#12.忍法忠臣蔵
普段、映画館のトイレは大体、女性トイレが混んでいて、いつも行列しているのは女性トイレでウンザリするんだけど、男性トイレが行列しているのを見た試しは、今まで、この渋谷シネマヴェーラぐらいでしか、経験がない。
なので、こうしてあまりにも長い行列が男性トイレから並んでいる様は、女性から見れば壮観。嬉しくって思わず写メに撮りたいくらいだった・・・
それもそのはず、この日は丹波哲郎の追悼特集で、“大俳優・丹波哲郎の軌跡 -死んだらこうなった!”(なかなかいいタイトルだな〜)の、“ポルノ時代劇”が上映される日だったのだ。
座席を見回すと、私の行った回ではほぼ9割方が男性(しかも壮齢の)だった。しかも圧倒的に一人鑑賞が多い。
この作品は原作が、山田風太郎の『忍法忠臣蔵 山田風太郎忍法帖2』、
長谷川安人監督の“くの一”シリーズ三作目のもの。
『忠臣蔵』に関する知識はほとんどない私で、大体なんとなく子供の頃から、毎年年末になるとよく流れているなあ、という程度だ。
そもそもこの物語のテーマである、忠義とか義心なんていうものは、どこがどう面白いのか分からなくて、日本人の特有の“判官もの”に当たるような、悲劇の人物に肩入れして、圧倒的人気を誇る類のものなのだろうなぁ、という程度でしかなかった。
にもかかわらず、『忠臣蔵』は本当に人気が昔から庶民の間で高かったらしく、出せば必ずヒットするものとして“独参湯(薬の名前)”と呼ばれていたらしい。
江戸時代には、武家の事件全般を扱ったものがご法度とされていた時代だったので、近松シリーズでは、浅野内匠頭や、大石内蔵助の名前を変えてまで、舞台上演がなされていたそうだ。
それにしてもやはり、私にとってはそういった義心の美談、などというものに、青年時代から、少しの理解にも至らなかったし、少々嫌気が差していたというのが事実だ。しかし繰り返し繰り返し、よく同じ時代劇が作られるものだなあと、それくらいしか思ったことはない。
“封建社会の悲劇”という美談、そんな印象しか自分は抱いていなかった。
この作品は、原作が素晴らしいのかもしれないけど、そういったこととは美しすぎる儚い武士の姿ではなくて、そうした普通に見られる『忠臣蔵』とは一線を画していたのが良かった!
まず、四十八士の意思をくじく、ということから始まった。愛と人生に破れた伊賀流忍者の無明綱太郎(丹波哲郎)を中心に、くの一を使っての、お色気作戦。
それが効を奏して、四十八の士たちも、決してこうした仇討ちに対して、忠義一辺倒ではなく、お色気作戦に次から次へと破れていく。
それがすわ成し遂げられようとしたその時に、無明綱太郎が大石内蔵助に会って、この仇討ちに対する議を持ちかけるところで、話が変わってくる。
無明綱太郎は、この仇討ちによって見捨てられた女たち、娘たち、その子など、クローズアップされていなかった存在に焦点を絞って、反対意見を述べるところなどは、なるほど、と思ったし、それに対する大石内蔵助の意見も、面白いものがあった。
浅野内匠頭(たくみのかみ)、主君に対する絶対的な服従と、忠義一辺倒の精神、今までの忠臣蔵事件に対する解釈とは違って、そうした主君への刃傷行為に苦りきってはいる、と言った上で、今の経済状況、そういったことを踏まえた上で、それでもその政府全体の暴走を止め、武士として苦言を呈する、そのために、一矢むくいる、大まかに言えばそうした意見だったようで、“それが世の中を変えていく”という、ただ反対する無明の意見より、より大きな意志を持っている武士である、というのが分かる。
忠臣蔵そのものに対する解釈の仕方に面白いものがあるだけでなくて、くの一の暗躍する姿もちょっとエッチで面白かった。(まあ、普通男性はそこばかり見てるのかもしれないけど)
2007/01/23 | 映画, :カルト・アバンギャルド
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コメント(5件)
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またまたお邪魔します〜
渋谷の丹波先生特集、もう終わってしまいますね…。何回かは行きたかったのですが、結局行けずじまいになりそうです。
今特集ではやはり石井輝男の「亡八武士道」がオススメですが、ごらんになりました??
本作は未見ですが、山風の忍法帖シリーズはほぼ全作読んでいるかな。
山風の小説はすごくビジュアル化に向いていて、何作も映像化されてますが(牧口雄二もやってる)、どんな名監督も原作の面白さを再現することはできないようです。
忍法帖シリーズはいろんな古典の設定を借りているだけで、内容は山風の世界になってますから、オリジナルはあまり考えなくてもいいかも。
忠臣蔵、あれはあれで面白いですけどね。
>トイレ
名画座はどこもそうかもです。
池袋の文芸坐も、いつも女性用はガラガラ、男性用は長蛇の列です( ゚Д゚)
あら2回も書き込んでしまいました…
お手数ですがひとつ削除してくださいませ(´・ω・`)
bambiさんへ
こんばんは〜♪コメント、ありがとうございます!!
見ました、『忘八武士道』!!
面白かった〜〜〜〜♪最高でしたね。
正直、こっちの印象が、薄くなってしまいましたよ。似ているところも、ありましたから。
で、bambiさんは、山田風太郎、ほぼコンプっていらっしゃるんですね!!
牧口作品が、見たいです
牧口作品の山田風太郎シリーズ・・・すごいだろうなあ〜。
この監督のものも、なかなかの名作でした!
きっと、原作がいいんですね。うん、とっても面白かったです。
画のインパクトで、残念ながら、『忘八〜』には適いませんでしたが、それでも、十分面白かったですよ★
で、新文芸坐もやっぱり、男性トイレが長蛇の列でしたか!実は、まだ新しくなってから、新文芸坐に行ってないんですよ。学生の頃は、毎週のように行ってたんですが・・しかも、10分遅れで、料金が割引になってからを狙って、毎週行ってました!
朝にお邪魔した者です。この作品映画化されてんの知らなかった・・・・
原作では戦中派である作者の「忠義」に対する複雑な思いがよく表れた作品となっております。同時にバカな要素もいろいろあり。映像化されるとこの「おバカ」部分がオミットされてしまうことが多いのですが、果たしてこの映画はどうだったでしょうか
>丹波哲郎作品
『北京原人』くらいしか見たことがありません(よりによって・・・)
お恥ずかしい限りです
SGA屋伍一さんへ
こんばんは★コメントありがとうございます〜!
いやいや、とっても面白い作品で、ちゃんといい意味でアホ&エロエロのシーンもたくさんあって、目を奪いました。
ただ、今回、私が、こうしたことを考えてみたことがなかったので、少しマジメ過ぎるエントリーになってしまったのと、もう一つ見た『忘八武士道』があまりに凄かったので、こちらのアホぶりが印象薄くなってしまっただけでした。
この作品も、とても面白かったです!
>北京原人
あ、私それ見たことないです
私なんて、つい最近まで、丹波といえば『大霊界』のイメージしかなかったんですよ・・・。
北京原人は、『フリントストーン』みたいな映画なのかしらん。