#15.マリー・アントワネット
暗さのカケラもないガールズ・ムービー。
色彩が綺麗で、可愛くて、見ているだけでウットリするような世界。
生きているだけで無駄そのものの、言って見れば究極のセレブのハシリが、この王妃マリー・アントワネットだったんだな、なんて思った。
女性以外に、あまりオススメは出来ない作品。
う〜ん、『ヴァージン・スーサイズ』、『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラが、王妃マリー・アントワネットかぁ〜。と、なんだかちょっとヤル気が湧きませんでした。「だって、フランス財政を傾けたバカ王妃でしょう?
ギロチン断頭台の露と消えた・・・。当然じゃん!」なんて思っていました。
民衆が怒り狂うまでにフランス国庫の逼迫するなか、一体、どこをどうしたら、そんなに無知蒙昧でいられるのか、全く同情の余地もないとしか思えなかった。
“無知の罪”なら、罪でしょ、そりゃあ〜。なんて、思っていました。
ハッキリ言えば、嫌いでした、ルイ16世の王妃、無駄使いの、マリー・アントワネットなんて。
でも、ソフィア・コッポラが手がけるなら、見ないわけにはいかなくて。
『ロスト・イン・トランスレーション』の後だったから、何を作ろうが、興味はとりあえず引かれてたに違いないんですが。
これですよ、これ。この色彩の美しさ!
これだけで、もう、見ていて本当に心躍ってしまうんですね。
女の子にしか分からないのかもしれませんが。女の“子”じゃなくたって・・・(以下略)
さらに、おいしそうなケーキとか、色とりどりの服とか、見ていて本当に嬉しくなるものばかり。それから、まるでホストに来たかのような、ピラミッド型に積み上げられた、広口のシャンパングラスに、なみなみ注がれた黄金色のシャンパーニュ。
でも、そんなかわいらしいものとセットになった代償は、非情なまでにプレッシャーとなって重くのしかかる、その政略結婚の実態。
人々に見つめられ、異常なまでにプライベートがなく、そんな状態で、王に「初夜だ、頑張れよ」なんて言われたら、誰だって、萎縮してしまうと思う。
錠前作りが好きな、本来ならばただのシャイな変わり者、という次期王位継承者、でなくったって。
14歳で政略結婚、しかもオーストリアはハプスブルグ家の出身、とあったら、小さい頃から、蝶よ、花よ、とかわいがられて、一切の苦労も知らず育てられて、恋も知らずに、知らない国へと嫁がされたのね・・・。
仕立て屋で、かわいらしい服を目の前に、「植民地である隣国の内紛が・・・」なんて言われたって、何が何やらサッパリ分からなくても、そんな事より、服にフリルをつけるかどうかの方が、大事な年頃だって、仕方がないように思えてしまった。
もちろん、処女で、一体何をどうしたら良いかも分からないのに、「王子を根気強く誘惑しなさい。」なんて言われたって、誰だって困るとしか思えなくなってくる。
「全く、何も考えてなかったんだ、この人。」
というのが、見ているだけで伝わるような、延々とそうした映像が映し出される。
あくまでもかわいいものばかり、綺麗で豪奢なものばかりを映し出し、マリーの心そのものを映し出しているかのよう。
眼前に差し出された、美味しいもの、かわいいもの、そうしたものばかりしか、彼女は見ようとしなかったんだろうなと。
多額の負債を抱えてしまった、マリーの賭博遊びにしても、人並み以上に朝までハメを外して遊びたいことだって、あったかな、とか、
ちょっとイケメンなフェルゼン伯爵(ジェイミー・ドーナン)と仲良くなった時は、きっと人生初めての恋だったんだろ〜か、なんて考えたら、その浮気も姦通罪、というより、この一人の女(ヒト)にとって、とても心躍る出来事だったんだろうな、なんて。
そんな訳で、すっかり、監督の術中に陥ってしまいました。
最後、バスティーユへ向かう馬車に乗せられても、“悲劇”といった印象は、徹頭徹尾、一切なし、で終わる。
ラストに至って、初めは正直、「エっ?」という気が、しなくもありませんでした。
だけど。
1789年のバスティーユ襲撃に始まる、フランス革命の勃発から、1793年に、ギロチン斬首刑となる、その4年間の間。
果たして、その間に、王妃だったマリーが、反省したり、フランス革命の意味などを、理解したことがあった、とは到底思えない。
マリー・アントワネットは、あくまで、旧体制の維持をしようと、手を回し、オーストリアに情報を流したりなどして、革命勃発後の方が、国民にいよいよ憎まれることとなったらしい。
そんな彼女なので、かわいいものと別れること、あの美しい、庭から見た風景と別れること、そんなことが悲しく思っただけの、享年だったのかな、と思ったりもした。
上映中の劇場内で、何度も何度も、携帯に来た電話を取るために、席を立っていたギャルが、終わった後トイレで、「なんか今日の映画は、楽しかったね〜。あんなセレブな暮らしがしてみた〜い」と、言っていたのが印象的だった。
平民に生まれていれば、王妃マリーは、こんな人だったのかもしれない。
こんな人が、王妃なんて、到底無理だと思った。
そして、確かどこかで読んだんだけど、ルイ16世が、ギロチンを世界で初、フランスで初めて認め印を押し、その後自分が一人目、その実験台になっちゃった、とか。
恐ろしい皮肉ですね。
この物語は、アンバランスさがその魅力なのかもしれない。
ガールズ・ムービーの素材にするには、あまりに重過ぎる“歴史”というもの。
ヴェルサイユ宮殿という、限りなく伝統あるものに対して、ロックやポップス音楽を用いて、“ポップ
2007/01/27 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物, :文芸・歴史・時代物 キルスティン・ダンスト, ソフィア・コッポラ, マリー・アントワネット
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コメント(112件)
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JOJOさんへ
イエイエ、不快になんて・・・なってませんよ〜(焦っ)コメント欄でのやり取りは、時々そういうちょっとしたスレ違いやら行き違いやらって・・・ありますよね〜。
こちらとしては基本、柔らかいコメントを書きたいと思いつつ、疲れが出てしまったり、相手に図らずも嫌味に取られてしまったり・・・
そういう中で、面白い感じのコメントが書きたいと思いつつ、真面目な方がいいのかなとか、逆にあんまり普通すぎるコメントも嫌だったりして。・・・そうすると変なコメントになって相手に嫌われたり(これ私よくやるんです)。
まあそんな訳で、映画ブログって儀礼的なコメントを出さないといけなかったりしますので、なかなか大変ですよね。
色々な人の意見とか、気になりますか?私はそれだけはないかもです。アクセス数とか気にして記事を書くのは嫌だな、と私は思ってたり。
JOJOさんはまだ休むほどじゃないと思いますけど、ナニゲにそうやって自分の状態をきちんと把握してるJOJOさんてすごいな〜と、逆に思ってしまいましたです☆
マリー・アントワネット
お菓子好きの妹に誘われて
ケーキ好きの間では有名なフードライター(?)が主宰する
ケーキを食べる会に参加した時、
映画のブログをやっていると言ったら
この映画観ましたか?と何回も聞かれました。
お菓子の監修を
フランス菓子の老舗”ラデュレ”がというお店がやっ…
マリー・アントワネット
MARIE ANTOINETTE
2006年:アメリカ・フランス
原作:アントニア・フレイザー
監督:ソフィア・コッポラ
出演:キルスティン・ダンスト、アーシア・アルジェント、オーロール・クレマン、リップ・トーン、ジェイソン・シュワルツマン、スティーヴ・クーガン、モリー・….
独断的映画感想文:マリー・アントワネット
日記:2008年3月某日 映画「マリー・アントワネット」を見る. 2006年.監督:ソフィア・コッポラ. 出演:キルステン・ダンスト(マリー・アントワネット),ジェイソン・シュワルツマン(ルイ16世)
とらねこ様
TBありがとうございました.
ソフィア・コッポラは今のところダメです.
おじさん向きではないようです.
これはもう世代の差・性別の差・あれやこれやでどうしようもないことだと思います.
「ゴッド・ファーザーⅢ」の本人の演技は悪くなかったんですが.
ほんやら堂さんへ
こんばんは★こちらこそ、TBありがとうございました。
アハハ、ソフィア・コッポラ、今のところだめですか。
私は、『ロスト・イン・トランスレーション』がかなり好きだったのですが、
あの作品は、疲れたおじさん(ほんやら堂さんて、おじさんだったのですね!?笑)を素敵に描く作品でしたよ♪
『ゴッド・ファーザーⅢ』の本人の演技・・ああ、なるほど!よく覚えていらっしゃいますね。
こちらのビデオでは、ソフィア・コッポラ本人が出て来て、体操するシーンまでありましたよ♪
http://www.rezavoircats.com/archives/52409964.html
『マリー・アントワネット』 黄金の監獄の王妃
『マリー・アントワネット』オーストリア・ハプスブルグ家の末娘マリー・アントワネット(キルステン・ダンスト)は14歳で、フランスの、ルイ・オーギュスト(ジェイソン・シュワルツマン)(後のルイ16世)と結婚。格式を重んじるヴェルサイユ宮殿での生活に、始めは戸惑…
マリー・アントワネット
この映画は女の子か女の子だった人は楽しめる要素があると思うのですが
歴史モノとしてみると??な映画になるかも知れないです。
史実と違??.
マリー・アントワネット
恋をした、朝まで遊んだ、全世界に見つめられながら。
マリー・アントワネット
「マリー・アントワネット」 感想
マリー・アントワネット
14歳で結婚、18歳で即位、豪華なヴェルサイユに暮らす孤独な王妃の物語。
…
【映画感想】マリー・アントワネット(キルステン・ダンスト×ソフィア・コッポラ)[2009-123]
悲劇のフランス王妃を、キルステン・ダンスト主演、ソフィア・コッポラ監督で描いた『マリー・アントワネット』。
フランス王室の歴史の一ページを真面目に学ぼうとしてこの映画を観たら、ちょっとガッカリしてしまうでしょう。でも、この映画はそんな見方をしたらダメなん…