#26.モーツァルトとクジラ
「自分は普通だ」、とか、「常識の範囲内で生きている」、とか、そうであることを誇りに思っている、という人には決して、いい作品だとは思えないかもしれない。
私には、ひさびさに、心に響く、とても変わったラブストーリーだった。
ラブストーリーであると同時に、ヒューマンドラマでもある、素晴らしい傑作!
ストーリー・・・
数字のことを考え出したら止まらなくなる、ドナルド(ジョシュ・ハートネット)は、アスペルガー症候群の青年。タクシー会社に勤めるも、長くは続かない。
自分自身を制御できないことに苛立ち、自らの殻にこもって、絶えず孤独を感じる日々。
そこへ、全く正反対の性格の女性、イザベル(ラダ・ミッチェル)と出会った。彼女は、明るく奔放で、思ったことを口に出さずにいられない性格。そのため、様々な場面で、問題を起こす。・・・
『レインマン』、『ジョイ・ラック・クラブ』のロナルド・バス脚本による作品。
監督は、ピーター・ネス。
『レインマン』がきっかけで、自分がアスペルガー症候群と知り、そこで妻に出合った、という、ジェリー・ニューポートという人(監修者でもある)の、実人生(お相手は奥さん)を元にした話。
アスペルガー症候群とは、DSM-IVやICDの国際疾患分類によると、“知的障害のない自閉症”とされている。
「自閉症の物語であるから、この映画を観ない」という人もいるのだが、それは狭量だ。
知的能力も高い人も、中にはたくさんいて、医師によっては、「知的能力が高くて、コミュニケーション能力の低い人」と総称する人もいる、とのこと。
ここでの描き方は、『レインマン』風の、そうした“特異な障害を患った人の物語”ではない。あくまでも、ラブストーリーなのだ。
そして、この映画を見ると、どの人の心の中にも、誰しも、多少なりとも、風変わりな一面を持っている、と思えるのではないかと私は思う。
少なくても私は、「自分は一般人であって、そうした特異体質ではないから、この物語と、まるで無関係だ」とは思わなかった。
誰だって、コミュニケーションが十分、上手に発達しているのだ、と言い切ってしまえるかといえば、
誰しも恋愛に臆病になったり、コミュニケーションがうまくいかない時だって、経験する。そういう観点から見れば、これは、基本的に、“普遍なラブストーリー”と言えるのではないか、と思う。
私は、正直、これまでのどのラブストーリーより、ずっと胸にくるものがあったよ・・・。
正直、ここまで素敵な作品だとは思わなかった。すっごく素敵なラブストーリだ!!!
これ、ちょっと早いけど、今年のベスト3に入りそうだなぁ・・・。
たとえば、『ゴーストワールド』が、観てすぐに、「これは、しばらく自分の中で、“青春モノ”の分類の中で、一番の位置を占めるものになりそうだなあ」という感想を持ち、・・・
それと同じように、『リトル・ミス・サンシャイン』は、自分の中で、“家族モノ”として、しばらく不動の地位に居そうだなあ、という感想を、持ちました。
それと同様に、この作品も、“忘れられない恋愛モノ”として、ずっと心の中に住み続けそうな良作!!!!と言えるのではないか、と思います。
閑話休題。←左は、『モーツァルトとクジラ』前売りプレゼントの、バスバブル。
なんか久しぶりに携帯で撮った写真をUPした気がするんだけど、どうも、空の袋を真ん中に持ってきちゃって、なんか失敗しちゃいました(笑)すいません。
「私は、普通の人だ。」と、胸を張って堂々と言う人、そんな人には、決してオススメできない作品です。
でも、ここで描写されているキャラクター、ドナルド(ジョシュ)とイザベル(ラダ・ミッチェル)は、決して普通の人とそれほどかけ離れている訳ではなく、私たちのどの人にもそういった面はあるのだ、と思わせるような描写。共感できることの多さに、私同様に驚かれると思います。
最初の10分、二人が出会った場面で、共感できる人には、きっととても素晴らしい映画、どうも入れなかった人には、全体的にダメかもしれません。
先日の『マジシャンズ』では、“繊細であるが故に、死を選んだ、女性”という描写が、きちんと描かれていないようだった”、と言ったのですが・・・。
そういった、描写というのは、1シーンでは、難しいものなのかなあ、そう、考えていました。
だけど、この作品、『モーツァルトとクジラ』を見て、そういったことが、1シーンで十二分に描かれている!と思うに至りました。
ここでの、イザベルという女性も、その瞬間瞬間の、“真実”というものが彼女にはハッキリと見えてしまうほどに、繊細すぎる、感覚の鋭敏な人なんですよね。
そして、曲がったことがどこか許せないからこそ、いつも「本当のこと」を言っては、人とぶつかってばかりいるのです。
いつも、その瞬間瞬間を、彼女は痛いほど鋭敏に“感じて”しまうのだと思う。
きっと、鈍感な人には、一生分からない類のものなのかもしれませんが。
で、このジョシュ演じるドナルドは、逆に、決して自分を裏切らない存在である、“数字”だけが、信頼できる、という孤独な人間。
そんな二人の、痛いような恋愛物語。
恋人である以前に、親友である二人。
言いたいことが言えなかったり、自分をありのままにぶつけ合うより、
時に、関係を壊すのが怖くなって、じゃあ友達として居た方が幸せなんじゃないか、なんて考えたりする、誰しも陥る、仲が良すぎるからこそ、感じる不安感もあったりするけど。
二人の築く家は、動物がいっぱいで、ガラクタがいっぱいで、二人の好きなものだけ集められた、楽園のように感じた。
修学旅行で、一番大好きな人と、こっそり抜け出したみたいに、世界から逃げ出した二人の空間。
コミュニケーションは、深まれば深まるほど、怖くなってしまうのは、誰しも経験するものだったりするんだよね。
痛々しくて、切なくて、序盤から胸を突かれっぱなしでした。
泣きまくりました・・・。
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2007/02/13 | 映画, :とらねこ’s favorite, :ラブストーリー
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コメント(61件)
前の記事: #25.マジシャンズ
私も大好きな作品になりました!
決して泣かせようとせず、純粋に二人の思いが伝わってくるし、仲間達の優しさも良かったです。
TBさせていただきます♪
モーツァルトとクジラ
モーツァルトとクジラ
¥3,751
Amazon.co.jp
アメリカ 2004年
ジョシュ・ハーネット、ラダ・ミッチェル、ゲイリー・コール、アレン・エヴァンジェリスタ、エリカ・リーセン、シーラ・ケリー、ジョン・キャロル・リンチ
監督:ペター・ネス
脚本:ロナルド…
Dさんへ
初めまして!コメント&TB,ありがとうございます!
そうですね、とても優しくて、かわいいいい作品でしたよね。
この映画の痛みには、ジンジンやられてしまいました。
『モーツァルトとクジラ』
DVDにて鑑賞。
「アスペルガー症候群のドナルドは同じ症状に悩む人々が集うサークルを主宰している。ある日イザベルという女性が参加し、2人は恋に落ちるが・・・」という話。これすごくかわいかった。
アスペルガー症候群については全く知らなかった。調べてみたとこ…
モーツァルトとクジラ
「モーツァルトとクジラ」です。 アスペルガー症候群の男女が惹かれあい、恋に落ちるも前途多難なラブロマンス。 うーん、な
『モーツァルトとクジラ』
モーツァルトとクジラ(2007/06/29)ジョシュ・ハートネット、ラダ・ミッチェル 他商品詳細を見る監督:ペター・ネス CAST:ジョシュ・ハートネット、ラダ・ミッチェル 他
ドナル??.
独断的映画感想文:モーツァルトとクジラ
日記:2008年3月某日 映画「モーツァルトとクジラ」を見る. 2004年.監督:ベッター・ネス. 出演:ジョシュ・ハートネット(ドナルド),ラダ・ミッチェル(イザベル),ゲイリー・コール(ウォーレス
とらねこ様
TB&コメント有り難うございました.
お返事が遅くなって申し訳ありません(と言ってもTB自体が周回遅れでしたね).
題名だけ見た時はどんな映画かと思ってましたが,なかなか心にしみる良い映画でした.
現実社会ではこの映画のようなハッピーエンドばかりではないかも知れませんが,でもそうなれば良いな,と心から思います.
ほんやら堂さんへ★
おはようございます!こちらこそ、コメントTBありがとうございました。
TBは古いものでも、全然構いませんので。
この作品ですが、私はとても気に入ってしまいました。
〉現実社会はこの映画のようにハッピーエンドではない
あれ?それほど都合の良い物語に思われましたでしょうか。
私には彼らが傷つきながらも、何とか自分たちなりの幸せを得るまでの葛藤が、自然に描かれていると思いました。
私たちだって同じですよね。
モーツァルトとクジラ
オフィシャルサイト
2004 アメリカ
監督:ピーター・ネス
出演:ジョシュ・ハートネット/ラダ・ミッチェル/ゲイリー・コール/ジョン・キャロル・リンチ
ストーリー:自閉症のひとつとされているアスペルガー症候群。その障害を抱えるドナルドは、数学の天才ではある…
「モーツァルトとクジラ」 DVD
ノルウェーのピーター・ネス監督の撮った米国映画。主人公の男女は共に近しい障害(アスペルガー症候群)を抱えている。出だしに男が日本人乗客を乗せタクシーを運転していてその障害(彼の場合はまず数字だ)によってトラブルが発生するところで最初から障害の持つ社会的生…