは考えないようにしている。」
なんていう、気の利いたコメントをしていたためで・・・
西川美和にそんな風に思わせるなんて、一体どんななんだろう〜♪
なんて考えたら、とまらなくなり。
この映画のチラシの新井浩文、“光太郎”役のドンヨリした目が、なんか気になって気になって、仕方がなくなってしまった、のでありました。
ストーリー・・・
’90年代初頭のとある田舎町。雪降る何もない無辺の大地に、横たわる、死体と見えた女性。
と思ったら生きていた。いわくありげな男女、みゆき(川越美和)と、祐二(キムキム)。
光太郎(新井浩文)が巡査として回る、平凡な田舎に、なにやら来訪者がやって来たのだった・・・。
雪の降る大地に横たわる死体、『ファーゴ』じゃないですか、それ!
「うおお♪」と、思わず感激してしまう。
そうだよね、『ファーゴ』、やりたいよね!と思ってしまいました。
言ってみれば、超脱力系・不条理ブラックコメディ。
『じみへん』みたいなテイストの、妙にマタリ、ヌメっとした感がある、ダラダラしたこの空気感。
なんかね・・・ムカっと来るんですよ。
何がムカツくかって、退屈な日常、田舎の閉鎖的雰囲気、それなのに、そこにオカシナ論理がまかり通ってしまう、不条理感。
イヤ〜な空気がどろ〜り、まとわりついて来るんだけれども、これがこの映画の狙い目というべきものらしく。
スコン、と落ちて、「ヨシっ!」と、気持ちよく腹にくる感じは皆無のまま、オカシナオカシナ方向へと流れていくのだ。
そして、この辺りが、『ファーゴ』なんですね。
『ファーゴ』でも、決して、登場人物の目論み、というものは、全て意図した通りに運ばず、ドンドン変テコな具合に物事が運ぶのが、とんでもなく面白かった。
この感じと似ている。
とは言え、ファーゴではもっと事件が雪だるま式に加速していくんだけど、こっちはそうではなく、もっとダルいです。
例えていうなら、何度言っても気持ちの分かってもらえない、コミュニケーションの通じない、母親とか、会話するのも面倒くさい、妹やおばあちゃん。
それから、余計なくちばしを入れてくる、親戚のオバチャンや、隣人。
そういう、不毛なダラ〜っとした感じ、生きていく上で感じる特有の閉塞感とか、虚無感なんかを、上手に映画に出している、そんなところが、圧倒的なリアリティを持って思い出してしまうので、余計、このムカツキ感覚がジト〜っと、心の内面に侵食してしまうのですよね。
そこに、ブラックでとほほなユーモアがフニャフニャ〜っと、絡んでくるものだから、なんていうか、膝カックンをされた感じ?
例えて言えば、「行列の出来るラーメン店」に、うまいのか不味いのか、分からないラーメンを、あまり仲良くない家族と一緒に、腹が減りながらイライラ待ち続けていて、
これまた最ッ悪のタイミングで、顔見るだけでムカツく弟が、後ろから膝カックンをする感じ。と、言いますか。
もう、脱力すると同時に、ちょっとムッと来て、振り返って、確認するのもめんどくさい、っていうか。
いやいや、こんな空気感を出せる作品て、なかなかないでしょう。
そして、ここで繰り広げられる下ネタですが、下ネタというより、死もネタ?
死も寝た?
みたいな、ブラックなとらねこジョークがちょっと、言いたくなってみたり。
この不発弾なダメダメっぷりが、本作と類似しているので、笑えなくても、怒らないでチョ♪
(ムカついたべ?ムカついたべ?)
そんな妙なリアリティを圧倒的に感じるのも、何より“画”にコダワっているからで。
田舎の風景にしろ、本当にありそうだし、家畜小屋も、本物にしか見えない場所を使っていて、駐屯所の署内は、本当にボロっちくって、汚い。
家の中に飾られている小道具やら、何やら、何から何まで、リアリティを醸し出すんですよ、ストーリーはありえないのにね。
ちなみに、タイトルから、思わず“コロンバイン乱射事件”を思い出してしまった私。
マイケル・ムーア『ボーリング・フォー・コロンバイン』を、図らずも思い出します。
で、これが一体どういう風になるか、・・・
それは、言えません。見てください(笑)
ただ。
私は今、この監督が、’90年代当時、自分の住む田舎の、閉鎖的コミュニティーの中で考えたことを、体現させる映画、のように感じている。
“思春期的イライラ感”を日々鬱々と積もらせながら、その出口もままならずに、暴発しそうな銃を抱えながらも、どことなく不発のような・・・
そんな、いかにも思春期的に人が抱えていそうな、もやもやとしたこの感情。
出口が行き場を失い、入り口もはけ口も分からぬままに過ごした、そんな青春映画があってもいいのではないか・・・
こう考えてみると、とても完成度が高い作品のように思っている。
これを貫いたのが凄い。
そして・・・。
この先、少しネタバレ::::::::::::::::
そんな、ダルダルな作品なのに、最後、エライ気持ちいい音楽がエンドロールで流れる。
ボアダムス『モレスコ』。
変テコギターサウンドがこれまた素ッ敵〜♪な、Jロックのガレージ、本能エレジー爆裂サウンド。
そこで、急に気持ち良くなって席を立ちました。
最後の最後の膝カックンの直撃を受けた、モロ直後の話。
「だ〜!!
な〜んで、最後だけカタルシスなんじゃああああああ!!!!!
本編にはないのに〜〜!!!」
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・松ヶ根乱射事件@映画生活
2007/03/09 | 映画, :コメディ・ラブコメ等
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コメント(54件)
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ほんやら堂さんへ
こんばんは!
こちらこそ、TBありがとうございました。
そうですね、これは、一風変わったテイストの映画でしたね。
まさに膝カックンでした。
だけど、今思い出すと、すごく印象深い作品で、
実は今年のベスト10に入ってしまうかもしれない、なんて思います(笑)
【DVD】松ヶ根乱射事件
■動機
山下監督の作品を追いかけて
■感想
こういうの大好きかも
■満足度
★★★★★★☆ いいかも
■あらすじ
1990年代初頭、雪の降りしきる小さな町松ヶ根の国道で女(川越美和)の死体が発見される。警察官の光太郎(新井浩文)が女の検死に立ち合っていると、…
鼠・アラタマミチヨ・忌「松ヶ根乱射事件」モレシコ
みやこさんありがとーさんおもっちろい映画教えてくれて。おもちろいおもちろい、ルンルン、わくわく、とってもイイ映画でした
僕が生まれ育った大阪の実家も天井にいつも鼠がコトコト走りまわっていて、寝ている時に顔の上を歩かれたりして、かんなぁ〜りイヤな思いをし…
映画「松ヶ根乱射事件」
監督:山下敦弘(現 日本フライ級 長回しチャンピオン)
出演:新井浩文 山中崇 安藤玉恵(良いです)川越美和
出演:木村祐一(最高!)三浦友和(エンドロールで気付く…)
片田舎の松ヶ根に住む双子の兄弟、実家の手伝いをする兄と
警官の弟。その周りで起…