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※5.『マダム・エドワルダ』

マダム・エドワルダ作者/ジョルジュ・バタイユ。フランス文学。
まず初めに2つ断っておきたいのは、一つには、この記事はエロに対する直接的表現をするかもしれないということと、もう一つに、私が読んだのは、去年の秋に新しく発行になった、光文社古典新訳文庫のものを読んだということです。・・・


光文社古典新訳文庫は、古典に対して、独自のチョイスをし、新訳をつけたもので、この作品では、’76年出版の生田耕作訳ではなく、中条省平の新たな訳となる。
こちらでは『眼球譚』も、新たに『目玉の話』とタイトルから変えられていたり、他に、このシリーズのあの不朽の名作、『星の王子さま』サン・テグジュペリも、『小さい王子』とタイトルまで変えられていたりする。
でも、この試みは、この『マダム・エドワルダ/目玉の話』に関しては、なかなか面白いものであったように私は思う。


なぜ、『眼球譚』を『目玉の話』と変えたか、と言う訳者・中条省平の説明から、例えばこんな話がある。(以下引用から抜粋)
この小説において、玉子と眼球と睾丸という3つのオブジェは、楕円的球体という形態上の類似と、音韻上の類似を介して結びつく無意識の連環のドラマだという。
 つまり、フランス語で、玉子と眼球と睾丸は、「ウフ」「ウユ」「クユ」というそうだ。
だがこれを「玉子」の他、「眼球」「睾丸」と訳してしまうと、それぞれの音感で似通ったものでなくなってしまうため、「玉子」「目玉」「金玉」と訳したのだという。(それを知らずに読んだら「金玉」って!・・・プププと笑ってしまった)
全く、的を得た説で面白い。そのために、良く知られた『眼球譚』ではなしに『目玉の話』としたのだいう。いやごもっとも。


このような意図でもって、現代語訳に挑戦するのであれば、それは、十分に面白い試みだ。
新潮文庫などのように、映画化された一時期に古い文庫を復旧させ、売るけれども、そうでない名作は、発行部数もほとんどなく、廃刊のことが多いという、現在の流通システムから言えば、仕方が無いとは言え、遺憾なことの多い、本の業界。
そういった点から見れば、この光文社の古典新訳文庫などは、大変に画期的で、クラシック文学を愛する者にとっては、とても嬉しいことだ。(とは言え、岩波文庫はまだちゃんと頑張っている方だ!私は好きだ。)
実は20歳の頃から、この作品は、読みたいリストとして、ずっとメモしてあったのだが、なかなか手に入らずに居た。このシリーズの発刊で、文庫が店頭に並んでいるのを見たのは、私は初めてだった。


そんな訳で、前振りが長くなってしまい、すみません。
以下、『マダム・エドワルダ』の感想です。


まず、凄い!このテンション。
発狂レベルを10段階評価するとして、10で発病、だとすれば、このレベルは“9”を保ったまま展開される、怒涛のテンション!これが最初から最後まで続く。
内容も、エロティシズムに関しての、バタイユ独自の哲学が交じり合った、最高傑作と謳われるものだけあって、完全に彼独自の文体を得た、理論とイメージが合致するものだった。


まず初めにある断り書きが、非常に激情を駆り立てるもので、そこで俄然、戦闘モードに入る。

“きみがあらゆるものを恐れているのなら、この本を読みたまえ。
だが、その前に断っておきたいことがある。きみが笑うのは、なにかを恐れている証拠だ。一冊の本など、無力なものに思えるだろう。たしかにそうかもしれない。だが、よくあることだが、きみが本の読み方を知らないとしたら?
きみはほんとうに恐れる必要があるのか・・・?きみはひとりぼっちか?寒けがしているか?きみは知っているか、人間がどこまで「きみ自身」であるか?どこまで愚かであるか?そしてどこまで裸であるか?”


・・・自分はひとりぼっちである、自分という“裸”である、この心細さというものを、まともに受け止める姿勢がないと、この狂乱たる物語の中枢で迷子になるかもしれない。
だが、最初のこの文で、ピンポイントにドツボにハマる人であれば、そして、エロティシズムについて、自分なりに思いを巡らせたことのある人であれば、この文が、一つひとつが、まるで突き刺すかのように感じるはずのように思う私だ。


バタイユ自身、マルキ・ド・サドに出遭ってから、創作を開始したというだけあって、エロ描写がとにかく強烈なのだが、三島由紀夫が言うように、バタイユは、ここに“エロティシズム”に“見神体験”を見る。それが、バタイユの形而上学と、エロティシズムの融合である、・・・。


単なる性の衝動ではなく、極度のオーガズムのその瞬間に人が神に近づき、そしてその後にまた苦々しい孤独と、絶望と肉体に閉じ込められる我々の侘しさ、またやってくる深い精神の闇ともいうべきもの。

マダム・エドワルダが娼館(名前は、ベルサイユ宮殿にあると同じ“鏡の間”)で働く娼婦であり、気狂いの、一人の美女なのだが、それを考えても冒涜性の高いこの物語が、この美しい文体で飾られる様。
「神は淫蕩だ」と言ったのは、そうか、この人だったのだ。


本当に凄い。これほどのエクスタシーと哲学の融合、エロスとタナトスの複雑に絡み合った、引いては寄せる波のような筆致に、私はヨダレが出て来る。


村上龍の『限りなく透明に近いブルー』に似ているものも感じるが、この文体には遠く及ばない。・・・


ああ、普通の淫蕩は、単なる肉の行為でしかないのが甚だ遺憾だ。

 

2007/02/18 |

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コメント(6件)

  1. とらねこさん、こんにちは〜♪
    模様替えしたんですね
    私はこのバタイユの本を全く知りませんでした。
    というか、バタイユ自体を知りませんでした。。。
    ブログを始めてつくづく良かったなぁ〜と思うのは、自分のテリトリーでは全く知り得なかった本や映画等に出会えることです。
    とらねこさんの記事で、江戸川乱歩の『盲獣』も読んでみたいな、と思っていますが、この本も自分の中にしっかりインプットされました。ああそれから『海と毒薬』も読みたいし。問題は読む時間と気力がなかなか持てない事です。年だし。。。(涙)

  2. とらねこさんどうもしばらくです(^^)
    記事とは無関係のコメントで申し訳ないですが…^^;
    http://knowledge.livedoor.com/21006
    デザインは「チョコレート」に変更されたのですね
    基本構造は「ベルベット」と同じだと思うので、バックアップしておいたHTMLをそのまま移し変えてもあるいはうまくいくかもしれません。
    が、カスタマイズされていた箇所を地道に一つ一つ変更されていくのが一番間違いないと思いますよ^^

  3. 「マダム・エドワルダ/目玉の話」

    ジョルジュ・バタイユ著 『マダム・エドワルダ/目玉の話』 原題 『MADAME EDWARDA / HISTOIRE DE L’OEIL』 (光文社古典新訳文庫) 神に見立てた娼婦との一夜を描く『マダム・エドワルダ』と、若い男女の神をも畏れぬ傍若無人ぶりが描かれる『目玉の話』の2編。 これを….

  4. 由香さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
    はい、“模様替え”しました☆
    ・・ウフフ、そう言っていただけるとお部屋みたいですね^^w
    テンプレート変更しましたよ。
    由香さん、バタイユに興味を持っていただきありがとうございます!
    でもこの作家、エロ・変態ド真ん中なんで、あんまりオススメ出来ないかもです
    ちなみに、乱歩も、イキナリ『盲獣』は、ヤバイことに、やはり変態テイストが濃厚なので・・乱歩は、『心理試験』とか、『D坂の殺人事件』とかをもしよろしければ、先に読んでくださいまし〜

    でも、こうして興味を持っていただけると本当に嬉しいです。そうなんですよね、読みたいの多すぎますよね。でも本当にありがとうございます!

  5. M床さんへ
    こんばんは〜♪まんちゃん、朝はどうもありがとうございました!!
    大変助かりました☆
    久しぶりにアソコで、まんちゃんとお喋り出来て、楽しかったですー*^^*
    そうなんですよ、“バレンタイン終わった後に”、“チョコレート”に変更した、時期ハズレの私です☆
    で、そうですか!同じかもですか!ありがとうございます!早速やってみたいと思います!!!
    今だったら、直すのも簡単なので(またテンプレ一から変更すればいいのだし)、ダメだったらまたやれますもんネ
    本当にありがとうございます!!

  6. G・バタイユ 生田耕作・訳 「眼球譚」

    さんざん迷って新訳の「目玉の話」から読んだのだけれど、どうしても「眼球譚」が捨てがたくこちらも読む事にした。
    「ウフ」「ウユ」「クユ」と言われても、タイトルは大時代であってもホラー小説と誤解されても、「眼球譚」のインモラルな雰囲気には適いません。このタイト…




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