#33.悪い男
ううーん、やっぱり、キム・ギドクの描く世界・・・なぜかハマってしまう!
これを“純愛”と呼ぶにはあまりに異端ですが、最初の5〜10分見た時の思いと、ラストまで見た時の気持ちがまるで違って響いて来てしまって・・・
まさに怪作と呼ぶべき作品でした。
街で見かけた清純な女子大生ソナ(ソ・ウォン)に、彼氏の目の前でいきなりキスする、ヤクザ者ハンギ(チョ・ジェヒョン)。
だが、冷たい一瞥と共に「最低男」呼ばわりされる。
その後、復讐なのか、ソナを陥れる計画を練って、多大な借金を負わせ、ハンギの出入りしている売春宿の娼婦に身を落とさせてしまうのだった。・・・
うう、あまりに酷いその歪み切った恋心!
マジックミラー越しに切なそうに見つめたりするのですが、そんな歪んだ恋慕はいら〜ん!
トンでもない男に好かれてしまったが故に、こんな人生目茶苦茶にされてしまったら・・と考えると、おっそろしいです。
最初はね・・・こう思うんですよ。
だけど次第に・・・、この男、どうしてそこまで自分の好きな女を苦しめるんだろう、と、思い始める。
好きな女を誘拐したり、純愛なのか目茶苦茶なのか、ちょっと間違った方向性に突き抜けていくラブストーリーというと、自分はヴィンセント・ギャロの大成功作、『バッファロー’66』とか、もう少し微妙なところで行くと、アレハンドロ・アメナーバルの『アタメ 〜私を縛って!〜』なんかを思い出してしまいます。
これらの作品でも、好きな女を誘拐してみたはいいけど、どうしたモンやら、その後手を出すやり方が分からなくって、だんだん微笑ましくなってしまったりする、
“可笑しな純愛・誘拐モノ”。(そんなジャンルはないんですが・・・)
でも、この映画はもっと酷いです。好かれたが故に、娼婦なんて卑賤の身に落とされてしまうんだもの!
だけど、この主人公ハンギ、チョ・ジェヒョンが素晴らしいのか、痛々しい思いがこちらに伝わって来てしまって、だんだんこの男の気持ちになって見てしまいました・・・。
ああ、この男、“幸福”というものは自分と無縁の物と思っているのか、それとも、清純な女、しかも絵画、エゴン・シーレなんかが好きだったりする女子大生で(エゴン・シーレは『クリムト』の愛弟子、絵を見る限りだと、天野喜孝や松本大洋に影響を与えていそうです)、一体、どうアプローチすべきか全然分からない、手出しの出来ない世界に住む、遠い存在なんだろうなあ、と・・・。
ソナが絶望して泣いていたりする姿を見て、胸は痛むのだけれども、
相手を落として、ようやく自分も感情を移し入れることが出来るというか、いや、
間違っている恋慕には違いないのですが、好きな女を不幸にしてようやく自分と同等に扱うことができるというか・・。
小学生で言えば、好きな女の子をイジメる男の子。
ドラエもんで言えば、しずかちゃんを娼婦にして入浴シーンを覗くジャイアン?
とにかく、全く違う世界の住人だった生き物を、自分の属する世界に無理やり落とし込むことで、ようやく自分の世界のリアルな存在として感じることが出来、
それでもまだ近づけないという、マジックミラーの向かい越しに見つめるだけの存在なのですね・・・。
私もなぜか、ハンギの気持ちになって見てしまって、サメザメと泣くソナの姿をかわいく思って、欲情してしまいました。
そこには自分は幸福などというものとは無縁の存在である、という、捻じ曲がった価値観もあって、・・・
時間が経ち、ソナにとって自分という存在に対する気持ちが変わってゆくのを見て取ると、元に属する世界に戻そうとしたりもする。
二人の世界に立ちはだかる壁、というものをよく表していたのが、刑務所でのガラスであったり、売春宿のマジックミラーであったり。
顔のない写真をマジックミラーに貼っていたソナが、鏡を割ると、そこにハンギの顔があるシーンは、さすがはギドクだな、と、驚かされる映像もあって。
ただでさえ評価が別れそうな作品であるのに、ラスト、決して、気持ちが良く終わるわけではないので、さらに良し悪しを着けることも難しい、この作品ではあります。
でも、ハンギが「ヤクザ風情が愛なんて・・・っ」
と、声にならない声で、叫ぶ・・・と言っても、声帯がダメになっているので、叫びですらないその声で、叫ぶシーンには、滂沱しまくり。
一筋縄でいく恋愛観ではないのは確か。
だけど、なぜか、心を奪われてしまったのです・・・。
キム・ギドク、恐るべし。
・悪い男@映画生活
2007/03/01 | 映画, :とらねこ’s favorite, :ラブストーリー
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コメント(24件)
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悪い男
監督:キム・ギドク
出演:チョ・ジェヒョン、ソ・ウォン、チェ・ドンムン
これもある種の純愛モノでしょうか・・・イヤ、まさしく純愛カモ。
かねがねキム・ギドク監督の作品を観たかったので、この『悪い男』の日本語版DVDは待ちこがれてました。そして、素晴らし…
たんなるヤクザもの愛憎劇かと思っていたら、とんでもなく深くて繊細な純愛物語であったことにトリハダがたちました。セリフが無くてもこれだけものが表現出来るという演技の真髄を観たような気がします。キム・ギドク監督のさらにスゴイとこはお金や時間を多くかけずに作っちゃうとこなんですよね。
映画「悪い男」を観て
ソナは、破られた写真の最後のピースを砂浜で見つける。
そこに写っていたものとは・・・?
・・・驚きと共に、(こんな事が出来るなんて、やはりキム・ギドク監督だな)、と思った。
とらねこさん、TB&コメント、どうもありがとうございました。
>まさに怪作と呼ぶべき作品でした。
私もそう思います。
他に形容しようがない気がします。
この作品、けっこう好きです。
私、この作品は1回しか観ていないはずなのに、何度も観たような錯覚を覚えます。
「そんな、まさか」と思う設定のはずなのに、リアリティを感じたりして、不思議な作品だと思いました。
「悪い男」 (2001)
なんだか途中で“あれ、オレ今「パリ、テキサス」観てたっけ?”って思っちゃったですが
悪い男
製作年度 2001年
製作国 韓国
上映時間 103分
監督 キム・ギドク
脚本 キム・ギドク
音楽 パク・ホジュン
??
こんにちは
「コーストガード」、「受取人不明」とキム・ギドク特集ですね(笑
ボクはベタに「魚と寝る女」が好きかな
この映画は商業的な視野があったみたいですが、やっぱりキム・ギドクな濃い映画でしたw
TB&コメントありがとうございました。
かのんさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます!
そうなんですよね、とても繊細な物語でした!
さすがはキム・ギドクでしたよね〜♪
私、この作品は、『うつせみ』と表裏を成すラブストーリーとして、かなり好きになりました。
おっしゃる通り、何より、チョ・ジェヒョンに負うところが大きいですね!
彼なしに、この作品はありえなかったと思います。
とみさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます!
私もこの作品、かなり気に入ってしまいました☆
『うつせみ』と真逆をいく、これまた純愛ものでしたよね。
あちらとはまた別の手法で、とても痛々しいラブストーリーでした。
そうなんですよね、「そんな、まさか」と思うような物語で、こんなに感動できるなんて凄いです。
とりこぷてらさんへこれで、商業的視点があったのですか!
こんばんは☆コメントありがとうございました!
そうなんですよ、実は、今年に入ってから急に、キム・ギドク特集を人知れずやっているのです☆
『魚と寝る女』も、あちらは渋谷の特集で劇場で見に行く予定なんです♪
で、エ
それは・・・驚キ。
この作品で、商業的と考えるだなんて、そのズレた感覚、さすがはキム・ギドクで素敵すぎです
う〜mm、これで商業的か・・・よし!
今後もついていけそうです!
おや…久々にTBできません。
ところでこれ、アメブロの記事の編集画面で、
日付昇順にすると1ページ目に表示されるんですよね。
ブログ始めて間もない頃に見たということで懐かしいです。
なんか初々しい感じもするし。
自分の価値観が絶対であると信じて疑わない人は多く、
決めつけ、俺トークをぶちまけ、
それには辟易しているんですが、
ギドクにはおしつけがましさを感じないのであります。
なんでだろうなぁ。
好きなんだろな。
現象さんへ
こんばんは☆コメントありがとうございます。
あれ、TB出来なかったのですか。ご面倒をおかけして、すみません。
でも、寂しいなあ・・・現象さんTBがないと(泣)
で、もしかして、現象さんブログでこの作品、ギドク初だったのかなあ、と読んでいて思いました。
言おうかなと思ったのですが、コメントが長くなるので、省いてしまいました、そこ。
そうですか、ギドクには、押しつけがましさがない。
本当、驚きのストーリーを、ひょんな具合に繰り広げてくるんですよね。
>俺トークをぶちかます人
一生懸命人が話をする姿は、私は好きなのですが、確かに時々疲れてしまいます。
でも、私も時々やってしまっているかな?反省しなければいけないなあ・・。
プチ輝男祭り→ギドク祭り…と続いてるようですが次あたりシャマラン祭り如何ですか?ラジー2冠記念で(笑)
さておき、ハマれましたか〜♪この作品も
ってレビュー拝読するとまるっきりハンギ視点っぽいですね(笑)
ウイークエンダーの桂朝丸(現べかこ)に「こいつ〜こいつがとんでもなく悪いやっちゃで!」とレポートされそうな文字通りの「悪い男」
タイトルにヒネリ無し!
「天使のはらわた」ちっくな歪んだ愛の形の痛さが伝わらないとホントにイタイだけの作品になっちゃうかと…賛否両論むべなるかな
だもんでひとの、特に女性の方のレヴュー興味あるんですよね、この作品(笑)
>滂沱しまくり
そう!あそこはもうせつなさMAXで号泣ですよ、号泣…
ツカミからグイグイもってかれてラストまで息つく暇なし!
ギドク寓話はビター&ヘビーで胸ヤケならぬ心ヤケしますよね
『絶対の愛』も楽しみですね〜
みさま
シャマラン祭りですか( ̄◇ ̄;)シャマランは見ていないのは『レディインザウォーター』だけなんですぅぅ。
あらすじ聞いてるだけで、オゾ気が・・
ましてや、シャマランが痛いほど登場しちゃってるなんて、想像しただけでも頭痛が・・・
>タイトルにひねり無し
キャキャ本当に!
この作品は、さすがみさまのオススメだけあって、怪作なのに吸引力を持った、すごい逸品でした!ありがとうございます。
チョ・ジェヒョンがあまりに凄くって、ついつい彼目線で見てしまいましたよ。
あまり女性らしからぬレビュでした☆
穢れを知らぬ存在を、めちゃくちゃにしてみたいってありますよね♪
苛めているうちに愛が深まるとゆーか。
好きな女を俺色に染める・・・って、どうゆー染め方しとるんじゃ、って感じでしたが♪
あの声ならぬ叫びは渾身の叫びでしたよね。
初め耳を疑う声でカメラ目線がそこではなく、その後カメラがハンギに絞るんですよね。計算素晴らしい。
胸ヤケならぬ心ヤケなんですが、焼き尽くしたまま『絶対の愛』を迎えるつもりでっす!
悪い男
チョ・ジェヒョン演じるハンギ = 喋らない松本人志 + 流血しがちな山本太郎
悪い男posted with amazlet on 07.02.02エスピーオー (2004/08/06)売り上げランキング: 32559おすすめ度の平均: 何も話さないことに気付かない。 ダ??_kei
とらねこさん、LOFTにコメント頂いてありがとうございました。
此方でほかの記事を読ませていただいていたのですが、僕もキム・ギドク祭りが去年末くらいからボチボチ続いていますw
ちょっとうれしくなってしまい初カキコです♪
バッファロー66、アタメですか。なるほど!
ギドク作品はなかなかレンタル屋さんに全部はおいてなかったりして、全部制覇は気長に達成しようと思っていますけど。
またほかの記事もゆっくり見に来ます。よろしくです。
mottiさんへ
こんばんは〜♪コメント&TB,ありがとうございました!
おお、mottiさんも、ギドク祭り中ですかぁ♪
それは是非是非、TB飛ばしっこしましょうよぉ★
アタメもご存知でしたか、嬉しいなあ
ギドク作品、そうなんです、なかなか手に入らないんですよね〜。
今ちょうどコチラではレトロスペクティブやってまして、私は2週間以内に実は全クリ予定だったりします♪
でも、ギドクは濃いので、書くのはだいぶ後になりそうですが。
こちらこそよろしくで〜す^^*
DVD “悪い男”
悪い男/チョ・ジェヒョン
¥4,200
Amazon.co.jp
ヤクザな男が、街で見かけた清純な女子大生に
一瞬にして心奪われる。
強行手段に出ると、彼女からは平手打ちをくらい
大勢の前で唾をはきかけられ、屈辱を受ける。
それ以降も、男は彼女を…
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一瞬にして心奪われる。
強行手段に出ると、彼女からは平手打ちをくらい
大勢の前で唾をはきかけられ、屈辱を受ける。
それ以降も、男は彼女を…
悪い男
「悪い男」 BAD GUY/製作:2001年、韓国 103分 監督、脚本:キム・
こんにちわん
TB&コメントありがとうございました。って、いつもいつも訪問ありがとうございます。こちらからも遊びに行くと口では言いながら、いつもいつも受け身で申し訳ありません
さて『悪い男』ですが、かなり異質な設定のようではありますけど。話の展開は純情そのものだったような気もして、やっぱり惹き込まれてしまいますねん。ギドクじゃなければ思いつかないストーリーだなぁと感心してしまったし。
破れた写真が繋がってからは、何故か清々しく思えたので不思議です。実際に遭ったら、とんでもない状況であるのにも関わらずー。
ギドクの世界って、世間一般的には浸透しないのかもしれないけれど。少なくとも映画ブロガーの間ではかなり話題になっていると思うし。かく言う私も、過去の未見の作品もチェックし続けたいと思わせる監督さんですわ。
隣の評論家さんへ
こんばんは★コメントありがとうございました。
となひょうさんが受身になっちゃうのも分かる気がします。
その方がずっと楽っていうか・・・(笑)まあ、私も、無理ない程度にやれればいいかなあ、と思います。
この作品ですが、なんだか不思議と憎めない作品だったんですよ。
冒頭は、これ大っ嫌いだろうな、と思って観ていたのですが、途中からまんまと覆されました。
こういうところが、ギドクの凄さなんですよね〜★
世間一般には浸透しないんでしょうかね、やっぱし?
なかなか浸透しない、理解されないところが好きなんですよ。
変わらぬスタンスと反抗の精神で、問題作を作り続けて欲しいです♪
でも確かに、映画ブロガーには、この人が気になる、っていう存在かもしれませんね。
悪い男
コチラの「悪い男」は、「サマリア」、「コースト・ガード」のキム・ギドク監督のR-15指定のラブ・サスペンスです。
同じくキム・ギドク監督の作品である「魚と寝る女」でも主人公の発する言葉が極端に少なかったのですが、この映画も同じように主人公である”悪い男”….
Bad Guy (2001)/悪い男
【邦題】悪い男
【あらすじ】売春街を取り仕切るヤクザの頭ハンギが、昼下がりの繁華街を彷徨っていた。やがて彼は一人の女性に眼を奪われ??.
悪い男:こんな愛し方しかできなかった シネマート六本木
キム・ギドクの「悪い男」、楽しみに取ってあったんだけど、とうとう見てしまいました。 タイトル:悪い男 監督・脚本:キム・ギドク 出演:チョ・ジェヒョン/ソ・ウォン/チェ・ドンムン/キム・ジョンヨン 製作:2001年韓国 雑踏の中を歩く野良犬のような男(チョ・ジェ…