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※1〜4.『功名が辻』

功名が辻作者・司馬遼太郎


2006年放映、NHK大河ドラマ。こちらは一度も見たことがないのですが。・・・


ストーリー・・・
戦国時代。信長の時代〜、徳川家康の治世まで。
天下に向かってはなばなしく起ち上がった織田信長の家中に、ぼろぼろ伊右衛門と呼ばれる、うだつの上がらない武士が居た。
その彼に、賢くて美しい嫁がくるという・・・
伊右衛門は妻、千代の励ましを受けて、功名をめざして駆けてゆく。
夫婦が手を取り合って、ついには土佐一国の大名の地位をえた、山内一豊の物語。・・・(主に解説より)


ここで描かれている主人公は、↑で説明したような、大名に成り上がった山内一豊が主人公では決してない。
むしろ、その妻千代が、女主人公(ヒロイン)である、という、司馬遼太郎には珍しい物語だった。
作者は、山内一豊を称して、“愚鈍そのものの男”という。
取り得と言えば、ただひたすらに、従順であり、純朴であり、この時代にあって、珍しく、側室を持たず、妾を一人も持たずに、妻一人だけで生涯を終えたという、とても珍しい人物だ。


千代は、賢くて、とても美しい。その知性は、諸国に聞こえ、この山内伊右衛門一豊(以降、小説にならって、“伊右衛門”と呼ぶこととします)を助け、賢く正しい意見をするのだが、それはあくまでも伊右衛門が自分で考えたアイディアであるかのように思わせるほど、とても回転がいいのだ。

貧乏武士であった一介の男が、生涯の終わりに土佐二十四万石を持つ大名になるまで、ずっと彼を助け、いつも気持ちがいいまでに謙虚だった。
夫をはるかに上回る知性を持ちえていながら、それを微塵にも鼻にかけずに、その癖きちんと手綱を取っていたのだったが、包容力というべきか、愛でもって、彼を助け、自信を持たせ、いつも心持ちを明るく持っていたのだった。


伊右衛門がその名を聞こえることとなったエピソードの陰に、常に千代の名があるのは、本当に面白い。なんと賢く、素晴らしい女性なのだろうと思う。
知性が溢れる人でありながら、常に女性らしい振る舞いで、凛としている彼女の姿が、自然と眼前に浮かんでくるかのような描写。


伊右衛門も、“農耕馬のように、従順な男”として描かれ、“人の上に立って指揮を振るうまでに、武将としてあまり才のない人”であったようなのだが、彼ただ一人の武勲を見ると、目立って勇ましく、目覚ましい活躍があった、というほどではないにしろ、いつも何かしらの武勲を携え、生き馬の目を抜く戦国時代を生きた人だった。


織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、時代の英雄である武将たちをずらっと見て、この時代全てを生き抜いて来たのは、徳川家康その人の他には、この山内伊右衛門一豊、ただ一人であるという。
これは、どんな武勲や栄誉や誉れを持っていることとはまた別の、その人個人の持つ、また別の栄誉と言える。


武勇を誇る武士は、華々しく功名を挙げても、己の増上慢にて、いつかは滅んでゆく。才覚を誇るものは、賢さ故に奸智を持って出世をしても、この波の激しい、激動の時代にあっては、賢く立ち回ろうとして、やはり滅んでしまう、難しすぎる時代。
この時代を生きた伊右衛門は、ただひたすらにその忠義一筋の人。人がいいまでの温厚な人柄を買われ、裏切りに次ぐ裏切りの、天下分け目の合戦、関が原を生き抜いた。


彼の持つ運がいいのか、悪いのか、それすらも分からず、不遇の時代を長く生きることとなるのだが、年経るに従って、彼のその謙虚な人柄が評価されてゆくのを見る。
もちろん、彼の下す判断の影に、常に千代の金言があったこと、千代の時代を見る確かな目があったことが効を制してもいるのだが。


千代は本当に素晴らしい、理想の女性像であったと思う。
並の凡夫をここまでに作り上げた、・・・山内一豊は千代が作ったものだった、そんな記述が多くある。
だが、その妻を生涯愛した伊右衛門、山内一豊も、本当に立派だったように自分は思う。
確かに、あまり鋭い人物でさえ、なかったかもしれない。だが、そうした、忠義一つで不器用な男、人を心から愛することのできる男。


男であれば、おそらく、千代は、もっと大きな武勲を持つ英雄になっていただろうと作者はいう。
だが、女として生まれた以上、愛し愛される人生を送るのに、この人で本当に良かった、と思える生涯を送ったに違いないと自分は思う。
自分の尻にいつの間にか引かれていて、(しかも、そのことに気づきもしなかった)そんな男性は、千代ほどの賢い女性にとって、最上の相手だったのだなあ、と思う。


この、お互いを思う強い愛と、固い絆。
どんなに勇猛な武士の一生を描いた作品よりも、戦国時代を生きた人の歴史物語として、間違いなく印象に残る物語であった、と言えるように思う。

 

2007/02/09 |

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コメント(6件)

  1. 実は朝ここを読んでずっと午後まで頭から離れませんでした。千代はやはり女性の鑑なんでしょうね。日本女性の素晴らしさをみる思いでした

  2. 子猫さんへ
    こんばんは〜★コメントありがとうございます!
    そうなんですよ、千代は本当に尊敬してしまう女性です。千代みたいになりたいなぁ。なんて思ってしまいます・・・★

  3.  TB&コメント、どうもありがとうございました。
     私は小説は読んでいないのですが、1年間、大河ドラマを観ました。
     大河ドラマを1年間観続ける、というのは、相当エネルギーを遣うものだな、と実感しました。
     私、一豊は生涯妻ひとりを愛して・・・という触れ込みでこのドラマを観たら、小りんが登場したので、エエッ?と思いました。
     小説では、千代は控えめで表に出ない方として描かれていたようですね。ドラマでは、千代は「女大名」等と噂されたりして、賢いと知れ渡っていたようでした。

  4. 大河ドラマ「功名が辻」最終回「永遠の夫婦」を観て

     1年間、1回も欠かさずに観た、この大河ドラマも最終回!
     49回も観たんだな。
     感無量。
     私が、1年間欠かさず観た大河ドラマは、おそらくこれが3本目のような気がする。

  5. とみさんへ
    こちらにも、コメントありがとうございます!
    そうですね、1年間、ずっとTVドラマを見続けるのって、とっても持続力のいることですよね。最後まで見ると、随分とその人のファンになっているもんですよね。
    ああ、そうそう、小りんとのエピソードがありましたよね。
    この頃の輿入れというと、11〜13,4歳でしょうか。その頃からずっと他の女性との経験がない人なんて、なかなかいないですよね。小りんは、かなりの美貌を持った九のいちだったのに、この程度で済んだので、すっかり私は許す気持ちになっておりました。いいですよね、1度や二度なら・・・とみさんはダメですか?
    千代は、とみさんのおっしゃるように、小説でも女大名として知れ渡っていましたよ、でも、本人は、「そんな、かわいげない女と思われるのは嫌だわ」と言うシーンが何度もあるのと、土佐の築城の際に、自分の案をそう言わず、弟君の修理殿の意見として、それを通させる、というエピソードがあったため、私の方は、謙虚と書いてしまいました。おそらく、この頃の時代の女性にしては、出すぎた感じがあったのでしょうが、本人の才能と比べてみて、“それよりはずっと謙虚だな”と自分は感じたためです。
    でも、確かに、ドラマではちょっと違うのかもしれませんよね。なるほどです。

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    「司馬遼太郎(しばりょうたろう)」著作品についての感想文をトラックバックで募集しています。 *主な作品:梟の城、国盗り物語、竜馬がゆく、坂の上の雲、街道をゆく、ペルシャの幻術師、殉死、歴史を紀行する、世に棲む日日、ひとびとの跫音、韃靼疾風録、ロシアについて….




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