#4.みえない雲
原発事故という重いテーマを扱った社会派ドラマでありながら、なぜか生きる希望とか愛の強さを感じさせる、ドイツ映画。
ストーリー・・・
のどかな田舎町に住むハンナ(パウラ・カレンベルグ)は、卒業後都内の大学に進学しようと考えている、普通の高校生。母親と、弟のウリーと共に住んでいた。
ある日、試験の最中に、同級生のエルマー(フランツ・ディンダ)と抜け出し、突然のファースト・キス・・・と、思う間もなく、サイレンが鳴り渡り、近隣の原子力発電所で事故が起きた。・・・
チェルノブイリの事故の1年後に発表された、原作グードルン・バウセヴァングのベストセラー小説、同名タイトル『見えない雲』の映画化作品。
驚くのが、この主人公ハンナ役のパウラ・カレンベルグ(20歳)が、チェルノブイリ原発事故の同年に生まれ、当時心臓には穴が空き、現在も肺が片方ない、とのことだった。
現在は、難しい役をこなす女優として、将来を嘱望される、この映画でも力強い演技を見せた彼女が、こうして原発事故の後遺症がいまだ見られる、と聞くと、とても驚いてしまう。
何より、こうした欠陥を持って生まれてしまった子供たちは、その当時には決して珍しいものではなかったらしい。
原発事故の恐怖は、現在もとても身近なものであるし、その抱える問題も色々と山積みであって、決して“単なるお話”で済まされない、この空恐ろしさ。
そうした重すぎるテーマを抱えたこの物語を、監督グレゴール・シュニッツラーは、あくまでもその重みを与えすぎないように描いているかのように思える。
社会派のテーマでありながら、基本はラブストーリーであって、この若い二人の初恋、という目線で、情景を追ってゆくのに従事しているかのようだ。
この先ネタバレあり::::::::::::
どこまでも続く緑の美しい草原に、黒い雲が追ってゆく映像は、その対照性がとても恐ろしい。
みな避難し、家畜しかいなくなった街に、黒い雨が降る情景も・・・。
こうした出来事は、いつ何時、起こってもおかしくないことなのだ、ということを、つくづく思い知らされる。
そして、家族を失い、放射能を浴びてしまったことにより、髪が抜け落ちてしまうハンナの姿は、女性だったら、誰しも胸が痛んでしまう光景だ。
こうした状況下をものともしない、エルマーとの強い絆も、とても悲しいが、胸を打つラブストーリーとして、ドラマチックに描かれている。
欲を言えば、もう少し私としては、メロドラマ風ではなくて、社会派ドラマとして描いて欲しかった、と思う。
何よりこの素材をもったいなく感じることも、なきにしもあらず・・・ではありましたが。
でも、こうした悲恋の中に、あくまでも“普通に”共感して欲しい、という監督の思いがあったのかな、などと考えてみたりもする。
あまりにもみずみずしく描かれているこのラブストーリー。こうした状況を憂う気持ちでいっぱいになる。
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コメント(39件)
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七草過ぎちゃいましたが、今年もじゃんじゃんTB飛ばさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
この映画、大晦日に観ました。ラストにふさわしい素晴らしい映画でした。主役の子は、ほんと見事でした。
八ちゃんさんへ
あけましておめでとうございます!
コメントありがとうございます。
こちらこそ、TBどんどんよろしくお願いしますね☆
この映画、八ちゃんさんはもうご覧になっていらっしゃったのですね。
記事お書きになったら、どうぞTBくださいましね〜♪
この主役のパウラ・カレンベルグ、本当にキラキラしたいい表情をしていましたよね!
みえない雲
【映画的カリスマ指数】★★★☆☆
みえない恐怖・・・見つめるこの愛
みえない雲
原発事故で被曝しながら、その事実を受け入れ前向きに生きようとする少女の甘く切ないラブストーリー。さわやかな明るい映画なのに、マジマジと「見えない恐怖」をスクリーンから伝えてくる。パニック映画でない事がある意味成功しているのだ。
みえない雲
30日公開の独映画「みえない雲」・・・実はドイツ映画祭にて「黒い雲」という邦題名で7月に鑑賞済み
題名が変わったので、タイトルを変えて記事はその時にUpしたものを
以下コピペ{/note/}{/pen/}
「みえない雲」・・・ドイツ公式サイト 国内公式サイト
ドイツのフラ…
こんにちは。
随分前に観てしまったので、結構忘れてるシーンもあると思うのですが、やはり前半は息をのみました。確かに社会派作品を期待する人が多いかもしれません。でもパウラちゃん的には等身大で演じる事ができたような事をおっしゃっていたような…。
社会派として描くって、監督的にも映画化についてかなり圧力がかかっていたのかなあと思ってましたけど。どうなんでしょうね。ラブストーリーだと若い世代にも入り込みやすいですものね。
映画『みえない雲』を観て
2.みえない雲■原題:DieWolke■製作年・国:2006年、ドイツ■上映時間:103分■鑑賞日:1月8日 シネカノン有楽町(有楽町)■公式HP:ここをクリックして下さい□監督:グレゴール・シュニッツラー□製作:マルクス・ツィンマーキャスト◆パウラ・カレンベルク…
シャーロットさんへ
こんばんは!
コメントありがとうございます。
そうですね、パウラ・カレンベルグの演技が、ノビノビしていて、とっても良かったんですよね!
この女優さん、等身大ですごくいいですね。
まだ20歳・・・先が楽しみです。
社会に向けたメッセージは、物語をなぞらえて描くだけで、十分この映画の言いたいことは、通じると考えたのかもしれませんね。ラブストーリーの方が一般受けはしやすいのでしょうね。
みえない雲@シネカノン有楽町
映画が切り取った時間はハンナが転校生のエルマーと急速に接近し、その間に原発事故が起こり、二人はくっついて離れてくっついて離れてくっついて、数々の不幸が彼女を襲い、そこから立ち直るまでで、とり立てて長い期間ではない。淡い青春物語が一転してパニックムービーに…
そっすねぇ。
あえて社会派の重さを軽減したのか、
ただ青春恋愛路線にしたかったのか。
どうも後者のような気がしてなりません。
グレゴール・シュニッツラーって初耳だったんですが、
映画に向いてないんじゃないのかなぁと思いました。
TVドラマっぽい感じもしました。
やたらくっついたり別れたりしてるし。
暗転を使いたがるし。
現象さんへ
こんにちは〜♪
コメント&TBありがとうございます!
うわww現象さんは、全然ノレなかったようですね^^;
私も、想像していた作品と、全然違う印象でした。
TVドラマ・・・確かに、そこら辺のNHK風な感じがありましたね。
まあ、爽やかに一般観客層に向けて作ったのでしょうが、ドイツ映画ってこういうのが受けるんでしょうか
私はドイツ映画というと『es』とか『ヒトラー最後の12日間』とかの印象しかないので、少し拍子抜けはしましたね。
こんばんわ。
TB&コメントありがとうございました。
決して悪くはないんですけどね。
でも受け手としては、恋愛か社会派かどっちつかず
な感じがダメな人もいるでしょうね。
私もそうでした。
でも前半のパニック描写は秀逸だなあと思ったし、
全体的に映像もキレイ。キャストも初々しい感じで
観てて退屈はしませんでした。
ドイツ映画って、なかなか面白い一面があります
よね(笑)。
睦月さんへ
こんばんは★
>受け手としては、恋愛か社会派かどっちつかずな感じがダメな人もいるでしょうね
その通りですね。
私は、正直、この作品をケナす気がしないんです。
テーマで言えばただでさえ重いものを扱っているし、他に、たくさんケナすべき作品はありますからね。
でも、この恋愛パートは、正直閉口しましたね。
なんでしょうねえ・・・ツメの甘さがもったいなくはありましたね。
ま、この作品のストーリーラインを追っているだけで十分、言いたいことは通じるとは言えますよね。
真・映画日記『みえない雲』
1月4日(木)
仕事初め。
一年で一番仕事が楽な一日。
今年は5日からという所が多いので、
なおさら楽だった。
午後4時10分に終業。
おっ、これなら『みえない雲』の5時からの回に間に合う。
三田線から日比谷に出る。
日比谷に着き、
出口A4aのビックカメラ有…
みえない雲
期待値: 74% 同名の小説の映画化。 恋愛映画+考えさせられるドラマ 構成になっている。 ヒロイ
◎みえない雲
・みえない雲今日は健康診断のあと、明治学院大学で行われた試写会に参加しました。明治学院大学は目黒の白金にあるとてもおしゃれで綺麗な大学でした。しかし、大学は広いですね〜目的の会場がなかなか見つからなかったです。(エレベーターで上がってといわれたんだけ…
極限下のロマンス
11「みえない雲」(ドイツ)
ドイツの田舎町に住む高校3年生のハンナ。幼い弟ウリーと母親の3人で暮らしていた。ある日気になっていた転校生のエルマーから呼び出され、ぎこちない会話の後突然のキス。幸せな気分に浸っていたが、そこでサイレンが鳴り響く。近郊の原…
毎度こんばんは!
う〜ん、私としては見やすかった作品でしたね。
もっと重い作品かと思っていたから。
まあそういう社会派作品なら、それはそれでまた見応えあるものになったかもしれません。
原発事故に於ける状況下のある一組のカップルの物語ということかな?
全体的には結構好きな部類に入る作品でした。
CINECHANさんへ
こんばんは★
うふふ、その「毎度こんばんは」って言い方面白いですね♪
そうですか、なかなか見やすかったですか。気に入られたのかな?良かったです。
>原発事故に於ける状況下のある一組のカップルの物語
その通りだと思います。ラブストーリーの方がメインになってしまってましたよね。
見えない雲
1月3日の2本目は「見えない雲」 美しい自然に囲まれたのどかで小さな街シュリッツ
みえない雲
ドイツの小さな街に暮らす少女ハンナは、仕事に忙しい母親と病弱な弟と3人で静かに生活していた。ハンナはある日、授業で助けられた事をきっかけに、転校生のエルマーと親しくなる。そして二人は恋仲となり、お互いの気持ちを伝え合った時、大きなサイレンが街中に鳴り響….
おはようございます!TB&コメントありがとうございました!
僕はこの映画を新手のディザスタームービーだと思って観に行ったので、日常が崩壊していく様をしっかり描いていた本作は満足な出来でした。そんな訳で社会派ドラマとしての弱さもあまり気になりませんでしたね。
ラブストーリーとしてはしっかりしてました。
えめきんさんへ
こんばんは☆コメントありがとうございました!
おお、えめきんさんは、なかなか満足されたようでしたか!良かったですね♪
私もこの作品は、予告観て「絶対観てみたい」と思った作品でした。
えめきんさんはディザスタームービーと思ったのですか♪
あのシーンは確かに、とても表現力が効いていましたよね。
リアリティがありましたね!
みえない雲
「みえない雲」 2006年 独
★★★★
予告を観て、絶対に観ようと思った作品。
原発事故が突然、人々の平和を襲う。
若い主人公の、家族も恋も未来も友情も、全てあの雲が奪ってしまった!
これは、六ヶ所村に原発がある我が青森県民としては他人事の…
(^o^)コ(^-^)ン(^0^)バ(^-^)ン(^0^)ハ
トラネコさん★
私、この映画、超楽しみだったの。
前半が100点なのに、中盤からどうしたものか、ハンナとエルマーの恋物語になってしまい、昨日・今日キスしただけの仲で、嘘〜〜ん、と思ってしまいました^^;
エルマー役の男の子が、演技も下手、顔も私の好みじゃなくて尚更かも(笑)
とはいえ、やはり突然襲うパニックの描き方は、一般市民の目線で描かれていて、ホント怖かったです(T0T)
とんちゃんさんへ
こんばんは★コメント&TB,ありがとうございました〜♪
そうですね、初恋って確かに思い入れが深いものなのでしょうが、キスしただけでこんなに・・・と思うと、少し引いてしまいますよね。
エルマー役の人がその上とんちゃんさんのお好みではなかったのですね。それは辛いです(笑)
突然襲うパニックは本当に上手に描かれていましたよね。
みえない雲
2人の切ない愛の奇跡に涙があふれ、そして明日への希望を抱きしめる。
評価:★10点(満点10点) 2006年 103min
監督:グレゴール・シュ….
「みえない雲」VS日本の国民保護計画
ドイツには今17基の原発があり、110数件のトラブルが報告されているという。(日本にはその約三倍の原発があり、報告の制度はそれよりもおそらく低い)もし近郊の原子力発電所で臨界事故が起きれば人々はどうなるのか、という映画だ。事故そのものは一切映さず、70キ…
こんばんは〜。
>あくまでも“普通に”共感して欲しい
普通に共感しまくりました!!!
いや〜良かったです。私、核の恐ろしさを描いた作品が好きなんですよね。「エンド・オブ・ザ・ワールド」「渚にて」「ザ・デイ・アフター」・・・どれも好きです。とらねこさんも未見なら是非!(笑)
それに加えて切ない系にも弱いので、この作品はダブルパンチだったんです。久々の掘り出しモノでした。
みえない雲
「みえない雲」を観た。
幼い弟ウリーと母親の3人で暮らすごく普通の女子高生・ハンナ。ある日、きになっていた転校生のエルマーに呼び出され、ぎこちない会話の後で突然キスをされる。しかし喜んだのも束の間、突然サイ
baohさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます!
コメント返し忘れちゃってごめんなさい
あ、共感したんですね♪良かったですね〜^^
自分は、『エンド・オブ・ザ・ワールド』『渚にて』を見ていないですね〜。
あ、意外意外!baohさんてば、青春映画お好きなんですね〜。
ぶっちゃけ、もうちょっとスタイリッシュにまとめてもいいんですけどね〜。
こんばんは。
前半のパニックシーンのリアルさと、後半の被曝治療のシーンの重さが印象的な作品でした。
弟が亡くなるシーンのあっけなさは衝撃でした。
心臓に穴が開いて肺が片方無いって、チェルノブイリの事故って凄かったんですね。
ラストの「生えかけた髪」を風になびかせるシーンに希望を感じました。
どんなに残酷で深刻な状態でも希望だけはありたいものですね。
『みえない雲』 2007年4本目(1/19・チネラヴィータ)
原子力発電:日本の総発電量の約3分の1を占める。資源に乏しい日本では画期的な発電なのだが、使用済み核燃料の処理は解決されておらず。万が一事故が発生すればその被害は計り知れない。
『みえない雲』
1986年の旧ソビエトのチェルノブイリで起きた原発爆発事故。
….
こんにちは〜☆コメントTBありがとうございました!
>弟が亡くなるシーン
本当にあっけなかったですよね〜。
その前にジャケットを着るように言っているシーンがありましたが、その時言うことを聞いていれば、と考えてしまいます。
おっしゃる通り、ラスト近くでは、爽やかな風が吹き抜きていましたね。
絶望に駆られることもあるにしろ、二人で居ればその今という時間を大切に感じることができる。
不思議に切ないです
こんばんは。TB&コメントありがとうございました。
前半のパニックパートと、後半の純愛パート共にメッセージが有りましたね。
いい映画です。
健太郎さんへ
こんばんは〜☆こちらこそ、コメントTBありがとうございました!
そうですね、なかなかにいい映画でした。
おっしゃる通り、前半部分と後半部分、それぞれに見所がありましたよね。
みえない雲:映画
今回紹介する作品は、そんなさまざまなテーマを内包するドイツ映画、グレゴール・シュニッツラー監督の『みえない雲』です。
みえない雲のストーリーある日の授業。高校生のハンナは、光合成の質問をされ回答に窮してしまう。その時、転校生のエルマーが質問を引き継ぐこ…
「みえない雲」まで見ていたんですか。
私も、この映画を見たいと思いつつ未だに見ていませんが。
この作品がロードショーされる1年ほど前に原発事故関連本を読んで、チェルノブイリ事故の真相を知って愕然としました。
チェルノブイリ事故への対応がどれだけいいかげんだったか、被爆したのは極めて広範囲だったこと、汚染された食べ物を食べざる負えない現実、低レベル放射能による長年の被爆により健康でなくなった人の数、数百万人単位。
どれもこれも日本では発表されなかったことがほとんどです。
さらに被爆は現在も進行しているという事実。(最も恐ろしいのは体内被曝といって、放射性物質を取り込んでしまうと、放射性物質は体内に蓄積して、体内で放射能を出し続けて、体の中から被爆するのです。)
岩波新書「チェルノブイリ報告」(91′)広河隆一著 に詳しく載っています。
私は古本屋で¥100で買えました。
わいさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございます!
あ、わいさんもこの作品、興味がおありですか☆
チェルノブイリの原発事故、知れば知るほど愕然としてしまう事実がたくさんありそうですね。
>低レベル放射能による長年の被爆により健康でなくなった人の数、数百万人単位
>さらに被爆は現在も進行しているという事実
>体内被曝
この物語は、まさにこの、何年も経ってなお続く、体内被曝の被害者が関係しているんですよ・・・。
物語自体は、それを見据えつつも、明らかに青春映画として、描こうとしている話でした。
でもそれより、この映画関連で、いろいろなサイトを調べて見て回ったことが、すごく自分にとってためになりましたね。
>岩波新書「チェルノブイリ報告」
これ、当時実は結構話題になった本だったんですよね。この頃、岩波新書はかなり売れていました。