#11.あるいは裏切りという名の犬
オヤジのカッコ良さにシビレる、フレンチ・ノワールないぶし銀サスペンス。
最近、映画上映時にすでにハリウッドリメイク決定!なんていうのをよく聞くようになりましたよね。
この作品なんか、もうすでにキャストまで決まっていて、私が見に行った銀座テアトルでは、入り口にでかでかとデ・ニーロ×ジョジクルでハリウッドリメイク決定!なんて書いてあって・・・
最近ではハリウッドはよほどネタに困っているのか、あちこちから題材探しにやっきになっているようにも思えるのだけれど、ともかく、“ハリウッドリメイク”と聞いて、それが映画の宣伝材料の一つにもなっているうちは、まだいいのかな。・・・とか思う。
でも、キャストまで決まっている、というのは珍しいですよね。今回が初めてかな?
そう言われたら、俄然、“仏×米・俳優対決!”的な気持ちにもなり、期待も高まるというもの。
私も、ついつい、その広告に吊られてかなり期待してしまいました。
ストーリー・・・
フランス、オルフェーブル36番地にある警視庁において、二人の男を筆頭に、勢力争いが続いていた。レオ・ヴリンクス(ダニエル・オートゥイユ)を初めとするグループと、ドニ・クラン(ジェラール・ドパルデュー)と。
ヴリンクスのグループの方は、より結束も強く、仲間意識も強かった。彼らの内の一人、エディの退職が間近に迫り、直属の長官(アンドレ・デュソリエ)の昇進が決まりつつもあり、次期長官候補にはヴリンクスを、と、信頼も厚かった。
だが、元々は友達だったこの二人、ヴリンクスとクランは、レオとドニ、と、ファーストネームで呼び合う、旧知の仲でもあったのだった。
だが、ヴリンクスは、ある日、タレコミ屋から呼び出され、必然的にとある事件に巻き込まれてしまう・・・
一つの事件ではなく、長きに渡る年月を描いたこの作品。
物語冒頭から、大仰なBGMがかかって、物語のテンションを高めようとする意識が感じられる。ただ正直、この長い物語を描くのに、初めからこのBGMはどうかな、と感じることもなきにしもあらず。
男達の抗争。
ダニエル・オートゥイユの演じたヴリンクスは、オヤジになっても反骨精神に溢れていて、とてもカッコいい。
権威にそのまま従うでなく、自分のルールで動くので、周りの男、仲間からも部下からも信頼が厚い。
オヤジの魅力を十分に発揮しているこの作品。みんな黒の皮ジャンを着ている。
ノワールな魅力・・・映像も、スタイリッシュな小手先の技を使用せず、あくまでも匂い立ついぶし銀だ。
主に、これらの魅力は、ヴリンクス、ダニエル・オートゥイユを中心に据えたものだったりする。
余計な口をきかず、もくもくと仕事をこなし、かつ、警察とは関与しないところで、私的に行動する“指針”を例外的に持つこともある・・・というのが、バーの女主人の一件のエピソードで分かる。
警察とは言え、まず人間であるところが、カッコ良さが見えるのだった。
そして、あの事件の後での、エディーの葬式でのヴリンクス派の人達の取った、後姿姿勢での国歌拝聴。ヴリンクス派の最盛期でもあった。
だがここから流れが変わってゆく。
正直、私は、もう少しエピソードがあっても良かったように思ったりもした。
現金輸送車強奪事件の前にも何かあっても良かったし、あるいは、ドニ・クランのキャラクター描写が、フラットに描かれているように感じてしまった。
もう少し、“単なる悪役”ではなく、一個人としての苦悩や葛藤が描かれていたら、もっと複雑で面白かったように思う。いわゆる、演劇でいうところの“ラウンド・キャラクター”というやつ。
友情がかつてあったり、奥さんを取り合った過去があったり、ということが生かせてないように思えて仕方がない。
クランが、悪役そのものに見え、“フラット・キャラクター”であったので、こちらに感情移入をすることが難しかったのが残念。
これがあれば、もっとずっと素敵な作品に思えただろう。
とは言え、ダニエル・オートゥイユの魅力は十分に感じたし、男達はカッコ良かったし。
それから、ヴリンクスの奥さん、カミーユ(ヴァレリア・ゴリノ)は、おばさんなのに、とても綺麗。
フレンチなおばさんは、ボリュームを持たせたクルクルパーマが、あんなに素敵でお洒落なのね、と、とっても羨ましかった。
日本人がやったら、もれなくサザエさんの髪型にしか思えないのに。濃い目のアイシャドウと、薄めのファンデに、クルクルパーマが、すっごく素敵。
オヤジになれないなら、フレンチなオバサンになりたい〜。
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こんばんは♪
2人のオッサンは渋かったですね〜。
個人的にはいつも気の優しい役の多い
A・デュソリエのシリアス演技が観れた
のでかなりウレシかったです。
まぁ全体としては体調不良だったことも
あって前半は寝てしまいで、いまいちで
した・・・r(^^;)
こんばんは〜 TB&コメントありがとうございます。
いやぁ〜久しぶりにグングン引きこまれました。フレンチ・ノワール復活という感じかな(と言ってもあまり観てませんが)?
ハリウッド・リメイクってもういいかな、なんて思ったりもしますが、反面期待も大なんですよね。
デ・ニーロVSクルーニーですか。こちらも期待感高まります。
まあ歳も歳なので、オヤジの格好良さを見たくなります(苦笑)。
エピソード、そうですねぇ。
彼らのバックボーンについての描写があれば。
クドくなりすぎてもアレですけどね。
ハリウッドリメイクという付加価値。
なんかそれも悲しい話ですね。
そんなんで釣れると思い、実際釣られる人がいて、
ちょっと民度が低い気がしてなりません。
風情さんへ
こんばんは★
オッサン、カッコ良し!な作品でしたね〜♪
>いつも気の優しい役の多いA・デュソリエ
『ロング・エンゲージメント』と『ヴィドック』に出ていた俳優さんですね〜。
(この作品で名前を知ったんですが)
「オマエのような奴は駐車場で撃たれて殺される」
この一言、かなりカッコ良かったです。
CINECHANさんへ
こんばんは★
CINECHANさんはだいぶ気に入られたようですね♪
ハリウッドリメイク楽しみですね〜!
デ・ニーロとジョジクル。どっちも好きでーす
しかも、ジョジクルってことは、ソダーバーグも関係してくるかな♪
>まあ歳も歳なので、オヤジの格好良さを見たくなります(苦笑)
謙遜したそういう言い方って、とってもいい感じです!いいなあ、オヤジになれて。
私は、フレンチなおばさんになりたいのですー。
とらねこさん、こんばんは♪ TBどうもありがとうございましたm(_ _)m
>フレンチなおばさんは、ボリュームを
>持たせたクルクルパーマが、あんなに
>素敵でお洒落なのね、と、とっても
>羨ましかった。
言われてみれば、本当にそうですね……(^^;)。観ているあいだ、「ダサい頭、ダサいおばさん」だなんて感慨は微塵も湧かなかったけれど、改めてじっくり考えて&一般的な日本人女性におきかえてみたら、ああいったヘア・スタイルは悪い意味でかなりやばいったらないですわ。でも、お洒落で綺麗なフランス人なら、まったくダサくならないんですね。ヴァレリア・ゴリノ、しっとりと艶めいて、美しかったです。
現象さんへ
こんばんは★
>そんなんで釣れると思い、実際釣られる人がいて、ちょっと民度が低い気がしてなりません
んにゃー。“民度”ってなんだろう?
でも、そうですね。
例えば、アメナーバルの『オープン・ユア・アイズ』とキャメロン・クロウの『バニラ・スカイ』が、その差歴然なように、・・・とは言え、比較するために見る人も中にはいるということで、ハリウッドの功罪も、とりあえず今のトコ良しとしてやろうじゃないか、と^^;
まず邦題に感心しちゃいましたね。
これで観たいッ!って思いましたもん。
映画の方も楽しめました。
警察なのかチンピラなのかわからんこともやっちゃっててビックリしたけれど。
ハリウッド版も楽しみです!