#34.善き人のためのソナタ
素晴らしい傑作!
アカデミー賞受賞の一日前に、見に行って、「これ、(外国語映画賞)取れるといいね〜♪」なんて言ってたのですが、そうですか、やはり、取りましたか!
納得です。
私、アカデミー外国語賞はいつも気になってしまうんですが、この作品も、本当に傑作と自信を持って言えます!
1984年、東西冷戦状態の旧・東ドイツ。ベルリンの壁崩壊は、後5年後に迫っていた。
シュタージという、国家保安省が、国全体の監視を日も夜も続けていた。東西の行き来はもちろん、思想的にも統制がかかる。
劇作家、ドライマン(セバスチャン・コッホ)は、言わば“思想的に優等生”である、国民に愛される芸術家。
だが、彼にもシュタージの手は伸びる。
クリスタ=マリア・ジーラント(マルティナ・ゲデック)という女優を恋人にするドライマンに、シュタージのヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)の厳しい監視が入るようになる。・・・
これが監督初めてとなるフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。
4年の長い構想の末に、ナチスと似通った体質を持った、国家保安省であるシュタージに関して、この作品で初めてその全体像が明らかにされた、と言われている。
だけど、この物語は、あくまでも政治的なプロパガンダを強く訴えかける作品ではない。
芸術によって変わりゆく人間の姿を描いた、あくまでもヒューマンな物語であるところが共感を呼ぶ。
若干33歳のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクは、レーニンが実際に言ったとされている、
「ベートーベンの“情熱のソナタ”を本気で聴いた人間は、革命が成し遂げられないので、聴かなかった」
この事からこの物語を思いついたのだという。
ここでも、監視により盗聴でモレ聴いた、クリスタとドライマン二人の人生、人間的な温かい会話、音楽によって、孤独なヴィースラーの心は氷解され、少しづつ変わってゆく。・・・
こんな映画が見たかった!
と、途中で何度も胸が熱くなってしまいました。
二人の人生をそのまま映し出すでなく、二人の人生を描く一方で、それを見ているヴィースラーの人生をも同時に映し出す。
二義的なこうした手法、私、とても好きだったりします。
例えば、“過去を振り返る”、別の物語が進行するだとか、誰かの話で別の物語が語られるとか、こうしたやり方というのは、また別の“フィルター”がかけられることによって、感情を映し出す上手なやり方のように思えるのです。
以下、少しネタバレになります:::::::::::::::::
そして最後、交錯すると思われたその時に、翻して、間接的なやり方で感謝の意を表す、・・・
間接的なやり方でもって、ドライマンを守ったヴィースラーに対して、やはり、直接的でないやり方で、だが堂々と感謝を示す。
もう、感激して滂沱しまくりでした。・・・
ベテランであったヴィースラーが、なぜそんなに心の変革を遂げたのだろう・・・
こうした感想を持つ人も、中にはいるかもしれません。
私は、それを、ベルリンの壁崩壊前の、人々の心を映し出しているように思ったりもします。
つまり、ベルリンの壁崩壊は、外部だけの圧力で、突如として行われたわけではなく、
旧東ドイツ内部から、人間の心が変わりゆく、時期的にそうしたものを迎えていたのだと。
無意識に、そうした変革を内に抱えていた、そう思います。
ヴィースラーを演じた、ウルリッヒ・ミューエには、賛辞の言葉を惜しまない気持ちでいっぱいです。
初めの、冗談すら通じない、コワモテのシュタージであったヴィースラー。
孤独だった彼が、少しづつ温かい気持ちを取り戻し、表情すら変わってゆく姿は、一見の価値があると思います。
随所随所に盛り込まれた、微妙なユーモアにも笑った!
(特に、ラスト間際で手紙を開封する、とある別のシュタージ局員の登場に注目アレ☆)
2007/03/02 | 映画, :とらねこ’s favorite, :ヒューマンドラマ
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由香さんへ
こんばんは〜♪コメントTBありがとうございました!
ええそうですね、私はこれは結構面白かったです。
思ったような展開にならずに、ぐいぐい惹き込まれていき、退屈しませんでしたよね。
ラストはすごく良かったですよね〜^^♪
映画『善き人のためのソナタ』
原題:Das Leben der Anderen
ベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」を愛した男レーニン、だがロシア革命の指導者たる彼にとって、善き人になるためのソナタなど聴くことは叶わない・・・
1984年はベルリンの壁崩壊の5年前、旧東ドイツの国家保安省シュタージ…
映画 「善き人のためのソナタ」
とにかく、どこで聞いても評判の良いこの映画。新文芸座のシネマカーテンコールでかかっていたので観てきました。{/hiyo_en2/}
1984年、東西冷戦下の東ベルリン。ガチガチの国家保安省(シュタージ)局員、ヴィースラーは、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリス…
「善き人のためのソナタ」
年末あたりから、映画系のブロガーさんたちに恒例ともいえそうな「昨年度のベスト映画」的な記事が、さまざまに書かれる。(私も含めて。)
…
いい映画ではありましたが、私には普通かなーと…。
映画館で観ていたら、もう少し入り込めていたかもしれません。
ボーさんへ
こんばんは〜!コメントありがとうございました。
そうですか、DVDで見たら普通でしたか・・
これは去年、皆さんの評価がすごく高かったですよね。
善き人のためのソナタ
とても話題になったので
是非観たかった作品です。
しかもアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。
外国語映画賞部門は「海を飛ぶ夢
」私の趣味の作品が多いのです。
DVDで鑑賞。
1984年、東西冷戦下の東ベルリン。
国家保安省(シュタージ)局員のヴィースラーは、
…
善き人のためのソナタ
善き人のためのソナタ スタンダード・エディション
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マル…
「善き人のためのソナタ」
「善き人のためのソナタ」、DVDで観ました。
正直あまりにアカデミー外国語映画賞を取った作品で好きなのがないのですが観ました。……まあまあでした。
崩壊前の東ドイツの政府が反逆者を見つけようとすることで起??
善き人のためのソナタ
【DAS LEBEN DER ANDEREN/THE LIVES OF OTHERS】2007/02/10年公開製作国:ドイツ
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルッヒ・トゥクールとにかくすばらしい作品でした…
映画「善き人のためのソナタ」を観た!
「盗聴」とは、他人の会話や通信などを、知られないようにそれらが発する音や声をひそかに聴取・録音する行為です。聴取した音声から様々な情報を収集し、関係者等の動向を探る目的で用いられます。旧ソ連時代、在モスクワの外国公館すべてに盗聴器が仕掛けられていると
>孤独だった彼が、少しづつ温かい気持ちを取り戻し
孤独だったと言う事は、かなり重要な設定ですよね。
ドライマンや彼の身近にあった芸術を通して、ヴィースラーは(人間が本能的に欲するものでありながら)自分が持っていかった愛・自由・温もりといったものに触れ、無意識のうちに求めていったんだなぁ〜と、素直に彼の変化を受け入れることが出来ました。
正直言って、この邦題は哀生龍を遠ざけていました。
みんなからお薦めしてもらって、本当に良かったです!
とらねこさんにも、大感謝!!
哀生龍さんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
そうですね、ヴィースラーは、無意識にそうしたものを求めていった・・・
なかなか、素敵なご意見ですね。
人は美を求めると思いますよね、孤独よりは愛を、コミニュケーションを、不器用でも。
この物語、本当にウルリッヒ・ミューエのあの演技を思い出すだけで、なんだか心がいっぱいになるんですよ。
カワイイオヤジなんだからなあ、もう。。。(泣)
哀生龍さんが気に入ってくれて嬉しいです♪
このかわいいオヤジっぷりは、絶対気に入ると思ったんですよ。
善き人のためのソナタ
東西冷戦時代。
旧東ドイツはシュタージという国家的監視により国民は監視され反動分子は摘発されていた。
そのシュタージの監視者としての任務を当たり前のように、間違った事でないと信じていた「彼」は、ある芸術家を監視する事によって・・・。
監視国家という…
善き人のためのソナタ
ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツを舞台に、強固な共産主義体制の中枢を担っていたシュタージの実態を暴き、彼らに翻ろうされた芸術家たちの苦悩を浮き彫りにした話題作。第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。監督はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、キ…
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『善き人のためのソナタ』を観ました一党独裁の非人間的な監視国家であった旧東ドイツの実情、そのシステムの中で生きる人々の苦悩を、哀しくそして美しく描いたヒューマン・ドラマです>>『善き人のためのソナタ』関連原題:DASLEBENDERANDEREN THELIVESOFOTHERSジャ…
「善き人のためのソナタ」 感動からエナジーを得よう
「善き人のためのソナタ」
人間不信からの解放
【原題】DAS LEBEN DER ANDEREN
【公開年】2006年 【制作国】独 【時間】138刮..